Fate/KIYOSI〜光に導かれた魔術師の宴〜 作:荒瀬 伊織
「魔術刻印は妹に授与します……貴方には悪いけど、素質が違い過ぎるのよ」
「い、いいえそんな……僕にとっては自慢の妹ですから」
一年ほど前、お兄様とお母様の話を聞いてしまった。私達伊藤家は魔術師の家だ。しかし倫理の欠落した他の根源厨の集まりじゃない、あくまで人間のふりをして人と共に歩むことを決めた一族だ。そんな誇り高き伊藤家に産まれたのが私とお兄様、5歳違いの兄妹だ。
お兄様は凄い人だ。私に魔術を教えてくれて、家事も得意で、運動は苦手だったけどピアノは上手だった。家族がよく言っていた。伊藤樹、私達の自慢の長男。これで魔術回路が沢山あったらどれだけ良かっただろうと。
私こと伊藤
「我が伊藤家に伝わる魔術刻印は、慈悲の集合体。先代達が何百何千何万と人を救ってきた証であり、誇りです。そしてそれを継ぐ事ができるのは貴方達のどちらかでございます」
それを聞いた時私は間違いなくお兄様が跡を継ぐのだと思っていた。お兄様は家訓である、「神秘を魔術師のためにあれど己がためにあるものではない」というのを弁えた行動で、使用人にも優しいと評判だ。それだというのに刻印を受け継ぐのは私らしい。勿論反対したし、お兄様にも相談した。
「お兄様はそれでいいの!?」
「うん。合歓は自慢の妹だからね、刻印を受け継ぐのは君がふさわしいよ」
「……刻印を受け継ぐから自慢なの?」
「そうじゃなくて……少なくともお兄ちゃんは、ここら辺で一番強い魔術師は合歓だと思うなって、それだけでも自慢だよ」
こんな感じでまともに掛け合ってはくれなかった。でも私はお兄様の自慢の妹だもの、気がついたのよ。なんでも独り占めは良くない。私がここらで一番強い魔術師になって、お兄様が伊藤家の魔術刻印を受け継げば、最強の兄妹になるって。だからこそ私は3ヶ月もかけて大魔術をかけた紙を、ここら辺で一番強い魔術師宛てに送った。そいつを倒せば私は最強、そして正真正銘の自慢の妹になったらきっとお兄様も納得してくれるはず、いうことを聞いてくれるはず。
だからこそ、私はこれから来るだろう魔術師を倒さなきゃいけないの。とはいえ流石にこの山は広い、私の魔術研究用のアトリエに来るまでは相当時間がかかるはず。少なくとも2日はかかるだろう。今のうちに沢山張っておいた罠を強化しとかないと。
「見つけた!」
「え? わ!」
頭に突然白い紙が降ってきた。なによこれ、せっかく戦いに向けておめかしして髪も結ったのが水の泡だわ。ってこれ私が魔術をかけたあの紙じゃないの。ま、まさか自他ともに認める最強の魔術師はやっぱり私だった……?
しかし私のそんな淡い期待は最も簡単に破壊された。
「見つけましたよ、貴方が魔女ですね! その、これで秘密の暴露は無しですよ!」
「嘘!? ちょ、ちょっと待ちなさい!」
今2つの事で混乱している。先ずは最強の魔術師が思いの外小さかった事、多分同い年ぐらいじゃないのかしら。そしてもう一つは、なぜこんなにも早くこのアトリエを見つけられたの? 確かに魔力を辿る呪詛返しなんかが使えたらそれは容易なはず……しかしこの私の魔術を弾き返すなんて、どんな無尽蔵の魔術回路を持っているの? いいやそれだけじゃない、もっと別の特別な力があっても不思議じゃない。
しかし今の私に焦る時間はなかった。すぐさま愛用の杖を持ち、そして罠を発動させる。
「油断したわね、勝負はすでに始まっているのよ!
よしやった、前もって魔術の申請を済ませていてよかった。この強酸性の粘液でもう手も足も出ないはず……
「……誰も油断なんてしてません。煌天式起動・
伊藤合歓 13歳 中学1年生 150㎝
起源:花
属性:水、土
魔術回路:48本
量:A
質:B
状態:正常、極めてシンプル
伊藤家の魔術師。根源を目指さない魔術師の家系では、回路の大幅な増加が望まない、減ることも少なくない。そんな中生まれた秘蔵っ子。極度のブラコンであり、兄の才能を信じて疑わない。あとおっちょこちょいで爪が甘い。