ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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94_歓待

「む~、しつこいなぁ。もう眠気が完全に失せちゃったじゃない!」

「ぜぇ…ぜぇ…。キルバーン! こいつすっごく生意気だよっ!

もうここで殺しちゃおうよ~っ!!」

 

ビシッ、とピロロがベッドの上で大きな枕に肘を付き足を組んで居丈高な態度をとっているドラを指差してキルバーンに懇願した。

 

「まあ落ち着きなさい、ピロロ。今はまだバーン様からの許可が降りていないからねぇ…

生憎だがおあずけだ」

「許可?」

 

ドラが眉を顰める。

一体自分の何についてバーン如きの許可がいるというのだ。

 

(何様のつもりよバーンの奴)

 

居丈高な態度を崩さないドラを冷ややかに見下ろしながらキルバーンが命令した。

 

「勇者ドラ、大魔王バーン様が君と話がしたいと仰せだ。案内するからついてきたまえ」

「私は話す事なんて何もないけど?」

「君の都合など誰も聞いていないさ。偉大なる大魔王バーン様がそうしたいと仰っているんだ。

答えはハイかイエスの二つだけだよ。

 

…君が意識を失っている間にボクやミストは君を処分するべきだとバーン様に進言したんだがね。

しかしバーン様はボクやミストの意見には耳を貸さず、牢に閉じ込める事も足枷を付けて拘束する事すらも許さなかった。

今、君がこうして無傷で温かいベッドの上にいられるのは(ひとえ)にバーン様の温情に他ならない。

寛大な御心で君との会談を望むバーン様に、今度は君がひとつ『義理』を返す必要があると思うがね?

違うかい?」

 

(違うに決まってる。それは義理とは言わないし返す返さないは私が決めることよ)

 

そう思ったがドラは口を開かなかった。言ったところで相手がドラの意見を必要としていない事は明白だったので。

こちらが望んでもいない事をさも仰々しく『恩』として突きつけて『恩返し』を要求をする、詐欺師の常套手段だ。

質問に対して無言ながらも表情で明確に「ノー」と示すドラにキルバーンは焦れた様子で手にした大鎌をくるくると回しながら喋り出す。

 

「フン…強情だね。

まあ意地を張っても無駄さ。ここから逃げられるなどとは思わない事だ。

バーンパレスにはボクやミスト以外にも戦闘に長けた者や魔王軍に楯突いた小娘を殺したくてたまらない奴がひしめき合っているんだからね…

力づくでバーン様の前に引き摺り出されたくなければとっととベッドから降りてボクについて来い」

 

言われてドラはむすっとした表情のままベッドから降りた。

キルバーンに従う形になるのは癪だが確かにベッドの上で押し問答をして無駄に時間を潰すというのもいただけない。

バーンが何を言い出すか大方予想は付くがまず穏便に話し合いを、というのなら乗ってやってもいいだろう。

ひとまずはここを出て自分がバーンパレスの何処にいるのか、現在位置を知らなければ…

レオナから貰った一張羅を台無しにされたのだ。

せめて魔力炉の一つや二つ、ブッ壊さないと腹の虫がおさまらない。

 

「と、その前に…」

 

扉に向けて歩き出したキルバーンがくるりと踵を返してドラの頭のてっぺんから爪先までをまじまじと見た。

 

「な、何よ?」

「酷い格好だ…とてもバーン様の前に出せる姿ではないね。

バーン様の御前に出るなら多少なりとも身なりを整えてもらわないとねぇ」

「ドロドロ〜♪ ボロボロ〜♪」

 

そう言ってキルバーンがドラを連れて行ったのは衣装部屋であった。

 

「うわぁ…」

「生憎、今この城にあるドレスで君のサイズに合いそうなのはこれだけしか無くてね…

数が少なくて申し訳ないがこの中から選んでくれたまえ」

「これ…どれ選んでもいいの?」

「勿論だとも。女性に贈ったドレスを返せというほどバーン様は吝嗇ではないさ。

ただし、ボクはあまり気が長いほうではないからね…とっとと着替えてくれたまえ」

 

バタン、と大きな扉を乱暴に閉めてキルバーンは退室していった。

部屋に残されたドラは目をまん丸くして部屋を見渡す。

キルバーンは数が少ないなどと言ったが、ロモス王国のお城の大広間ほどもある部屋の中には数百着のドレスがずらりと並び、その下にはドレスとセットになっているらしい靴がこれまた数百足並べられていた。

部屋の奥には大きな姿見もある。そしてその姿見の隣に設られた棚にはキラキラと光る宝飾類が数えきれないほど並べられており、どれも眩く輝いていた。

 

「わあっ、このドレス可愛い! あっ! こっちのドレスも素敵っ!!」

 

あっと言う間に煌びやかなドレスに意識を持っていかれたドラが弾んだ声で「キャ~!!」と歓喜の声を上げた。

扉の向こうから聞こえてくる黄色い声にキルバーンはやれやれ…と溜息とともに肩を竦める。

ピロロがイライラとした様子でキルバーンの肩に指をトントンと打ち付けながら、大魔王との会話を思い返していた。

 

『キルバーンよ、勇者が目覚めたら奴の機嫌をとっておけ』

『機嫌…ですか? バーン様は捕らえた勇者を一体どうなさるおつもりで?

まさか、魔王軍に勧誘する…なんて言いませんよね?』

『そのまさかよ』

『…お言葉ですがバーン様。今までのあの小娘の所業を考えたらとても上手くいくとは…

だいたい、まがりなりにもあの小娘も『勇者』ですよ?

首を縦に振るとは思えませんがね』

『なに、あやつはまだ子供よ。目の眩むような錦衣玉食を味わわせて甘い言葉を囁けば案外ころりと靡くやもしれん。

女などという生き物は自分の利を求めるだけの浅はかな頭しか持っておらん。子供であればなおさらよ。

おそらく人間どもに戯言のような正義感でも植え付けられて『勇者』などと担ぎ上げられておるのだろうが…

 

さて、悪いのは実は『人間』で正義は我々『魔族』にあると教えられた時にどのような表情をするであろうか?

絶望に打ちひしがれた時に人類の敵である余が優しく手を差し伸べたら一体どんな表情でその手を取るか…』

 

クックックック…

 

そう言って盃を傾ける大魔王バーンをキルバーンは呆れたような目で見つめた。

 

 

(ええい、思い返すだに腹立たしい! なんでボクがあのクソガキの機嫌なんぞを取らなきゃいけないんだ!?

確かにミストには無理だろうが、ボクの本当のご主人様はヴェルザー様なんだぞ!?

元はと言えばクソガキの親父(バラン)がヴェルザー様を封じたせいで地上に来る羽目になったのに…!

バーンとクソガキを片付けて魔界に帰ったら褒美をたっぷり賜らないと割りに合わない…!!)

 

バーン暗殺の命を受けたピロロはここ数百年、表向き大魔王バーンに従いつつ悪趣味な命令をいくつもこなしてきた。

出向先の上司から下された過去の面倒な命令の数々を数珠繋ぎで思い出し腹立ちを募らせていた時衣装部屋では…

 

「これもいいけどこっちも可愛い…どれにしようかな〜…え? わっ、なに?! 背中がもぞもぞする…きゃあっ!??」

「っピィ~~~!!!」

「ゴメちゃん!!?」

 

ドラの服の中から飛び出してピィピィと鳴きながら羽ばたき回るゴメちゃんにドラが目を白黒させる。

 

「ゴメちゃんいつの間に私の服の中に…っていうかついてきちゃったの!?」

「ピィ!」

「私のために命懸けで…ゴメちゃん〜〜〜っ!」

「ピィ〜〜〜っ!」

 

ひしっと抱き合う二人だったが、その時扉の外からキルバーンの苛立たしげな声が聞こえてきた。

 

「まだ着替え終わらないのかね? 待ちくたびれたよ。

バーン様を待たせるわけにもいかないんだ、いい加減に…」

「わわっ…まずい、ゴメちゃん隠れて隠れて…!!」

 

そう言って無遠慮に扉を開けたキルバーンにドラが血相を変え、慌てて着替えたドレスにゴメちゃんをぎゅっと押し込んだ

万が一にもゴメちゃんの存在がバーンの耳に入り、その正体が『神の涙(神話級アイテム)』だと見破られたら一大事である。

 

「ちょっと!! レディが着替えてるのに入ってくるなんてどういうつもりよ!!!」

「レディ? どこに淑女(レディ)がいるって?

安心したまえ、ボクはキミみたいな貧相な体つきの小娘になんてまったく興味が無…」

「………」

「………」

 

キルバーンの視線がドラの胸元に吸い寄せられた。

その、あまりにも不自然な膨らみを見たキルバーンがドラの胸を無言でじっと凝視する。

一方のドラは咄嗟の事とは言え、ドレスの胸元に無理やり押し込めたゴメちゃんがもしやバレたのかとダラダラと冷や汗を流して固まった。

 

しばし無言だった二人だがキルバーンが「失礼、ゆっくり着替えてくれたまえ」と言って扉を開けて廊下に引き返す。

ゴメちゃんの存在が露見しなかったことにほーっ…と安堵の息を吐いたドラだったが、扉を閉める間際キルバーンが声をかけてきた。

 

「まあ、キミくらいの年齢の子供が背伸びをしたがる気持ちもわからなくはないがね…

ひとつ忠告をしておいてあげよう。無いものねだりもほどほどにしておきたまえ。

あまりにも過ぎた見栄は見ている側も虚しい気持ちにさせるからね」

「ほんとの胸はぺったんこ〜!」

 

「うっさいわねッ!! いいから早く出てってよッ!!!!」

 

ぺったんこなんて言われるほど小さくないっつの!!

 

そう叫びながらドラは閉じられた扉に向かって手近にあった靴を投げつけた。

肩を荒げつつもドラはヒラヒラとしたフリルがあしらわれた愛らしい薄桃色のドレスに着替え、胸元にゴメちゃんを隠し直した。

ゴメちゃんが苦しくないように、そして先ほどよりはやや膨らみを減らして調整しつつ靴とアクセサリーを適当に選んで部屋を出る。

他にゴメちゃんが隠れるのに適した場所が思いつかなかったからであって決して見栄を張ったわけではない。

ないったらない。

 

キルバーンはまた胸元をじっと見てきたが、今度は何も言わずそのまま無言で歩き出した。

それはそれでイラッとしたドラだったが薮をつついて面倒な事態になるのは避けたいのでこれまた無言で後をついていく。

10人は並んで歩けるだろう幅広い廊下を歩き続けて案内されたのは、天井近くまである巨大な両開きの扉の前だった。

 

「大魔王バーン様、勇者ドラをお連れしました」

「入れ」

 

その言葉に誰も触れていないはずの扉がギイィ…と音を立ててゆっくりと開かれていく。

原作で大魔王がいた玉座の間ではなかったが、貴族が舞踏会でも開催しそうな雰囲気の荘厳で広大な部屋だった。

部屋の中央に置かれた巨大な流しテーブルの一番奥…上座にあたる部分に一人の老人が座っている。ミストバーンとザボエラがその後ろに立ち、こちらを見据えていた。

 

「………!」

 

老人から放たれる魔力が容赦なく肌を刺す。

初めて直に触れる大魔王の圧倒的な魔力に、ドラは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「よくぞ来た、勇者ドラよ…

 

余が、大魔王バーンである。

 

そなたを歓待しよう」

 

歓待、と言う言葉とは裏腹に…その瞳には見た者の魂すら凍てつかせるような恐ろしく冷たい光が宿っていた。

 

 

 




これで年内更新は最後となります。
2022年は連載小説に初挑戦して頭の中がダイ大一色になった年でした。
引き続き、2023年もお話を書き続けていきたいと思います。
本作を読んでくださっている読者さま方には感謝しかありません。
皆さま、良いお年をお迎えください(^-^)
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