ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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86_親子竜出陣

「魔宮の門があるのはあそこ?」

「はい、ディーナ様。あの突き出た岩がある場所の…」

 

ラーハルトが他の岩よりやや高く海から顔を出している岩を指差し、その指先をスッと下に落とした。

 

「真下に広がる岩礁に隠されるようにして巨大な門がありました。あれこそが魔宮の門に違いないかと」

「オッケー♪」

 

交渉を経て一時休戦と相成った勇者一行とハドラー親衛騎団は互いに付かず離れずの距離を保ちつつ移動し、魔宮の門から目と鼻の先にある岩場に並び立った。

ドラがリュミベルを両手に構え、ラーハルトが指差した方角に向ける。

 

「おい、ドラ。何してんだよお前…

門は海の底だろ? とっとと敵さんの本陣に乗り込もうぜ?」

 

いい加減腹くくって海に潜れよ…と、ポップが訝しげにドラを見た。

ポップだけではない、全員が杖に魔力を集め始めたドラを怪訝な表情で伺っている。

 

「まあ見ててよ。私に任せてちょうだい…!」

 

ドラが杖に魔力を溜め込むと清浄な光が竜魔石から溢れ出し海を照らし出す。

黒く暗い色をした海はその光に照らされて、一面がデルムリン島近海のような明るいマリンブルーへと染まった。

 

「ピィィ~~~!」

「危ないゴメちゃん!」

「きゃああっ!!」

「ポップ、マァム! 俺に捕まっていろ!!」 

「ちょ…おいおいおい…! ドラ、何する気だよ一体!!?」

「ぐっ…!! なんという強大な魔力だ…!」

 

徐々に大きくなる魔力のうねりが波飛沫を上げる。ドラ以外の全員が吹き飛ばされないように身を寄せ合った。

ゴメちゃんはディーノの懐に、ポップとマァムはクロコダインが風避けになり、竜騎衆もルードが飛んでいってしまわないようボラホーンが鎖でその身を繋ぐ。

 

暴風が吹き荒れる中、バランは驚愕にその目を大きく見開いた。

かつてドラと壮絶な親子喧嘩をしたバランだが、その時のドラはロン・ベルクが鍛え上げたオリハルコンの杖を持っていなかったのだ。

(ドラゴン)の騎士が唯一全力を出して振るう事が出来る真魔剛竜剣。その真魔剛竜剣に匹敵する武器を手に入れた娘の底知れぬ力を見たバランは額から一筋の汗を流した。

 

(今のディーナと戦うならば竜魔人と化さねば私も危ういかもしれぬ…)

 

しばし目を閉じ集中していたドラがゆっくりと瞼を開け、海に向けて練り上げた魔力とともに呪文を放った。

 

「風よ、海を開け! 極大真空呪文(バギクロス)!!!

 

氷よ、道を作れ! 最大氷結呪文(マヒャド)!!!」

 

巨大な風の塊が海水を押し退け、かつ邪魔な岩礁を削り取りながら海を大きく左右に割っていく。

すかさず放たれた絶対零度の呪文が、左右に押し退けられて天に向かって噴き上がる海水を見る見る凍らせて氷壁を作り出していった。

そうして竜魔石が光を失う頃には魔宮の門へと一直線に続く氷の道が姿を現した。左右に聳え立つ氷の壁がキラキラと光を反射し、まるで勇者一行を出迎える花道が如く道を照らしている。

 

「よぉしバッチリ! さ、お父さん、お兄ちゃん、魔宮の門を壊しに行こう!」

 

みんなは後からゆっくり来てね~

 

ドラはひらひらと手を振りながら出来上がったばかりの氷の道へと降り立っていった。

あっという間にもとは海底だった崖下の大地へと着地したドラの後をバランとディーノが追いかける。

(ドラゴン)の騎士達が去った後、バランの配下である竜騎衆と、ハドラーの配下たる親衛騎団は底の見えないドラの力に唖然として言葉を失った様子だった。

 

「………海を割りやがった。あいつ、相変わらず無茶苦茶しやがる…!」

「ピイィ」

 

はああ~、と。ポップとゴメちゃんが揃って盛大な溜息を吐く。

 

「あんなに魔力を消費して大丈夫なのかしら…?」

「大丈夫だろう、さして消耗したようには見えなかったぞ」

「涼しい顔してとんでもねぇ魔法の使い方しやがって…同じ魔法使いとして自信無くすぜ」

「フッ…そう拗ねるな、ポップ。ドラのあれは真似しようとして出来るものではない。

お前の魔法も頼りにしているさ」

「うえぇ~、よしてくれよヒュンケル。お前に素直に褒められるとケツの据わりが悪くって落ち着かねぇよ!」

「こら、お前達。あまり気を緩めるな。

ドラとバランとディーノが門を破ったら俺達もすぐに助勢に行くぞ」

「ああ」

「おうよ!」

「ええ! わかってるわ!」

 

仲間達は呆れと信頼と、事が上手くいくよう祈りを寄せ氷の道をスキップしながら悠々と進むドラの後ろ姿を見守った。

一方で、主君たるハドラーを崇敬している親衛騎団は大魔王に匹敵しようかというドラの魔力を目の前で見せつけられ複雑な思いで勇者を見る。

もしも、ドラが黒の核晶(コア)による被害を恐れずに最初から魔王軍を蹴散らす気でいたならば親衛騎団はおろかハドラーも今頃はその命を散らしていたであろう事が今の魔法でハッキリと理解出来てしまったからだ。

この戦いが終わった後、黒の核晶(コア)が除去出来たとして…主君(ハドラー)が勇者ドラに打ち勝つ未来がどうしても想像出来ない。ヒムとシグマ、そしてブロックは希望に瞳を輝かせるアバンの使徒とは対極的に柄にもなく悲観的な表情で俯いてしまった。

たった一人、アルビナスだけは一縷の希望を見出して食い入るように勇者を見ていた。

 

(彼女の言を信じるならば、今もなお燃え尽きつつある愛しきお方の命を救う事が出来るかもしれない…)

 

 

魔宮の門の前に三人の(ドラゴン)の騎士が並ぶ。

背中に背負っていた剣を引き抜こうとしたディーノだが、ドラがそれを遮り杖から抜いた仕込み刀をディーノに渡した。

 

「お兄ちゃん、それ使って。ちょっと試したい事があるの」

「試したい事…?」

「私が極大電撃呪文(ギガデイン)を放つから、それでギガブレイク打ってみてよ。

大丈夫、その剣もオリハルコンで出来てるからお兄ちゃんが全力出しても壊れないよ」

「俺の全力…」

 

父と義兄の指導のもと、日に日に力を付けているディーノだがその腕前が上がると同時にもどかしさも大きくなっていた。

通常の武器では(ドラゴン)の騎士の力に耐えきれず全力で技が放てないのだ。

まだ自分の意志で紋章の力を自由に扱えないディーノは、父の共鳴(アシスト)によってなんとか(ドラゴン)の紋章の力を引き出せている状態だ。しかしせっかく紋章の力を引き出せても竜闘気(ドラゴニックオーラ)に耐えられる武器など早々手に入らず、素手での攻撃しか出来ないというデメリットも抱えていた。

 

ごくりとディーノが唾を飲み込む。

一度でいいから全力で必殺技を撃ってみたいという思いは手合わせをした妹に筒抜けだったらしい。ディーノが剣に顔を向けたまま、視線だけを(ドラ)のほうにチラリと動かすと空中で視線がぶつかりにっこりと微笑まれた。

 

(さっきの魔法といい、やっぱりディーナにはまだまだ敵わないや…ちぇっ)

 

妹に勝てない悔しさからつい、プイとそっぽを向く。そんなディーノの心情を知ってか知らずかドラはくすくすと笑ってみせた。

緩んだ空気を漂わせる二人にバランの厳粛な声が落ちる。

 

「二人とも、気を引き締めよ」

「「はい」」

 

バランが真魔剛竜剣を鞘から抜き、構えた。

ディーノも剣を、ドラは杖を手に構え額に意識を集中する。

 

額に輝く(ドラゴン)の紋章。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)が体を、武器を覆っていく。

溢れ出る力の渦がヒュウヒュウと音を鳴らし冷たい風と一緒に氷の壁を震わせた。

共鳴によって言葉など無くともぴたりと呼吸を合わせた親子竜は、禍々しい魔力によって閉じられた巨大門の中心に狙いを定めて一歩踏み込む。

 

空を覆う暗雲から雷鳴が響く。

遠くからでも伝わってくる、ビリビリと肌を指すような闘気を受けた仲間達は瞬きも忘れて親子竜が門に向かっていく姿を固唾を飲んで見守った。

稲光が落ちる。

一拍遅れて鳴り響いた雷鳴とともに、親子竜の咆哮が死の大地に轟いた。

 

「「「ギガブレイクッ!!!!」」」

 

 

とてつもない破壊音が響き渡る。中央に大きな風穴が空いた魔宮の門はやがて全体にひびが走りガラガラと崩れ落ちていった。

氷の道を走った衝撃波が見守っていた面々の間を吹き抜けていく。

 

「…見事だ」

「すごいすごいっ! お兄ちゃんのギガブレイク、お父さんのギガブレイクと同じくらいの威力なかった!?」

「さっすが若頭でさぁ!」

 

「………っ!」

 

ディーノはビリビリと手に残る斬撃の余韻が抜けず、抱きつくドラをよそに自分の手をまじまじと見つめた。

生まれて初めての竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にして放った必殺技は、技を繰り出した当人の予想を遥かに超える威力だったのだ。

 

「その剣、そのままお兄ちゃんが持っててよ」

「え…でも…」

「この戦いが終わったら返してくれればいいから、リュミベルも異論ないでしょう?」

「もっちろんでさぁ!」

 

私には本体の(リュミベル)がいるから大丈夫、とドラが笑顔で促す。

 

「…うん、ディーナが良いって言うなら少しの間この剣借りるね。

この剣の力に驕らないように気をつけるよ!」

 

全力で放ったギガブレイクは凄まじい威力だったが、それはドラの魔法と剣の力を借りたからこそ。

片手で持てる細身の剣を持ったディーノはまだまだ妹に遠く及ばないと自らに言い聞かせて、悔しさをバネに決意する。

 

(いつか、誰の力も借りずに父さんとディーナを超えてみせる…!)

 

一端の戦士の顔つきになったディーノの姿を目を細めて眺めていたバランだったが、もたもたしているわけにはいかない。

門は破壊した。あとは攻め入るのみ。

 

「行くぞ、二人とも…

大魔王バーンに我ら(ドラゴン)の騎士の力、思い知らせてやろうぞッ!!!」

「「はい!!」」

 

親子竜が砕かれた魔宮の門を走り抜ける。長い階段の先、ぽっかりと開けた空間に抜け出るとそこに一人の人影が…

 

「来たか…!」

 

「ハドラー…!」

 

兜と外套(マント)でその身を覆った、超魔生物と化したハドラー。

実物を間近で初めて見たドラは、ハドラーの体の内側で禍々しく駆け巡る黒の核晶(コア)の魔力を感じ取ってじわりと嫌な汗を額に滲ませた。

 

(ここが正念場…! 原作ではこの戦いでお父さんが命を落とす…

それだけはなんとしても食い止める!!)

 

 

「いよいよ始まるな…この戦いのクライマックスが…」

 

睨み合うハドラーとドラが映し出された水晶を眺めながらバーンが呟いた。

手元には用意させた美酒が盃に並々と注がれ、傾けるたびに馥郁(ふくいく)とした香りがふわりと漂ってくる。

 

「どちらが有利と見る…?」

「いかにハドラーが強大になったとはいえ、(ドラゴン)の騎士が三人がかりでは勝ち目などありますまい。

親衛騎団を別行動にしたのは自殺行為としか思えません…!」

 

問われたミストバーンが答える。

大魔王バーンと二人しかいない部屋の中で、普段からはあり得ない饒舌さで意見を述べた。

 

「…自殺行為か。

だが、それも全て自らを追い詰めて極限の力を振り絞ろうというハドラーの策に思えるがな…」

「…しかし、もしハドラーが奴らに敗れてしまったらいよいよあの(ドラゴン)の親子がこの王宮に乗り込んでくる事に…」

「それは無い」

「…はっ?」

 

ミストバーンが素っ頓狂な声をあげる。

その反応がすこぶる気に入ったのか、ククッと口角を上げたバーンは上機嫌に言い切った。

 

「…それは絶対にあり得ん事だ、ミストバーン。

(ドラゴン)の親子が金輪際、余の顔を見る事は決して無い…!!」

 

断言する大魔王バーンに、疑問だけを募らせたミストバーンは水晶をもう一度見やった。

水晶に映し出された(ドラゴン)の騎士達の姿を瞼に焼き付けんとして…

 

 

 




ドラ
水に濡れたくない一心で海を割った。力の使い所を盛大に間違えている。

大魔王バーン
ワールドカップ準決勝観戦くらいの気分。投資して育成した選手(ハドラー)が思いの外楽しませてくれる試合運びをしたのですこぶるご機嫌。
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