Fate/マッスル☆Order 〜筋肉で人理は救えるか?〜 作:ナウい息子♂
本当にそうかな?
《第三者視点》
かつて風光明媚を極め、素朴なワインが特産であったその街は戦場と化していた。
竜の魔女より縛りとして設けられた狂化スキルにてその眼が曇らされても尚、衰えぬ技量の冴え。天に輝く流星が地上に顕現したかのような無数の神速の突きを見舞う男と、その背後にて神がかりの様な精度で矢を放つ男。
彼等の名はギリシアが誇りし英雄、アキレウス、ケイローン。
その意志の強さ故に、自由な思考すら奪われながらも彼等は戦士として完璧だった。
それに相対するは、奇妙な男だった。
そして、それ以前に。──それは、大きな男であった。胸板がでかい、骨が太い。
ゴロリと風雨を物ともせずに鎮座する岩の如き腕の筋肉。そして天へと聳える山の様に発達した僧帽筋に、俺は此処にいるぞとばかりに主張する大胸筋。其れ等を、夜の闇を切り出ししつらえたかの様な漆黒のスーツが包み込む。
全身で『力強さ』を主張する肉体に、フォーマルな服装のアンバランスさに笑う物も居るかも知れない。
だが彼の戦いを見ても尚、其れを笑える者は居ないだろう。
その神速の余り、穂先が複数あるとすら誤認する速度で突き出される槍を右手のみで彼は対応していた。
アキレウスの手元が変幻自在に動き、右、左、下、果ては上から繰り出される全てを、手の甲で、指の腹で、その拳骨で受け、或いは躱す。
僅かな体制の緩みに向けて振われる、具足に覆われたアキレウスの健脚すら彼の拳を突破する事は叶わず、逆に彼が放つ掌底を喰らいたたらを踏む始末。
そして、その合間に射かけられる一つ一つが絶死とも思える程の矢の雨を残る左手で弾き続ける。
そんな離れ業をこなしつつも、彼の顔はピクリとも動かなかった。
いや、それは本当の所その場にいた者達には分からないのだった。
その見る者に凄まじい迄の印象を与える肉体とは裏腹に、その顔は余りにも印象に残らなかった。
顔を注視しようとすれば、するりとその焦点から抜け出るかの様に輪郭が合わず、
彼の顔に何か特徴を見出したと思ったとしても、その数秒後には其れが何であったかを忘れてしまっている。
かろうじて、その男が少なくとも笑ってはいないと言う事が雰囲気から察せられると言うだけであった。
だが、彼はその場から一歩も動かない。
その理由は明白であり、其れこそがこの奇妙な戦場を膠着状態へと陥らせている原因であった。
「ごめんなさい、ムッシュー。貴方が何故私を護ろうとしているのかは知らないけれど、もう良いの。
私は、マリーアントワネット。このフランスの為に命を散らす事に何の躊躇いも無いわ!
私よりも、そう……ジャンヌダルク、という少女を助けてあげて欲しいの。」
彼が一歩も動かず、城塞かの様に背中に匿う少女の名はマリーアントワネット。
フランス革命で散った悲劇の王女にして、この特異点に召喚されたサーヴァントが一騎。
本来ならば此処で散っていた筈のサーヴァント。だが、その男の獅子奮迅の戦闘によりその命を繋いでいた。
だが、彼女はそれを望んでいなかった。目の前の男が、如何なる存在かは分からない。だが、少なくとも人理に与する存在なのは明らかだ。そして何より、彼は凄まじく強い。神代の英霊二騎を相手取れる程には。
ならば、その戦力はもっと別のところに割くべきだ。
故に、彼女はその巌の如き背中に叫ぶ。己はもう、覚悟はできているのだと。だからどうか、自分の事は気にしないでおいて欲しい。本当に助けるべき存在が居るのだと
だが、彼は答えない。その力強い背中に彼女を匿い、依然として立ち続けるその姿は宛ら門を死守する門番の様で。
その背中に感謝を覚えつつも、彼女がもう一度語りかけようとする。だが、その言葉をその男は遮った。
「ムッシュー───」
『静かにしていろ、白百合。何を勘違いしているかは知らんが、その言葉は何方かしか救えぬ者へとかける言葉だ。』
彼の剛脚が横なぎに、並び立つ木々を圧し折る斧の様に振われ、アキレウスがかろうじてそれを槍で受け止めるも、その衝撃は凄まじく吹き飛ばされる。
そして生まれた、刹那の時間。彼は流れる小川の様に、揺蕩う煙の様に、その身体をゆるゆると捻り始めた。
背筋を極限まで捻り、砲丸を投げ終えたスポーツ選手の様な体制を取る。そして、その顔がマリーアントワネットの前に向けられた。
『私は、両方救える。此処に取り残されたお前も、お前が救いたいと願う清廉なる聖女も。
お前も王女ならば、願ってみせろ。どうせなら二つとも救って……とな。』
その顔は何処か焦点が合わず、ボヤけていた。だが、彼女は確かに感じ取った。欺瞞の防壁と、筋肉と、キツい言葉の奥に隠された優しさを。
彼女の唇が綻び、春へと誘われる薔薇の蕾の様な口が笑みの形へと移り変わる。
白百合の君は、マリーアントワネットは。目の前の【規格外】へと願ったのだ。
「えぇ……言う言葉を間違えていたわ。
ムッシュー、どうかアマデウスがまだ約束を憶えているうちに、ジャンヌとまたお話が出来る様に。
私を此処から連れ出してくれるかしら?」
その返答は、拳で答えられた。
再び迫り来るアキレウスと、矢が意味を為さないことに痺れを切らしたケイローン。
その二人が彼へと拳を、槍を構えて襲い掛かる。嗚呼、悲しき事だ。仮に彼等に理性が残っていたのなら。
彼等が英雄として培ったその勘の欠片でも残っていたのなら。そんな愚行はしなかっただろう。
それは、引き絞られた弦が戒めを解かれ、元の場所へと戻る様に。
押し込められたバネが、更なる威力を持って帰っていく様に。
『白百合の。耳ィ塞いどけ』
その限界まで絞られた弦と化した一人の男の拳は、あるべき姿へと戻っていく。
即ち、顔面へとめり込む拳骨……と言う事である。
誰が言ったか、握力×体重×スピード=破壊力。
即ち───
スッパァァァンッ!
まるで、水を限界まで入れた風船が弾けるかの様な音。
それが生んだ衝撃波は周囲の草を薙ぎ倒し、街の瓦礫を吹き飛ばす。
上品に両耳を押さえていたマリーが、「きゃっ!」という可愛らしい声をあげて尻餅をつく。
そして、彼の拳の前には何も残っていなかった。疾く、強く、重く。全てが規格外の比重で放たれた拳は、神代の英霊の身体の欠片すら残す事なく吹き飛ばしていた。
「は……え?」
それは、精神的な衝撃という物でも一人の少女を打ちのめしていた。
強化された聖杯により都合14騎のサーヴァントを召喚していたジャンヌオルタは、その中でも特に精鋭の2騎を選んだつもりでいた。
目の前の、どうにもムカつく王女を肉片一つすら残さずに消しとばす心算でいたと言うのに。
急に現れた筋骨隆々の男に邪魔され、2人がかりで手傷の一つも負わせられていない。
かくなる上は自分が加勢を……等と思っていた矢先だった。訳の分からない構えをした男の一振りに、精鋭ニ騎は跡形もなく消しとばされた。
「な、何を───」
口を開きかけたジャンヌオルタの側を、凄まじい勢いで通り抜けるものがあった。
それは彼女の頬を掠め、熱い感触を残した後に背後の瓦礫へと衝突し、かつては旅籠であったその建物の残骸は迫撃砲が直撃したかの様に消し飛んだ。
男は何かを投げた体勢のまま、此方を見ていた。いや、目線がどこに向いているかは男の顔を覆う違和感のせいで分からない。だが、その目線は感じた。
彼女が取れる行動は逃亡一択だった。
周囲にいたワイバーンをすべて呼び寄せ、湯水の様に男へと投入する。その間に逃げるのだ。ジルなら、彼女が慕うジルなら何とかしてくれる。
そう思いながら、跨ったワイバーンが空中を駆ける中、そっと背後を見つめる
そこには、雲霞の様に押し寄せるワイバーンを千切っては投げ千切っては投げながら、肩の上にマリーアントワネットを乗せ、此方へと全力で走り寄ってくる男の姿だった。
「来るな!来るんじゃないわよ!来るなって言ってるでしょぉぉぉ!!!!」
その男は、何処まで行ってもマッスルだった。
花山薫パーンチ!(EX)
主人公視点は明日やります。
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