八幡「恋人のフリ?」 作:ハッサン
「そういえばお兄ちゃん、最近雪乃さんとはどうなの?」
「は?」
いつも通り朝食を取っていると、小町から突拍子もない質問が飛んできた。動揺して思わず箸を落としてしまう。
そんな俺を見て小町はニヤニヤ笑っている。殴りたい、この笑顔。
「そんなに驚いちゃって〜、なんかあったんでしょ?」
「んぬっ、…別に驚いてねーよ。小町ちゃんの思考回路の支離滅裂さに戸惑っただけだ」
「しりめつれつ…?何それ?お尻?」
「そのぐらいは知っとけよ…」
この子、来年受験生だけど大丈夫なのかしら?そんな俺の哀れみの目に気がついたのか、小町は少し頬を膨らませてぶーぶー言っている。
まあ、なんだかんだで上手く誤魔化せたな…。と思っていると小町は何かを思い出したように机をバンと叩いてこちらに身を乗り出す。
「って!そうじゃないよ!今小町、お兄ちゃんに質問してたよね!?」
「さて、なんの話だか」
コーヒーを飲み干してすっとぼけて見せる。小町は割とアホの子なので適当に流しておけばそのうち忘れてくれるのだ。ハムスターかな?
「もう、お兄ちゃんの意地悪!!バカ!ボケナス!八幡!!」
「…八幡は悪口じゃねぇだろ」
「そんなに小町に意地悪してていいのかなー?
…お母さんにお兄ちゃんが大切にしてる本のこと、言っちゃってもいいんだよ?」
「まて小町、なんでお前がそのことを知ってるの?あと母ちゃんに言うのだけは止めろ」
俺が密かに年齢を偽ってネットで購入した大切な本(成人向け)は机の引き出しの裏に巧みに隠してたんだけど?
ということは小町は常日頃から俺の部屋を探索してるってことだよね?絶対許さないノートとかもバレてないよね?バレてたら羞恥心で死ぬまである。
「お胸の大きい女の人ばっか載ってたよねー。…正直小町引いちゃった」
「…………なんとでも言え」
小町の呆れ顔の前では兄の威厳も無力である。
これ以上追求されるのも嫌なので食器を片付けに台所へと向かう。
そういやなんだかんだで話が逸れたな。まあ、ラッキーだし蒸し返さないようにしておこう。
ふと時計を見ると、もうじき家を出る時間であった。…今日はさっさと行くか。
「小町、お兄ちゃんはもう行くからな」
「え〜〜、今日も乗せてってよー」
「…今日は日直だから早く行くんだよ」
「それじゃあしょうがないか〜。行ってらっしゃーい」
そう言う小町を背に、鞄を肩にかけ学校に向かった。
まあ、今日日直でも何でもないんだけどね!
◇ ◇
「えー?本当に!?」
「うん!○○も言ってたしマジだよ!」
「いいなー!そういえばさ〜…」
「えー?……」
早めに学校まで着いたはいいが、特にすることもない。こんな早い時間でも、既にリア充達の中には登校している者もおり、さっきから周囲からの談笑が耳に入ってきてしょうがない。…これならゆっくり来たほうが良かったような。
結局一言も発することなく俺は下駄箱へと着いてしまった。ラブレターとか入ってねーかなとかアホみたいなことを考えながら上履きを履いていると、カップルらしき者たちが俺の後ろを通り過ぎていくのが見えた。
…なめとんのか。
高校はスポーツや恋愛をする場ではない。勉学に励み、これからの日本を背負う人材となるための場所である。
したがって俺のように誰とも話さず授業中も寝ている人物はクソだ。
…あれ?なんか自己否定になっちゃったんですけど。
そんなふうに項垂れながら歩いていると後ろの方から誰かの声が聞こえてきた。
「あ、ヒッキー!!」
なんだヒッキーって。ミッ○ーが引きこもってるみたいじゃねぇかよ。某夢の国へのヘイトスピーチかな?
「ちょっとヒッキー!!」
何やら誰かに向かって言っているようだ。渾名なのかよ。尚更酷いじゃねぇか。
「ヒッキー!なんで無視するの??」
早く答えてやれよヒッキー。恥ずかしいかもしれないが、ここで答えてこそ男ってもんだろ。知らんけど。
「ねえってば!!」
「うおっ!?」
急に肩を捕まれ、思わず叫んでしまう。バランスを崩しかけるが何とか踏ん張って体勢を直す。
こんな荒業に出たバカは誰なのかと後ろを振り向くと、そこには由比ヶ浜がいた。
「…なんだ由比ヶ浜かよ。驚かせるなよな」
「ヒッキーが無視するからいけないんじゃん!ずっと呼んでたのに」
「…は?いや、意味わからんだけど」
ヒッキーって俺のことなの?
いつの間にか由比ヶ浜とは悪口を言われるほど仲が悪化していたようだ。イベントほっときすぎたかな?ギャルゲーかよ。
「そりゃヒッキーはヒッキーでしょ?そっちこそ意味分かんない」
「あのな由比ヶ浜。俺はお前からヒッキーと呼ばれたのはこれが初めてだ。分かるわけないだろ」
「え?そうだっけ?」
そう言ってポカンとする由比ヶ浜。もしかして俺が間違ってるの?記憶にある限りは由比ヶ浜からは『比企谷君』と呼ばれていた気がしたんだが。コイツはパラレルワールドにでもいたのだろうか。
「まあ細かいことはいいし!ヒッキーは渾名だから!今から覚えてくれればいいし!」
「まあ、これからは報連相はしっかり頼むわ」
「え?なんでほうれん草?あたしあんまり好きじゃないんだけど…」
「………まあ、もうなんでもいいよ」
キョトンとした顔で言われてしまう。
最近は変な横文字が流行ってるせいで皆漢字忘れちゃったの?俺だけ時代に取り残されているのかもしれない。
相変わらず困惑したままの由比ヶ浜をよそに俺は一年生のフロアへと向かう。
しかし由比ヶ浜も『ちょっと待ってよ〜』と言いつつ俺の隣へと並ぶ。
…女子が隣にいるだけでなんかそわそわするんですけど。
落ち着け比企谷八幡、相手は由比ヶ浜だ。そう、報連相をほうれん草と間違えるぐらいにはアホの子なのだ。別に恥ずかしがることはないだろう。
「…っ」
「あっ…」
ふと由比ヶ浜の方を見ると、向こうもこちらを見ていたのか目が合ってしまい、思わず目を逸してしまう。
え、何この気まずい雰囲気。つーか何でこっち見てたの?というか黙らないで?いつものマシンガントークはどこ行ったんですかね。
「あー…」
「ど、どうかした?」
「まあ、その何?雪ノ下にも渾名とか付けたのか?」
気まずさに先に耐えられなくなったのは俺でした。俺から会話を振るなんていう超の付くほどのレアイベントが発生してしまった。確率はなんと1%以下だよ!おめでとう!
すると由比ヶ浜も俺の意図を汲み取ったのか話に乗ってきた。
「うん!勿論!」
「ほーん…、なんてつけたんだ?」
「うーんとね、ゆきのん!」
「ゆ、ゆきのん……?」
何ともコメントのし辛い回答である。アイツに『のん』とかいう可愛らしいのは似合わないのでは?雪の女王とかなら分かるけどね!エルサとかどう?
「何その反応ー!?馬鹿にしてるでしょ!?」
「いや、そんなことはないぞ。寧ろ凄すぎて言葉が出なかったまである」
「…そうなの?じゃあいいや!」
「切り替え早いな…」
こうしているうちに、それぞれ自分のクラスへと着いたのだった。
◇ ◇
「……はぁ」
残念ながら今日は戸塚は部活の自主練をするようで、俺は一人体育館裏へと昼食を取りに来ていた。
相変わらず周りに人の気配はない。俺の座っている後ろには扉があるが、倉庫なのかは知らないが誰も開けて出てきたことは無い。
よく考えたら、人が出てきたら俺どうすればいいんだろ?挨拶しとけばいいか?
そんなふうに一人で物を考えながら購買のパンを噛じっていると、珍しく足音が聞こえてきた。
流し目で横を見ると、こちらへ向かってきているのは雪ノ下雪乃であった。
何やら嫌な予感がして、俺は咄嗟に立ち上がろうとしたが先に声をかけられてしまう。
「こんにちは、比企谷君」
「…こんにちは」
流石の俺も声をかけられてしまえば逃げることは出来ない。持ち上げた腰をもう一度降ろし、パンを袋へと戻した。
雪ノ下は俺の目の前まで来ると、少し考える仕草をした後、こう言い放った。
「いいえ、貴方は…乳ガヤ君と呼ぶべきかしらね」
「へ?」
突然の発言に気の抜けた声が出る。今こいつなんて言った?
「どうしたのかしら乳ガヤ君、ゾンビが太陽を見てしまったような顔をして」
「どんな顔だよそれは…」
「間抜けな顔ね」
「…なあ、なんか怒ってないか?」
「別に…?」
「…そうですか」
雪ノ下は明らかに機嫌が悪い。普段は腕を組んで凛々しくしているが、今はずっと自分の横髪を指でいじっているのだ。
「というか、なんか用あってここに来たんじゃないのか」
「はぁ…貴方、鈍感なのね。さっきの私の発言でわからないのかしら」
「さっきの発言って何だよ…」
「よく考えてみたらどうかしら、『乳ガヤ君』?」
「………昨日、校舎裏にいらっしゃいました?」
「……フフッ」
そう言って雪ノ下は冷たい笑みを浮かべる。正解したようだ。なのにどうしてだろうか、全然嬉しくない。
「待てよ、雪ノ下。お前は壮大な誤解をしている。俺は一言も胸については触れてなかっただろ」
俺が必死に反論すると、雪ノ下は思いの外困惑した顔をしていた。
「…一体何を言ってるのかしら。確かに昨日貴方と葉山君が話しているのは見たけれど、貴方が巨乳好きなのは小町さんから聞いたのよ」
「…本当にあいつなんでも言うのな」
小町はどうやら光ファイバーになってしまったようだ。超高速通信してくれるね!全然ありがたくないけどな!
ていうか今のは普通に笑ってただけなのかよ。勘違いするだろうが。意味もなく笑うなよ…。
「本当に男という生物は愚かね。部位の大きさでしか価値を判断できないのかしら」
「もうその話よくない?もっと話すべきことあるよね?」
相変わらず雪ノ下は蔑みの目でこちらを見てくる。俺はMではないので全く興奮しない。つまりただ精神をすり減らされるだけである。
「そもそもなんで校舎裏にいたんだよ」
話を変えようと俺は一旦立ち上がり、雪ノ下から見下される体勢から抜け出す。これならまだマシだな。
「葉山君が貴方を連れて行くのを見かけたから後を付けたのよ」
「またなんでそんなことを…」
「私を取り合って殴り合いでもするかと思って…」
「おい、なんで俺と葉山がお前のこと好きな前提なんだよ」
「面白そうだから観戦しようと思ったのよ」
「しかも心配して見に行ったんじゃないのかよ…」
何とも言えない表情になる。やはり雪ノ下は常人とは感性が違うのだろう。そんなに殴り合いが見たいならボクシングでもテレビで見ればいいだろ…。
「まあ、実際には殴り合いなんてしてなくて残念だったわね」
「…話は聞こえてたのか?」
「いいえ、興味が無くなったからすぐに引き返したけれど」
「まあ聞いてないならいいんだけど…」
何とも気分屋な奴だな。由比ヶ浜もだが、女子は切り替えが早いのだろうか。なんかちょっとだけ気になる。
しかし、雪ノ下は何をしにここに来たのだろうか。俺を馬鹿にするためだけに来たわけでは無いだろうし。
「それで結局用って何だったんだよ」
「…あ、そうだったわね」
そう言うと雪ノ下は髪を掻き上げてこちらに向き直った。
「その…由比ヶ浜さんが…」
「…由比ヶ浜が?」
そう言いかけてから先を言い淀む雪ノ下。由比ヶ浜のことになるといつもこんな感じだな、と微笑ましく思っていると意を決したように続きを話した。
「渾名のセンスが壊滅的なのよ…」
「…それは激しく同意するわ」
その後、由比ヶ浜の渾名センスをどうするか話し合った。雪ノ下の来襲も拍子抜けに終わったのだった。
しかし結局、昨日の不吉な予感は何だったのだろうか。そのことだけが気がかりであった。
書いてて原作のキャラとの乖離がすごいなと思ってしまいましたが、めんどくさいのでこのままで行きます。
いや、でも前半のギャグ要素強めの頃は皆こんな感じだったような?
評価やお気に入り、本当にありがとうございます。