八幡「恋人のフリ?」 作:ハッサン
「比企谷君、どこ行くの?」
「…あ?」
昼休みになり、最近もはや行き慣れたと言ってもいい体育館裏へ食事を取りに行こうとすると、戸塚が後ろから声を掛けてきた。
相変わらず人から声を掛けられるのには慣れていないから変な返答になる。にも関わらず戸塚はそのまま話を続けてくれる。
「お昼、一緒に食べようと思って…」
「…お、おう。そうか」
友達というのは食事を一緒に取るものなのだろう。居たことないから分からんけど。でも男同士なのにモジモジするのはやめて?勘違いしちゃうんですけど。
どちらにせよ戸塚の好意を…いや、厚意を無碍にすることは論外である。
「…俺、いつも外で食ってるけどいいか?」
「大丈夫だよ、それじゃあ行こう?」
そうして俺は戸塚と教室を出た。友達が出来たお陰だろうか、いつもはコソコソと歩いていた廊下が俺のランウェイのように見える。まあランウェイなんて見たことないけどね。
とにかく、そんなわけで俺はいつもよりも上機嫌だったのだ。
だからだろうか、遠くから俺を見る視線に気づかなかったのだ。
◇ ◇
「君が比企谷君かい?」
「…はい?」
授業が終わり、早急に帰宅しようとしていた所に声をかけられる。なんか今日よく声をかけられてないか?もしかして俺の時代来ちゃった?
などと思いながら振り返ると、声の主は俺の知らない奴だった。…誰だコイツ。
しかし、俺の反応とは裏腹に周囲からは女子の黄色い声が聞こえてくる。なんだ、こいつはふなっしーか何かか?人気者なの?なんで俺に声かけてきたんだ、人気者マウント取りたいなら俺にやらないでくれる?
そんな俺の内心は他所に、金髪のいけ好かないイケメンは話を続ける。
「ちょっといいかな?」
「…何が?」
「…何も言わずに着いてきてくれ」
「…は?」
そう言うとイケメンは踵を返して廊下を向こう側へと歩いていく。なにこれ、もしかして校舎裏とかに連れてかれるパターンなのだろうか。そこでボコボコにされるんじゃ…?
しかし着いていかなかったらそれはそれで後からリンチされるかもしれん。…どちらにしろ大怪我じゃねえか。
気がつけば不思議と俺の足はイケメンを追いかけていた。
イケメンに連れて行かれた先は、やはりというか校舎裏だった。最近よくここに来るよな…なんて現実逃避していると、イケメンの方が立ち止まりこちらを向いてきた。周りには人の気配はしない。どうやらリンチされる心配は無さそうである。
じゃあもしかして…告白!?
「ここら辺でいいかな」
「…はぁ」
そう言ってニカッと微笑むイケメン。男の俺にそれをされても何も感じないよ?むしろ鳥肌が立つレベル。
しかし、イケメンの顔は一転して険しくなる。何か苦虫を噛み潰したようになり、こちらの方を睨みつけてくる。え?やっぱりボコボコにされるんか。
イケメンの喜怒哀楽さに困惑するが、ここは取り敢えず目的を聞くしかない。
「いや…その、何の用なんですかね?」
「…覚えがないのか?」
「いや…何も…」
「そうか…」
そもそも俺はアンタの名前も知らないんだけど、と言いたかったが今更言うのも憚られる。何というか雰囲気がお通夜なんですが。
イケメンは暫く黙ったままだったが、暫くしてこちらに向き直った。そして、意を決したように言い放った。
「雪乃ちゃん…いや、雪ノ下さんのことを本気で考えて欲しい」
「………………は?」
今までで恐らく一番素っ頓狂な声が出たと思う。
なんでいきなり雪ノ下のことが出できたんだ。というかなんで俺と雪ノ下のことを知っているんだ。
…というかお前誰だよ。
「確かに、雪ノ下さんは口が悪いところもあるかもしれないが…悪い人ではないんだ」
「…あの」
「もしかして胸が小さいから嫌なのか?心配するな、遺伝子的には希望はまだあるさ」
「いや…あの…」
「それに、君が彼女を選ばなかったとなるとどんな仕打ちが待っているか分からない。…それでも嫌なのか?」
「……………ちょっと黙ってもらえるか」
なんだコイツ、勝手に話し始めて止まらないんだけど。しかも言いたい放題だし。雪ノ下がこれ聞いてたら殺されるだろ……。
とにかく、俺の話も聞いてもらわなければ埒が明かない。
「まず、何の話をしているのかさっぱりなんだが」
「……それほどまでに嫌いになったのか?」
「だから意味が分からん。まずなんで雪ノ下……さんの話になってるんだよ」
俺がそう言うと目の前のイケメンは不思議そうな顔をする。…ムカつくなコイツ。
「何故かって…君の恋人だろう?」
「…は?」
「とぼけても無駄さ。君のことは彼女の家族から聞いているんだ」
「別にとぼけてませんけど…」
どうやらこのイケメンは雪ノ下家と関わりがあるようである。なら知っていても可笑しくはないが、それとは別に疑問が生まれる。
そもそも雪ノ下のことを本気で考えるってなんだよ。まあ確かに学校ではあんまり関わってないが、ベタベタしてる方がおかしいだろ。一応4月に出会った設定なんだけど。まだ3ヶ月しか経ってなし、そもそも俺入院してたし。
取り敢えず話を整理するにしてもこいつの名前を知っておかなければならない。
「あの…今更聞きづらいんだが……アンタは誰なんですかね」
「そういえば自己紹介はまだだったね…。俺は葉山隼人、君と同じ一年生さ。」
「葉山隼人………?」
何か聞き覚えがある。そういえば雪ノ下が話してたっけな?確か………
『あなたには私の縁談の相手について詳しく話してなかったわよね』
『名前は葉山隼人、貴方とは…同じ組かしら?』
「……葉山ね」
「…どうかしたのかい」
「いや、別になんでも。それより、結局何の用なんですかね」
コイツが雪ノ下の縁談の相手か。それにしては『この野郎ぅぅ!!!??別れろよぉぉ!!??』とかは言ってこないな。分別があるのか、それともコイツも雪ノ下に興味がないのかどちらかか。
「さっきも言った通り、雪ノ下さんのことを真剣に考えてほしいんだ」
「いや、意味が分からない。俺が不誠実だって言いたいのか?」
まあ確かに誠実な好青年の見た目はしていない自覚はあるけどね?職務質問されたこともあるしな。
そう言うと葉山は拳を前で握りしめて声を荒げた。
「そうだ!君は……雪ノ下さんというものがありながら…君は……」
「……ん?」
「別の女子と仲良く帰っていたじゃないか!!」
「よし、ちょっと待ってくれ。そして落ち着け」
「それに、今日も一緒にご飯を食べに行っていた!!」
「いいから落ち着いてくれ…いやください」
今ので全てを理解した。なぜなら俺は戸塚以外に人と帰った記憶が無いからだ。そもそも女子の知り合いも殆ど居ない。
葉山は恐らく戸塚のことを女子だと思っているのだ。まあ見間違えるのは俺にもよく分かるが、コイツは入学してもう3ヶ月経ってるのに知らなかったのかよ…。
「それはテニス部のジャージを着てた子だろ?多分だがそれは女子じゃない。戸塚だ」
「戸塚…?」
「見た目は女子っぽいが男だ」
「………本当なのかい?」
「嘘ついてもバレるだろ。同じ学年なんだから聞けばすぐわかるわけだし」
「え…そ、そうなのか…」
「おう」
葉山は暫く放心していたが、気を取り戻したのか再び話し始めた。
「す、すまなかった…勝手に早とちりをして…」
「はぁ…別に分かってもらえたならいいけど」
「いや、君には迷惑を掛けた。すまない」
そう言って葉山は頭を下げてくる。…イケメンってつむじもイケメンなのな。なんかムカつく。
というか戸塚のことを知らないということは、葉山は俺と同じクラスの奴ではないだろう。雪ノ下は俺と葉山が同じクラスだとか適当なこと言ってたけど、本当にコイツに興味なかったんだな…。
しかしなんだかこのままでは終わらない気がしてきた。最近はどうも、一件落着したと思いきや新たないざこざに巻き込まれているのだ。
そんなことを考えていたが、ふと他に気になったことがあった。
「葉山は雪ノ下の縁談の相手だったんだよな…?」
「ああ、そうだったね」
「それなら別に俺の浮気のことを雪ノ下の家族に言えばよかったんじゃねぇの」
「……甘いな、君は」
すると葉山はまたやれやれ顔をしてくる。…もう俺、コイツのこと殴っていいか?
「別に俺は雪ノ下さんのことを恋愛対象として見ていないのさ」
「…そうなのか」
「だから寧ろ縁談を無くしてくれた君には感謝してるよ。俺も付き合う相手ぐらい自分で選びたいからね」
「そういうもんか」
確かに葉山ほどのイケメンとなれば相手も選びたい放題な訳だしな。そういう気持ちにもなるのか。贅沢なやつだな…。
「それに俺は胸の大きい女性が好みだからね」
「…それ、雪ノ下の前で言ったら殺されるぞ」
「ハハハ!本人の前では言わないさ」
どんなイケメンも万乳引力には逆らえないということか…。
ていうかなんで今性癖をカミングアウトされたんだよ。別に聞きたくないんですけど。
俺が若干の気色悪さを覚えていると、葉山は会話が一段落したと思ったのか、立ち去ろうと踵を返す。
「とにかく、俺は君と雪ノ下さんとの仲をサポートしたいと思っている。大丈夫、任せてくれ。」
「は?ちょっとおい、勝手に決めるなよ…」
慌てて引き留めようとしたが、葉山には聞こえなかったのか奥の方へ行ってしまった。
俺は一人校舎裏に取り残されてしまった。もう夕方になるからか、辺りからはカラスの鳴き声が聞こえてくる。そして、どこからか一羽俺の目の前に降り立ってきた。
葉山の奴、サポートがなんだとか言ってたよな。何をするつもりなのだろうか。
ふと目の前のカラスと目があった気がした。
…不吉だな。
暫く間が空いてしまい申し訳ありません。展開が思いつかなかったのとモチベーションが全然なかったのが原因です。
評価など本当にありがとうございます。お気に入りが400を超えていてびっくりしました。
またしばらく間が開くかもしれませんが、どうにか完結させたいと思います。