魔法少女リリカルなのはKreuzung   作:神原和人

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/11S 幽霊少女

 初戦闘から一夜開けて。

 日が変わってから何度か実戦を重ねる傍ら、見つかった問題点を洗い直していた。

 わかったのは、僕には中・近距離において銃を上手く扱えないということ。

 近距離では僕の方がテンパって上手く使いこなすことが出来ないのだ。

 剣と違って直接攻撃には使えないので何かと焦ってしまう。

 今まで中途半端にならないように、と銃に関して手を出してなかったのが仇になった。

 今後鍛錬を重ねればどうにかなるだろうけど、今はそれ程多くのことに手を伸ばしている余裕がない。

 そこで現在のガンナーフォルムを一旦破棄。新しく長距離用に作り直すことにした。

 長距離からなら僕も余裕を持つことが出来るだろうし、こちらの場合僕がすることは標的を定めてトリガーを引くことだけだ。

 後は中距離用に杖を追加した。こちらは召喚術を多用する際に使う予定だ。

 

 利用を控える、という意味では飛行魔法も控えることになった。

 というのもこの世界では純粋に人間が空を飛ぶことが出来ないからだ。

 対空攻撃法が存在しない訳じゃない。しかしその精度は低いと言わざるをえない。

 正々堂々と、何て言うつもりはないけど、今は少しでも戦闘に慣れたい。

 何らかの理由で飛行出来なくなった時に【飛行出来なくて戦えません】では話にならない。

 もう一つの理由としてはメイメイさんからも鍛錬中は使用を控えるように言われたから、というのもある。

 十全の力を出せないよう自ら枷をすることであえて苦境に身を置き、それによって鍛錬の難易度を上げるのが目的だと聞いた。

 後は普段から楽な方に流されないようにする為らしい。

 勿論、いざという時には遠慮なく使うつもりだ。

 

 他にも、多少は戦闘行為に慣れて来たので戦闘中にマルチタスクや送還術を使う訓練をはじめる、という話もあがってきている。

 マルチタスクの方は簡単な運動をしながら運用することはあっても、激しい運動をしながら運用したことはなかった。これが戦闘中に問題なく使えるのであれば、選択肢はグッと広がるだろう。

 

 そして召喚術に関して。意外なことに、ユクレス村に滞在し始めてすぐに許可が下りた。

 聞く所によるとヤッファさんは他の三人の意見を参考に、僕が滞在を始める前から決めていたそうだ。

 今はアルディラさんに初歩的なことを教わりはじめた所だ。

 また、許可が下りたことに合わせて僕が隠していた魔法についても一通り説明してある。

 驚いたことに、護人の皆は既にミッドチルダ式の魔法について知っていた。

 というのも以前ラトリスクに居た怪我人というのが、どうやら魔導師らしいのだ。

 らしい、というのは娘だというアリシアと名乗る少女には何回か会ったことがあるものの、その魔導師本人とはまだ直接会ったことがないからだ。

 どうもあまり出歩かない人のようで中々会う機会に恵まれない。

 元々重い病気を患っていたそうで、まだ万全な状態じゃないのが出歩かない理由だとか。

 ラトリスクでの治療は終わっているし、最近はちょっとずつリハビリに励んでいるようで、近い内に話す機会を作ってくれるとのことだ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「朔夜様」

「あれ、クノン? 何か用?」

 

 ラトリスクの一角にてす振りをしていた僕は、近づいてくる足音にその動作を止めた。

 聞こえて来た声に振り向くと、そこには水筒を持ったクノンの姿があった。

 

「お飲み物をお持ちしました」

 

 夢中になって気が付かなかったけど、鍛錬をはじめて相当時間が経っていたようだ。

 それに気付くと、途端に汗と喉の渇きが気になってくる。

 

「こちらをどうぞ」

 

 渡されたタオルを受け取り、サッと汗を拭く。

 

「ありがとう、クノン」

「いいえ。……それとこちらも」

 

 そう言って渡された水筒の蓋に入れられたジュースを受け取り、一飲み。

 体に活力が戻るのがわかる。

 口の中に広がる酸味は、この島に来てから馴染み深い物だった。

 

「これ、もしかしてキッカの実のジュース?」

「はい」

「キッカの実ってこういった使い方も出来るんだ」

「実のまま使う方が珍しいです。本来はこうして、ジュースにして飲む物です」

「へぇ、そうなんだ」

「戦闘中に使う場合は持ち運びの観点から実のまま使用するので、実を使うのはそれがそのまま定着したものだと思われます」

 

 クノンの説明を聞きつつ、蓋に残ったジュースを一気飲みする。

 

「ありがとう。美味しかったよ」

「いいえ、お役に立てたのなら幸いです」

 

 そう言って微笑を浮かべるクノンを見て、彼女も随分と変わったものだと思う。

 この島に召喚されてからクノンとは特に意識をして交流を持つようにしていたけど、それも無駄じゃなかったと思えると嬉しい。

 ゲンジさんたちとの話し合いを皮切りに、僕は積極的に彼女を他人と関わらせた。

 その甲斐あってか、アルディラさんもビックリするくらいクノンの感情は豊かになった。

 

「……? どうかなさいましたか?」

「いや、クノンも良く笑うようになったな、って」

「そうでしょうか……。私は特別意識はしていないのですが」

 

 そう言って不思議そうな表情を見せる彼女に苦笑する。

 

「さて。鍛錬も一段落したし、部屋に戻るかな」

 

 ひと伸びして体のこりをほぐす。

 今日は週に一度の検診日なので、このままラトリスクに泊まる予定になっている。

 この世界において何が僕の体に悪影響を与えるかわからないので、一月の間は週に一回検査を受けることになっているのだ。

 一応同じ世界出身、ということで前例としてゲンジさんが居るけど、この場合は年が離れすぎててあまり参考にならない。今の所問題はないけど念の為に、ということだ。

 そんな訳で、僕はクノンと一緒に帰路につくことにした。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「あら、良いタイミングで戻って来たわね」

 

 家についた僕たちを迎えたのは、そんなアルディラさんの言葉だった。

 

「良いタイミング?」

「えぇ。丁度朔夜に客が来てるのよ」

「客? スバルたちかな……」

「貴方がまだ会ったことがない人の筈よ。診察室で休憩中だから、会ってらっしゃい」

「わかりました。それじゃあクノン。また後で」

「はい」

 

 クノンに挨拶をして、アルディラさんに聞いた診察室へと向かう。

 

「ここだな」

 

 まずは扉をノックし、返事を待つ。

 

「入って来なさい」

 

 聞いたことのない声。

 アルディラさんの言ったように、初対面の人だ。

 返事を聞いてすぐに開閉のボタンを押す。

 部屋の中には、やはり見知らぬ女性の姿がある。

 

「会うまでは半信半疑だったけど、アリシアの言った通りね。

 どうして貴方がここに居るのかしら? ――――桜満 朔夜」

 

 相手はどうやら僕のことを知っているようだが、生憎と僕の方に見覚えは無かった。

 

「すみません、どこかでお会いしたことがありますか?」

 

 だから僕としてはそう聞くことしか出来なかった。

 女性は僕の反応に眉をひそめると、怪訝そうな表情を見せた。

 

「それは何の冗談かしら?」

「いえ、冗談でも何でもなく、本当に覚えがないんです」

「貴方、ジュエルシードという言葉に聞き覚えはある?」

 

 ジュエルシードという言葉に首をかしげる。

 それもまた聞き覚えのない言葉だった。

 

「すみません。聞き覚えはないですね」

「……そう。そういうこと」

 

 何やら一人納得しているようだが、こちらとしては何が何だかわからない。

 

「私はプレシア・テスタロッサ。アリシアの母よ」

「僕のことはご存知のようですけど、桜満 朔夜です」

「早速で悪いけど、デバイスを出して貰えるかしら。……少し、頼みたいことがあるのよ」

 

 プレシアさんの言葉に、素直にクラウンを渡す。

 何かをクラウンに転送しているようだった。

 

「元の世界に戻ってフェイトという名前の少女に会った後に、必ず今デバイスに転送した座標に次元転移しなさい。そこで何をするかは、貴方に任せるわ」

「わかりました」

 

 余程大事なことなのだろう。

 真剣な表情のプレシアさんに、僕は思わず首を縦に振っていた。

 

「あの、そのフェイトって子は貴女にとって大切な人ですか?」

「……えぇ。私の、もう一人の娘よ」

 

 そう言ったプレシアさんの表情はどこか悲しげで、寂しそうだった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 プレシアさんとはあの後少し話をし、彼女はユクレス村へと帰っていった。

 まだリハビリの途中で体力が戻ってないそうなので、あまり無理は出来ないらしい。

 迎えに来たアリシアちゃんを伴って帰ってく姿は仲の良い親子そのもので、でもどこかぎこちないのが気になった。フェイト、という子がきっと鍵なのだろう。

 

 その後夕食を食べ終えた僕は一人、夜の砂浜へと足を運んでいた。

 この島には夜行性のはぐれ召喚獣が少ないので、こうして偶に散歩をしている。

 ぼんやりと考えるのは元の世界のことだ。

 時間の流れが違う、という話を聞いていても気になってしまう。

 時間が止まっている訳ではないので、きっと皆心配しているだろう。

 特にあの場で自分が召喚される瞬間を見ていた集たちは。

 何とか連絡だけでも取れないかと思って色々と試してみたけど、今の所はどれも空振りだ。

 

「はぁ」

 

 思わず溜め息をついてしまう。

 自分では平気なつもりだったけど、思った以上にキているようだ。

 ホームシックとは無縁なつもりだったんだけどなぁ。

 

「……あれ?」

 

 ぼんやりと砂浜を歩いていると、少し遠くにファルゼンさんの鎧姿が見えた。

 こんな時間に何をしているのだろうか。

 そんな印象はなかったけど、ファルゼンさんも散歩かな?

 あちらは僕に気付いていない様子だったので、僕の方から声をかけようとした瞬間――――

 

「…………は?」

 

 そこに、少女の姿があった。

 手を振るその体制のまま、体が硬直する。

 見間違いではない。

 一瞬鎧が光ったかと思うと、次の瞬間には一人の少女の姿に変わっていた。

 

「え?」

 

 頭が混乱する。

 つまり、あの少女がファルゼンさんの中の人なのだろうか。

 そこでようやく相手もこちらに気が付いたらしい。

 その可愛らしい顔に冷や汗が見える。

 

「……見ました?」

 

 頷く。

 顔を赤くするファルゼン? さん。

 

「ファルゼンさん、だよね」

「……はい」

 

 そう言ってファルゼンさんはもう一度見覚えのある姿に戻り、またすぐ少女の姿に変わる。

 

「これが私の本当の姿なんです」

「ファルゼンさんは」

「ファリエル」

「え?」

「こっちの時は、ファリエルと呼んで下さい。

 私の、本当の名前です。もうそう呼んでくれる人はフレイズ以外に居ないから……」

 

 その言葉から察するに、どうやら彼女はこのことを隠しているらしい。

 

「ファリエルさんは夜は何時もここに来るの?」

「いいえ、今日はたまたま。

 普段は狭間の領域の近くにしか出歩かないけど、今日はちょっと遠くに行きたい気分だったから」

「そうなんだ」

「……何も聞かないんだね」

「ファリエルさんは聞いて欲しい?」

「その聞き方は、ずるいよ」

 

 ちょっと意地悪な答え方だったろうか。

 

「ファリエルさんはさ。このこと、他の護人にも隠しているんだよね?」

「はい」

「だったら聞けないかな。

 交流は少なかったとはいえ、付き合いの長い護人にも話してないことを、会ってまだ一月程度の人間に話してくれ、とは言えないよ。けれど……」

「けれど?」

「ファリエルさんが話したくなったら、言ってね。その時はちゃんと聞くから」

 

 その言葉にファリエルさんはキョトンとして、その後少し笑顔を見せてくれた。

 

「必ず話しますから、もう少しだけ待ってて下さい」

「うん。それと、このことはちゃんと秘密にしておくから」

「ありがとう。……あの、また夜に会えますか?」

「良いよ。これ位の時間で良いかな?」

 

 僕の質問に、ファリエルさんは頷いた。

 

「それじゃ、また明日」

「はい!」

 

 今日はちょっと遅くなったのであまり話している時間はない。

 そんな訳で、今日のところは手を振ってファリエルさんと別れる。

 黙ったままだといらぬ騒動を招きそうだし、とりあえずフレイズさんにはファリエルさんのことを知った、ということを伝えないとな。

 明日は少し、忙しくなりそうだ。

 

 

 





同時更新につき、後書きは十二話に纏めます。
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