魔法少女リリカルなのはKreuzung   作:神原和人

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お待たせいたしました。/06更新です。
次の話までが所謂導入部です。
話が大きく動き出すのは、/08からになりますので、もう暫くお付き合い下さい。


/06 私は諸君を歓迎する

 今日は小学校の入学式だ。

 僕と集は、姉さんと同じ私立聖祥大学附属小学校に通うことになった。

 私立だけあって受験があったけど、僕も集も問題なくクリアした。

 とはいえ小学校の受験だけあって、図画・工作や簡単な運動、集団行動での協調性を調べるといったあまり勉強と関わりのない部分を見られることが多かった。

 僕も集も運動神経は良い方だし、転生者として一度人生を経験済みの僕は勿論、集も協調性はある方だ。

 私立での勉強に関しても、僕に関しては言わずもがな。集だって悪い方じゃない。

 面接の方も問題は無かった。

 

 なのはちゃんに関してだけど、彼女も同じ聖祥大附属小学校に通うことになった。

 これはなのはちゃん自身の僕や集と一緒に居たい、という希望が大きい。

 普段はあまり我が儘を言わないなのはちゃんだから、士郎さんも桃子さんも嬉しくてすぐに許可を出したそうだ。

 

 勉強の方は受験前には簡単に一年生レベルの勉強を教え、入学以降も姉さんが中心となって面倒を見ることになっている。

 試験で出る問題がわからないので、ある程度余裕を持たせる為の措置だ。

 その時は聖祥に入学を決めた後から受験まで、割とスパルタで勉強をすることになった。

 その甲斐あってか、入試に関しては難なくクリア出来たようだった。

 

 そんな訳で現在僕と集は、父さんの運転する車で学校へと向かっている。

 なのはちゃんも今頃は士郎さんの運転する車に乗っている筈。

 ちなみに入学式以降はバス通学になる予定だ。

 車で移動してることからわかるように、徒歩で通学するには少し遠い場所にあるのだ。

 

 車内で集と会話をしているうちに学校の校舎が見えてくる。

 さて、どんな学校生活を送ることになるやら。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 入学式は特に何事もなく終わり、新入生は振り分けられた教室に向かい出す。

 僕はというと双子である集は兎も角、なのはちゃんとも別のクラスだった。

 まわりは知らない人だけになるだろうけど、だからといって気後れする訳でもないので、とりあえず悪目立ちしない程度に生活するつもりだ。

 

 そんなことをつらつら考えている内に、教室についた。

 ドアを開け、中に入る。まず感じたのは違和感だ。

 席の数があからさまに少ない。二十あるかないか、といった所だろう。

 入学式で参列していた生徒数を考えると、これは些かおかしい数字だ。

 

 違和感に首をかしげつつも、黒板に書かれている席順を参考に、指定の席に着く。

 生徒が全員席に着き、十分程した頃だろうか? 担任の先生が教室に入って来た。

 先生は全員が席に着いているのを確認すると、黒板を消す。

 続いて流れるように名前を書いた。

 

「私の名前は如月 神威(きさらぎ かむい)。今日から諸君の担任を務めることになる」

 

 ポニーテールにしている黒い髪。少しつり気味な黒い瞳。

 顔立ちは男か女か良くわからない、中性的なものだ。

 ただ、今聞いた声質からすると男性だろうか?

 

「ちなみに、男子諸君には申し訳ないが私は男だ」

 

 先生はどうやら男らしい。

 けれど、ここでまたしても違和感を覚えた。

 だって普通に考えて小学校に入学したての子供に対して、男子諸君に申し訳ないが、何て言い回しは必要ないだろう。

 この年頃の子供は、担任が男であろうが女であろうが特に気にしない筈なのだから。

 そういったことが気になり出すのは、普通はもう少し年をとってからだ。

 

「まずは特別クラスにようこそ」

 

 教室内は異様な空気に包まれていた。

 何故か二十人前後しか生徒が居ないクラス。

 それに加え、やけに顔立ちが整っている子が多い。

 何より一番の問題点は、クラスに居る半数近くが魔力を持っているということだ。

 これで何かあると思わない方がおかしい。

 

「もう気付いているとは思うが、諸君には共通点がある」

 

 かくいう僕も、このクラスに居る顔ぶれを見て嫌な予感を持つ一人だった。

 もうね。答えが見えているというか。

 ホント、勘弁して下さいとしか言い様がないね。

 

「このクラスは【転生者専用】特別クラスだ。

 ――――ようこそ転生者諸君。私は諸君を歓迎する」

 

 うん。薄々そんな予感はしていた。

 だって、このクラスの半数以上が魔力を持っているんだよ?

 今まで僕以外には、姉さんたちしか存在しなかったのだ。

 それが急にこれだけ増えると、もう答えはそれしかないだろう。

 

 転生者専用。

 要するに、このクラスの生徒の全てが転生者だということになる。

 ただ一つ気になることがある。

 学校の方で意図的に転生者を一纏めにした、ということになるのだけど、一体どうやってそれを成し遂げたのだろうか。

 

「諸君はどうしてそんなことが出来る? と疑問に思っているだろう。

 答えは簡単だ。私にはそういった、転生者とそれ以外の存在を判別する為の力がある」

「ちょっと待って下さい」

 

 先生の話を遮り、一人の少女が声を上げた。

 黒い長髪に黒い瞳と、この中では比較的日本人らしい容姿をしている。

 ただ、どこかで見たことのあるような子だ。

 どこで見たんだったかな……?

 

「質問を許可しよう、樋口」

 

 樋口。やはりその苗字にも聞き覚えがある。

 猛烈に嫌な予感がして来た。

 

「はい。そう言った力を持っている、ということは如月先生も転生者なのですか?」

「いいや違う。私は諸君と違って、転生者ではない」

「それだとおかしいです。そんなレアスキルを持っているということは……」

「あぁ、そこが違うんだ。

 これはレアスキルじゃなくて、私に備わってるデフォルトの能力さ」

「デフォルト?」

「そう。私はこれでも神の一柱だからね」

 

「……え?」

 

 樋口さんが絶句するけど僕らも絶句した。

 ここに来てこの展開は正直予想していなかった。

 単純に、この世界そのものに転生者の存在が認知されている為、そういったレアスキルが存在していても不思議じゃない、と思っただけ余計に。

 

「私は諸君をこの世界に送るよう頼んだ、この世界を管理する神の代行体だ」

「代行体、ですか?」

「わかりやすく言うと、人間世界で活動する為の分身みたいなものだよ」

「つまり、如月先生の本体とも言うべき存在が、私たちをこの世界に呼んだ……?」

「そう。神だ」

 

 信じがたいことだが、矛盾はない。

 僕としては先生も転生者、と片付けてしまえた方が助かったんだけど。

 だって考えても見てよ? 神が直々に転生者を一箇所に集めるなんて、何かありますと言っているようなものじゃないか。

 

「それで、先生が転生者を一箇所に集めたのは、一体どういう理由からなんです?」

「桜満 朔夜。いい質問だ」

 

 先生はそこで、教室を見回した。

 

「ここに集まっている転生者には、もう一つ共通点がある」

「共通点?」

「そうだ、樋口。諸君の中には、既にここが※※※※※※※の世界だと気がついている者も居ると思う。

 ここにいるのはそもそも原作知識を持たなかったり、あるいは単純に第二の人生を静かに暮らしたいと思っている者たちだ」

 

 ※※※※※※※? 何やら聞き取れない言葉が出て来たぞ。

 周りの生徒も聞き取れなかったのか、怪訝な顔をしている。

 

「あぁ、聞き取れないのは仕様だ。

 諸君もこの言葉を口にすることは出来なくなっている筈だ」

 

 ますます意味がわからない。

 

「フフ。

 何やら転生者の中に、この世界の原作知識の消去を願った面白い奴がいるらしくてな。

 これはその人物が、後天的に原作知識を入手するのを防ぐ為の措置だ」

 

 ああ、僕のことですね。

 そんな所に影響が出て来るとは思いもしなかった。

 とはいえ、僕個人としては願ったり叶ったりだ。

 確かに未来をわからなくする為の願いなのに、後から知識を得てしまっては願いの意味がない。

 

「さて、話を戻そう。

 つまりこのクラスの生徒は、全員がいわゆる穏健派の者だということだ」

「強硬派もいる、ということはないですよね?」

「安心すると良い、桜満。基本的には無害な性格の者が優先して選出された筈だ」

 

 恐ろしくなって思わず質問をしたけど、その心配は少ないみたいだ。

 ……筈、というのがちょっと気になるけど。

 

「諸君がこうして同じクラスに集められたのは再発の際、神が迅速に介入する為だ」

「再発?」

「そもそもの発端は、この世界で想定外の死者が出たことから始まる」

 

 そういえば転生の際、確かにそんな話を聞いたな。

 

「原因はわかっているんですか?」

「そこなのだよ」

 

 突如、先生の雰囲気がより真剣な物に変わる。

 

「全く原因がわからない。今でも原因不明だ。

 突如、この世界から千人以上の人間の存在が消滅したのだ」

 

 ……千人以上だって?

 

「存在そのものの消滅の為、当然記憶や記録からも消えてしまっている」

「それが世界崩壊の原因なんですね?」

「そうだ。それを防ぐ為に、私は諸君を転生させる形で喚んだのだ」

 

 確かに、一度に千人以上の人間の存在がなかったことにされれば、世界が崩壊しそうになるというのも頷ける。だけどそれだと、数の帳尻が合わないような……。

 

「無論、ここから過去。あるいは未来に転生した者もいる。

 それに諸君がもと居た世界は、こちらの上位世界に当たる。魂の情報量に差があるのだよ」

「その魂の情報量というものが釣り合えば、必ずしも人数が同じ必要はないんですね?」

「そういうことだ。話を戻すぞ。

 要するに諸君をこうして集めたのは、同じことが起こった際に代行体の私が介入する為になる」

「転生者を招くのも、繰り返し使える手段ではないということですか……」

 

 樋口さんの言葉に、先生は静かに頷いた。

 つまりこのクラスが転生者専用なのは、先生が転生者を保護する為、という訳だ。

 

「でもそれってつまり、次は転生者が狙われる可能性が高い、ってことですよね……?」

「まぁ、そうともいう。言っただろう? 諸君の魂の情報量は、この世界の人間より多いと」

「はい」

「この現象が対象にするのは、そういった者である可能性が非常に高い」

 

 成程。そういうことか。

 確かにそういうことなら、一箇所にまとめておく方が対応もしやすい。

 

「さて。長々と話したが、私からの話は以上だ。

 今からは自己紹介の為の時間とする。あいうえお順に開始するぞ」

 

 先生からの話も終わり、クラスメイトの自己紹介が始まる。

 先生の話の内容が唐突過ぎたので、まだ気持ちの切り替えが出来ていない生徒が多いけど、まぁそれも仕方のないことだろう。

 何せ、自分以外の生徒も全員転生者で、おまけに担任が神様なんて話を聞いたのだ。

 そうそう簡単に落ち着けるか、というものだ。かくいう僕も、内心で動揺しまくりだし。

 

「……次。桜満」

 

 そうやって気を落ち着けている間に、僕の番が来たようだ。

 名前を呼ばれたので立ち上がる。

 自己紹介、といっても基本的なことしか言う必要はない。

 精々が名前と趣味、特技くらいなものだ。

 

「桜満 朔夜です。趣味は読書と鍛錬。

 得意なことは運動全般と魔法を少々。後、マルチタスクの運用には自信があります」

 

 我ながら、他の生徒も転生者だからこそ出来る自己紹介だな。

 しかし、僕の容姿を見て首をかしげ、名前を聞いて吹き出すのは勘弁して欲しい。

 いや、多分ギルティクラウンを知っている人たちなんだろうけどさ。

 

「同学年にいる桜満 集の兄になります。弟共々、宜しくお願いします」

 

 必要なことは伝えたので着席する。

 続く自己紹介を聞いている傍ら、僕は先程の樋口さんのことが気になっていた。

 彼女のこと、多分どこかで見たことがあると思うのだ。

 それも桜満 朔夜になってからではなく、前世で。

 延々とそのことについて考えていると、樋口さんの番が回ってきた。

 

樋口 綾(ひぐち あや)です」

 

 思わずむせた。

 先程は自分がやられて勘弁して欲しい、何て思ってたのに。

 これじゃあ、他の人のことを言えないな。

 良く見ると僕以外にも何人かむせてる人が居る。

 

「……?」

 

 当人である樋口さんは、何でそんな態度を取られたのかわかっていない様子だった。

 これは本人に自覚のないタイプだな、とすぐにわかった。

 

「ああ、ゴメン。ちょっと喉の調子がおかしくて」

 

 余計な心労をかける必要はない。そう判断して、僕はそう伝えた。

 樋口 綾という名前に、あの容姿。通りで見たことがある筈だ。

 

 前世でプレイしたことのある、サモンナイトというゲーム。

 最初に四人の男女の中から主人公を選んで始めるんだけど、その主人公の一人が樋口 綾という名前なのだ。そしてその容姿もそっくりそのまま。

 つまりは、そういうことなのだろう。

 そして本人に、自分の名前と容姿がゲームの主人公と同じである、という自覚が見えない。

 必ずしもゲーム本編のように召喚される、と決まった訳ではない。

 けれどそうなる可能性も少なからずある訳で……。

 

 ため息をつきたくなるのを堪え、もう一度彼女の方を向く。

 首をかしげ、こちらを心配そうに見ている。

 神様になったつもりはないし、誰もかも救える、何て自惚れるつもりもない。

 けれども、そういった可能性が少しでもある以上、見捨てることも出来ない。

 

 明日からまた、忙しくなるなぁ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そんな訳で、鍛錬の量を増やしました。

 並行して樋口さんにプレゼントを渡しても不自然じゃない程度に仲良くなる為、学校の方でも、樋口さんと積極的に接している。

 目的としては、防御魔法を組み込んだ装飾具を渡すことだ。

 あまり仲良くない人間からプレゼントを貰っても、常に身に付けてくれる訳ない。

 とりあえず致命傷を負いそうになったら発動するように術式を組んで、プレゼント用のペンダントに組み込んでおく。必要ないに越したことはないんだけどね。

 万が一があると怖いので、準備だけはしておく。

 

 僕以外にも何人か同じような行動を取った人たちが居たので話を聞いてみると、全員が彼女のことを心配している人たちだった。

 それもそうだろう。

 先生の言葉を信じるなら、あのクラスに居るのは原作知識が無いか、第二の人生を穏やかに過ごしたい人ばかりなのだ。

 それなのに彼女は、今後場合によっては事件に巻き込まれるかもしれないのである。

 そういうことで僕たちは、彼女の平穏を可能な限り維持する為に同盟を組むことにした。

 このメンバーの内、誰か一人でも親密な関係になれれば、僕の作った道具も渡しやすい。

 

 幸か不幸かクラスの生徒数が少ない事もあって、ほぼ全員と話をする機会があった。

 前世のことを聞かない、という暗黙のルールがあるとはいえ、全員が転生者だという共通の話題もあってか会話の種に困ることはない。

 特定の人物に対してだけ突出して関わりを持つと怪しいので、この際全員と仲良くなることにした。

 友達は多くて困ることもないし、第一打算からなるものでもない。

 そんな訳で休み時間など学校にいる間は極力教室で過ごし、クラスメイトと親睦を深めることに注力した。

 その分疎かになってしまいがちな集やなのはちゃんの相手は、休日に纏めてしている。

 そんな努力の甲斐もあってか、二週間が過ぎる頃にはクラスメイト全員と日常会話を交わす程には仲良くなることが出来た。

 特に件の樋口さんを中心に、彼女のことを何かと気にかけている三人とは特別仲が良くなったと言える。

 

 まずは樋口 綾。

 思った以上に天然の入った子で、何もない所で転ぶなど運動神経は切れてる模様。

 まるで誰かさんとそっくりだ。

 勉強は平均的。但し理系は得意なようで、恐らくクラスでも上位だろう。

 何よりの特徴はリンカーコアを所持している、魔導師の資質を持つ一人だということ。

 術式を組み込んだペンダントに関しては父さんたちにも協力して貰い、一応は完成している。

 もう少し仲良くなったら渡すつもりだ。

 

 次に綾ちゃんを気にかけている三人の内の一人目。春日野 翔(かすがの しょう)

 運動神経がよく大抵のスポーツは何でもそつなくこなす。

 変わりに勉強は苦手、と運動一辺倒の熱血少年。

 早速サッカークラブに所属し、もうレギュラーの座を勝ち取りそうな勢いだとか。

 思い込んだら一直線なのが長所で短所。

 個人的にはもうちょっと落ち着いて欲しいところ。

 

 二人目は来栖 葵(くるす あおい)

 運動も勉強も平均以上に出来る、文武両道の大和撫子。

 実家が茶道の家元とかで、彼女自身の腕前も良いと聞く。

 物腰も柔らかく丁寧な言葉遣いをするので、早くも教師の信用を勝ち取っている。

 

 三人目は斎藤 慎吾(さいとう しんご)

 運動は苦手な方だけど、勉強は葵ちゃん以上に出来る秀才。

 転生者であることを抜きにしても頭がいい方で、聖祥一といっても過言ではないと個人的には思っている。

 頭の回転も早い方で、そう言ったところから満場一致で委員長に選ばれた。

 

 彼らとは最近では外で遊んだりもする。

 そろそろ集やなのはちゃんたちを紹介しようかな、と思う。

 

「オッス、朔夜!」

「おはよう翔。今日も元気だね」

「それだけが取り柄みたいなもんだからな!」

 

 席について翔と会話を続ける。

 彼を呼び捨てにしているのは、翔自身からそう呼ぶように頼まれたからだ。

 

「おはよう、朔夜。翔」

「おはよう慎吾」

「オッス、慎吾!」

 

 暫く二人で会話を続けていると慎吾が教室に入って来た。

 相変わらずの翔の様子を見て、苦笑いしている。

 慎吾は熱血タイプの翔を少し苦手としているのだ。

 

「おはようございます」

 

 慎吾を加えた三人で会話をしていると、今度は葵ちゃんがやって来た。

 僕たちが集まっているのを見つけて、こちらに寄って来る。

 

「朔夜さん、翔さん、慎吾さん。おはようございます」

「おはよう葵ちゃん」

「オッス、葵!」

「おはよう、来栖」

「綾さんはまだ来ていないみたいですね?」

 

 そう言われて教室を見回して見ると、確かにいない。

 普段はもっと早い時間に教室に居るから何かあったのだろうか?

 

「そう言えば今日はまだ見ていないね。何かあったのかな?」

「いや、樋口の運の良さからいってそれはないだろう」

「だよなぁ~」

 

 慎吾や翔の言う綾ちゃんの運の良さとは、恐らく彼女が得た特典のことだ。

 この二週間で痛感したけど、彼女はありえない程運が良い。

 運の絡む遊びなんかは常勝無敗。

 気分で別の道を通った帰り、後日普段通りの道を行っていたら事故にあっていた可能性があったことが判明したり。

 

 恐らく彼女の周りに僕たちが居るのも彼女の運の良さが影響している筈だ。

 サモンナイトを知らない人間だけしか居なかった可能性もある訳だし。

 もはやこの運の良さは一種の才能と言っても良いレベルだった。

 

「とはいえ、気になりますね。万が一怪我をしてたら大変です」

「俺はないと思うけどなぁ」

 

 翔がそう呟いた時、教室の出入り口から綾ちゃんの姿が見えた。

 と同時に思いっきり転んで鼻を打ち付ける。

 ビターン! という音が似合う転びっぷりだった。

 

「だ、大丈夫?」

 

 思わず駆け寄り、体を起こしてやる。

 

「い、痛いれふ……」

 

 涙目で見上げてくる綾ちゃん。鼻が赤くなってしまっている。

 少し血が見えたのでハンカチで拭ってやる。

 心配してか、クラスメイトの皆がいつの間にか出入口付近を囲っていた。

 

「ありがとう、朔夜くん」

「ハンカチは貸しておくから、暫く抑えておいた方が良いよ」

「すみません、そうさせて貰いますね。皆さんも心配して下さってありがとうございます」

 

 大丈夫そうだとわかると皆も席に戻っていく。

 残ったのは何時ものメンバーだ。

 

「それで今日はどうしてこんな時間に?」

 

 気になっていたことを、葵ちゃんが代表して聞いた。

 

「ああ、忘れ物をしたんで家に一度帰ったんです。

 そうしたら戻ってきた時に事故があったとかで、遠回りで学校まで」

「それじゃあ忘れ物をしてなかったら……」

「事故に巻き込まれていたでしょうね」

 

 正に危機一髪。

 

「事故に巻き込まれなくて良かったじゃねーか」

「誰か巻き込まれたりは?」

「いえ、幸いにも巻き込まれた方は居ないみたいです」

 

 一安心である。

 この後は先生が来るまで、昨日のご飯は何だったとか、昨日見たテレビの話だとか、そういったとりとめもない会話が続けられた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 次の日曜のことである。

 僕は朝食の後、父さんに呼ばれて父さんの私室に居た。

 

「会わせたい人?」

「そう。父さんの親友と、同僚なんだけどね。今日家に招待しているんだ」

「あ、それって……」

「うん。ギルティクラウン制作の中心に居た人たちだよ」

 

 以前から僕は、ギルティクラウンの制作に関わった人にお礼を言いたいと思っていた。

 そのことを何回か父さんに伝えたことがあったんだけど、今までは相手の仕事の都合で中々時間があわなかった。

 今日は漸く一休み出来るとかで、父さんがその人たちに僕が会ってお礼を言いたいといっていることを伝えた所、こちらまで出向くことを快く承諾してくれたそうだ。

 

「多分そろそろ来ると思うから、地下室に行こうか」

「うん」

 

 そんな訳で父さんに連れられ、僕は地下室に足を運ぶ。

 ここにある転送ポーターはミッドチルダにある父さんの職場、ダアトとのみ行き来が出来る様に設定されている。

 暫く待っていると、転送ポーターが淡く光りだした。転移の兆候だ。

 

「……おや、少し待たせてしまったかな?」

 

 最初に入って来たのは、紫色の髪と金色の瞳を持つ青年だった。

 一瞬、僕の方を観察するように見てこちらに寄って来る。

 

「はじめまして。ギルティクラウンの生体スキャン機能を構築した、ハル・デザイアだ」

「はじめまして、桜満 朔夜です」

「ギルティクラウンの方は気に入ってくれたかね?」

「はい。僕の要望に良く答えてくれる、いい相棒です」

「それは何より」

「こちらのハルくんは様々な分野に精通した優秀な科学者だよ。

 今回彼が構築したスキャン機能は、彼独自の高度な技術によって、より完全な形で認証を行うことが出来るようになっているんだ」

 

 暫くハルさんと会話を交わしていると、転送ポーターが再び光りだした。

 次に出てきた人物を見て、僕は納得した。

 自分が知っている姿より幾分か若い、茎道 修一郎(けいどう しゅういちろう)の姿がそこにあった。

 

「君のことは春夏や玄周、真名から良く聞いている。

 はじめまして、茎道 修一郎だ。ギルティクラウンの開発ではAI関連を担当した」

「修一郎は、AI関連では僕も適わない程凄い奴なんだよ」

「はじめまして、桜満 集です。今回はご足労頂き、ありがとうございます」

「いや、私もハルくんも一度君に会ってみたいと思っていた所だ」

「ああ。所で、今日は我々にお礼を言いたいとか?」

「はい。ギルティクラウンのこと、ありがとうございます。

 思った以上に馴染む作りだし、僕の癖もわかってるみたいで助かっています」

「君の生体データを登録する際、癖や身体情報の登録もすませたからね。

 そのデバイスは君にしか扱うことの出来ない、完全なワンオフ機になっている」

「ハルくんは君の成長に合わせて、デバイスが独自に進化するように自己進化機能何て物をつけてしまう位には優秀だからな」

 

 茎道さんの言葉に、思わず吹き出しそうになってしまう。

 自己進化機能って……。

 

「勿論、定期的なメンテナンスは必要だけどね。我ながら会心の出来だよ」

 

 そういってハッハッハと笑うハルさんに、僕の笑顔は若干ひきつる。

 正に天才とはこういった人のことを言うのだろう。

 デバイスに自己進化機能を付けれる人なんて、他に居るのか?

 

「さて、私は別件で仕事が入ってしまったので先に失礼するよ」

「おや? お茶ぐらい飲んでいけないかい?」

「少し緊急の仕事でね」

「……そうか。それは残念だ」

「桜満 朔夜くん。

 いずれまた、会おう(・・・・・・)

 

 呼ばれたのでハルさんの方に顔を向け。

 ――――そして、まるで実験動物を見るかのような視線に、悪寒が走る。

 

 

 

 

 

 彼がダアトを辞め、姿をくらませたと聞いたのは、それからおよそ一週間後のことだった。




そんな訳で転生者のバーゲンセール回でした。
このクラスメイトたちは、基本的にはモブです。
流石にこれだけの数の名前・特徴などを考える余裕はありませんし、読者の方から募集しても使いこなせる自信がありません。
名前の登場したオリキャラ四人と樋口 綾に関しては、今後も少し出番があります。

ちなみに、次回は集となのはたちに新しく出来た友達のお話になります。
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