拝啓勇者の花達へ 作:満開依存症発症者
鼻を刺激するような
「あ…もう朝か」
少年はまたやっちゃったかといけしゃあしゃあと自身の行動を顧みた。
「また」というこの少年。この終わった世界で
「お腹は
お腹をさすりながら空腹感が来ないことに若干の諦念がある少年だったが無理はない。少年の身体の変調は一ヶ月前から発生していたもので今更どうこうする気力すら今の少年には無駄な労力になってしまう。
「さてと、今日もやってくるはずだ。オレは何時になったら戦わない日々の日常へと戻れるのやら」
一ヶ月前から携帯することになった己の得物を一瞥しながら少年はこんな世界になった
§
「おはよう麻緖君。今日は校外学習だね!」
「はよー。相変わらずお元気だな。そんなに楽しみにしてたのか?」
「それは勿論!昨日なんか楽しみ過ぎて一睡も出来なかったからね」
「一睡もしないでそんなに元気なのは病気じゃない?」
少女の状態を聞いた少年は思わず口を滑らす。それを聞いた少女は「なんだとー?」と少年と軽く取っ組み合いを始めた。
「そんなことを言うのはこの口だな?えいえい」
「いふぁいいふぁいひゃめへよ」
両手で少年の頬を挟んだ少女は顔の形を変形させたり戻したりして少年を揶揄う。そんな姿に思わず少女は吹き出してしまった。
「あはは!変な顔!」
「自分でやっといてそれは酷いよ友奈。こんな事してたら学校に遅れちゃうよ」
「それはまずい!これで遅刻しちゃったら私三連続で先生に怒られちゃうよ!」
「遅刻癖をまず治してくれ」
あわわ…と自分が怒られる姿を想像した少女は急いで走り出した。
それを追いかける少年は幸せだった。
ずっとこんな日常が続くだろうと少年は信じていた…信じていたハズだった。
バスに乗った少年達一行はなんのハプニングもなく今回の校外学習の地である奈良市の春日神社へと到着した。
バスを降りた少年と少女はバス車内で説明された通り
「私こんなに大きな神社って初めて来たかも」
「確かにオレ達はまだ子供だから近所の神社しか訪れたことないもんな」
入口の鳥居を潜り、神社の中へと入っていくと不意に少年は地震がしている事に気づいた。
「なぁ友奈、なんか揺れてない?」
「え?今気づいたの?」
「え?この揺れって何時からしていた?」
「ん〜朝からしていたよ?でも言われてみれば揺れが大きくなってるね」
朝から続いているという地震に疑問を持った二人にちょうど春日大社の巫女が揺れが収まるまで観光客を中門付近に集めたとの旨が伝えられ二人もそこに向かうことにした。
そこには先生含めクラスの皆が集合しており点呼をとっていた。
「あ、先生麻緖達が来ました!」
「よかった!貴方達が最後でしたので先生は心配しました」
「いやー遅れてしまってごめんなさい。ちょっと学習に熱心になっていて」
嘘である。この男、ただただ少女と二人で居たいが為にゆっくりと向かっていたのだ。その証拠に少年はとても満更でもない顔をしている。
地震の揺れをいまだに感じつつふと上を見ると朝の時点では晴れだったが天候が曇天へと変わっていることに気づいた。
「友奈。天候ってこんな直ぐに変わるっけ?」
「いや、流石にこれは異常気象だと思うよ?だって今朝天気予報を見た時晴れの予報だったもんそれも雲一つない」
確かに妙だと少年は違和感に苛まれるが些細なことだと一蹴した。
だが、この違和感が後に悲劇の始まりだったと言うのを身をもって知ることになる。
それは誰かが声を上げたことから始まった。
「おい、空を見ろ!何かが向かってきてないか?」
気になった少年達は空を見上げると曇天の暗さにポツポツと白い点のようなものが段々此方へと向かってきていることに気づく。
「あれは?流れ星?」
「───いや、そんな綺麗なもんじゃ、ない」
人並み以上に五感が生まれながら鋭い少年はアレがなんなのか形容し難い感覚に襲われる。だが一つ分かることがあった。
(アレは、ダメだ。あんなのが存在してはいけない)
少年の思考はそれで埋め尽くされていた。アレは禁忌の存在だと。死の具現化だと。そうこうしている内にもうソレは肉眼でも容易に視認出来るレベルにまで近づいていた。
「どう、すれば……」
『此方に来い』
不意に少年は何処からか声が聞こえてくることに気づいた。男とも女とも子供のような老年のような声が。
「アナタは…一体?」
「どうしたの麻緖君?」
『細かい事は良い。今はただ此方に来い。第一殿と呼ばれる此方に』
そうして
(第一殿はさっき訪れたあの場所か)
少年は声が言っていた第一殿の場所を振り返りながら一人くらいここから離れても大丈夫かなと考え、中門を離れようとする。
「麻緖君何処に行くの?危ないから此処を離れちゃダメだよ」
「友奈頼む。後でオレはどんなに怒られてもいいから今だけは行かせてくれないか?」
「麻緖君……分かった!じゃあ二人で一緒に行こう」
「え?」
「だって麻緖君の変な行動って今に始まったことじゃないし私だって友達を見捨てるなんて真似出来ないよ。まあ怒られるのはちょっとヤダけど… 麻緖君を止めないで麻緖君だけ怒られるなら二人で一緒に怒られよう!」
さぁ何処に行くの?とでも言うようについてこようとする少女を見ながらあぁコイツはこれだからオレは…と小さく息を吐く。
少女へと向かう場所を教え先生達の目を盗んで第一殿へと駆け足で向かう。
「それで?どうして第一殿へと向かおうと思ったの?」
少女は向かいながら少年の行動の意図を尋ねた。
少年の奇行には毎回毎回必ずそれをする理由があるのだ。今回もその類だと少女は考え、理由を聞いたのだ。
「声が聞こえたんだ。第一殿へ来いってそんな声が」
「声?」
「うん。オレもよくわかんないけどその声を聞くと何故か安心出来るっていうか敬わないといけないなっていうかそんな感じがしたんだ。だからこんな状況になったから縋るしかなかった」
「ふーんなるほどって私もよく分かんないな!取り敢えずその声は信用出来るって事だよね?」
「それで大丈夫だと思う…っと、着いたね」
幾つか会話を挟んでいるうちに第一殿へと着いた少年と少女は説経覚悟で第一殿へ入った。
「うぅ…暗いよ」
「大丈夫友奈?手を繋ぐ?」
『良くぞ来た。このような事態だ。説明は手短に済ます。剣を摂れ、そして闘え。手前にはその運命がある』
「友奈。何か聞こえるか?」
「え?いや、何も聞こえないよ?もしかして麻緖君には聞こえる声が今喋っているの?」
(なるほど。オレ以外には聞こえないオレだけを指定して話していたのか。全く、剣を摂って闘えだなんて悪い冗談にしては現実味があり過ぎてるな)
実のところ少年の家系は遡ること平安時代から続いている由緒ある武道の家系なのだ。
なので柔道や空手道から始まり沢山の武道に精通している少年は人類を守る為に己の武道を用いるという事に悲観した。何故オレなのだと。もっとオレよりも優秀な奴がいるはずだ。とも少年は思ったのだ。
『さあ選べ!手前は剣を摂り己の精神を擦り切れるまで闘うか剣を摂らずに彼奴らにその身体と尊厳を蹂躙され今此処で朽ち果てるか!』
「オレ…は、どうすれば」
「麻緖君!」
『むぅ?これは…』
悩む少年に少女は声を大にして言った。
「私は麻緖君が何に悩んでいるかは分からない。分からないけど!それは麻緖君が本当に自分が選んだことなのかな?私はいつも自分の考えを貫き通す麻緖君が好きだな。今の麻緖君は多分その声の人に提案された事を鵜呑みにしてるだけだよね」
「……」
「だから私が言いたいのは…ええっと、その…あ、あはは何て言おうとしたっけ?」
(あぁ、そうか。オレは───)
「友奈。ありがとう。何か悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなったよ。そうだ、簡単なことじゃないか」
少年は少女に激を飛ばされ己の苦悩を吹き飛ばした。
(そうだ。オレは考えを貫き通すのがオレだ。なら、応えは決まっている)
『では、決断を聞こう。手前はどうする』
「決まってる。オレは闘う。どんなに苦しくてもどんなに絶望的でもオレは逃げない。オレは最後まで抗う。それが…オレの応えだ」
「麻緖君……」
少年は第一殿へ入った当初から視界に入っていた一振の剣を掴み取った。
『そうか…ふはははは!それが手前の応えとやらか。面白い。ならやってみろ!神である私は何時でも手前を観察してやる!何、私は最後まで傍観するぞ。私は彼奴等と戦い疲れた。後は人間共でどうにかせよ』
「そうさせてもらう… 友奈!急いで戻るぞ。アレがもう地上へ着いているかもしれない」
「分かった!行くよ麻緖君!」
少年は第一殿から剣を拝借し、剣を摂った時から溢れ出る力を感じながら少女を思わず抱き上げた。
「わっ!麻緖君?!どうしたの?」
「何でかは知らないけどオレが走った方が速く走れるんだ。だからオレに捕まって!」
「わ、分かった…って速ッ!」
数分もせずに中門付近に戻ると既にソレは地へと着いていた。
人よりも大きな顎を持った白き化物。ソレは次々に人間を捕食していた。
「ひぃいいぃいぃ!!!助けて!助け───ぉ」
「何で私がこんな目に遭うのよ!」
「もうダメだ…終わりなんだ」
悲鳴、怒声、絶望。それすらもこの白き化物によって蹂躙されていく。次第にその牙は少年達へと伸びてきていた。
白き化物は口を開け標的へとその口を使い、噛み砕こうとするが。
「──疾く去ね」
一閃。すると忽ち白き化物はその形を崩壊させた。
「なるほど… 友奈。お前は安全な場所へ避難してくれ。その内巫女から避難場所が伝えられる。先生達はまだ誰も襲われてない。今のうちに行ってくれ」
「だ、ダメだよ!一人でアレと戦うなんて危険だよ!」
「友奈!」
「!!!」
戦いに身を投じようとする少年を少女は止めようとするが少年は迫ってくる新たな白き化物切り捨てながら吼えた。
「──必ず戻って来る。だから、行ってくれ」
「ッ!絶対に約束だからね!」
そう約束を交わした二人は自分がやるべき事を認識しながら別れることになった。
「さぁ来いよ!オレを殺したいんだろ!ならかかって来やがれ!」
その言葉を切っ掛けに白き化物らは標的を殲滅する為に一斉に少年へと攻撃を開始した。
「は?」
それは少年の声だった。
白き化物──通称星屑との戦いは熾烈を極めた。
途中星屑同士が合体し、後に中型進化体と言われる敵とやり合って何とか勝てたのも束の間。再び星屑が現れるといった初陣にしては泣いてもいいようなレベルの戦いを苦難の末勝ち取った。
敵が現れないのを確認した少年は避難場所へと足を運んで見るとそこには少女がいた。
────右半身を喰い裂かれ、今にも絶命しそうな姿で。
「おい、冗談だろ…友奈!おい!!!」
「ぁ… 麻緖く、ん…やくそくまもっ、てくれたんだね」
「喋らなくていい!傷が…ッ!」
止血をしようとする少年だったが少女は左手で少年の頬を触れる。
「麻緖くん。ごめ、んね…い、きて。だ、す…きぃ…」
くたりと頬に添えられた手が力無く地面へと落ちる。
死んだ。少女は想いを伝え少年の腕の中で事切れた。
「……なぁ友奈。嘘、だよな。いっつもいっつも元気な笑顔をオレ達に向けていたよな。オレとお前が初めて会った日も笑っていたじゃん。だからお願い。そんな悲しい顔して逝かないでよ!」
少年は口調を素に戻し、既に亡骸となってしまった唯一無二の存在へと語りかける。
「あの日の事をオレは忘れないよ。オレが初めて家を出た時にちょうど同じタイミングで家を出たって言ってたね。『私も初めてお家から出た!すごい偶然だね!』って。オレは偶然だとは思わなかったよ。これから先大人になっても一緒なんだなって感じたよ!」
少女からの反応は無い。
「お花見した日も楽しかったね!名前の呼び合いっこで一日を使っていたなんて今じゃ笑い話だったよね。その後にオレと友奈の親御さんに揶揄われたりもしたっけな」
少女からの反応は無い。
「今日だって一睡もせずにあんな元気な姿で楽しみにしていたなんて聞いた時、ホントに病気か疑ったからね!親友の体調を気遣うのも大事な役目ですので!」
少女からの反応は無い。
少女の頬にポツリと一滴の泪が落ちた。少年の涙だ。
「──ごめんね、オレは友奈に最低な事をした。怨んでるよね。オレだって親友を……大好きな人を見殺しにした自分が憎くて堪らない」
でも、と少年は付け足した。
「オレは友奈に"生きろ"って言われたから。精一杯生きようと思う。どんなに罪悪感で押し潰されようともどんなに死にそうな怪我を負ってもそれがオレの決めた事なら、泥水を啜ってでも生きるからね。それがオレのケジメだから」
ふと、少年は少女の左手に何かが握られていることに気づいた。
「これは友奈の…」
少女が握っていたものは少女が普段付けていた髪紐だった。
少年はこれを少女の形見として髪に結んだ。
「オレには生きる理由がある。だからお前達には絶対に屈しない!」
天を睨みその瞳に映るは曇天の漆黒。しかし、少年からして見れば天で嗤う人類の敵がありありと映っていた。
その日、少年は
§
「はぁ…嫌な思い出だな」
「この街は…茅野市。と言うと長野県だったかな?随分歩いたなホントに」
奈良県からトボトボ歩いていつの間にか長野県へと辿り着いてしまった少年は道中様々な星屑と戦ってきた。
その中には大型になりかけの中型進化体がいたのだが少年はそんなことを知る由もなく少年は己の得物──後に布都御魂剣と名付けられる──で切り伏せた。
何が言いたいのかというとつまるところ少年は非常に強いという事だ。
そんな少年だがここ一ヶ月誰とも会わないので少し寂しい思いをしている。会話をしたい。誰かと会って今の世の中を知りたいという小学生らしい感情を持っていた。
今回の街の闊歩もその為の存命している人達の捜索でもあった。
「今回も収穫はナシ。人類は何処へ行ったんだろう?」
(とりあえずここでまた一日過ごしたら再び次の街へ向かおう!茅野市の隣は…なんて読むんだろうすわ?かな。諏訪市ってところか。漢字を覚えて向かおう)
勉学も小学生らしい頭脳の持ち主でもある少年は次に訪れる諏訪市の漢字を理解して向かうことにするのだった。
これは西暦2018年、少年が織り成す人類の叛旗の物語。
主人公の幼馴染の苗字は高嶋でも結城でも芙蓉でもありません。