ドサリ、と狙撃を受けたトリオン兵が地面に倒れる。もう周りにトリオン兵がいないか確認していると通信が入る。
『周囲に反応ナシ。戦闘終了です。お疲れ様でした。』
ボーダーの部隊の1つである那須隊に所属する狙撃手────日浦茜はオペレーターである志岐小夜子の言葉を聞いて肩の力を抜いた。
「(よし、ビルから出て2人と合流しよう。)」
狙撃手である彼女は基本的に警戒区域に残っているビルの屋上などの高所から攻撃をする。今回は近くにあったビルの屋上から狙撃していたので1度降りる必要があるのだ。───────そして彼女が1つの階層にたどり着いた時、彼女は異変に気がついた。
「あれ…?このビルこんなに壊れてたっけ。」
その異変とは破壊の跡。警戒区域にあるビル故に壊れていてもおかしくはないのだが、上がってくる時にはこんなに壊れていなかったはずだった。近界民の攻撃が当たった可能性も考えたが攻撃がビルに当たったのなら揺れが生じるはずなので気づくはずだ。じゃあ何で…?、と考えていると隊長からの通信が聞こえてくる。
『茜ちゃん?何かあった?』
「あっいえ!何でもないです。」
そう言えば今は仕事中だった、と我に返り階段へと足を向ける。────唐突に脳が警鐘を鳴らした。思わずそこから飛び退いてイーグレットを構える。スコープ越しに見えたのは───────白い人型のナニカだった。身の危険を感じて、即座にスコープから目を外し階段へと一気に走り抜ける。いや正確には
「茜ちゃん!?」
「茜!?」
2人が駆け寄って来る。そして先程のナニカについて話そうとして────動きが止まった。視界の端に先程の白い人型が写る。心拍数が上昇し、冷や汗がだらだらと流れ出る。逃げようにも体が上手く動かせない。脳内に警鐘が響く。トリオン体であるにも関わらず死を覚悟する。
「っ…!」
そして──
───────そこから
「嘘…!」
那須先輩が驚愕する。──いや、那須先輩だけではない。熊谷先輩も私も驚愕に目を見開いていた。近界民を蜂の巣にする威力を持つ変化弾が直撃したのにも関わらず傷1つ見受けられない。
「────」
気づいた時には既に那須先輩は吹き飛ばされていた。いつの間にか那須先輩がいた所には人型が立っている。そして人型の拳からは───煙が立っていた。アニメなんかではよく見る演出だが現実でそれをするためにどれほどの力が必要なのか見当もつかない。───人型に間合いを詰められ拳が襲いかかってくる。反射的に目を瞑る。次の瞬間───
「え…?」
「大丈夫かてめぇら。…よし、大丈夫そうだな。じゃあ本部まで逃げろ。」
後ろから声がした。そちらに目を向けると知らない人が歩いて来ていた。状況からして彼が人型を串刺しにしたのだろうか。しかしどうやって──と疑問が次々と湧いて出てくる。
「…おい、もう言わねェぞ。本部まで逃げろ。説明なら後でしてやる。」
話しかけられて疑問を振り払う。確かに逃げる方が先だ。緊急脱出を発動し、オペレーター室のベッドへと放り出される。起き上がれば那須先輩も既に帰ってきていたみたいだった。そして疑問が1つ頭に浮かぶ。
「(───結局、あの人なんだったんだろう。)」
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「さて、と。あとはテメェを殺せば終いだな。」
流星となって本部に戻った2人を見届け、男─────黒江解莉は
「
黒い火花が散る。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。平均で通常時の2.5乗の威力を出すそれを彼は叩き込んだ。呪霊が吹き飛ぶ。しかしまだ殺しきれていない。故に───────彼はもう一度黒閃を叩き込む。
「
既に瀕死の呪霊に彼は止めを刺すため彼は3度目の黒閃を叩き込む。────特級呪霊が沈黙し、消滅する。
「複写、と。あ゛ーくそ、特級の相手やっぱ面倒くせぇ。五条にクレーム入れとくか?…いやこの場合は腐ったミカン共にクレーム入れりゃあいいのか?」
独り言を吐きながら足を本部へと向ける。この調子だと双葉に会うの明日とかにならねぇか?、と少し憂鬱になりながら呪術師はボーダー本部へと歩き出した。
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「んで、何でここに隊員が集まってんだよ。上層部への挨拶だけって聞いてたんだが?」
不機嫌な事を隠す様子もなく彼がボーダー最高司令官である城戸正宗へと不満を漏らす。何しろ上層部への挨拶だけ、と五条に言われていたのだが蓋を開けてみれば多数の隊員が揃っていた。確実に面倒事じゃねーかよし五条ぶっ飛ばす、と心に決めた所で隊員が揃っている理由が告げられた。
「…これからしばらくボーダーに所属すると聞いた。ならば情報の共有はしておくべきだろう、と考えての事だ。」
「まて、俺がボーダーに所属するってどういう事だ?」
「?…言葉通りの意味だが。」
「(五条あいつ隠してやがったな絶対ぶん殴る。)…俺はここら辺の呪霊祓うだけって聞いたんだがなぁ。まぁいい。そんで情報の共有だったな?俺が明かすのは俺の術式についてだけだ。それでいいよな?…まさか呪術すら知らねぇやつとかいんのか?」
「いや、呪術についての基本は説明してある。君の術式についてだけ話して貰えればいい。」
「おう。じゃまず術式の名前から。俺の術式は「電脳呪法」って呼ばれてる。この効果は主に4つ。
1つ目が複写、だ。ま、電子機器とかにあるコピーみたいなもんだ。コピーできるものの範囲は石ころから他人の術式まで色々。まぁ制限はあるけどな。
そんで次が切除。こっちは電子機器にあるカットと思って貰えればいい。複写みたいに複製するんじゃなくて対象物を空間から切り取る。こっちは対象物にある程度形がないと使えないって制限がある。だから特定の形が無い大気とかは無理だ。
3つ目は転写。複写、切除した物を任意の場所に出現させることが出来る。電子機器でいうペーストだな。距離が遠くなるほど消費する呪力量が多くなるし、術式とかの複写は自分にしか出来ないっていう制約がある。
そして最後は削除。反転術式を手に入れた時に発現したんだが…それはどうでもいいか。その名の通り対象物を消すだけだ。生命を持つ物と自分の手と接触してない物は消せないっつー制限がある。
これが俺の術式。説明はこれで終わりだ。これで満足か?」
説明を終え、やっぱりこの術式の説明は面倒くせぇな、と心の中で愚痴を吐く。周りの隊員を見るとほとんどが驚愕に目を見開いている。説明を理解したから驚愕しているのか、説明を理解できなくて驚愕してんのかどっちだ?と考えていると城戸が口を開いた。
「あぁ。説明はこれで十分だ。君の術式についてはA級隊員と一部B級隊員に共有しておく。─────改めて、ようこそボーダーへ。隊員としてしばらくの間頑張ってくれ。」
「了解。じゃあ俺はこれで。」
ドアを開けて外へとでる。携帯を取り出し電話をかける。その相手は五条悟である。
『は~い。もしもし。どうしたの解莉?』
「どうしたのじゃねぇよてめェ。まず何で俺がボーダーに入ることになってんだよ。」
『あれ?言ってなかったっけ。ごめんごめんw言うの忘れてたよ。』
「笑ってんのが隠しきれてねェんだよ…!次会った時はぶん殴るからな五条。んで、こっからは真面目な話だ。──────特級呪霊が出た。」
『いやいやそんなぽんぽん特級が出てくる訳────マジ?』
「マジもマジ大マジだよ。一応祓っておいたが特級が出たなら連絡しとくべきだろ。一応ど腐れみかん共にももうちょいこっちにも人員寄越せって言っといてくれ。」
『…りょーかい。一応掛け合ってみるよ。話はそれだけ?』
「おう。じゃあな。」
電話を切り、双葉はどこにいるのだろうかと思考する。持っているどら焼きを渡したいのだがそもそもどこの部隊に所属しているのか分からない。とりあえず適当に歩き回るか、と決める。そして─────後ろから肩を叩かれた。
「あ゛?てめぇはさっきの…。」
「えぇ…加古隊隊長の加古望。よろしくね。」
「おう。よろしくな。つーか加古隊…?どっかで聞いたような…」
「あぁ、双葉が入ったからじゃないかしら?兄妹なんでしょう?」
「なるほどなぁ。双葉が入った部隊だったか。そりゃ聞いたことあるわ。で、何か用か?」
「えぇ。双葉のお兄ちゃんなんでしょう?ほら、ちょうどいい時間だし────炒飯食べていかない?これから作る所だったのよ。」
「へぇ。双葉と会えるならいいかもな。…よし、馳走になるわ。」
─────そして、黒江解莉は地獄へと歩み出す。ただ1人の妹に会うために、そこが地獄だとも知らず。さて、黒江解莉は生還できるのか?──それは神のみぞ知る。
次回!「黒江兄妹、死す」、トリガースタンバイ!