「
「
結界の中で大爆発が巻き起こる。
激しい肉弾戦によって大きな亀裂が入り地割れを起こしていた天井や壁が爆発の衝撃で粉微塵に吹き飛んで粉塵の合間から鈍色の空が垣間見えた。
ハドラーが放った
超魔生物となり強大な力を得たハドラーは力だけではなくその魔力も凄まじい進化を遂げていた。
呪文が放たれ爆裂する瞬間に黒い稲妻のようなものが入り混じり通常の
(黒の
リュミベルを持った私と大差ない威力の魔法を放ってくるなんて…!
ん? ちょっと待って…黒の
ハドラーが肉弾戦ではなく魔法で勝負を仕掛けてきた時、パーティ戦での分の悪さを察したドラの背筋に冷たい汗が流れた。
(は、反則…!!)
「ハァ…ハァ…」
「ハァ…ハァ…」
肉体的なダメージよりもいつ爆発するかわからない危険物を相手に戦っているという精神的疲労からドラは冷や汗を流しつつ呼吸を整える。
一方のハドラーも、三対一の不利な状況に加え自分の中にある爆弾に対する
「往生際が悪いわよハドラー…!
お父さんとお兄ちゃんに、私。
その手の剣を今すぐ引っ込めて大人しく私の言う通りにしたほうが賢いと思うけど?」
がむしゃらに暴れ回り逃げ出そうとする犬のリードを右手に、左手には杖を持って時折「放せ!」と言わんばかりに噛み付いてくる
バランとディーノが暴れ回りドラに襲いかかるハドラーを迎撃してくれているからなんとかなっているが、魔力と
「貴様に指図される筋合いはない。
俺は俺のやりたいようにやる。
勇者ドラ、貴様こそさっさと俺に付き従え!
そうすればバランとそこの…ディーノと言ったか? この場に限り二人に手出しはせんと約束してやる」
「え…偉そうに…! あんた一体何様のつもり!?」
戦況は膠着状態。
互いに相手を殺さず連れ去ろうとするあまり決定打が打てないでいる。
舞い散る粉塵が地面へと落ちていき、空中にいる戦士達の姿がはっきり見えるようになるとハドラーに向かけてディーノが口を開いた。
「ハドラー…」
「お兄ちゃん?」
「ディーノ?」
今まで無言で戦っていたディーノが口を開いた事に、ドラとバランが瞬きをする。
一体何を言うつもりなのだと、ドラ達だけでなくハドラーも構えていた剣の切っ先を下げ耳を傾けた。
「ディーナから聞いたよ。
魔族の体を超魔生物に無理やり改造したって…
強さを手に入れた代わりにいろんなものを失ったって…
なんでそこまでして俺達と戦いたがるんだ!?
俺達と戦って、一体お前は何が得られるんだよ!
勝っても、負けても、お前に残るものなんて何にも無いじゃないかッ!!」
相手が襲ってくるから戦う、これは仕方がない。自分の身を守るために必要だ。
悪い事をしている奴らを倒すために戦う。これも仕方がない。誰かがやらなければいけない。
父や妹がそうしてきたように。
悪事を働き世界の秩序を乱すものを断罪するのは
しかし今、目の前にいるハドラーと戦う意義が見いだせない。
かつては魔王として君臨し世界を滅ぼさんとしていたかもしれないが、今のハドラーは違う。
大魔王に仕える一臣下だ。
臣下だから大魔王を討とうとする自分達と戦うのは理解できる。
でも、仕えていた主に捨て駒同然の扱いをされて憤っているハドラーが、なおも自分達と戦おうとするのは何故なのか。
爆弾を埋め込んだ大魔王に憤りを感じているならば自分達に協力して、共に大魔王を討てばいい。
ディーナも、大魔王を討った後にあらためて戦いに応じると言った。
それなのに何故その意見に頷かずに争う事をやめようとはしないのか…
生来、争い事が苦手なディーノにはハドラーが何に対して闘志を燃やしているのかまったくもってわからなかったのだ。
「クククッ…小僧…!
おかしな事を聞きよる…!
何が得られるかだと?」
ハドラーが地獄の炎を宿したような瞳でディーノを睨みつけた。
「戯けた事を…
得られるものなど何も無いわ!
たとえこの戦いに勝てたとて、勇者ドラに魔王軍を壊滅させられた俺の失態が帳消しになるわけもなし…
魔軍司令の座に返り咲けたとて、もはや俺にそのような地位など不要…
顔を歪めて心底悔しそうにハドラーが吐き捨てた。
ミストバーンとキルバーンの実力が未知数とはいえ超魔生物となった今の自分なら圧倒できる自信はある。
しかし全ての力を出し切った後、大魔王バーンに挑もうとする時に一太刀でも浴びせられるかは不明だった。
全てを捨て去って得た力を持ってしても、まだ到達出来ない高みがあるという事実をハドラーは苦渋の表情で噛み締める。
「ならなんで…」
「しかしな小僧ッ!!
たとえ得られるものが無かろうと絶対に譲れないものが俺にはあるッ!!!
他者にとやかく言われ揺らぐような心でこの場に立ってはおらんッ!!!
貴様ッ、男のくせにそのような事もわからぬのか!??
他者の口先一つで簡単に下げるような剣なぞ最初から持つでないッ!!
その程度の半端な覚悟で戦場に出てくるでないわこの戯けがァッ!!!!」
ハドラーの咆哮がビリビリと空気を揺さぶる。
何かを得るために戦う簒奪者ではなく、一戦士としての誇りのみを懸けて戦うハドラーの雄叫びを受けたディーノは呆然とした。
「あっ…」
「危ないディーノ!! ぐぁッ…!!」
「お父さん!!」
放心状態だったために突進してきたハドラーに何の反応も出来ないディーノをバランが庇う。
ハドラーの爪が
ドラが間に入りハドラーと応戦する。バランに回復呪文をかけながら同時に
やがて傷が塞がり身動きが取れるようになったバランもディーノを背に攻撃を仕掛ける。
互いが互いに、譲れないものを守ろうとする純粋な闘争がそこにはあった。
バリンッ!!
いつまでも決着が着かない闘争を打ち破るようにしてガラスが砕けるような音が響き渡った。
結界が破られたと直感したドラがハドラーから距離を置いて周囲を警戒する。
バランも、視線のみを巡らせて周囲を警戒しつつ娘と息子を後ろ手に剣を構えた。
ドラ達の目の前、やや高く空中に浮いたハドラー。
そのハドラーの下にある影の中から不気味な笑い声が響いてくる。
「ウッフッフッフッフ〜♪」
手にした大鎌でドラの結界をあっさりと破壊した死神は無邪気に笑う使い魔を従えてハドラーの影の中からぬるりと這い上がってきた。
「「「!!?」」」
「死神キルバーン…何をしに来た!?」
「おや、苦戦しているだろうと大魔王様の言いつけで加勢に来たのに…随分つれないじゃないか?」
「
相も変わらずくだけた口調で話しかけてくる不躾な男と囃し立てる一つ目ピエロのコンビを「邪魔だ」と、ハドラーは視線で射抜く。
僅かばかり肩をすくめたキルバーンが一歩、ドラ達に向かって進み出た。
「貴様…私と竜騎衆で八つ裂きにしたはず…
何故まだ生きている!?」
「…フフフッ、死神が殺されちゃあシャレにならない。もちろん生きているさ」
「よっ! 不死身のオトコっ!!」
(お父さんとキルバーン、遭遇してたのか…
良かった…! その時頭部を攻撃してなくって…!!)
キルバーンの正体を知っているドラから見た目の前の会話はとんだ茶番だが、流れる冷や汗の量はさらに増えた。
何せ死神の頭部にも黒の
ハドラーとキルバーン…どちらかに内蔵されている黒の
結界が破られて死神が来たという事は今、ここで起こっている出来事は大魔王に筒抜けと見て間違いない。
迂闊に黒の
「やあバラン君、元気だったかい? 久々の再会を楽しもうじゃないか!
…と言いたいところだけど残念ながら取り込み中みたいだねぇ?
先約がいるのでは仕方ない…ハドラー君、彼は僕の獲物なんだけれど今回はキミに譲るよ。
さっきのキミがそこの坊やに語った戦士としての覚悟…
いやぁ、実に胸を打つ良い言葉だった…死神であるボクにさえも、キミの熱い思いがひしひしと伝わってきたよ。
ハドラー君のその覚悟に免じてこの場はキミに譲ってあげようじゃないか…!」
「戦うオトコの覚悟! かっこいい〜!」
わざとらしく人差し指で涙を拭う仕草をした死神が大鎌を地面に突き刺す。
そんな事は欠片も思ってはいないだろうに、キルバーンの肩に座って高みの見物を決め込むピロロを見るに「ハドラーがバランを殺すならわざわざ自分が働かなくてもいいだろう」という本音が透けて見えるようだった。
ハドラーは殺せない。
ハドラーとキルバーンを倒さねば大魔王のもとに辿り着けない。
撤退は出来ない。
ドラは必死に頭の中で考えを巡らせる。
(ここで撤退しても意味がない、状況はどんどん不利になる…
今ここで、キルバーンの本体だけでも先に消すか…?!
でも、そうすればおそらく大魔王バーンがここに来る!
ミストバーンを引き連れて…
どうしよう、どうすればいい、お姉ちゃん…!?)
ドラが目に涙をいっぱいに浮かべながら心の中にいる魂の片割れに語りかける。
ドラの好きなようにしたらいいじゃない〜?
気に入らないなら全部ブッ潰しちゃいなさいよ〜
(そっか! そうだった!! よし、全員潰そうッ!!!)
ドラの耳にだけ、おっとりとした女性の声が響いてきた。
この戦況を見守っていたドラのもう一つの魂は目の前に二つ並んでしまった黒の
自分にとって都合の良い幻聴を聞いたドラが、バランが止める間も無く飛び出し無詠唱で
「なッ…!?」
まさかハドラーを差し置いて自分…それも人形ではなく本体に矛先が向くとは思っていなかったのだろう。
一つしかない目をまん丸く見開いたピロロが驚きに声色を作る事を忘れて素の声をあげた。
風の刃が特徴的な大きい襟に埋もれている素っ首を跳ね落とそうとした瞬間、ドラの体が瓦礫の山と化していた地面を突き破り次々と飛び出してきた何かによって絡め取られる。
「がはッ…!!」
そのまま地面に縫い付けられたドラが体をみしみしと締め上げられ悲鳴すら出せなくなった。
「ディーナ!!!」
「ぐうぅッ…!!」
ドラの体を締め上げているものの正体はミストバーンが放った『ビュートデストリンガー』だった。
十本の指からなる鞭状の指に締め上げられ横たわるドラの頭を、音もなく姿を現したミストバーンが乱暴に足蹴にする。
「フゥ…危ないところだった。礼を言うよ、ミスト」
「ミストバーン…ッ!」
あと少しだったのに…!と、踏み躙られながらもドラが渾身の力で頭を持ち上げミストバーンを睨み上げた。
バランとディーノがミストバーンの長く伸びた指を切り落とし、捉えられていたドラを立ち上がらせながら後退する。
「大事無いか、ディーナ!?」
「ディーナ、怪我は!? ディーナ…?」
救助されたドラは父と兄の問いかけに答えず、ミストバーンから視線を離さないでいる。いや、離せないでいた。
(あいつ、この私を足蹴にしやがった…! この恨みは絶っっっっ対に10億倍にして返してやる…!!)
ドラからの放たれる殺気もどこ吹く風と、ミストバーンはハドラーに近づいていった。
またも現れた闖入者にハドラーが「何用かミストバーン!?」と短く問いただす。
問いただしたところで相手はミストバーン。返事などさらさら期待はしていなかったが…
「ハドラーよ…」
いつもは無言を貫き通すミストバーンが喋り出した事にハドラーだけではなくキルバーンも目を見開いて固まった。
そして続けて紡がれた言葉に、その場にいる全員が息を飲む。
「大魔王バーン様の命だ…
貴様は今、ここで死ね」
今年も残すところあと少しとなりましたね。
思い返せば春先に仕事のストレスが大爆発してなにも考えずに書き始めたこの小説もいつの間にか(トータルで)100話を超えておりました。
いやあ、更新頻度を見返すとなかなか気が狂ってますね!
(書き溜めたストーリーがあるとかではなくて一話書き終えたら次の話を考え始めるスタイルでやってます)
今年はこのまま正気に戻らず駆け抜けていこうと思います。
来年もこの狂気を保ちながら更新を続けたいです。
寒くなってきましたので皆様温かくしてお過ごしください。