ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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97_ドラムーンのゴロア

「ピッ、ピピィ?」

 

天魔の塔の階段を駆け上がろうとしたその時、ゴメちゃんがドラに待ったをかけた。

 

「ん? 魔力炉をどうやって壊すか、何か考えがあるのかって?

当然! いい? 魔力炉は魔力吸収と伝達を繰り返して生きてる半生命機械でしょ?」

「ピィ」

「半分が生命体で出来てるなら、目の前に美味しそうなご馳走があったら手を出さずにはいられないはず…

つまり私が近くまで寄れば触手を伸ばして襲いかかって来る!!

その触手を通じて逆に魔力を大量に送り込んで動作不良を起こしてやるの!

魔力炉を直接攻撃しようとしてもバーンがあらかじめ強力なバリアを張ってる描写が原作にあった気がするし…

私の魔力を限界まで送れば許容量を超えてパンクするはず…どう!? 良い作戦でしょ!」

「ピィ…」

 

そう上手く行くのだろうか…とゴメちゃんが不安そうにドラを見つめる。

 

「大丈夫だってば!

そりゃ、大量の触手に絡め取られるのはあんまり気乗りしないけど…

これも『ダイの大冒険』の世界に生まれてきた美少女の運命(さだめ)…!

自分の運命を受け入れる覚悟は出来てるわ!!」

「ピ…」

「さ、もたもたしてたらまた敵に囲まれちゃう!

行こうゴメちゃん!!」

「ピィィ~~~っ!!」

 

違う、心配しているのはそこではない。

どこかズレた覚悟に一抹の不安を感じながらもゴメちゃんは走り出したドラの後を追って天魔の塔の階段を駆け上がった。

 

タッタッタッタッ…

 

タッタッタッタッ…

 

タッタッタッタッ…

 

タッタ…

 

天魔の塔を三分の一ほど登った時だろうか。

軽快な足取りで階段を登っていたドラの足がピタリと止まる。

 

「…おかしい。

 

あれ? なんで魔力炉は襲ってこないの?

こんなに豊潤で溌剌とした魔力に満ち溢れてる絶世の美少女が無防備に歩いてるのに…

原宿のスカウトならぬ街道の盗賊が目の色変えて我先にと群がるような極上の獲物なのに…

 

美少女(わたし)を襲わない触手が存在するなんて事ある…?!」

 

いや、普通に存在するだろう。

前世の偏ったオタク知識のせいで触手を持つ生物に対する偏見が凄まじい事になっている。

原作でだって、レオナが魔力炉に襲われたのは美少女だからというわけではない。

レオナがその時持っていたアバン特製の(フェザー)が目当てだったからである。飢餓状態に陥った魔力炉が(フェザー)に詰まっている大量の魔力を吸収するために持ち主であるレオナごと絡め取ったに過ぎないのだ。

 

絶対的な自己肯定感と偏った知識から、自分を狙わない触手が存在する事に首を傾げるドラが階段の途中に天魔の塔内部へと通じていそうな通路を見つけた。

通路というよりはどうやら通風口らしかったが、人一人通るくらいは余裕の大きさのそれを伝って塔の内部へと侵入する。

薄暗い通路を進み太陽ではない人工的な光が漏れてくる先にいたのは…

 

「…ム~ン、ムム~ン。

はぁ…来る日も来る日も同じ事の繰り返し…もう嫌なんだム~ン。飽きたんだム~ン。

いっそこの仕事を辞めたいム~ン。

辞めて一からスタートするなら年齢的にも今が最後のチャンスかもなんだム~ン…!

 

でも、辞める時にバーン様から授けられた魔力や能力は返さなくちゃいけないム~ン…

一からどころかマイナスからのスタートになってしまうム~ン…

やっぱり今の待遇のまま定年まで勤め上げるのが最善策なんだム~ン。はぁ…」

 

なんだかサラリーマンの悲哀のような呟きが聞こえてきた。

 

「でも毎日「辞めたいなぁ」って思いながら働くのって辛くない?」

 

「そりゃ辛いけど…「バーンパレスで働いてる」って言うとお店の女の子の食いつきが違うんだム~ン」

「へー、やっぱり魔界にもそういう人気の勤め先とか肩書きってあるんだ」

「そりゃあ天下の大魔王バーン様のお膝元で働けるのなんて魔界でもほんの一握りなんだム〜ン。とんでもない激戦をくぐり抜けないと無理なんだム~ン!

魔界では千年もの間『就職したいダンジョンランキング』堂々の1位なんだム~ン!」

「おお~、それは凄い! 千年間トップはそこに勤めてる人達の努力の賜物だねぇ」

「お前、なかなかわかってるんだム~ン!

その通りなんだム~ン。このレベルの施設を長年維持出来ているのはパッと見は地味でも日々休む事なく裏方を支えているワシらのおかげなんだム~ン!

 

…でも、「バーンパレスで働いてる」って言ったあとに「戦闘員じゃない」って言うと女の子が「なんだ、ハズレだわこいつ」って顔に出すのが心を抉るんだム~ン」

「あ~、戦闘職って危険だけど高給取りなのは地上でも魔界でもどこでも変わらないよね。

地上でも王様に仕える人の中でも騎士とか兵士さんとかの花形は女の子に大人気だもん」

「そうなんだム~ン。事務やメンテナンスだって大切な仕事なのにあいつらばっかり大きい顔するム~ン」

「う~ん…何かスキルを磨いたり勉強し直して独立して身を立てるっていうのはダメなの?」

「そんな事出来ないム~ン! 大魔王様から言い渡された役目を自ら退任したなんて知られたら…!

次の就職に響くどころか皆からなんて言われるかわかったもんじゃないム~ン!!」

「うわぁ…しがらみで身動き取れなくなっちゃってるんだ、可哀想…

大丈夫? 私で良ければ話聞くよ?」

「ム~ン…そんなに優しい言葉、初めてかけられたム~ン…!

いつも一人で魔力炉を制御してるしバーンパレスにいる連中には愚痴を言えなかったんだム~ン…ッ!!」

「辛かったねぇ、お疲れさま」

「うぅっ…バーンパレスにこんなに優しい女の子がいたなんて…!! ム~ン!

一体バーンパレスのどこにい…

…ムッ、ムムッ!??

 

お前、誰だム~ン!??

 

バーンパレスで見た事ない顔だム~ン。魔族ですらないム〜ン」

 

ドラムーンのゴロアは目を白黒させてドラを指差して叫んだ。

ゴロアの仕事は魔力炉の管理のみだ。戦闘も出来ないではないが、戦闘員としては頭数に入れられていない。

よってバーンパレスの戦闘員に通達された「勇者ドラを生捕りにせよ」という大魔王の命令も知らされず常と同じように魔力炉の管理に明け暮れていたのである。

 

「あれ? 表で結構派手に暴れてたんだけど聞こえなかった?

初めまして、勇者のドラです」

 

大魔王から贈られて着たままになっていたドレスのスカートの裾を軽く持ち上げてドラが挨拶をした。

 

「おっ、おっ、お前が噂の勇者ドラ…!?

さっ、さてはバーンパレスの心臓である魔力炉を破壊しにやってきたんだム〜ン!??」

「いいえ、違うわ! 私はね…

 

 

魔力炉に襲われに来たのよ!!!」

 

「お前は何を言っているんだム〜ン?」

 

ゴロアの頭上に大きい?マークが浮かぶ。

魔力炉に襲われに来た? ちょっと言っている意味がわからない。

魔力炉は確かに巨大で醜悪な見た目をしているが、あくまでバーンパレスに魔力を循環させるだけのエンジンであり生物を襲ったり暴走状態に陥った事など一度もない。

何かの聞き間違いだろうかとゴロアが日頃のストレスから来る自身の難聴を疑い始めた時、ドラがゴロアに畳み掛けた。

 

「だからちょっと魔力炉を操作して私を襲わせてほしいんだけど」

「本当にお前は何を言っているんだム~ン?」

 

困った。見た目は可愛いのにバーンパレスで一番脳筋の類の連中よりも会話が成立しない。

 

「ワシの仕事は魔力炉の管理であってそんな器用な操作は出来ないム〜ン」

「え? だって魔力炉なんだから魔力が食事みたいなものでしょ?

じゃあ私の魔力を吸うように指示すればいいだけじゃない。

…っていうかなんで魔力炉は私の魔力を吸おうとしないわけ?」

 

そこがまずわからないんだけど…と、心底不思議そうな顔をするドラに小心者だが根っからの悪人ではないゴロアが呆れ顔で説明する。

 

「魔力炉は現状稼働率60%で至って正常にバーンパレスに魔力を安定供給しているム〜ン。

バーン様の魔力で十分間に合ってるんだム〜ン」

「………」

「お前の魔力は必要ないム〜ン。仕事の邪魔だから、もうここから出て行くんだム〜ン」

「………」

 

「ピ、ピィ…?」

 

ド、ドラ…? と、ゴメちゃんが無言で俯いてしまったドラに恐る恐る声をかける。

 

「…そえ」

「ん? 何か言ったム〜ン?」

「いいから私を襲えって言ってんのよーーーッ!!!」

「な!? 年頃の娘が何を言い出すんだム〜ンッ!??」

 

突然声を荒げて自らを襲えと言い出したドラにゴロアが慄いた。

スー…と静かにドラから距離を取るが興奮した様子のドラがなおもゴロアに詰め寄る。

 

「ゴロアあんた重力操れるんでしょ!?

だったら魔力炉にちょっと攻撃すれば危険を感じ取った魔力炉が反撃行動に出るでしょう!?

とっととやりなさいよッ!!!」

「ひぃっ…?! なんでワシの名前と能力を知ってるんだム〜ン!?

個人情報の流出なんだム〜ン! さてはワシのストーカーか何かなんだム〜ン!

…というか自分で魔力炉に攻撃すればいいんだム〜ン?!」

「それじゃ美少女(わたし)の沽券に関わるのよ!!

ただ襲われるのと自分が先に攻撃した結果襲われるのとじゃ天と地ほどに差があるの!!

いいから四の五の言ってないで触手で私をがんじがらめにして魔力吸い取らせなさいよーーーッ!!!」

「キャーーー!! 変質者なんだム〜ン! 暴漢なんだム〜ン!

誰か助けてなんだム〜ン!!」

「ピィ〜〜〜っ!」(落ち着いてドラ! 作戦の趣旨が変わっちゃってるよ〜!)

 

魔力炉の根元で逃げ回るゴロアをドラが追いかけて広い部屋の中を三周ほどした時だった。

部屋の規模に見合う大きな扉が勢いよく開いて大勢の追手が雪崩れ込んできた。

 

「勇者だ! ここにいたぞ!!」

「全員でかかれぇーーー!」

「「「「ウオオォーーーッ!!」」」」

 

「チッ…囲まれた。…そうだ!

刷り込み(インプリント)!!」

「ッガァ…!?」

 

ドラが一瞬呆けて動きを止めたゴロアのもとに素早く近寄り渾身の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を手のひらに集中させて刷り込み(インプリント)を額に叩き込む。

 

「ゴロア、全員に超重力波全力放射!!!」

「ム~~~ンッ!!!」

 

ドオォォォンッ!!

 

「「「「ぐあぁぁぁ…ッ!!」」」」

 

広い空間に地鳴りのような太鼓の音が響き渡る。

部屋に雪崩れ込んできた魔物達は地面に四肢を縫い付けられ、立ち上がれないどころか内臓を潰そうと体にのしかかる重力に必死に抗いながら悲鳴をあげた。

 

「おお〜、凄い…ポップの重圧呪文(ベタン)と同じくらいの威力でこの攻撃範囲…

やるじゃんゴロア!

でも、さらにそこに…!」

 

ドラの口角がニィ、と上がる。

 

重圧呪文(ベタン)!!」

「「「「ギャアアアアッ」」」」

 

部屋の中に壮絶な断末魔の合唱が響き渡りグチャボキグシャリとそこかしこからおぞましい粉砕音がまるで狂ったリズムの打楽器のように鳴り響いた。

ほんの束の間だけ開催されたコンサートが終わると部屋の中に残されたのは聴衆だったドラとゴメちゃん、そしてゴロアのみ…

演奏者は皆、真っ青な血の絨毯の中で永遠の眠りについてしまった。

 

「あ…あああ…

もうお終いだム〜ン…

勇者に操られたとはいえ…仲間を大量に殺してしまったム〜ン…

ワシの処刑は確定なんだム〜ン…!」

 

力なく床に座り込んでしまったゴロアにドラが声をかける。

 

「それだけじゃなくて『大魔王の命令で勇者を捕らえようとしていた味方を当の勇者と協力して皆殺しにした』んだから、共犯者として拷問刑もあり得るんじゃない?」

「ひいぃ…」

 

十分あり得そうだと頭の中で想像してしまったのだろう。

頭を抱えて項垂れ伏したゴロアの肩にドラがポンと手をかけた。

 

「ゴロアは悪くないよ。こうなったのは私のせいなんだから、その責任はきっちり取るよ。

私が命に代えてもバーンパレスからゴロアを逃してあげる」

「ほ、本当かム〜ン…?」

 

縋るようにドラを見上げるゴロアに向けてドラが微笑んで頷く。

 

「地上にある私の領地、そこまで逃げればバーンも手出し出来ないからしばらくはそこに隠れてなよ。青い海に囲まれた南の島なんだけど…

ゴロア、お仕事辞めたがってたしゆっくり骨休めしながら今後について考えればいいよ」

「お、お前…恩に着るム〜ン!」

「お礼はまだ早いってば。まずは無事逃げ出せるように私に協力してちょうだい」

「こうなったらヤケクソだム〜ン。勇者ドラに協力するム〜ン」

「よ〜し、バーンパレスから脱出したらデルムリン島でゴロアの歓迎パーティーしよう!」

「ム〜ン!」

 

(悩みを抱えた男は付け入る隙が多くて助かる〜)

 

犯罪の片棒を無理やり担がせて半ばパニック状態に陥ったゴロアを言いくるめて共犯者に仕立て上げたドラは内心ほくそ笑みながら心の中でガッツポーズをとったのであった。

 

「ピィ…」

 

 

 




魔力炉「間に合ってます」

『ダイの大冒険』で触手に襲われた女性達
フローラ様(アバンと出会った時)
レイラさん(若かりし頃)
マァム
レオナ

触手に拒否られたヤツ
ドラ
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