もう一話の方は書き始める所なのでお待ち下さい。
「船から流れ着いたのはこれで全部、ですかね……」
日が明け、目を覚ましてまずしたのは周辺の探索でした。
ベルフラウちゃんを一人にしておくのは心苦しかったですが、いざという時の為に最低限この付近の地理を把握しておく必要があったので、今回だけは許して欲しいです。
探索してる間に、私たちの乗っていた船から流れ着いたであろう物を幾つか見つけました。
簡単な治療が出来る物が入った救急箱。恐らくは厨房にあった鍋。
そして、警備兵の使っていた物と同型の剣。
残念ながら私が装備していた杖やサモナイト石は見つかりませんでした。
少々心もとないですが、何もないよりマシでしょう。見つけた剣を帯剣して探索を続けます。
「結局、これ以上の物は見つかりませんでしたね」
暫く探索を続けましたが、どうやらこの付近に流されたのは先程見つけた物で全部のようです。
僥倖だったのは、未契約とはいえ幾つかのサモナイト石と壊れかけの釣竿を見つけれたことですね。
今の手持ちでは誓約の儀式を行えませんが、これがあるのとないのでは随分差があります。
釣竿は一回使えば壊れてしまいそうな程ボロボロですが、これがあれば食料の確保も多少は楽になるでしょう。
「そろそろベルフラウちゃんも起きる頃だろうし、一度戻らないと」
彼女が起きる前に傍にいないと、余計な心配をかけることになりかねません。
今のあの子には私しか頼れる相手がいないのだから。
◇◇◇◇
私が戻った時には、ベルフラウちゃんは既に目を覚ましていました。
少し不機嫌そうなのは不安の裏返しでしょう。
「どこに行ってたんですの?」
「ごめんね? 少し、周辺を探索していました」
そう言いながら見つけた物を並べます。
「これ」
「……はい。恐らく、私たちが乗っていた船の物でしょう」
これでは他の生存者は絶望的でしょう。
そう考えれば、私たちがこの島に流れ着いたのは非常に運が良かったと言えます。
それを聞いて少し震えているベルフラウちゃんの手を、私はそっと握りました。
「途中でまだ使えそうな釣竿を見つけたので、朝食はお魚にしましょう」
暫くするとベルフラウちゃんの震えも落ち着いてきたので、まずはこの暗い雰囲気を変える為に、話題を変えます。
それを聞いたベルフラウちゃんは私の言葉に怪訝な表情を見せました。
「お魚って貴女ねぇ」
「任せて下さい! こう見えても私、釣りは得意なんですよ?」
「餌はどうするのよ、餌は」
「まぁ見ていて下さい」
まずは探索中に見つけておいた釣りスポットに向かいます。
丁度良い感じの石があるので、それを上に持ち上げると……。
「ひゃっ!」
「これを使います」
そこにはにょろにょろとしたミミズの姿が。
餌はこれで十分でしょう。
「案外、釣れるものなのね」
多少の時間を経て。
私たちの前には、合計五匹の大小様々な大きさの魚の姿がありました。
これだけあれば朝食としては十分でしょう。
次に、魚を焼く為の火を起こします。火が起こったら今度は魚の下処理です。
「……凄い」
ベルフラウちゃんが食い入るように私の手元を見ているのが少し気恥ずかしいです。
最後に剣を使って削って作った手製の串に魚を刺し、遠火で焼いていきます。
後は焼き上がるのを待つとしましょう。
魚を焼いている間、会話もなく時間が過ぎていきます。
正直な所、あまりこれ位の歳の子と話をしたことがありません。
どういった風に接すればいいのかわからずもごもごとしてしまいます。
共通の話題でもあったら良かったんですけど、彼女と私の共通の話題と言ったら彼女の父親であるマルティーニ氏のことと、軍学校のことくらい。
どちらもこの場においては避けるべき話題です。
そんなことをもやもやと考えていたら、何時の間にかいい感じに焼けてきたようです。
「そろそろ食べ頃ですよ」
と言ってみたものの、どうやらベルフラウちゃんはこの魚の食べ方は初体験のようで、少し戸惑っているのがわかります。
これはお手本を見せる必要がありそうです。
「あむ」
うん。丁度良い焼き加減です。
「さ、ベルフラウちゃんもどうぞ?」
「……うぅ」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「……えい!」
意を決したのか、一口。
「美味しい」
ベルフラウちゃんは一瞬固まったかと思うと、猛然と食べ進めます。
三匹あったベルフラウちゃん用の魚はあっという間になくなってしまいました。
「ソースも何もかかっていない。ただ焼いただけなのに……」
「個人的には、お魚はこうして焼いて食べるのが一番美味しいです」
「……貴女は凄いのね」
食事を終えて暫くして、ベルフラウちゃんがポツリと言いました。
「魚を釣ったり火を起こしたり。
私一人だけだったら、きっと何も出来なかった……」
「そんなことありません。
私だって、あらかじめ軍学校で習っていなければ出来なかったことです。
ベルフラウちゃんも習えば、これくらいのことはすぐに出来るようになりますよ?」
「本当?」
「はい、本当です」
慰めでも何でもなく、それは本心からの言葉でした。
事前にやりとりをしていたマルティーニ氏から娘の自慢話を聞いていたこともあり、実のところ彼女がどういった性格をしているかは、親バカの主観を抜きにしてもある程度把握出来ています。
それに加えて少し接しただけでも、何となく実際の彼女の人となりはわかって来ます。
「さて、朝食も終えましたしとりあえず移動しましょう」
「移動って言ったって……。行く当てはあるの?」
不安そうなベルフラウちゃんの表情。
勿論、何の当てもない訳ではありません。
「先程はベルフラウちゃんから離れすぎないようにあまり遠出は出来ませんでしたけど、探索の途中で道を見つけたんです」
「道、ですって?」
「獣道にしては整備された跡がありましたし、少なくとも以前この場所に人が住んでいた、ということでしょう。
この砂浜周辺をもう一度探索した後、その道を進んでみようと思っています」
先に砂浜を探索するのは、私たち以外に人が流されてないか、念の為に確認するのが理由です。
行けなかった場所を探索すればまた何か見つかる可能性もありますからね。
「そう言えばその子は?」
今まで後回しにしていましたが、ベルフラウちゃんの後ろに隠れているはぐれ召喚獣に目を向けます。
見た所シルターンの召喚獣のようです。
「オニビのことかしら」
「オニビ?」
ま、まぁ確かに鬼火のような形をしてはいますけれど……。
「ビビィ?」
「……昨日、目を覚ました私の傍に居たの。
どこかに連れて行きたがっていたようだったけど、その前に」
「あのはぐれ召喚獣の集団に会ってしまったんですね」
頷くベルフラウちゃん。
「それにしても随分人懐こい子ですね」
ベルフラウちゃんに寄り添っている姿を見ると、彼女に懐いているのがわかります。
一通り探索したら、この子が行きたがっていた場所に向かうのも良いかもしれないですね。
◇◇◇◇
「…………」
あれから暫く歩きましたが、はぐれ召喚獣が散発的に襲ってくる以外には何もありませんでした。
この島に流れ着いたのは完全に私たちだけか、と思い始めたその時。
ベルフラウちゃんが人影らしきものを見つけました。
「――い!」
体格からして男性でしょうか?
声はまだこちらまで届ききってないですが、声色からも男性っぽいです。
人を見つけた、というのに何故か良い予感がしないのが気になりますが、ベルフラウちゃんの手を握って声の方向に向かいます。
ベルフラウちゃんも私たち以外に人が居る事実に、表情が明るくなります。
「おーい!」
もっともそれも相手の顔を見るまでは、でしたけど。
そこに居たのは、船を襲った海賊のお頭でした。
最後に相対していた相手なので見間違いはしません。
「あ、あなたは――!」
ベルフラウちゃんの表情が固くなるのがわかりました。
私は咄嗟に自分の後ろにかばう為に、彼女の正面に移動します。
利き手をいつでも抜剣出来る様、剣の柄にやります。
こうなってくると剣だけでも拾えていたのは僥倖でした。
見た所相手は二人。
一人は海賊のお頭の青年。もう一人は召喚師らしき青年です。
二対一。それに加えてこちらはベルフラウちゃんを守りながら戦うことを余儀なくされます。
状況は圧倒的に不利。ですが、諦める訳にはいきません。
「かぁ~っ! ようやく人に会えたと思ったらアンタたちか」
相手もこちらに気付いた様で、額に手をやっています。
「お知り合いですか?」
「あぁ、嵐が来る直前に相手をしていたネーちゃんさ。
船の乗客の一人だろうな。家の子分じゃ歯が立たなかった」
そう言ってこちらに視線を向けてきますが、やはり友好的にはいかない感じですね。
戦意がビリビリと伝わって来ます。
「アンタに恨みはネェが、俺らにも一応メンツってもんがあるからな。
それに俺個人としても舐められっぱなしは気に食わねぇ」
そう言って拳を握って構えを取る相手に、私も抜剣します。
呆れたような召喚師の青年も、お頭さんの雰囲気にこの選択が覆ることがないのを悟ったのか、手に杖を握りサモナイト石を構えます。
「――――だから、あの時の続きと行こうや」
◇◇◇◇
「ビビィ!」
戦闘が始まるかと思われたその時、アティに加勢する存在があった。
ベルフラウにオニビと名付けられたはぐれ召喚獣だ。
オニビはその小さな体をアティの傍まで近づけると、どことなく力強い表情を見せる。
「貴方も一緒に戦ってくれるんですか?」
「ビィ!」
今は猫の手も借りたい状況だ。
アティはオニビの提案を受け入れることにした。
「わかりました。一緒に戦いましょう!」
「ビビビィ!」
「ベルフラウちゃんはさがっていて下さい」
これで二体二。数の上では五分になった。
後はベルフラウを守りながら戦う、という条件をどうクリアするかだったが、アティは意外なことにベルフラウを遠ざける選択を取った。
この二人以外にもいつはぐれ召喚獣が襲ってくるかわからない状況だ。
本来ならベルフラウを傍に置いたまま防御を固めたい、というのが本心であったが、いかんせんアティ自身が万全とは言えない状態だった。
相手の召喚師を見る限り、あちらには少なくとも誓約済みのサモナイト石がある、ということ。
それに対してこちらにあるサモナイト石は未誓約の物のみ。
ここだけを見ても、遠距離攻撃の手段を持つ相手に対し、不得手な接近戦を挑む必要がある。
メリットデメリットを考えた時、待ちの戦法では勝ち目はない。
そう考えたアティは即座に待つという選択肢を捨て、あえてこちらから仕掛けることで短期決戦を狙うことにした。
当然、先に対処すべきは召喚師の方だ。しかしそれは相手も理解していること。
召喚師はその場に留まり召喚術の行使に集中するだろう。
そうすると必然的に前に出て来るお頭の方を相手にしなければならない。
後衛型のアティが、明らかに前衛に特化している彼を抜くのは容易ではない。
アティの取れる戦法は必然的に一つに限られていた。
「オニビ、頼みましたよ」
「ビビィ」
そんなアティの狙いを正確に理解してたオニビは、その小さな体を素早く躍らせる。
アティの取れるたった一つの戦法。
それはオニビがお頭の足止めをしている間に、召喚師を倒すという物。
二対一になれば数の利を活かして戦える為、とれる戦法も増える。
「ビィ~ッ!」
「うおっ」
オニビの体当たりを咄嗟に拳で迎撃するお頭。
勘が鋭いのか、急加速による不意打ちだったにも関わらず対応してきた。
「ビィ!」
「うおりゃあ!」
そのまま体当たりと拳撃の応酬が繰り返される。
その隙にアティは召喚師の方へ向かう。
当然、お頭も狙いに気付いてアティの方に向かおうとするが、オニビがそれを許さない。
巧みに進路を防ぎつつ攻撃を加えていく。
「へぇ、お前も中々やるじゃねぇか」
一筋縄ではいかないと悟ったお頭は、まずはオニビを倒すことに専念することにした。
「誓約に答えよ。
「ゲレレ~」
「ゲレサンダー!」
一方その頃、召喚師とアティの間でも戦闘の応酬がはじまっていた。
先手を打って召喚されたタケシーが出現した瞬間、アティは咄嗟に体を右方に投げ出す。
剣を避雷針代わりにすることも出来たが、武器を手放す羽目になりかねないことから、考えるより先に体が動いていた。
「ゲレ?」
「――――ッ!」
その結果、間一髪で雷撃の直撃は避けることは出来た。
多少かすりはしたが行動に支障が出る程ではない。
投げ出した勢いはそのまま、前転で体勢を立て直すと、ジグザグに動きながら召喚師の元へ向かう。
「タケシー!」
「ゲレレレ~」
自分の方に向かってくるタケシーは完全に無視し、ただ愚直に目的地へと走る。
当然、多少の被弾は覚悟の上だ。麻痺にさえ気をつければ問題はない。
射程距離に入ったと判断した瞬間、アティは砂を蹴り上げた。
「ぐっ!?」
狙いは召喚師の目を一瞬でも潰すこと。
「せい!」
召喚師の視界が潰れた瞬間、アティは後ろか自分を追って来ていたタケシーに対し、裏拳を見舞う。
不意を突かれたせいかその攻撃はクリーンヒットし、タケシーの小さな体躯が吹き飛ぶ。
召喚師が体勢を立て直すよりはやくその懐に飛び込み、剣の柄で腹部を強打する。
「ガッ」
衝撃に耐えかね、召喚師の手から誓約済みのサモナイト石がこぼれ落ちる。
すかさずそれを蹴り飛ばし、同時に召喚師の足を払う。
予備のサモナイト石を持っている筈なので、新手を召喚される前に完全に無力化する必要があった。
召喚師が倒れている隙に蹴り飛ばしたサモナイト石を確保し、新たに魔力を流す。
これによって召喚されていたタケシーを一旦送還。再び召喚しなおす。
「ゲレサンダー!」
「ゲレレ!」
サモナイト石によって召喚される召喚獣は、基本的に誓約に使用されたサモナイト石に縛られる。
その為、こうしてほんの少し前まで敵対していた相手の指示にも従わざるを得ない。
攻撃が直撃したことを確認し、タケシーを再び送還。
すぐにオニビの援護へと向かう。
そのオニビは辛うじて渡り合っているというような状態で、相手も負傷しているとはいえ、お世辞にも優勢とは言い難かった。
その体は既にボロボロで、今こうして立っているのが奇跡的とも言えた。
あと一撃でも喰らえば恐らく立ち上がることは出来なくなるだろう。
「ゲレレサンダー!」
アティが乱入したのは、お頭が今まさにオニビに対してとどめを刺そうとした瞬間だった。
◇◇◇◇
「客人はやられたか」
お頭さんは十分以上に余力を残しているように感じられましたが、両手を上げて溜め息をつきました。
「流石に二対一で勝てるとは思わねぇし、降参だ」
「……」
「おいおい、信じられねぇって顔してるが、アンタも魔力とやらは十分残っているだろう?
距離を取られちゃ俺に手出しは出来ねぇ。遠距離攻撃に対する対抗手段を、俺は持ってないからな」
理屈は通ってます。
通ってますが、それで警戒を解く理由にはなりません。
「……わかりました」
ですが、それよりも時間が惜しい。
警戒を解くことは出来ませんが、剣を収めます。
念の為に何時でも召喚できるよう、サモナイト石は握ったままです。
「しかしアンタ、恐ろしく戦い慣れてるな」
「これでも元軍人ですから」
「成程な。――――気に入った!」
「へ?」
突然大笑いを始めたお頭さんに、目が点となります。
「自己紹介と行きてぇが、まずはお互いのツレを迎えに行くか」
釈然としませんが、確かにその通りです。
いつまでもベルフラウちゃんを一人にはしておけませんし、オニビの怪我も気になります。
私が相手をしていた召喚師の方も、大きな怪我はない筈ですけど、まだ麻痺しているでしょうし……。
「オニビ、大丈夫?」
「ビビィ……」
駆け寄ってきたベルフラウちゃんがオニビを抱きかかえます。
これは、ちょっとダメージが大きいですね。
どうにかして回復させたいですけど、今の手持ちじゃ回復系の召喚獣と誓約することは出来ません。
「これを使うと良いですよ」
そう行って来たのは、私の相手をしていた召喚師でした。
麻痺はまだ暫く取れない筈なのに、もう回復しています。
「ピコリットの召喚石です。
もう争いは終わったようですし、お使い下さい」
召喚石を受け取り、召喚獣を召喚します。
出て来たのは確かにピコリットでした。
ピコリットの召喚石を持っていたのなら、これだけ早く回復したのも頷けます。
ピコリットは戦闘能力を持たない、回復に特化した召喚獣です。
当然、状態異常を治療することも出来ます。
「お願い、この子の傷を癒して下さい」
私の声に頷いたピコリットは、すぐにその癒しの力を発揮します。
オニビの傷がみるみる内に回復していくのがわかります。
「……ふぅ。ありがとうございます」
ピコリットにお礼を言うと、ピコリットは嬉しそうな表情を見せた後、送還されて行きました。
送還を見送り、今度は召喚師にタケシーとピコリットの召喚石を返します。
「宜しいのですか?」
「敵に対して、わざわざ回復用の召喚石を渡す人は居ませんよね?」
少なくとも、今は敵対する気がないということでしょう。
「それにしても、そのタケシーの召喚石は少し変わっていますね」
「あぁ、これは特殊な誓約をかわして、比較的護衛召喚獣に近い働きが出来る様に調節してあるんですよ」
こちらから送還しない限り、送還されなかったタケシーのことを聞くと、そんな回答が返って来ました。
「そこら辺で良いか? とりあえず軽く自己紹介だけ済ませちまおう」
いつまでも話してそうな私たちの雰囲気を読んだのか、お頭さんが声をかけてきます。
うぅ、ベルフラウちゃんの視線が痛いです。
召喚術のこととなるとついつい熱中しちゃうんですよね。
「俺はカイル。知っての通り、海賊の頭をやっている。で、」
「私はヤード。カイルさんの海賊船に客分として同乗していました」
「私はアティ。この子の家庭教師です」
ベルフラウちゃんは嫌そうな表情を見せますが、昨日の敵は今日の友、とも言いますし、彼らがあの時の海賊である以上、恐らく航海の手段を持っている筈です。
「ベルフラウ・マルティーニよ」
「マルティーニ……!」
カイルさんが額に手をやり、天を仰ぎ見ます。
「……アンタらさえ良けりゃあ、俺らの所へ来ないか?
今は壊れちゃいるが、船も一緒に流れ着いてる。
修理が完了次第、アンタらを目的地へ連れて行ってやる」
「その言葉に二言は?」
「海賊カイル一家と先代にかけて誓おう。ここで交わした約束を
「それなら、お世話になります」
「ちょ、ちょっと貴女……!」
何か可笑しなことを言ったでしょうか?
「私はベルフラウちゃんの身の安全と、パスティスへ向かう為の手段さえ手に入れることが出来れば、特に問題はないです。
船に乗せて貰えるというのなら、相手が海賊だろうとなんだろうと関係はありませんね」
そう。私にとって重要なのはベルフラウちゃん一点のみでした。
「即答だったが、俺らが集団でアンタらを襲うとは考えなかったのか?」
「その時は容赦はしません。
さっきは私も本調子ではありませんでしたし、準備を整えればもう少し戦えますよ?」
またしても大笑いをはじめるカイルさん。
ベルフラウちゃんもその声にビクッとしています。
「ここで改めて誓う。先生と嬢ちゃんには危害を加えねぇ。
船の修理を手伝ってくれりゃ、パスティスまで乗せていってやるよ」
「では、その条件で。お世話になりますね」
「早速船に案内するぜ。ついて来てくれ」
カイルさんの先導にしたがい、移動をはじめます。
まだ心配そうなベルフラウちゃんの手をしっかりと握り、私はその後をついて行きました。
◇◇◇◇
ある程度歩くと、大きな船が見えてきました。
「あれが俺らの――」
「少し待って下さい」
私の声に、皆が足を止めます。
「少し、様子がおかしくありませんか?」
何やら、剣戟の音が聞こえて来ます。
それにこれは、女の子の声?
「はぐれ召喚獣か!」
カイルさんの言葉通り、どうやら船にいた残りの人を、はぐれ召喚獣が襲っているようでした。
目視出来るだけでも、相当な数が襲いかかっているようでした。
こちらとは少し距離が空いているので、私たちには気付いていないみたいです。
「どこに行くつもり!?」
私の行動を察知したベルフラウちゃんが声を荒げます。
「この状況は見過ごせません。助けに行きます」
「見ず知らずの、」
「違います」
「……え?」
カイルさんたちも、思わずこちらを見ているようです。
気にせず私は続けます。
「仲間ですよ? 助ける理由はそれで十分です」
掴んでいたベルフラウちゃんの手をそっと離します。
ここに来るまでにはぐれ召喚獣やカイルさんたちと戦い、余力はあまり残っていません。
ですが、この状況を一瞬で覆す為の手段を、私は既に持っていました。
「――――来て下さい!」
声を張り上げ、召喚獣の意識をこちらに向けさせます。
距離があいているとはいえ、こちらを向きさえすれば視界に入る程度の距離です。
声を出してしまえば視認することは容易です。
同時に、あの剣を強く意識する。
あの剣は言っていた。力望みし時は喚ぶが良い、と。
手を虚空に伸ばし、握ります。
次の瞬間にはあの剣がそこ握られていました。
「そ、その剣は!?」
ヤードさんの驚愕する声が聞こえてきましたが、それを気にせず、剣に魔力を注ぎ込みます。
当然使うつもりはなく、単なる威嚇にすぎません。
ですがその効果は絶大で、魔力の奔流に恐れをなしたはぐれ召喚獣たちは一目散に逃げていきます。
全ての召喚獣がこの場を去るのを確認した後、剣を送還します。
「どうにかなって良かったです」
「何故」
「……?」
「何故その剣を貴女が!?」
どうやらヤードさんはこの剣に関して、何か知っているようです。
「それじゃ客人、その剣が?」
「えぇ。封印の魔剣、そのふた振りの内の一つ。碧の賢帝・シャルトスに間違いありません」
どうやら、この剣にも色々と曰くがあるようです。
はぐれ召喚獣に襲われていた二人がこちらに向かっている中、前途多難な状況に溜め息をついてしまう。
心配そうなベルフラウちゃんの頭を撫で、何としてもこの子を護らなければ、と決意を新たにするのでした。
という訳で十一話アティサイドでした。
十二話に関しては今暫くお待ち下さい。