ドラ達の後を追い、各陣営は氷の道を走り抜ける。
しかしバーンパレスに乗り込もうとしたアバンの使徒、竜騎衆、それに親衛騎団は困惑した。
魔宮の門は
なんとか結界を通れないものかと試行してみるが、大魔王バーンの膝下にあって彼奴の魔力をも跳ね除けるドラ特製の結界を破る事叶わず、全員立ち往生を余儀なくされた。
「ドラが作り出した結界か…力技ではどうにも出来んな…」
「おいおい、話が違うじゃねぇか! ハドラーを説得したら全員で大魔王を倒しに行く作戦じゃねぇのかよ!?」
「何か不足の事態が起きたのやもしれん…」
「ハドラーの説得に失敗したのかしら…」
「交渉が決裂した可能性は大いにあるな。しかし、結界を張ったまま維持している理由がわからん。
ハドラーとの衝突が避けられないのならば俺達が加勢に行った方が有利なはずだ。それなのになぜ…」
中で一体何が起きているのか…
調べる手立ての無いアバンの使徒達はドラとバラン、ディーノの無事を祈りどうにかしてドラ達のもとへ行けないかと思案する。
結界を破ろうと悪戦苦闘したのはアバンの使徒だけではない。
ラーハルトはバランとディーノのもとに、親衛騎団はハドラーのもとへ馳せ参じるべく技や魔法を駆使して結界を突破しようと試みた。
ひとしきり結界に向け技を繰り出したラーハルトが、槍を地面に突き立てて吐き出すように呟く。
「…無理か。ディーナ様が結界を張られているならバラン様とディーノ様も無事と見て間違いなかろうが…
これでは結界が解かれるのを待つしかないか…」
「待つしかない」というラーハルトの言葉を聞くやいなや、待ちの姿勢が何よりも嫌いなヒムが拳を結界に打ち付けて激昂した。
「チィッ!! どうなってやがんだこりゃッ!
おいッ! あの勇者、約束を破るつもりじゃねぇだろうなぁ!?
もしそうならテメェらタダじゃおかねぇぞッ!!!」
「落ち着け、ヒム」
「けどよぉ、シグマ…!」
「今は無駄な揉め事などせずに一刻も早くハドラー様のもとへ駆けつけるほうが先決です。
まだハドラー様の御身に何かあったと決まったわけではありません。
アバンの使徒との勝負はハドラー様のたっての願い…先走って彼らを傷つける事は許しませんよ」
「チッ…わかったよアルビナス。
しかしブロックの力でもビクともしやがらねぇとは…どうなってやがんだこの結界は…」
「ブローム…!」
結界の中で何が起こっているかわからない不安と苛立ちから、場に沈黙が落ちる。
ふと、マァムが小さく呟いた。
「ねぇ、ポップの
「そりゃやってみる価値はありそうだけどよ…」
「やめておけ、こんな狭い場所で
万が一、この結界に弾き返されたら逃げる場所がない。
よしんば弾かれずともこの通路そのものが崩落しかねん…我らも無事ではすまんぞ」
「クロコダインのおっさんの言う通りだぜ」
「ああ、それに俺のグランドクルスも…ッ!?」
ヒュンケルがマァムに向けていた視線を、突如明後日の方向に向けた。
通路の暗がり…人一人隠れられないような場所に出来た闇穴をじっと睨みつける。
「どうしたよヒュンケル?」
「…気のせいか…?
いや、すまん。今何者かの視線を感じたのだが…」
「敵襲?!」
「しかし、我々以外の気配はないと思うが…?」
「おいおいしっかりしてくれよ~。これから大魔王に挑もうってのに…
あ、もしかして~…お前、ビビって神経質になってんじゃねぇの!?
「怖いものなんて何もありませ~ん」みたいなクールな顔して案外可愛いとこもあるじゃ…痛てっ!!」
「こんな時にふざけて茶化さないの!」
そのまま始まったポップとマァムの夫婦漫才のようなやりとりによってヒュンケルが感じた違和感についてはうやむやになってしまった。
全員が呆れたような視線を騒ぐポップとマァムに注ぐ中、ヒュンケルが睨んだ先の暗闇がスッと二つに分かれる。
分かれたうち片方の影が、流れるように移動した事には誰も気が付かなかった。
「………………」
気配を押し殺していたミストバーンは勇者一行の様子を伺い終えると、点々と続く暗闇の中を移動していく。
(アバンの使徒と竜騎衆が結界の外で別行動をしているのは何らかの作戦かと思ったが…予想が外れた。
この結界はハドラーが作ったものではない…すると勇者の小娘の策か。
しかし親衛騎団までもが行動を共にしているとは…
ハドラーを裏切ったようでも、勇者に寝返り大魔王様に楯突こうという風にも見えなかったが…
まあ良い。
あれらは所詮ハドラーが禁呪法によって作り出した仮初の命。
使い捨ての駒が、どう行動したとしてもバーン様はさして気になさるまい)
死の大地の地表に出たミストバーンは大地から顔を覗かせている円形状の結界に手を当てて意識を集中させた。
大魔王バーンに命じられた『結界を解く』という命令を実行する前に、今何が中で起こっているのかを確認するためだ。
(中にいるのはハドラー…勇者ドラとバラン、そしてバランの息子か…
バランの息子はともかく、勇者の小娘と竜騎将バランが相手とあっては超魔生物となったハドラーであっても既にやられているやもしれん。
両方に勝ち、生き残っていてもらいたいが…
倒されてしまったのならばせめて勇者かバランのどちらかを道連れにし、大魔王様の御前試合を飾るに相応しい最期であってほしいものよ)
『この無能野郎があぁぁぁッ!!!』
「……………!?」
一体どんな死闘が繰り広げられているかと結界の中を覗き見たミストバーンの耳に飛び込んできたのは、ドスの効いた女の怒鳴り声であった。
『あんた自分の立場理解してる!?
私が
いいから大人しくデルムリン島に引っ込んでろこのド低脳があぁぁッ!!!』
怒鳴り声とともに激しい打撃音が聞こえてくる。
結界の中では
罵倒されたハドラーが三人の攻撃を右手に埋め込まれた『覇者の剣』でいなしつつ怒鳴り返す。
「勇者、貴様ッ…それ以上俺を愚弄するならば容赦はせんぞ!!
貴様のほうこそ大人しく俺について来い!!
この俺を弄んだとあってはいかに大魔王バーン様とあれど看過出来ん!!!
貴様を倒す前に、先に引導を渡しに行く!!!」
黒の
かつて勇者アバンに敗れ、死の淵にいたハドラーを大魔王バーンは現世に蘇らせた。
その行為には善意だけではなく打算も多分に含まれていると、ハドラーとてとうの昔に気づいている。
それに気づいてなお、利用価値があるからこそ大魔王に見出された自分に誇らしささえ感じていた。
しかし、黒の
故に、ハドラーは勇者ドラを伴い大魔王バーンに黒の
大魔王が黒の
為すか、為さないか。
ハドラーにとって大事なのはその二択だ。
そんなハドラーの葛藤と思惑など露ほども知らないドラはキャンキャンとハドラーに噛み付いた。
『無能に無能って言って何が悪いのよ!?
だいたいお父さんを部下に持っておきながら世界征服の一つも出来ないとかどういう事!!?
どんだけ人使うの下手くそなのよこの三流魔王ッ!!!
お父さんとクロコダインが部下にいたら私なら三日で世界征服出来るわよ、この戦下戸!』
「ぐっ…こっ、この小娘〜〜〜!!!」
過去の黒歴史を掘り返されたハドラーがバランとディーノと鍔迫り合いをしながらドラを睨みつけた。
『あっ、もしかしてお父さんの強さに嫉妬して左遷させようとして失敗してたりして〜!?
そんなんだから人望無くすのよこのド三流無能魔王ッ!!』
「
「「ディーナ!!」」
『きゃああっ…
ちょっ…女の子に鎖巻き付けるとか信じらんないっ! セクハラよセクハラ!!
いいから無能は黙って南の島で隠居でもしてろ、バーカバーカ!』
「言わせておけば…!
顎を砕かれたいか貴様ァッ!!!」
「ハドラー! 私の娘に何という酷い仕打ちをするつもりだ貴様ッ!!」
「ぐはぁッ…!!」
「ディーナ、大丈夫!?」
「いたた…ありがとうお兄ちゃん!」
「………………」
何かの聞き間違いかと思ったミストバーンが結界からそっと手を離した。
ほんの少し逡巡した後、再度手を結界に添えて中の様子を伺うとやはり先ほどと同じ。
罵り合いながら激突する勇者とハドラー。
罵り合いには参加せず親子ならではのコンビネーションで徐々にハドラーを追い詰めていくバランとその息子…
およそ勇者の口から出たとは信じ難い罵詈雑言。それも地上で久しく聞いていない流暢な魔族語での罵倒だ。
語彙力がまだ足らないのか、罵る言葉が「バカ」だの「アホ」だのと…どんどん稚拙になっていっている。それに言い返すハドラーも、態度は尊大だが回りくどい言い回しやザボエラのように嫌味ったらしい皮肉は性に合わないらしい。裏表のない罵倒しか口から出て来ないので声だけを聞いていると悪童同志の喧嘩にしか聞こえない。
互いに殺気走った一撃を繰り出す姿と合わせると、なんともちぐはぐな様相を呈した戦闘風景であった。
(経緯は見えぬがハドラーはバーン様に叛意を翻す気か…?
…ここで勇者に倒されれば私が手を下すまでもないか。
この事をバーン様にご報告すれば一時の
結界だけを解き、
ミストバーンが手に暗黒闘気を集中し、結界を砕こうとしたその時だった。
『あ〜〜〜ッ、もう!! いいから大人しくしてなさいよ!!!
黒の
「…………ッ!!?」
ミストバーンが結界から手を離して後退る。
なぜ勇者が魔界にしか存在しないはずの超爆弾兵器、『黒の
それだけに飽き足らず、黒の
(狂気の沙汰としか思えん…!
勇者がなぜ黒の
ミストバーンが姿を消す。
結界の中では、黒の
ドラの『』内の言葉は魔族語。
バランは内容をあんまり聞き取れてません。
ドラ:魔族語ネイティブレベル。やや語彙が足りない。
ハドラー:当然ネイティブ。地上生活が長いので話してるのは地上?語。
バラン:基礎会話くらいならわかる。
ディーノ:魔族語まったくわからない。
余談
ガルダンディーとボラホーンはドラゴンが通路に入れなかったので入り口付近でお留守番中。