ここは一体どこなんでしょうか……?
今私は、見覚えのない海岸にいます。
どうやら倒れていたようですが、何故こんな所にいるのか記憶にありません。
うーん、ちょっと状況を整理してみましょう。
まずは私のこと。私の名前はアティ。
元は帝国軍所属の軍人で、ある理由から軍を辞めました。
軍を辞めた後は、軍務で知り合ったマルティーニ家の主人から請われ、彼の娘さんの家庭教師をすることになったんです。
その子の名前はベルフラウ。
……あぁ、段々思い出してきました。
そうです。確かそのベルフラウちゃんと、工船都市パスティスへ向かう為に船に乗ったんです。
◇◇◇◇
「貴女にはこれから、お嬢様を連れて軍学校のある工船都市パスティスに向かって頂くことになります」
私にそう話しかけているのは、マルティーニ家のメイド長である、サローネさんだ。
今私たちは工船都市パスティスに向かう船がある、アドニス港に居ます。
丁度船の出発時刻が近づいている状況で、ベルフラウちゃんは既に乗船している状態でした。
「こうしてベルフラウ様と一緒に船旅をして貰うのには、無論理由があります」
サローネさんはそこで一拍おき、少し言いづらそうに話を続けました。
「ベルフラウ様は見ての通り、兎に角勝ち気でして……。
少しばかりわがままに過ぎ、自分の意に沿わないことは中々受け入れない、そんな部分があるのです」
サローネさんの言葉に初対面でベルフラウちゃんからかけられた言葉を思い出し、おもわず頷いてしまう。
「特に殿方相手ですと、ムキになって逆らったり反抗したりする有様です。
……そういった諸々の理由もあり、今までの家庭教師はどなたも長続きはしませんでした」
思わず苦笑いが浮かぶ惨状です。
ですがこうして、教育免許も持たない門外漢の私にまで話が回って来ているのですから、相当切羽詰っている状況だと考えた方が良さそうです。
「ここまで話せばある程度はお察し頂けると思いますが、今回ばかりは今までのようでは困ります。
格式と教師陣において帝都一と名高い軍学校に入学することは、必ずお嬢様の為になる筈ですから」
「察するに、工船都市パスティスに到着するまでに彼女との間に信頼関係を築け、ということですね?」
「そういうことです。
入学試験までの期間のことも考え、仮に船旅の間に上手く信頼関係を築けなかった場合は、申し訳ないですが家庭教師の話はなかったことにして頂きます」
「それはまた、責任重大ですね」
「誰に対してもはっきりと物を言えるベルフラウ様の気質は長所でもありますが、行き過ぎればそれは短所にも成り得ます。
特に殿方に対して、反射的に反発するあの気質だけでもどうにかなれば良かったのですが……」
そう言ってサローネさんは溜め息をつきました。
「マルティーニ氏は仕事が忙しくて、あまり彼女の相手になれなかったと聞いています。
男性に対しての反発心は、多分そこから来ているんでしょうね」
私の言葉にサローネさんは頷きました。
長年ベルフラウちゃんに仕えているだけあって、その辺りのことは良くわかっているんでしょう。
「そういった理由から女性且つ旦那様と面識があり、そして何より軍学校を主席で卒業した貴女に白羽の矢が当たった訳です」
「成程。通りで教育関連の資格を持たない私に」
「それだけ理解して頂ければ、恐らく大丈夫でしょう」
「わかりました。精一杯努力させて頂きます」
「ベルフラウお嬢様のこと、くれぐれも宜しくお願い致します」
「お任せ下さい!」
サローネさんが深く頭を下げる。
私はそれに頷き、船に向かいました。
◇◇◇◇
――と、威勢良く啖呵をきったのは良かったんですが。
先程、不用意な発言をして彼女の機嫌を損ねてしまいました。
そう言った理由から、今私は少し頭を冷やす為に、船内を軽く回っている所です。
万が一の為に、脱出経路を簡単に下見しておこうという意図もありました。
「いざ二人きりになると、何を話してよいのやら……」
残念なことに、私にはあの位の年頃の子と話した経験があまりありません。
その結果が今の状況に繋がってしまった訳ですから、今後はもう少し慎重に物を言う必要がありますね。
そもそも良く良く考えてみれば、不安にならない訳がないんですよね。
行き成り親元から離れて、見ず知らずの人間と一緒に船旅だなんて。
話をするのは、少し時間をおいてからにするべきでした。
「はぁ」
思わず溜め息をついてしまいます。
こんな状態では前途多難です。
「あれ?」
とりあえず経路の確認を終え、部屋に戻る途中。
そこで私は、懐かしい影を見つけました。
「……帝国軍の軍人? どうしてこんな所に」
何やら、監視のようです。
あの先に軍に関わるものが保管されているのか、あるいは要人が居るのか。
それにしてはおかしな話です。
普通そう言った軍に関連するものは、軍の保有する船舶を利用するのが常です。
仮に極秘の任務であったとしても、些か不自然です。
大体軍服を来ている時点で怪しんで下さいと言っているような物ですよ。
そんなことを考えていると、見張りの軍人の一人がこちらに気付きました。
顔に入れてある刺青が特徴的な青年です。
……うーん、これはちょっとまずいことになりそうな予感です。
「おい、ここになんの用だ?」
「部屋に戻る道を間違えてしまって……」
「嘘だな」
穏便に済ませようと誤魔化してみるも、嘘だと断言されてしまいました。
うぅ。確かに若干の嘘を孕んでますが、そんなにわかりやすかったでしょうか?
「ビジュ! 何をしているッ」
どうやって切り抜けようか考えていた所、近くの部屋からがっちりとした体格の巨漢が姿を現しました。
相当鍛えられているのがわかりますが、鍛錬で、というよりは実践で培った物のようです。動作にも隙が見当たりません。
「……いやねぇ、副隊長殿。
不審な女が彷徨ってたんで尋問していたんですよ」
「私は単に、道に迷っただけなんですけど……」
「おい、女。行っていいぞ。
反対側に進めば甲板に出れる。そこからなら迷わんだろう」
「副隊長ッ」
「お前の過剰反応だ、ビジュ。
ピリピリするのはわかるが、無関係の人間にまで当り散らすな」
「――――チッ!」
何だか話は終わったようなので巨漢の方に一礼し、その場を去ることに。
今日は色々と厄日です。
「戻って来たのは良いんですが」
もう少し甲板辺りで時間を潰すべきだったでしょうか?
ちょっと部屋に入りづらいです。
「でも、いつまでもこうしている訳にもいかないですよね……」
まさかこの船旅の間一切会話無し、という訳にはいかないんですから。
意を決して部屋に入る為にノックをしようとした瞬間。
「……あ」
声が、聞こえて来た。
「寂しくなんか」
今にも消えてしまいそうな程、小さな声。
「寂しくなんか、あるもんですか」
やっぱりそうですよね。
今にも泣いてしまいそうなその声を聞いて、少し後悔しました。
あの時引き下がるのではなくて、無理にでも彼女と会話するべきでした。
話してさえいれば、感じた感情が怒りであろうと寂しさを紛らわせることは出来た筈。
例えそれが一時的な、その場しのぎのものでしかなくても、です。
「子供じゃあるまいし……。
家が恋しくなるなんて。そんな、ことっ」
「――ベルフラウちゃん、アティです。部屋、入っても大丈夫かな?」
意を決して戸を叩き、声をかける。
家族が傍に居ない寂しさは、私にもわかるつもりです。
そしてそんな時に、誰かが傍に居てくれる嬉しさも。
今、彼女の傍には私しかいない。だったらこれは私がやらなくちゃいけないことです。
「………どう、」
多分目尻をこすっていたんでしょう。
少し間を置いて答えが返って来るその瞬間。
「きゃっ!?」
船に衝撃が走りました。それに、この音は!
「ベルフラウちゃん、怪我はない!?」
「え、えぇ。どこにも」
慌てて部屋に入り、怪我の有無を確認します。
特に何もないようで、その答えを聞いて胸を撫で下ろす。
「念の為に避難経路を確認しておいて良かったです。
……ここも時期危険になります。今の内に脱出しましょう」
「何が起こっているんですか?」
「恐らく、海賊です。今のは大砲の砲撃が当たった衝撃でしょう」
「か、海賊!?」
窓の外を見ると、海賊旗を見ることが出来ました。
「あの旗は海賊旗。やっぱり、海賊に間違いないですね」
「そんな」
先程見た帝国軍人は、やはり何か極秘任務を遂行中だったんでしょう。
恐らく海賊の狙いは彼らが護るモノ。
そうなると軍人はそちらに護衛を集中させる筈。
迎撃に出れるだけの人数が居るかも不明ですし……。
この船自体にも警備兵は配備されているでしょうが、人数と練度に不安があります。
やはり、ここは脱出の為に動くべきですね。
私だけなら兎も角、今ここにはベルフラウちゃんが居ます。
彼女を危険に晒す訳にはいきません。
「警備の兵士が居ますし大丈夫だとは思いますけど……。
万が一の場合があります。脱出の為に避難艇の近くまで移動しましょう」
次の瞬間、一段と大きな衝撃に船が揺れます。
私はベルフラウちゃんを抱き寄せ、揺れが収まるのを待ちました。
これは、悠長なことを言ってられる状況ではなさそうです。
「ベルフラウちゃん。悠長なことを言ってられる状況ではないようなので、今からこの船を脱出することにします。大丈夫ですか?」
「……えぇ、大丈夫」
「こう見えても私はそこそこ強いんですよ?
――――貴女のことは、私が必ず護りますから!」
「本当に?」
「えぇ。約束です」
そう言ってベルフラウちゃんの手を握り、部屋を出る。
幸いなことに、脱出の為のルート確認済みです。
最短距離を走って甲板を目指します。
◇◇◇◇
「――――やる気のねぇ奴はとっとと失せなッ!」
甲板にたどり着いた私たちを待っていたのは、海賊の本隊でした。
恐らく、今警備兵を一蹴した金髪の男性が船長でしょう。
このままではいずれこちらに被害が及びます。
それだけは避けないと……!
「ベルフラウちゃんはここで待っていて」
「え?」
「私はどうにかしてあの人を退けます。
危ないですから、貴女はここに居て下さい」
そう言いつつ持って来たサモナイト石を確認。
未契約のサモナイト石、紫と白が一つずつ。
残りはポワソとタケシー、そしてピコレットと契約済みのサモナイト石。
装備に不安はありますが、これならどうにか出来そうです。
私はどちらかと言うと召喚術を得意とするので、まずは遠距離から敵の数を削る戦法でいきます。
「貴方たちが逃げたら、誰が乗客を護るんですか!?」
今にも逃げ出しそうな警備兵を鼓舞しつつ、影から飛び出す。
ここで彼らに逃げられては勝率も下がります。
「……ほぉ。
少しは骨のある奴が残ってたみたいだな。それにその装備。アンタ、召喚師か」
手に持っていないとはいえ、腰に杖を差していれば流石に気付きますね。
気付くまでのスピードが速いことから、相当戦い慣れていることが伺えます。
バレてしまった以上、不意を突くことは出来ないでしょう。素直に杖を構えます。
「引いてくれ、と言っても引いてくれそうにねぇな」
「当然です」
「野郎共ッ! 軽く相手をしてやんな!!」
「ヘイッ! お頭!!」
……これは、結構な人数ですね。
お頭と呼ばれた青年の傍に、六人の男性が集まります。
対してこちらには、最後に残った警備員の二人と私の合計三人。
こちらの倍の数を相手にしなければならない訳です。
とは言え――――
「二人共、なるべく固まって行動して下さい!
攻撃は私の後に、一人に対して集中的にお願いしますっ!
それと、彼らには聞きたいことがあります。なるべく致命傷は避けて下さい!!」
――――こちらも、負けるつもりはありません。
「……お願い、力を貸して。
同時に私は詠唱を破棄して召喚術を行使。召喚対象はタケシー。
「ゲレサンダー!」
標的を杖で示し、攻撃指示。まずは一番近くに居る敵から攻撃です。
召喚されたタケシーはその方向に向かって、雷を落とします。
電撃によるダメージで麻痺させることが目的です。
とはいえ、最下級の術であるゲレサンダーではその効果も微々たる物にしかなりません。
「オォォォォォォォッ!」
その隙を逃さず、警備兵の一人が飛びかかります。
どうやら相手は電撃と攻撃の衝撃で気を失ったようでした。
「召喚! もう一度ゲレサンダー!」
今度は気絶した敵の傍に居る海賊に攻撃指令。
消費する魔力の関係上、そうそう連発は出来ませんが、まずは数を減らすことを優先します。
攻撃を受けた海賊に警備兵が攻撃をしかけている間に、私は次の一手を打ちます。
「召喚。――――ポワソ!」
今度は通常の召喚ではなく、ユニット召喚と呼ばれる術を行使。
これは、タケシーのように攻撃する度に送還されてしまう通常の召喚術とは違い、対象をこの世界に固定出来る術です。
とはいえ、ユニット召喚する為には特殊な術式を使って誓約する必要があります。
私が召喚したポワソという召喚獣は、サプレスの召喚術を行使する召喚師には愛用されています。
召喚術を習いたての初心者でも比較的容易に召喚しやすい割には、相手を攻撃したり眠らせたり、一通りのことが出来るのが理由ですね。
「左から来る海賊を引きつけて!」
「プイッ」
数が劣っている以上、一度に複数の相手に攻撃されてはかないません。
今はこちらが多対一に持ち込めてますが、これが逆転してしまえばほぼ勝ち目は無いでしょう。
心苦しいですが、ポワソには一旦壁になって貰います。
その間にまずは近場の敵を一掃しましょう。
「召喚・ピコリット!」
エンゼルヒールによって傷ついた警備兵を回復。
体勢を立て直し、ポワソの救援に向かいます。
「ピコリット。もう一度エンゼルヒールをお願い!」
今度は警備兵の二人に敵を任せ、傷ついたポワソを回復させる。
これで相手の数は四人。その間に警備兵の二人が倒したので、残りは三人。
これで数の上では互角です。
とはいえ、回復術は傷は癒せても疲労までは癒せません。
ここから先が正念場になりそうです。
「オォォォりゃあああああ!」
案の定、前衛の二人に疲労の色が見えます。
その隙を突かれて、斧を持った海賊が一人、こちらに接近して来ました。
ポワソも今は前衛にいる為、私の護衛はいません。
恐らくそれを好機とみたんでしょうね。
「――ですが、甘いです」
杖を素早く手放し、抜剣。同時にサイドステップで突進を躱します。
空を切る攻撃を尻目に剣を横薙ぎ。
狙いは下半身。特に脚。まずは機動力を奪います。
「があ!?」
転倒することは防いだようですが、敵の動きが止まりました。
その隙を逃さず、その間に手放した杖を拾い、召喚術を行使。タケシーを再召喚。
「ゲレレサンダー!」
恐らく一番攻撃力を持っているであろう、斧持ちの海賊を無力化する為、一度に行使できる魔力をフルに注ぎ込み、ゲレサンダーの一つ上のランクの術を行使。
電撃の威力が上がる為、相対的に麻痺の確率も上がります。
「ががががががががががが!?」
ちょっとキツすぎましたかね……?
ま、まぁこれぐらいなら彼らも耐えられるでしょう。
ですが、これで暫くは召喚術の行使も厳しいです。
確実性を求める為に、一度に行使出来る限界までの魔力を使用したので、タケシーに必要以上の負担がかかってしまいました。
こんなことなら、攻撃用のサモナイト石をもう少し用意しておくべきでしたね。
杖を腰に差し、剣を構えたまま次の敵に向かいます。
召喚術が暫く使えない以上、接近戦で相手をする必要がありますからね。
とはいえ相手は既に二人。
ポワソが壁になって敵を分断している間に一人を集中的に攻撃しています。
こうなれば私の目標はポワソの相手をしている方ですね。
「ハッ!」
迂回して背後にまわり、剣を横薙ぎ。
不意を突いたおかげか直撃です。
その隙を逃さず、ポワソが突進。体当たりが顔面に直撃して敵は昏倒しました。
残るは一人。
その一人も二対一の数の暴力には勝てなかったのか、警備兵の二人にボコボコにやられてました。
「……凄い」
ベルフラウちゃんの感嘆の声が聞こえますが、今はそちらに気を払う余裕がありませんでした。
「まだ、やりますか?」
そして私は、剣先をお頭と呼ばれた男性の方に向けます。
当然ですがまだ油断は出来ませんでした。
警備兵の二人に気絶している海賊を縄で縛るよう頼みつつ、警戒は怠りません。
「……こいつはちぃとばかし、お前らには荷が重いな」
「お、お頭」
お頭の青年は一歩前に踏み出すと、構えを取りました。
徒手空拳。拳法家のようですね。
海賊一家のお頭だけあって、腕っ節には自信有り、ということでしょう。
それに彼の呼吸法を見ていると気が付くことがあります。
「ここから先は俺が相手だ」
「穏便に済ませる気はない、ということですね?」
「ここまで一家のメンツが潰されたんだ。悪いが、引っ込む訳にはいかねぇな」
剣を構えなおしたその瞬間、今までにない揺れが船を襲いました。
「っとお!」
お頭の青年も思わずたたらを踏んでます。
思わず周りを見渡すと、あれだけ晴れ渡っていた空を暗雲が覆っていました。
「え!?」
なんの予兆もなかった為、思わず唖然としてしまいます。
強風と雨。嵐です。
思わず唖然としてしまいましたが、ベルフラウちゃんのことを思い出し、慌てて彼女の居た場所を見ます。
その瞬間、
「きゃああああああああああ!?」
「ベルフラウちゃん!?」
私が目にしたのは、強風にさらわれ、船外に放り出される彼女の後ろ姿でした。
考える間もなく私の体は動いてました。
そのまま彼女の後を追い、迷わず海へと飛び込みます。
後ろでお頭の青年が何かを言ってますが、聞いてる暇はありませんでした。
だって、私は約束しました。
絶対に護る、って――――。
◇◇◇◇
それが私が思い出した、ここに倒れるまでの経緯でした。
あの後ベルフラウちゃんを見つけたものの、彼女を抱きかかえた時点で力尽きてしまった筈ですが……。
確かその時、継承がどうだのといった声を聞いた気がします。
そんなことより私がここに居る以上、ベルフラウちゃんもここに流されている可能性があります。
早く彼女を探し出さないと!
「きゃああああ!」
今の声はベルフラウちゃん?
声のした方へ向かってみましょう。
「あっちへ行きなさい! 弱い者いじめなんて、恥ずかしいとは思いませんの!?」
「……ビィ」
そこには小さな火の玉のような召喚獣を、他のはぐれ召喚獣から庇うベルフラウちゃんの姿がありました。
武器も持たず、怖いだろうに立ち向かっています。
咄嗟に腰に手をやるも、どうやら流されている間に武器を失ったらしく、剣も杖も見当たりませんでした。
契約済み、未契約。そのどちらのサモナイト石も見当たりません。
ですが当然、彼女を見捨てる気はありません。
近場に落ちていた手頃な大きさの石を拾い、思いっきり投げつけます。
「プグルァ!?」
「あなたの相手はこちらです!」
わざと大きな声を出し、標的をこちらに移します。
武器がないとは言え、簡単な格闘術は習っています。
一度に四体のはぐれ召喚獣を相手にするのは厳しいですが、泣き言は言ってられません。
敵の注意を更に引きつける為、もう一度投石で攻撃します。
「武器はなくても!」
《武器なら……ある》
え?
《我を、召喚せよ》
この声、確か海で……。
《生き延びる為の力を欲するならば――》
「……先生?」
《――我を、抜き放て!》
ッ!?
その言葉に、無意識に手が虚空へと伸びます。
まるでそこにある、見えない何かをつかむように。
拳を握った瞬間、眩い碧の光が私の体を覆いました。
「こ、れは……」
光が収まった時、私の姿は一変していました。
まるでうさぎの耳のような形になった髪。色も白へ変色してしまってます。
何より大きな違いは、半ば右手と同化している碧に光る剣の存在。
そしてその剣から流れ込んでくる、膨大な魔力。
「これなら……」
そう。これなら。
この力があればベルフラウちゃんを護ることが出来る――――!
「プ、プグルゥゥゥ」
異質な力を感じ取ったのか、はぐれ召喚獣に怯えが見え隠れします。
加減は難しそうですが、威嚇を繰り返せば殺すことなく撃退出来そうです。
「行きます!」
間違ってもベルフラウちゃんの方に敵をやらない為、今回も近場の召喚獣から順に相手をします。
一番近くにいたマリンゼリーに対し、剣の腹で思いっきり殴りつけます。
ぐにゃっとした感触と共に吹き飛ぶマリンゼリー。
この感触から言って、これで十分そうです。
切りつけた場合はそのまま命を奪ってしまいかねないので、彼らに対してはこの攻撃方法を徹底しましょう。ここがどこかわからない以上、彼らははぐれ召喚獣ではない可能性もありますから、殺生は避けるべきですね。
「ハッ!」
後は単純な作業でした。
一番奥に控えていたマリンゼリーは水流による遠距離攻撃をしかけてきましたが、剣を盾にすることで問題なく防げました。
逃げていくマリンゼリーを見送ると、またあの碧の光が体を覆います。
今度は逆に、元の姿に戻りました。
……今の力は一体何だったのでしょうか。
《力望みし時あらば、いつでも喚ぶが良い。
我は、常にお前のココロと共にある…………》
それっきり、その声は聞こえなくなってしまいました。
助かったのは事実ですが、どこか不気味な声でした。
「……せんせぇ」
「ベルフラウちゃん、大丈夫? どこにも怪我はない?」
ベルフラウちゃんの傍に駆け寄り、体を触って怪我の有無を確認します。
見た所大きな怪我はないようで、一安心しました。
「うわぁぁぁぁん!」
そのまま私に抱きついてくるベルフラウちゃんを、私は優しく抱きしめました。
たい、っへん長らくお待たせ致しました。
第十話更新になります。
以前から言っている様に今回から暫く、具体的には後二回分ほどは二話連続更新になります。
進行速度が落ちないように、出来るだけ月一で更新出来るようにしたいと思いますが、何分今回既に二ヶ月お時間頂いてる現状……。
どこまで予定通り出来るか怪しい所です(;´Д`)
それではまた次回にお会いしましょう。