魔法少女リリカルなのはKreuzung   作:神原和人

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/01 何で泣いてるの?

 あれから何事もなく二年の時が流れた。

 肝心な魔力に関しては、どうにかそれらしきものを感知することが出来た。

 

 それは姉さんの心臓付近に、父さんには見られない現象を見つけたのが最初だった。

 そこを中心に真紅の靄のようなものが集まっていたのだ。

 どうやらその靄が魔力らしい、ということに気が付いたのは後日自分にも同じ現象を見つけることが出来たからだ。

 僕の場合は銀色だったことから、色には個人差があるようだった。

 

 感知出来た理由は、恐らく無意識に魔力を操作して視力を強化したからだろう。

 あるいは何らかの魔法を使っていた可能性もある。

 一度意識出来たからか、次に試した時には意識的に操作することが出来た。

 今は効率良く、またスムーズに強化出来るように訓練中だ。

 

 特典として貰った才能が凄いらしく、操作が上手くなっていくのが実感出来る。

 ついつい夢中になって魔力切れを起こして昏倒してしまったことも、一度や二度じゃない。

 ……最近は漸く加減を覚えて来たので、魔力切れで昏倒はしなくなったけど。

 何事も程々が一番だよね、うん。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 さて、困ったことになったぞ。

 目の前で泣いている、同い年位の少女を見て思う。

 その手はしっかりと僕の服の裾を握っている。

 一体何がどうしてこうなったのか……。

 

 ことの発端は三十分程前のことになる。

 今日も僕は、日課の魔力操作の訓練をしようと思って、近所の公園に来ていた。

 最近は姉さんが何か感付きはじめたのか、じっと見られることが多くなったので、訓練はこういった外でやることが増えていた。

 この世界、少なくともうちの近所には魔力を扱えるような人が居ないことが確認出来たので、その例外である姉がいる実家よりはマシだろう、という判断だ。

 

 何時ものように、木陰で日向ぼっこをするふりをしながら魔力操作の訓練をはじめる。

 基本的には体全体に魔力を行き渡らせる訓練と、体の一箇所に集中させる訓練、後はスムーズに魔力を移動させる為の訓練の三つを代わる代わる繰り返す。

 それがこの二年の間に、精密な魔力操作技術を手に入れる為に考えた訓練方法だった。

 今の所は功を成しているのか、最初の頃と比べると格段に上手くなったと思う。

 

 訓練を続けていると時間も遅くなり、夕暮れ時になった。

 そろそろ帰らないと皆が心配する。他の子たちも皆親が迎えに来て帰路についている。

 そんな中、同い年位の少女がブランコに座っているのが見えた。

 髪の色は茶色。長さはセミロングだろうか? ツインテールに結んである髪型が特徴的だった。

 今は心なしか萎れているように見える。その表情は俯いている為、わからない。

 迎えが来る様子もなかったので、何となく声をかけて見ることにした。

 

「――――何で泣いてるの?」

 

 そんな彼女が、涙を流していることに気が付いたのは、そのすぐ傍に近寄った時だった。

 どこかで見たことのある髪型だと思ったら、近所に住んでいる子だ。

 確か、高町さんちのなのはちゃんだっけ?

 そう言えば父さんと姉さんが、士郎さんが入院した、って話してたっけ。何となく事情が読めてきたぞ。

 

「なのはちゃん、だよね? 僕のことわかる?」

「……」

 

 泣きはらした顔を見せ、彼女は頷いた。なのはちゃんで間違いないようだ。

 どうやら僕のこともわかっているようだった。

 確かお兄さんとお姉さんがいた筈だけど、どちらも迎えに来ないことから、家の方が忙しいのだろう。

 確か士郎さんが事故に遭うちょっと前に喫茶店をはじめた、という話しを聞いたことがある。

 恐らく居場所が無くてこんな所に一人でいるのだろう。

 

「どうして泣いてるの? 何かあった?」

「……お父さんが」

 

 なのはちゃんの話の内容は、大体予想通りのものだった。

 父である士郎さんが仕事中に大怪我を負い、入院した。意識はあるものの、身動きが出来ない程の重傷らしい。

 母である桃子さんは、はじめたばかりでまだ軌道に乗ってない喫茶店の運営で忙しい。

 兄の恭也さんはそんな桃子さんの手伝い。姉の美由希さんは動けない士郎さんの看病にかかりきり。

 必然的に、幼く出来ることの無いなのはちゃんは一人でいることが増えたそうだ。

 

 なのはちゃん自身もそれを理解しているようで、我侭を言うことなく留守番をしていた。

 我侭を言って嫌われるのが怖い。だから良い子でいる。

 普段は公園で見かけないなのはちゃんが今日ここにいたのは、桃子さんたちに構って欲しかったからだ、となのはちゃんは語った。

 いくら聞き分けの良いなのはちゃんでも、所詮はまだ幼い子供だ。

 今まで溜まっていたものが吹き出してしまった故の行動だろう。

 泣いていたのは、ここで家族と仲良く遊んでいる他の子たちを見て、寂しさに耐えられなくなったからだという。

 

 涙でくしゃくしゃになっているなのはちゃんの顔をハンカチで優しく拭い、頭をそっと撫でる。

 ここで桃子さんたちになのはちゃんのこともしっかり見てやれ! というのは簡単だろう。

 それでは多分、解決しないのだ。

 それに家や近所での評判を聞く限り、桃子さんが自分の子供のことに気付いていないとは思えない。

 それ程までに切羽詰っている、というべきだろう。

 一家の大黒柱が倒れ、生活や治療費の為に店を休むわけにもいかない。

 かかる重圧は大きいだろう。

 

「なのはちゃんは、寂しい?」

「……うん」

「お母さんたちじゃなくても、一緒に誰かがいたら寂しくない?」

「うん」

「じゃあ、僕と一緒にいようか」

「…………ふぇ?」

 

 うん。それが良い。

 最近鍛錬ばかりだったから、そろそろ息抜きをしようと思っていた所だ。

 なのはちゃんは寂しくなくなる。僕は息抜きの相手が出来る。

 一石二鳥ってやつだね。

 

「なのはと一緒にいてくれるの?」

「うん。一緒に遊ぼう」

「……ふぇ」

 

 あ、泣きそう。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そしてこの状況の出来上がり、である。

 相変わらずなのはちゃんは泣き止まない。

 その割に強く服の裾を握るものだから、僕も困ってしまった。

 泣き止むように頭を撫でてやる。

 すると、ぐずってはいるものの涙は止まって来たようだ。

 

「もう時間も遅いし、おうちに帰ろう? きっと皆心配しているよ」

 

 なのはちゃんは頷くものの、手を離さない。

 仕方ないか。相当寂しかったみたいだし。

 また一人になるんじゃないかと心配なのだろう。

 

「明日はなのはちゃんちまで迎えに行くから、ね? 今日は帰ろう?」

「……うん」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そんな訳で、高町家です。

 なのはちゃんが離れようとしないので、簡単な事情を説明したところです。

 事情を聞いて、皆バツの悪そうな顔をしている。

 こちらとしてはあまり責める気はなかったけど、あちらにしてみれば負い目からか責められてるように感じられたのだろう。

 特に恭弥さんの反応が顕著だった。まるでお通夜のような表情をしている。

 大方士郎さんが居ない今、男が自分しかいない状態で相当気負っていたのだろう。

 そこに来てこれだ。自責の念で苛まれていると見えた。

 人のことは言えないけど、とても中学生とは思えない反応だ。

 

「あの、良かったら忙しい間はなのはちゃん、うちで面倒見ましょうか? 父さんたちも反対はしないと思います」

 

 とは言ってみるものの、そう提案しているのは何せなのはちゃんと同い年の僕だ。

 改めて第三者の視点から見ると違和感ありまくりな光景だな。先程の恭弥さんの比じゃない。

 桃子さんも困った顔になってしまった。

 うーん、やっぱり最初に父さんたちに相談すべきだったか?

 いや、今からでも遅くないか。

 

「なんなら今聞いてみますか?」

 

 という僕の提案はあっさりと受け入れられた。

 高町家の電話を借りて家の番号にかける。ワンコールの後、電話がつながった。

 

『はい、桜満です』

「もしもし父さん? 朔夜だけど」

『朔夜? 一体今どこにいるんだい?』

「高町さんち。それで少し相談があるんだけど……」

『朔夜が相談? 随分珍しいね』

「うん。高町さんちのなのはちゃんのことで。

 ちょっと待ってて。今、桃子さんに変わるから」

 

 受話器から耳を離し、桃子さんに手渡す。

 横耳で話を聞いていると、桃子さんが父さんに僕の提案のことを話すと、父さんは快くOKしたようだ。

 何度も電話越しに頭を下げている桃子さんを見てホッとした。

 大丈夫だとは思ったけど、提案した手前、万が一があったら申し訳ないからね。

 

「電話口で申し訳ありませんが、なのはのこと、どうか宜しくお願い致します」

 

 お、通話が終わったようだ。

 やはり喫茶店の方が忙しいのか、直接会うような時間を作れないことをしきりに謝っていた。

 これでとりあえずは解決、で良いのかな?

 相変わらず僕の服の裾を握るなのはちゃんを見る。自分に構ってくれる人間を失うのが怖いのだろう。

 一度得た物を失うこと程怖いものはないからなぁ。僕にもその気持ちは良く理解出来た。

 

「朔夜君。なのはのこと、宜しくね」

 

 電話が終わった後、桃子さんは僕に目線を合わせながらそう言った。

 自分が構ってやれないことの罪悪感や、そういった自分に対する自己嫌悪。

 色々な感情が見え隠れしていた。

 

「はい」

 

 僕はしっかりと頷く。

 未だに裾を握っているなのはちゃんに顔を向け、頭を撫でる。なのはちゃんはされるがままだ。

 

「なのはちゃん、明日から毎朝迎えに来るよ」

「……うん」

 

 その時、僕はようやくなのはちゃんの笑顔を見ることが出来た。

 それは花が咲いたような、そんな笑顔だった。




所謂テンプレ回です。
違和感ありまくりな三歳児どもですが、なのは世界の子供は早熟だということで一つご勘弁を。

士郎が事故にあった時期に関してですが、アニメ9話の会話となのはwikiの時系列考察を参考にしました。
wikiを参照すると、有力なのはなのはが二歳の時期とのことだったのですが、会話させる関係で少し時期をずらしています。
それにしても口調がしっかりしすぎてますけどね(;´Д`)
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