ロモス王国のとある深い森の中。
大きく口を開けた
その洞穴の奥底に広がる殺風景な空間に、鎧を装備した巨躯を持つリザードマンが胡座をかき静かに目を閉じていた。
クロコダイン…、獣王クロコダインよ…
洞穴の天井にぶら下がった
「んんっ!? 誰だ? 何用だ?」
「クロコダインよ…オレだ…ハドラーだ」
悪魔の目玉が映し出したのはかつての魔王、今は魔軍司令となったハドラーだった。
「おお!魔軍司令殿かっ! これは無礼をした」
「どうしたのだ…お前にはロモス王国攻略を命じておいたはず…」
「…なかなかに腕の良い魔法使いがいるようでな。
厄介な足止めをされて手こずっているが、何、人間ども自体は吹けば飛ぶような腰抜けばかりよ。強い奴など一人もおらんわ。
オレさま自ら戦わずとも我が百獣魔団の
「…フフッ、相変わらずだな…だが今日はその件ではない。
実は我が魔王軍に楯突く者が今、魔の森にほど近い『ネイルの村』におるのだ。
お前の手で始末してくれ」
「何っ!強いのか!?」
悪魔の目玉が瞬きをすると映像が切り替わり、一人の少女を映し出す。
「こいつだ…名前はドラ!!」
そこに映し出されたのはいかにも「非力」を体現したかのような華奢な少女。
腑抜けた笑顔を浮かべた横顔はいかにも「暴力」「争い」「戦い」など…クロコダインが求め続けてきたものとは無縁そうな、それどころか避けて通ってきたであろう生ぬるさを感じさせた。
あまりにも予想外な映像が映し出され、さしもの獣王も一瞬の動揺の後、腹の底からこみ上げてくる震えに堪えきれず自慢の大口を開いて爆笑する。
「クッ、クククッ…ワッハッハッハッハッーーーー!!」
「なにがおかしい!?」
「グッフッフッ… 冗談はやめてくれ
仮にも“獣王”と異名をとるこのオレにこんな非力な小娘の相手をしろというのか!?」
「小娘だと思って侮ってはいかん。
こいつは信じられないような底力を秘めているのだ。
この俺も手傷を負わされたわ!」
「なんと…ハドラー殿に手傷を…!?」
「そうだ! まだ力を付けぬうちに殺してしまわねば、必ずや我らの難敵となるはず…!!」
「フフフッ…面白い…!! ハドラー殿を傷つけるほどの小娘…、是非とも戦ってみたくなったわ!!」
「頼んだぞ、確実に葬れ!!」
未だ悪魔の目玉の瞳に映し出されたドラ。
その特徴を覚えるためクロコダインは映し出されたドラを見る。
時をおかず、悪魔の目玉が瞳を閉じてその姿が消える瞬間…、射抜くような鋭さで眼光を光らせるドラと目が合った。
「…!!? 気のせいか…?」
クロコダインは一瞬、気圧された自分を恥じるように大きな頭と尻尾を横に振った。
ともかく目指すは魔の森近くにあるネイルの村だ。
待っていろよ…小娘…!!
一方、ネイルの村の入り口付近。
木にぶら下がってこちらをじーっと見つめる悪魔の目玉、を見つめ返すドラ。
(あれ、バレてないつもりなのかな…?
まあ、あちらから向かってきてくれるなら手間が省けるから良いか)
ネイルの村。
ここはロモス王国にある、深い森の東に位置する村である。
元々は森の恵みを受けて細々と生活を営むどこにでもある村だった。
それが魔王が復活してほどなく、森にたくさんの
重ねて悪いことに
村に住む男たちも例外ではなく今、村には戦えるような男手がほぼいない。
村にはいつ
「へ~、ここがネイルの村か…、小さい村だな~」
「ピィー」
「ここに私たちの姉弟子がいるって聞いたけど…まずは村長さんにでも聞いてみようか?」
「おや、見ない子たちだね? 旅人かい?」
「はい、この村に人を探しに来たんです。村長さんの家はどちらですか?」
「村長の家ならあっちだけど…あんたたち、もしかして『魔の森』を抜けて来たのかい?」
「「魔の森?」」
「ああそうさ、この村は『魔の森』…元々迷路のような森でねぇ、最近は
「私たち、
「おやまあ!
「へへっ、まあね! 俺たちこれでもアバン先生の弟子なんだぜ!」
「まあ!? アバンさんの!?」
「おばあさん、アバン先生のこと知ってるんですか?」
「ああ、知ってるとも。数年前この村に滞在していたことがあってね…。
そうかいアバンさんの…。そういうことなら村長の家まで案内するよ。ついといで」
「ありがとうございます!」
「ピピィッ!」
森の中を通過することなく目的地であるネイルの村まで来たので自分たちの眼下に広がる深い森が『魔の森』とは知らずに到着したのである。
そのまま村長の家まで案内され歓迎されるドラとポップ。
「おお! アバンさんのお弟子さん達とは!」
「アバン先生の弟子のポップって言います。こっちは妹弟子のドラ」
ぺこりと挨拶するポップとドラ。
「この村にアバン先生から、私たちの姉弟子にあたる人がいるって聞いたんですけれど…」
「それでしたら『マァム』のことでしょう、数年前にアバン殿がこの村に滞在した時に弟子入りしてましてな。
ただ、今は村の周辺に見回りに行っております。まだしばらくは戻らないかと…」
「そうですか…あ、でしたら…」
マァムが戻って来るまでまだ少し時間がかかるらしい。
小さな村のこと、時間を潰すような店や名物があるわけでもなく手持ち無沙汰になると思ったドラがある提案をした。
村長から許可を貰い、村の外周を大きく囲むように円形状に進んでいく。
拾った木の枝でガリガリと地面を削っていくドラ。
「へ~、
「そうそう。先生ほど得意じゃないからちょっと時間かかっちゃうけどあれば少しは安心でしょ?」
「さっすがドラ」
「ポップも手伝ってよ~」
わいわいとお喋りしながら、森の中を歩く2人。
あたりは日が暮れ、じきに夜の帳が下りてくる頃合いだ。
昼間でも鬱蒼とした薄暗い『魔の森』はもうすでに木々の形もわからなくなるほど、暗闇と同化し漆黒の迷宮へと変容していた。
「そこの2人組! 何者!?」
「へ?」「は?」
「怪しい2人ね! 村の外で何をしているの!? まさか魔王の手先か何か!?
村に何かする気ならタダじゃおかないわよ!!」
突然の詰問に間の抜けた声を出す2人。
声の主はずかずかとこちらに向かって来るが陽の落ちた今、うっすらとした輪郭しかわからず顔はまったく見えない。
様子を伺っていたドラだがポップは違ったようだ。
魔王の手先呼ばわりされてカッと頭に血が上ったらしい。
「はあっ!? てめえこそ何もんだよ!?
こっちは魔王と戦う正義の使者だぜ!! まずはてめえが名乗…っ!?
んん…っ!?」
「何すんのよ! このスケベ!!」
「でっ!!」
人差し指を突き出しながら声の主に詰め寄っていったポップだったが、薄暗がりの中、距離感がうまく掴めなかったらしい。
相対した女性の乳房に指を突っ込み、速攻でしたたかに掌底をくらっていた。
顔に付けていたゴーグルを勢いよく上げてこちらを睨みつける女性。
身長はポップより少し高いくらい。
髪は桃色で肩までつく程度の長さ。
オレンジ色の半袖、ミニスカート丈のシャツに黄色のタイツ。
腰にはベルトを巻いていて、珍しい形状の武器が装備されている。
履いている膝丈の黒ブーツがひきしまった印象を出していて勇ましい。
こちらをキッと睨みつける、意思の強そうな眉に少しつり目がちだがくりくりとした愛嬌のある目は彼女の気の強さと活発さをよく表している。
そして開いたシャツの胸元から見える豊満な乳房の谷間とぴったりとしたタイツから見て取れる色気と若さ…
なるほど、原作においてマトリフがふらふらと引き寄せられてセクハラするわけである。
あまりにも迂闊な格好だし無防備だ。
女性の素性を確信してドラは質問を投げかける。
「あの、マァムさんですか?」
「え? ええ、そうだけど…あなた達は?」
「私たち、アバン先生の弟子です。あなたを探してました!」
「アバン先生の!?」
「ええ…この乱暴な女が…? あ、いや…」
まだ痛むのであろう鼻を抑えながらポップが悪態をつくが再びマァムに睨まれて慌てて言葉を引っ込める。
お互いの素性を確かめ合いドラが旅の目的を話そうとした時…
ヴオオオォォォォォォォォォン………ッ!!!!!
森全体を震わせ、地に着いた足からもビリビリと振動が伝わってきた。
獲物を求め仕留めんとする、欲に飢えた獣の咆哮が響いて来たのである。
少し短いけどキリの良いとこで区切り。
村人から見た判定
ポップ:無害そう
ドラ:無害そう
ゴメちゃん:モンスターだけど2人と一緒にいるしペットのスライムか何かなんだろう
スライムをペットにして旅をしてる仲の良い兄妹に見えるのでモンスター連れててもセーフ