ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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87_ハドラーの矜持

「来たか…!」

 

「ハドラー…!」

 

魔宮の門を突破し駆け上がった階段の先。

何の家具も装飾も備えられていない、火を灯す燭台すらもない。そっけなく寒々しい円形の形をした部屋の中央…

壇上からハドラーがバーンパレスへと攻め入ってきた侵入者達を見下ろす。

 

ただ、侵入者であり自身を追い詰めてきた勇者ドラを見下ろすハドラーのその目は、かつてのものとはまるで違っていた。

人間を下等生物と蔑み見下す目でも、度重なる侵攻を阻まれ勇者を目障りな羽虫のように見る目でもない。

口元には笑みさえ湛え、ドラとバラン、そしてディーノを見るハドラーの目には敬意と期待と…隠しきれぬ高揚感が浮かんでいた。

 

ドラはさっと周辺の気配を確認する。

ハドラー以外の気配はない。どうやら原作と同様、大魔王とミストバーン、それにキルバーンらは高みの見物を決め込むつもりらしい。

原作と乖離した状態…たとえばミストバーンがハドラーのそばにいたら非常に厄介極まりなかったのでドラは内心胸を撫で下ろした。

 

「…さあ、早く始めよう。俺には時間がない」

「いいえ、始めないわ!」

「何…!?」

 

ドラが杖を宙に浮かせて、バランとディーノに構えた剣を下げるよう目配せする。

宙高く上がっていく杖、オリハルコン製の仕込み刀はディーノが持っておりドラは丸腰の状態で眉間に皺を寄せこちらを睨みつけるハドラーに一歩、また一歩と近づいていった。

 

「貴様…今、何と言った?」

 

ギロリ、と頭上から殺気とともに射抜くような視線が降ってくる。

 

「戦わない、と言ったのよ」

 

ドラが「リュミベル!」と叫ぶと、強力な結界が部屋を覆い尽くした。

何をする気かと戦闘体勢に入ろうとしたハドラーだが、結界はドラとバラン達だけではなくハドラーをも含めて展開されている。

意味のない結界を張って何のつもりだと口を開きかけた瞬間、杖がパァッと輝き壁一面に何かを映し出した。

 

「これは…!?」

 

パッと目に入ったのは超魔生物と化したザムザの姿。その横には超魔生物の構造、能力、元となった生物の特徴が大きく記されている。

反対側の壁を見れば超魔生物のメリット、デメリット、超魔生物と化すために必要な材料、施術方法など…

およそ戦闘にあまり関係のない情報ばかりが次々と目に入ってくる。

今、この場においてなぜ超魔生物についての詳細な情報を映し出したのか…

意図が読めずに困惑したハドラーがもう一度射抜くような目でドラを見下ろした。

 

「一体、何がしたいのだ貴様は」

 

「…ハドラー、お願い聞いてちょうだい!

今のあなたとは戦わない…ううん、戦えないのよ!

ザムザから超魔生物についての話を聞いたけど、吐血や激痛なんて副作用は起こらない。

今、お前の体に起きている不調…

 

それは…

 

お前の体の中にある『黒の核晶(コア)』が引き起こしている症状なの!!」

 

「な…ッ!!? 『黒の核晶(コア)』だと…ッ!??

勇者貴様…貴様のような小娘がなぜ『黒の核晶(コア)』を知っている…!!!」

 

ハドラーが額から汗を流し動揺を隠せない様子でドラに詰め寄る。

伝説にしか聞いた事のない、魔族にとって忌まわしい存在として語られる超爆弾。

それをなぜ地上で生まれ三桁の年数すらも生きていない小娘が知っているのか…

そしてなぜ親衛騎団しか知らないはずの己の不調を知っているのか…

体中を苛む激痛に耐えながらも、ハドラーは精神を落ち着けようと外套(マント)の下で無意識に胸に手を当てた。

黒の核晶(コア)が埋まっているその位置に…

 

黒の核晶(コア)の名前を聞いて戦慄いたのはハドラーだけではない。

サババで開かれた作戦会議でドラから黒の核晶(コア)の説明を受けたディーノ、合流してドラから事情を説明されていたバランも…目の前にいる男の体内に忌まわしい超兵器が存在していると思うと、二人は無意識に力が入り手にした剣の柄を強く握り込んだ。

動揺し、詰め寄るハドラーに対してなおもドラは続ける。

 

「黒の核晶(コア)を埋め込んだのは大魔王バーン…!!

今、お前の生殺与奪は大魔王バーンが握ってる。

指先一つ、呪文一つで簡単に爆発するような相手に、全力で戦えるわけないじゃない…!

 

お願いよハドラー!

今はどうか私の言う通りにしてちょうだい…!

デルムリン島でザムザに黒の核晶(コア)の除去が出来ないかどうか調べてもらって!!

 

その間に私達親子が大魔王バーンを倒す。

大魔王バーンを倒してお前の体から黒の核晶(コア)が消えた暁には正々堂々、戦う事を約束するわ!!」

 

だからお願い、この場は通して…と必死の様相で懇願するドラに俯いたハドラーは何も答えない。

その隙にドラは竜闘気(ドラゴニックオーラ)でハドラーの体に膜を張った。

 

「俺の体に何をした!?」

「ちょっと保険をかけただけよ。

私の竜闘気(ドラゴニックオーラ)でお前の体を覆ったの。

これで遠隔で黒の核晶(コア)を爆発させられる心配は無くなったわ。

今のうちにほら、早くデルムリン島に移動して!

あの島は私の魔力で満たされてる。

大魔王バーン本人が乗り込んで直接手を出さない限り黒の核晶(コア)を抑制していられるから…」

 

ハドラーは自分の体を見下ろす。確かに特徴的な闘気(オーラ)が体を覆ってはいるがダメージを負ってはいない。

何度も煮湯を飲まされたものの、勇者の言った事に嘘は無さそうだと判断した。

もう一度ぐるりと壁一面に映し出された超魔生物についての情報を目で追いかける。

 

「………」

「ほら、私が嘘をついていないっていうのはわかったでしょう?

外には親衛騎団もいるから、デルムリン島に一緒に…」

「…クッ…ククッ…」

「…ハドラー?」

「フッ…ククッ…フハーッハッハッハッハッハッ…!!!」

「え…いきなり何…!?」

 

天を見上げて爆笑し始めたハドラーに驚いたドラがピャッとバランの後ろに隠れた。

 

(あ~…もしかして衝撃が強すぎたかな…?

敬ってた上司(バーン)に裏切られるどころか捨て駒扱いされてたんだもんね。

可哀想に…きっとショックで壊れちゃったんだ。

まあ、黒の核晶(コア)を除去するまでの短い命だしデルムリン島でゆっくり過ごしてもらおう。

ザムザもいるし、おじいちゃんはハドラーの元部下だったし、親衛騎団も一緒ならそう悪くない余生を過ごせるでしょ)

 

うんうんと、非常に失礼かつ非情な考えを浮かべ勝手に納得し頷くドラが憐憫の籠った眼差しでハドラーを見つめる。

ひとしきり笑ったハドラーはやがて笑い止むと、二人のやりとりを無言で見守っていたバランとディーノに…

正確に言うと、無言ながらも油断せずいつでも剣を振るえるようピリピリとした緊張感を保ったままのバランとディーノ、の後ろに身を隠しそっと様子を伺っているドラを真っ直ぐと見て言い放った。

 

「フハハハハハハッ!! 勇者ドラよ!

 

礼を言っておこう!

 

よくぞこの俺の中にある『黒の核晶(コア)』の存在に気づいてくれたな!!」

「おん?」

 

まさかハドラーから正面きってお礼を言われる日が来るとは。

頭の回転に定評のあるドラだが、反応が追いつかずに変な声が出てしまった。

 

「そして決めたぞッ!!

 

やはり俺はこの場で(ドラゴン)の騎士よ…お前達を倒すッ!!!」

「はぁ!?」

 

だから戦えない理由を懇切丁寧に説明してやっただろうが何言ってんだこいつ、とドラが冷ややかな目をハドラーに向けた。

 

「バラン、そしてバランの倅よ…お前達を倒したその足で、俺は大魔王バーンを倒しに行くッ!!

 

勇者ドラよ!

 

お前は俺の中の黒の核晶(コア)を抑えるための抑止剤として働いてもらおう!!」

 

「は…

 

はああああ~~~~~ッ!??」

 

(こっ…、こいつ…!

こっちがちょっと下手(したで)に出たら図に乗りやがった…!!

しかも私を黒の核晶(コア)を抑え込むための道具扱い…ッ!?

 

お父さんとお兄ちゃんを倒してから私を引き連れて大魔王バーンを倒す。

          ↓

遠隔操作で爆発する心配が無くなった後で私を含めたアバンの使徒と戦う。

          ↓

ザムザを復権させて、親衛騎団と一緒に世界征服再会

 

…とか、多分そんな感じ?

 

…優しくする理由が無くなったわ。

瀕死状態にしてからデルムリン島に連行してザムザの生体牢獄(バイオプリズン)に閉じ込めとこう)

 

ドラ的には優しくしていたつもりらしい。

ハドラーの武人としての生き様や覚悟になんら興味を持っていないドラにとって、『黒の核晶(コア)を除去した後にならハドラーと正々堂々の勝負する』というのは最大限の譲歩であった。

黒の核晶(コア)が除去出来る確証は無いし『一対一で』などとも明言していない。それを逆手取り核晶(コア)が除去できないうちは逃げの一手を打ち、万が一除去出来たとしても父と兄、そしてアバンの使徒全員で戦う気満々であったが。

 

ドラが出した精一杯の譲歩(本来ハドラーに与えられるはずのない優しさをなんとか振り絞った渾身の案)。それを受け取るどころかちゃぶ台をひっくり返すように叩き返し、大魔王バーンに反旗を翻すための道具としてドラを道連れにせんとするハドラー。

向かうべき道を定めたハドラーがその身に宿す闘気を一気に膨らませた。

 

「リュミベル!!」

 

手元に戻るよう杖を呼び、部屋を覆っている結界とは別に闘気の爆発から身を守るための魔法陣を目の前に浮かべる。

 

刻印(スタンプ)!!」

 

爆発した闘気の波がドラ達に襲いかかる。

ズズゥン!!と部屋が揺れ、闘気による衝撃波で壁に次々とヒビが走った。

ハドラーが兜と外套(マント)を脱ぎ捨て、超魔生物としての姿を露わにする。

 

かつて自分を打ち倒した勇者アバン。

幾度も魔王軍に楯突いてきたアバンの弟子にして勇者のドラ。

アバンの使徒、魔王軍を裏切り人間側に寝返ったかつての部下、絶大なる強さを誇る(ドラゴン)の騎士バラン。

 

そして自分の体の中に黒の核晶(コア)を埋め込んだ大魔王バーン…

 

勇者の策に乗り孤島で大人しくしているなど冗談ではない。

己の強さと矜持にかけて、己にかかる火の粉はすべて己の力のみで払い除けてみせる。

憤怒の形相をしたハドラーの口から、地獄の底から這い上がってくるような獣の唸り声にも似た声が轟いた。

 

「さあ…! どちらが大魔王バーンを倒しに行くか…

前哨戦と行こうではないか…!!」

 

「∈∃≡∽∬⊥∂⁑…!」(この無能野郎が…!)

 

ドラが呟いた流暢な魔族言語の意味がわからなかったバランは、ハドラーから目を逸らさぬまま眉を顰めた。

 

 

バーンパレスの最深部にて、何も映っていない水晶を眺めながら大魔王バーンが異変を察知する。

 

「ふむ…結界で余の魔力を遮りおったか…猪口才な…

ミストバーン、行って結界だけでも解いてまいれ。

可愛がっていた片腕の最後の晴れ舞台になるやもしれぬ…見届ける程度はしてやらねばなるまいて」

「ははっ…!」

 

(ドラゴン)の騎士三人を相手に、万に一つも勝ち目が無いと思いながら大魔王バーンは手の中にある盃をつまらなさそうにくるくると回す。

結界に阻まれハドラーとドラの間にどんなやり取りがあったのかわからぬまま、すでに『黒の核晶(コア)』の存在が知られているなどと夢にも思わないまま、血のように真っ赤な酒をゆっくりと飲み干していった。

 

 

 




〜おしえて、ザムザ先生〜

「はい先生! 『魔王』は魔族の言葉でなんて発音しますか!?」
「『魔王』は『asdyavdo』だな」
「『無能』もしくは『低脳』は?」
「『su iacjvd cjacha』と言えば伝わるだろう」
「じゃあ『あなたに大変お似合いですね』と『良いご趣味ですね』は?」

「…貴様、一体どんな会話を想定している」
「いざという時に備えておこうかと…」

(『』内の文字は適当)
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