魔法少女リリカルなのはKreuzung   作:神原和人

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何とか月刊は保たれました……。
予想以上に筆が進んで切りどころがなくなってしまったので、今回は若干長いです。


/09 交流

 一夜あけて。

 今の僕にわかる範囲で試して見た所、どうやら現状、転移魔法は使用出来ないことが判明した。

 この島に貼られている結界が原因なのか、マーカーの位置を特定することが出来なかったのだ。

 憶測ではあるけど、出入りが不可能であるという点に引っかかったのだろう。

 奥の手とも言えるこの一手が使用不可能である以上、やはり送還術の知識が必要になる。

 そもそも根本的な問題として僕がメイメイさんの物だと思っている声が、本当に彼女の物であるかは現時点でははっきりしていないのだ。最悪の場合を想定しておくべきだろう。

 寝起きの頭で、ぼんやりとそんなことを考える。

 

「朔夜様」

 

 聞こえて来た声に顔を向けると、そこには一人の少女の姿があった。

 彼女の名前はクノン。

 召喚された僕と一番最初に接触した、あの感情表現に乏しい少女だ。

 自己紹介された時に知ったことだが、どうやらクノンは人間ではなく看護医療用機械人形(フラーゼン)と呼ばれる、アルディラさんのサポートをする為に召喚されたロレイラルの機械人形らしい。

 こうして見ると普通の人間と変わらないように見える。

 感情表現が乏しいのは単純に、普段アルディラさんとしか接しない為感情プログラムが未発達だから、という話をアルディラさんからこっそりと聞いた。

 初めて会った時の反応は感情発達が不十分だったから、ということだ。

 このことを聞いた際、良ければ積極的にクノンと話をして欲しいと頼まれた。

 どうもアルディラさんは、クノンの感情表現が乏しいのは自分のせいだと思っている節があるようだ。

 

「おはようございます、朔夜様」

「おはようクノン」

 

 ちなみに、僕が彼女を呼び捨てにしているのは、単純にクノン自身から頼まれたからだ。

 彼女の方がこういう口調なのは元からで、尚且つ僕がここでは客として扱われているからだろう。

 

「朝食の準備が整っています。アルディラ様もお待ちですので、お部屋へどうぞ」

「ありがとう、すぐ行くよ」

 

 礼を言いつつ部屋を後にしたクノンを追う。

 彼女がこうして僕に対して、メイドの様に振る舞うのには理由があった。

 昨晩ラトリスクに戻って来た時、アルディラさんがクノンに対して滞在中の世話を命じたのだ。

 クノンと接触する機会を増やす為の措置だろう。

 

「そう言えばラトリスクにはアルディラさんとクノン以外に人は居ないの?」

「以前は他に二人ほど居ましたが、現在は私とアルディラ様のみです」

 

 移動の際、少し気になっていたことをクノンに聞く。

 ラトリスクに来てまだ一晩しか経っていないけど、どうにも人の気配というものを感じない。

 今まで見たのはひと目で機械とわかるようなロボットだけだった。

 

「その方々も元は体の治療の為に滞在していただけです。

 ですが別に集落を出て行った訳ではありません。

 治療が完了したので、こちらの方から住居を移すことをおすすめしました」

「へぇ、そうなんだ」

「今はユクレス村に居を構えている筈です。

 あの集落は自然が豊かなので、病み上がりの人間が療養するにはラトリスクより適しています」

 

 ここで治療をしていた、ということは相当重傷だったのだろうか?

 それに加えて昨日の会合でアルディラさんが僕に対して、リィンバウムの人間なら頑なな態度をとっただろう、というようなことを言っていたのを思い出す。

 命に関わる怪我に対しての治療に関しては、リィンバウムの人間に対してもするだろう。

 けれど住居を移すことまではさせない筈。

 この対応を見る限り、恐らくは僕と同じ様に召喚された人間だろう。

 ……とはいえ、僕に他人のことを根掘り葉掘り聞く趣味はない。

 これ以上詳しい話を聞く必要もないだろう。ここは一つ、話題を変えることにしよう。

 

「確か今日はクノンがこの辺りを案内してくれるんだよね?」

「はい。アルディラ様からそうするようにと」

「この辺りっていうのは大体どれ位の範囲のことなのかな」

「正確には島全体を案内することになると思われます」

「あれ? 昨日聞いた話だとラトリスク周辺だけ、ってことだったと思うけど……」

「全体と言っても各集落を回るだけです。

 日数をかけた所で余計な手間がかかるだけなので、私の方から進言しました」

 

 これは僕に関心がある、というよりはアルディラさんの手を煩わせたくないと考えての行動だろう。

 そもそも僕に対してどうこうするほど付き合いがある訳じゃない。

 相手が感情面において未発達なクノンなら、尚更そうだろう。

 

「今までは各集落間での交流は必要最低限に抑えられて来ましたが、今後はそうも言ってられません。

 アルディラ様からもいい機会だろう、ということで許可を頂きました」

「……? 今後はそうも言ってられない?」

 

 僕の疑問の声に、クノンは一瞬目をこちらに向けた。

 ほんの一瞬のことだったので、僕が彼女の方に視線を向けていなければ気がつかなかっただろう。

 

「恐らく、貴方が召喚されたからでしょう」

 

 その言葉にすぐ気が付いた。思わず眉尻が下がる。

 

「僕が滞在する集落を一つに固定しなかったからか。……何だか、悪いことをしたな」

「いいえ。アルディラ様も私も、遅かれ早かれ必要なことだと理解していましたから。

 貴方が定住しなかったことはアルディラ様が仰ったように、むしろいい切欠になるでしょう」

 

 これはもしかしなくても、慰めてくれている?

 思わずクノンの顔を凝視してしまう。

 今までの彼女の様子を見る限りこういったことはしないような感じを受けていた。

 

「……先入観で物事を考えたらいけないな」

「どうかなさいましたか?」

「いや、何でもないよ」

 

 思わず口に出していたらしい。咄嗟にごまかす。

 そんなことを話している間に目的地に到着したようだ。

 部屋に入ると既にアルディラさんが席に着いていた。

 

「おはようございます、アルディラさん」

「おはよう、朔夜。昨日は良く眠れたかしら?」

「はい」

 

 挨拶もそこそこに席に着く。

 クノンの姿がいつの間にか見えなくなっているのは、恐らく食事を取りに行ったからだろう。

 

「もう聞いているとは思うけど、今日はクノンに島全体を案内して貰いなさい」

「昨日の会合を見ていた限り、集落間の交流は活発ではないようでしたけど、良いんですか?」

「貴方がそんなことまで気にする必要はないわ。

 ……集落間の交流に関しては、いずれどうにかする必要があること。

 ずっとこのまま、というのは無理だと他の護人たちもわかっていることよ」

 

 紅茶を一飲みし、アルディラさんは続ける。

 

「クノンが案内につくことは昨日も話したし、恐らくこうなることもわかっている筈よ。

 そういった意味では、貴方がこのタイミングで召喚されたことはいい切欠になると思うわ。

 ……召喚された当事者の前で言うには不謹慎だけど、ね」

「いえ、気にしていませんよ。お役に立てるのなら光栄です」

 

 そんなことを話している間に、クノンがカートを押しながら戻って来た。

 

「お待たせ致しました」

 

 見た所二人分しか用意されていないようだ。

 クノンが人間ではなく機械人形だということはわかっているけど、どうにも居心地が悪い。

 食事の為の機能が付いてないのなら話は別だけど、介護用の為に感情を表現出来る様になっているからてっきり食事も出来る物だと思っていた。

 

「クノンは食べないの?」

「私には食事は不要です」

「食事の為に必要な機能が備わっていない、ってこと?」

「いいえ。食事でエネルギーを確保することも可能ですが、その必要性を感じられません」

 

 ……あぁ、要するに他の機械人形と同じ様なエネルギー補給で問題がないから、食事でエネルギー補給をする必要性がない、と言いたいのか。

 

「クノン、そこ座って」

「……?」

 

 アルディラさんは面白そうにこちらを見ているだけで、止める気配がないので続ける。

 僕に配膳された食事を半分に分ける。

 

「はい、クノンの分。

 食事の最中に一人だけ立っていられると気が散るからね。

 食事が出来るなら最低限僕がいる間は、必ず一緒に食事をとって貰うよ」

「ですが必ずしも食事をとる必要は」

「あら、いいじゃない。折角食事をとる為の機能がついてるんだから」

「アルディラ様……」

「この機会に三食食べるようになさい。

 ……それとも、私たちと一緒に食事をとるのは嫌かしら?」

「いいえ、決してそのようなことは」

「なら決まりね」

 

 つまり普段から食事の際は横に控えていた、ということか。

 前にここに居た二人というのは怪我人だったという話だし、食事は一緒じゃなかったのだろう。

 

「ほら、クノンも早く座って」

 

 手招きして横の椅子を引く。

 僕たちに引く様子がないことを悟ったのか、クノンは素直に椅子に座った。

 それを見届けた後、クノンの前に分けた朝食を並べる。

 幸い朝食はパンだったので箸はない。変わりに、用意されていた予備のスプーンを取って配膳する。

 クノンは戸惑った様子を見せるけど、僕たちは見事にそれを無視して手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 さて、食事も取り終わったので早速島を回ることに。

 ラトリスクからなので、昨日決まった滞在順に集落を回ることにする。

 集落以外は、とりあえず立ち入り禁止の区画を教えて貰う予定になっている。

 

「朔夜、これを」

 

 いざ出発、というタイミングでアルディラさんに呼ばれた。

 その手には鞘に収められた剣が握られている。

 

「この島には集落に馴染めなくて野生化したはぐれ召喚獣が居るから、自衛の為に持って行きなさい」

「……ありがたくお借りします」

 

 一瞬、断ろうと思った。僕にはデバイスがあるからだ。

 とはいえ好意を無下に断ることも出来ない。加えて昨日言われたこともある。

 ここはありがたく借りることにしよう。

 

「それじゃあいってきます」

「ええ、いってらっしゃい」

 

 さて、まずは風雷の郷だ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ようこそ、風雷の郷へ」

 

 そう言って僕たちを迎えてくれたのは護人のキュウマさんだった。

 

「クノン殿も案内ご苦労さまです」

「いいえ、これが私の仕事ですので」

「まずはミスミ様の元へ案内させて頂きます。お二方、どうぞこちらへ」

 

 キュウマさんの先導に従い、風雷の郷を歩く。

 目的地に行く前に簡単に集落内を案内して貰うことに。

 集落内を軽く見渡してみると、そこには確かに昨日キュウマさんが言っていた様に、どことなく日本に似た風景が広がっている。

 特に水田や家屋を見ると日本を彷彿とさせ、たった一日のこととはいえ元の世界を懐かしく感じてしまう。

 

「いい集落ですね」

 

 走り回る子供たちの様子を見ながら言う。

 集落の住人の顔に浮かぶ笑顔を見れば、それが良くわかった。

 

「そう言って頂けると、住人の一人としては嬉しいですね」

 

 話しながら進むと一際立派な屋敷が見えて来た。

 どうやらあそこが目的地のようだ。

 

「良くぞ参ったお客人。妾がこの屋敷の主、ミスミじゃ」

 

 そう言って僕たちを迎えたのは頭に特徴的な二本の角を持つ、一人の綺麗な女性だった。

 キュウマさんを見てても思ったことだけど、見てるとついつい触りたくなってしまう形をしている鬼の角だ。

 

「お初にお目にかかります、ミスミ様。桜満 朔夜と申します」

「うむ。実に礼儀正しい童じゃな。クノン、そなたも久しいの。アルディラは息災か?」

「はい。アルディラ様は融機人(ベイガー)故ワクチンの接種は必須ですが、問題ありません」

「それは何よりじゃ。さ、そんな所に立っておらんと座るがよい」

 

 ミスミ様の勧めに従い、座布団の上に正座する。

 クノンも僕に習って正座をした。慣れてないのか、若干動きがぎこちない。

 

「気にせんとも足は崩してよいぞ?」

「いえ、慣れてない訳ではないので。それこそ長時間で無い限りは問題ありません」

「そうか? 今時の童にしては珍しいの」

「恐縮です」

 

 僕の返答に頷き、ミスミ様はお茶をひとすすりした。

 

「さて、風雷の郷を軽く回って見てどうじゃった?」

「何というか、落ち着く感じがしました。

 多分僕が住んでいた世界に近い住居の形と、見慣れた水田のある光景が影響しているんでしょうね。

 それに住民の方もみな楽しそうで、率直に良い所だな、と感じました」

「そう言ってくれるか。ありがたいことじゃ」

「……所でこの集落には僕と同郷の方が居ると聞き及んだのですが」

「おぉ、ゲンジ殿のことじゃな。既に呼んでおる。もうそろそろ着く頃だと思うのじゃが」

 

 ミスミ様がそう言うと、いつの間にか部屋の中から姿を消していたキュウマさんが障子を開けて現れた。

 その後ろにいるご老人が恐らくゲンジさんだろう。

 

「ミスミ様。ゲンジ殿がお見えです」

「良いタイミングじゃな、ご老公」

「それではこちらの方が……?」

「うむ。そなたの同郷のゲンジ殿じゃ」

 

 ゲンジさんの顔をしっかりと見て、頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。桜満 朔夜と申します」

「……若いのにしっかりしておるな。

 ワシは召喚されて日本に戻れないと知ってからは、未練を捨てる為に苗字を捨てておってな。今はただのゲンジと名乗っておる。

 今日はまだ他にも集落を回る予定なのだろう?

 時間があいた時にワシの家を訪ねるといい。色々と話を聞かせてやろう」

「はい。時間を作って必ずお伺いします」

「そういう訳じゃ、ミスミ殿。幼子とはいえこの子は聡い様子。

 加えて同郷のモンじゃからワシにも色々と話したいことがある。折角呼んで頂いたが話をするにはちと時間が足らんな」

「ふむ、残念じゃ。妾もそなたらの話に興味があったのじゃがなぁ……」

「そう面白い話でもないと思うがの」

 

 ゲンジさんが苦笑いをしながら頭を掻く。

 

「でしたら一日時間が取れる日に風雷の郷に来て、ミスミ様も交えて話しましょうか?」

「よいのか?」

「ゲンジさんの仰るように聞いていて面白くはないかもしれませんが、ミスミ様とゲンジさんがよろしければ」

「ご老公」

「まぁ、ワシもミスミ殿が問題ないと言うのであれば構わんよ」

「おお! ならばあらかじめ前日辺りにゆうてくれれば、良い茶葉と茶菓子をこちらで用意しようかの」

「いや、それならば茶葉の方はワシの秘蔵の逸品を持って来よう。次に会う時が楽しみじゃな」

 

 ミスミ様とゲンジさんの言葉に頷く。

 その時良い考えが浮かんだので、チラリとクノンの方を見る。

 正座でも微動だにしない様子は、流石機械人形といった所か。

 

「……あの」

「ん? どうした」

「その席に彼女も同席させてもよろしいでしょうか?」

「クノンのことかの?」

「はい、ミスミ様。アルディラさんから、クノンとなるべく会話を交わして欲しいと頼まれてまして。

 彼女の感情プログラムの発達させる為には、色々な人と会話を交わす必要があるそうなので。

 会話を聴かせることも一助となるかと」

「そう言ったことなら妾に断る理由はない。ゲンジ殿はどうじゃ?」

「ワシの方にも問題はない」

 

 クノンが何かを言いたそうにしているが、この二人の許可があるなら押し切ってしまおう。

 

「アルディラさんには僕の方から許可を貰うから、クノンも一緒で良いよね?」

「いえ、ですが……」

「クノンの感情プログラムが発達すれば、きっとアルディラさんも喜んでくれるよ」

「そういうことでしたら、了解致しました」

 

 渋々とはいえ、了解を得た。

 まぁアルディラさんが喜ぶというのもあながち間違いではない。問題はないだろう。

 

「詳しい日程が決まりましたら、改めてお伺いします」

「うむ。今度来た時は昼餉を馳走しよう。楽しみにしておるがよい」

「はい。それではお暇させて頂きます」

 

 挨拶もそこそこに、立ち上がる。

 僕が立ち上がる頃には、場の空気を察してか既にクノンも退出の準備を済ませていた。

 改めてミスミ様とゲンジさん、障子の傍に控えていたキュウマさんに一礼し、その場を後にする。

 最初の集落で予想以上に時間を使ってしまった。次の目的地は狭間の領域だ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 狭間の領域に来てまず目に入ったのは、至る所にそびえ立つ水晶が光を反射して作り出す、幻想的な風景だった。

 

「ここが狭間の領域……」

 

 ラトリスク以上に生き物の気配を感じない場所だ。

 まぁ聞く限りサプレスの住人というのは月のマナを好むという話だし、月の見えない日中にはあまり行動しないのだろう。

 そういった意味では生き物の気配を感じないのも、仕方がないかもしれない。

 

「クノンはここに来たことはあるの?」

「はい。アルディラ様からの伝言を伝える際に何度か」

「それなら案内とかも大丈夫かな」

「大まかな箇所でしたら把握しています」

「じゃあファルゼンさんの居そうな所に案内頼めるかな?」

「了解致しました。この時間帯だと恐らく瞑想の祠でしょう。案内致します」

 

 クノンに先導を任せ、奥に進もうとした瞬間。

 どこからか翼が羽ばたくような音が聞こえて来た。

 

「その必要はありませんよ」

 

 そんな言葉と共に僕たちの目の前に降り立ったのは、背中に羽を持つ青年だった。

 あの羽の形状からして、恐らくは天使だろう。

 

「はじめまして。私はフレイズ。ファルゼン様の副官を務めております」

「はじめまして、桜満 朔夜です」

「クノンさんもあまり詳しくはないでしょうし、ここから先の案内は私がしましょう」

 

 そういったことなら、とフレイズさんに先導を任せて瞑想の祠を目指す。

 途中、異鏡の水場といった場所に寄りつつ、主要な箇所を回っていく。

 ファルゼンさんの言付けもあってか、この集落で僕に襲いかかる住人は居ないけれど、なるべく入らないように注意する場所を教えて貰った形になる。

 案内の途中でマネマネ師匠という妙な存在にモノマネ勝負を挑まれたりと、ちょっとしたハプニングのようなこともあったけど、特に大きな問題もなく目的地にたどり着いた。

 

「ここが瞑想の祠になります」

 

 一見するとただの洞窟のように見えるけど、うっすらと魔力のような物がこの場に充満しているのがわかる。恐らくこれが、サプレスの住人に必要なマナなのだろう。

 

「ファルゼン様、お客様をお連れしました」

「良ク、来た……。何モ無い場所ダガ、歓迎スる」

「申し訳ありません。ファルゼン様のお体は、見ての通り言語を用いるのにあまり適しておりません。

 これから先は私、フレイズが代弁することをお許し下さい」

 

 フレイズさんの言葉に頷く。

 

「この集落に滞在する際の注意点は道中説明しましたが、見ての通りこの集落は元来人が滞在するには適していないです。

 そこでファルゼン様と事前に話し合った結果、貴方が滞在する際にはこの瞑想の祠を使用して貰うことになりました。

 本来ならこの場はファルゼン様以外が使える場所ではないのですが、この件に関してはそうも言ってられませんから……」

「お手数おかけしたようで申し訳ないです」

「いえ、ファルゼン様も私も、貴方の他の世界を理解しようとする姿勢は嫌いではありませんよ」

「食事ニ関しテも、口ニ合うかハわかラヌが、こチらで用意シよウ……」

「ありがとうございます」

 

 ファルゼンさんの言葉に、改めて頭を下げる。

 

「必要な連絡事項は以上になります」

「わかりました。他にも回る所があるので今日はこれで」

「はい。貴方が滞在しに来る日を楽しみに待っていますよ」

 

 ファルゼンさんとフレイズさんに礼をしてその場を後にする。

 さて、次の目的地はユクレス村だ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ま、楽にしてくれや」

 

 村に入って僕たちを迎えてくれたのは、護人のヤッファさんだった。

 彼自身に案内された先にあったのは怠け者の庵と呼ばれる、彼の自宅だ。

 

「本来ならマルルゥって言う花の妖精に案内を頼もうと思ってたんだがな、すっかり忘れてるようで何時まで経っても来やがらねぇ。案内の方はまぁ、後日ってことで勘弁してくれや」

「それは構いませんが……」

「そこの機械人形の嬢ちゃんも最低限の案内は出来るだろうが、マルルゥの奴はどうもお前さんに興味があるらしいからな」

 

 そう言って頭を掻くヤッファさん。

 クノンの方も特に思うことはないのか、相変わらずの無表情だ。

 アルディラさんに言いつけられたことだから、もう少し感情の揺れが見えるかと思ったんだけど……。

 

「この集落に滞在する間は、空家を使って貰うことになる。その辺の案内もマルルゥに任せる予定だったからな。悪いが、滞在前にもう一度ここに来て貰うことになる」

「わかりました」

「その時にはマルルゥを使いに出す。体長がこれぐらいのちみっこい奴だから、すぐわかるだろうよ」

 

 そう言って彼の示す長さを見ると、確かにすぐにわかりそうだ。

 

「ま、リィンバウムの人間じゃないってことで住人の反発も少ない。

 妙な真似さえしなけりゃ襲いかかられることもないだろう。

 お前さんもそこら辺は言われなくてもわかってるようだがな。俺からは以上だ」

 

 ヤッファさんの性格なのか、本当に必要最低限で終わってしまった。

 ユクレス村についてから二十分も経っていないけど、どうやら話すことは本当にこれ以上ないようだ。

 思ったより時間があいてしまった。

 

「朔夜様。宜しければ後一箇所、案内したい場所があるのですが」

「……? うん、クノンに任せるよ」

 

 怠け者の庵を出て暫く歩いた頃、唐突にクノンが声をかけて来た。

 特に断る理由も無かったので頷く。

 クノンの先導に任せて歩いていくと、どこか見覚えのある建物が見えて来た。

 

「ここは……」

「この島で唯一物を売っている場所です。

 基本的に日常用品はこの場でしか入手出来ません」

 

 そう言って店の中に入っていくクノン。

 その建物に呆然としていた僕も、慌ててクノンの後を追う。

 

「にゃはは、いらっしゃ~い」

 

 店内に入った僕たちを迎えたのは、一人の酔っ払い(メイメイさん)だった。

 

「メイメイ様。今日は朔夜様の衣服を買いに来ました」

「いや、でもそこまでして貰う訳には」

「問題ありません。必要な資金はアルディラ様より預かっています」

 

 クノンの発言に思わず声をかけるが、取り合っては貰えない。

 どうも今日のことを話している間にアルディラさんが決めたことらしい。

 とはいえ、ここまでお世話になりっぱなしなのは些か心苦しいものがある。

 

「朔夜、ってのはそこの少年のことね? じゃ、ちゃちゃっと採寸しちゃうからこっちに来なさい」

 

 そんなことは関係ないと言わんばかりに、メイメイさんに連行されてしまった。

 まぁ店を利用してくれさえすれば、彼女には関係のないことだろう。

 カウンターを離れて別室に案内される。

 

「さて。……色々と私に聞きたいこともあるでしょうけど、まずは宣言通り採寸を済ませちゃうわね?」

 

 彼女の言葉に黙って従う。

 これはどうやら、僕の仮説は当たっていたようだ。

 

「はい、終わり~。さ、何が聞きたい?」

「とりあえず率直に。僕を召喚したのは貴女ですか?」

「えぇそうよ」

 

 思った以上にあっさりと答えが返って来た。

 

「ま、正確には、貴方を召喚して欲しいという依頼を受けたのよ」

「依頼?」

「そ。――――界の意思(エルゴ)に、ね。

 だから申し訳ないけど、ことが終わるまで貴方を元の世界に戻すことは出来ないわ」

「そのこととやらが終われば、僕を元の世界に戻してくれるんですか?」

「正確には、その為に必要な送還術(パージング)の術式を伝授するよう、言付かっているわ」

「つまり帰還は自力で、ってことですか……」

 

 思わず溜め息が出てしまう。

 

「必要なことと思って諦めて頂戴な。

 誓約者(リンカー)たる資格を持つ貴方は、遅かれ早かれこの世界に関わることになっていたわ。

 送還術の術式を与えて、自力で帰還させるのにはそういった理由もあるのよ」

「要は後々必要になるから、ついでに覚えていけってことですよね?」

「にゃは、そうとも言うわね~」

 

 しかしわからないでもない。

 この感じだと、今後戦闘することもあるだろうし、送還術を覚えて損はない。

 色々と気に食わないことはあるけど、ここは素直に従っておこう。

 

 しかし、問題はこの場で僕が誓約者の資格を持つ、ということが判明してしまった点だ。

 これでサモンナイト1の本編に関わることが決定してしまった。

 色々と予定がてんこ盛りだ。

 そう言えば帰還した後に調べ物もしなきゃならないし……。体がもつか、心配だ。

 まぁどれも自分が決めて関わることにしたのだ。泣き言を言っても仕方ない。

 

「近い内に時間を作って一人でここに来て頂戴。その時に、送還術を伝授するわ」

「わかりました。明日にでも時間を作って来ます」

「じゃ、戻るわよ~」

 

 カウンターに戻り、クノンが選んだ日常雑貨を購入した後、僕たちはメイメイさんの店を後にした。

 服に関しては採寸したサイズを元に、メイメイさんが仕立てるようだ。

 というのも、売り場にある物だとどれもサイズが合わないのだ。

 この島には僕ぐらいの年齢の子も居るが、基本的にその子たちは家で家族が仕立ててるらしい。

 しかし僕が来ているような服を作れる人は居ない。

 和服ぐらいならミスミ様が仕立てれるようだけど、そこまで迷惑はかけたくないので、ここで纏めて作って貰うことにした。

 まぁそれもこれも必要なお金を他人に出して貰って今の僕に、どうこう言えたことじゃないんだけどね……。

 お金に関しても、どこかで稼いで返さなきゃなぁ。

 色々と先が思いやられる一日だった。

 

 

 





滑り込みセーフ。
書いていたら10000字超えて少し焦りました……。
今回は当初の予定を変更して簡単な交流回になっています。
当初は集落を回る描写をもう少しカットして、初実戦まで行く予定でした。
とはいえ、交流の描写をあまりおろそかにしたくなかったので、主要な人物を紹介するついでに簡単に集落を回る話に変更しました。
本当なら文中に名前だけ登場したマルルゥや、名前すら出てこなかったスバル・パナシェも話に組み込みたかったのですが、思った以上に長くなりそうだったので泣く泣くカットする羽目に……。

尚、今回作中に登場したクノンの設定に関してですが、食事の機能に関する部分は原作では特に言及されてなかったと思います。
鍋の時の描写を見る限り恐らく食べれるだろう、という憶測の元書かれてますのでご注意下さい。

次回は恐らく実戦回になる筈です。
同時に、以前言ったように次回の更新から暫くは二話同時の更新になります。
時系列は一緒ですが、視点が朔夜視点と原作主人公視点に分かれる為です。
その為、普段以上に更新に時間がかかるようになるでしょうが、ご了承下さい。
一応、次の話に関しては原作主人公視点は完成済みなので、何時もと同じように更新出来ると思います。

それでは、今回はこれにて。
感想や誤字・脱字の指摘などもお待ちしております。
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