本文に挿絵、あとがきに小ネタ1点あり
注:魔力炉のシステムについて一部捏造あります
ゴロアに連れられ、ドラは巨大な魔力炉本体のある部屋のさらに上階に案内された。
上階には魔力炉へ安定的に魔力を供給するための、大魔王バーンの魔力を一旦貯めておく巨大な
「おおー…」
「これが魔力を貯めておくタンクだム~ン」
「すごい!! 大きい~!!」
ドラが百人で手を繋いでやっと囲めそうなほど巨大なタンク。ビル三階分はある高さのそれを見上げながらドラは感嘆の声をあげた。
ゴロアの説明によるとタンクの中には大魔王バーンの魔力が貯蔵されており、必要に応じて魔力炉がここから魔力を吸い上げバーンパレス各所にエネルギーとして供給する仕組みらしい。
原作ではあまり詳しくは描かれていなかったが、なるほど。
納得が行くとともにドラにとってこのシステムは予想外に嬉しい誤算だった。
武器であるリュミベルが手元に無い今、弱体化していない魔力炉を破壊するのはさすがに無手では骨が折れると思っていたからだ。
「このタンクにはバーンの魔力が満タンに詰まってる…
という事はこのタンクに私の魔力を流してバーンの魔力と一緒に強制的に魔力炉に送れば案外簡単に不具合を起こせるかも…!
ゴロア偉い! さっすが魔力炉の管理者!!
案内してくれてありがとう~!」
「フフン、ワシの凄さがわかったかム~ン」
腕組みをして誇らしげに胸を張っているが別にゴロアは凄くない。
凄いのはこのシステムを思いついて実用にまで至った大魔王バーンである。
日頃褒められる機会にまったくと言っていいほど恵まないゴロアがひっくり返りそうなほど鼻を高くしている間にドラはタンクの上に飛び乗った。
タンクの淵に着地して並々と蓄えられている魔力に躊躇なく腕を浸す。
「私の魔力でお腹をはち切れさせてあげる…さ、た~んと飲んで♡」
凝縮されタンクの中を液体のように漂う大魔王バーンの魔力にドラの魔力が流れて混じる。
浮遊している真紅色の魔力に干渉し流れを作り、魔力炉の根に次から次へと無理やり魔力を注ぎ込む。拒絶し根を閉じようとした魔力炉の動きはドラとゴロアによって阻害され、限界量を超えて魔力を注がれた魔力炉はついにその機能を停止させた。
「む…」
「あっ、あの小娘…ッ! バーン様の魔力炉になんという事を…!!」
「おやまあ、魔力炉の管理者がこうもあっさり裏切るとは」
「裏切り者〜! 死神キルバーンの出番だね~♪」
「………ッ!!」
悪魔の目玉から送られてきた映像に大魔王バーンは手にしていた盃を強く握りしめ、いとも簡単に粉々にした。
ザボエラは魔力炉については知っていたが、自分でもおいそれと歩き回れないバーンパレスを我が物顔で闊歩しあまつさえバーンパレスの『心臓』とも言える魔力炉に不具合を生じさせたドラを妬みと忌々しさを込めて睨みつけた。
キルバーンはバーンパレスが建立されて以来初めての大惨事と言っていい現状をどこか楽しんでいるように見える。
ミストバーンは平常運転だ。バーンの許可さえあれば、すぐさま飛んでいって嬉々として勇者を始末するだろう。
「子供の悪戯もここまで来ると笑えぬな。
もうよい、ミストバーン、キルバーン、お前達が直接行って小娘を捕らえよ。
裏切り者のゴロアは処分して構わん」
「………」
「承知いたしました」
「行ってきま〜す!」
大魔王の命が下るや音もなく掻き消えて移動したミストバーンとは逆にキルバーンは軽快な足取りでゆっくりと扉に向かい優雅な仕草でバーンに一礼してから部屋を出て行った。
「ザボエラよ」
「ははっ!」
自分には何も命が下されず所在なくその場に立ってチラチラとバーンを仰ぎ見ていたザボエラだったが、声がかかるやいなや素早く膝を折って恭しくバーンの言葉を待つ。
(小娘一匹を捕らえに行けなど…単なる使い走りではないか!
きっとバーン様は捕らえた小娘の処刑をワシに任せてくださるに違いない!!
さあ、どう料理してやろうかのぅ…!?)
「すぐさま二人が勇者を捕らえるであろう。処刑するまで彼奴は牢獄に閉じ込めておく。
お前には牢番を任せる。
くれぐれも自死などせぬよう見張っておれ」
「はっ! お任せくださいバーン様!!
人間どもの希望を粉々に打ち砕く残酷にして絢爛な処刑方法をワシが考え出し世界中に勇者の死を…へっ?! ろっ、牢番…!??」
「任せたぞ」
素気なく言うとバーンは立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
バーンが去った後、部屋に一人残されたザボエラは呆然と自分に下された命令を何度も頭の中で反芻する。
そして自分に下された命令が処刑人でもなく拷問官でもない、三下でも務まるような任務だった事に憤慨し部屋に置かれていた豪奢な椅子やテーブルを蹴っ飛ばして暴れ回った。
「牢番じゃと…!? このワシが…!!?
ええい、どこまでワシを馬鹿にすれば気が済むと…!!
…いや、落ち着け、落ち着くんじゃ!
窮地の時こそ冷静にならねば…何か無いか、何か…
牢番だからこそ実行出来る策は…」
しばし思索に耽っていたザボエラだがハッと何かに気付いた様子でニンマリと口角を上げた。
「あるではないか…牢番だからこそ出来る事が!」
一転、上機嫌になったザボエラは勇み足でバーンパレス下部にある牢獄へと向かう。
その顔に浮かんだ下卑た笑みからは、ろくでもない考えを思いついたであろう事は明白であった。
一方、その頃天魔の塔では…
「きゃああああっ!!」
「ピィィ~っ!!」
「ま、待ってくれだム〜ン!」
部屋の中に音もなく現れたミストバーンに驚きつつも初撃を回避しバーンパレスを高速で飛んで逃げ回るドラ。
そしてドラのドレスの裾を噛んで引っ付くゴメちゃんと四本ある腕でドラの体に必死にしがみ付くゴロアの姿があった。
壁ギリギリに沿って飛行する獲物を捕らえんと蜘蛛の巣状に張られた暗黒闘気の網の目を掻い潜りドラは出口を求めて逃げ惑う。
「わわわっ…武器も無いし魔力も残り少ない…一瞬でも止まったら捕まっちゃう!!」
「外に出られればいいム〜ン? ム〜〜〜ンッ!!!」
ドォンッ!!
ドラの言葉を聞いてゴロアが重力波を壁に向けて放つ。目の前の壁がガラガラと崩れていき大きな穴の向こうに青空が見えた。
「ゴロア、ナイス! このまま外に…「ピイィッ!!」痛ったぁ!!」
あと少しで外に出られると思った瞬間、ドラの服に引っ付いていたゴメちゃんが髪を噛んで引き止めた。
ヒュッ…と空を切る音がしたと思うと同時に、鼻先を大鎌が掠めていく。
一瞬だけ大鎌の刃に写った自分と目が合い、キルバーンが大鎌を構えて待ち構えていた事を理解した。
「ちょっ…もうちょっとで首が落ちるところだったんだけど?!!」
「落とす気だったからねぇ。ミスト、そう怖い顔しないでおくれよ。
いいじゃないか別に、生捕りにしなくてもさ。
この小娘の首をバーン様に差し出せば万事解決だ。まあ少しくらいはお叱りを受けるだろうけどネ。
この小娘はここで殺しておいた方が良い…死神の勘がそう告げている」
「………」
「聞く気は無しかい? 友人からの親切なアドバイスなのになぁ」
(まずい…! 魔力炉に大量に飲ませたからもう魔力が残り少ない!!
こうなったら…ッ!)
追いかけてくるミストバーンとキルバーンの攻撃を交わしつつ高速で飛行していたドラがゴロアとゴメちゃんを力強く抱き寄せて叫んだ。
「ゴロアッ!! 私に重力波を全開で放って!!」
「そ、そんな事したらお前なんか一瞬で潰れてしまうム〜ンッ!??」
「いいから早くッ!!!」
「…どうなっても知らないム〜ンッ!!!」
ドオォォンッ!!!
まるで雷鳴のような太鼓の音が響き渡る。
ゴロアの重力波を受けたドラは天魔の塔から少し離れた場所、バーンパレスの一角である後右翼付近の通路に真っ逆さまに落ちて行った。
しかしただ落下しただけではない。
バーンパレスに凄まじい衝撃音が走る。衝撃とともに崩壊した建物の中から特に鋭利に砕けた瓦礫をガッチリと掴んだドラは落下の速度を落とさずそのままバーンパレスを包み込んでいる結界に突進していく。
(やっぱり! オリハルコンほどじゃないけどこの瓦礫には魔力を通せる!
一か八か!
私の残りの魔力と闘気全部を流し込んで武器にする!!)
「アバンストラッシュ…カノンッ!!!」
アロータイプでも、ブレイクタイプでもない、カノン(大砲)タイプのアバンストラッシュ。
魔力僅少の上にまともな武器を持たないドラが咄嗟に放ったアバンストラッシュは文字通り限界まで溜め込んだ闘気を武器ごと、まるで大砲のように力任せに発射する技である。
オリハルコンであれば耐えられたであろうドラの
ドラは逆にそれを狙ったのだ。
闘気と魔力によって熱を持ち膨らんだ瓦礫が結界に接触した刹那、バリィンッ!!という、まるで硝子が砕け散るような音を立てて砕け散った。
「ゴメちゃん! ゴロア! 地上に着いたらお父さんに伝えて!
私は大丈夫って!!」
「ピィィ〜〜〜っ!?」
「ム〜〜〜〜ンッ!?」
「行っけえぇぇぇーーーーッ!!!」
「ピィィ~~~っ??!」
「ム~~~~ンッ??!」
ゴメちゃんとゴロアをむんずと掴んだドラは力を振り絞り穴めがけて二人をブン投げた。
見る見るうちに修復されていく結界が閉じ切る前に、ゴメちゃんとゴロアはバーンパレスの結界の外に投げ出され地上へと落ちて行ったのだった。
「裏切り者の始末を先にするべきだったかなぁ。
まさかキミがそれほどまでしてあの
抜かったよ」
「………」
魔力も闘気も空っぽ。
ゴメちゃんとゴロアが地上へ落ちていく姿を見て気が抜けたドラは、あっさりとミストバーンとキルバーンに捕まり牢へと投げ入れられた。
「痛っ…!! ちょっと! 女の子はもう少し丁寧に扱いなさいよ!!」
牢に乱暴に投げ込まれたドラが悪態を吐く。
しかし肩を一つ竦めただけで取り合おうとしないキルバーンはさっさと出口に向かってしまった。
その後キルバーンと入れ替わりに牢に向かって歩いてきたのはザボエラだ。
キルバーンとすれ違う時は殊勝な顔をしていたが、牢の前まで歩いてきたザボエラの顔にはニヤニヤとした嫌らしい笑みが浮かんでいる。
「小娘、お前の処刑が三日後に決まったぞ」
「三日後…」
「処刑は人間どもへの見せしめとして、地上で大々的に行う。
人類の希望である勇者のお前が無惨に命を散らされる様子を、ワシが悪魔の目玉を使って全人類に中継してやろう。
キィ~~~ッヒッヒッヒッ!!!」
(三日後に地上で処刑…
じゃあきっとお父さん達が全力で助けてくれるな。
魔力もまだ回復してないから脱出は無理っぽいし、ここで大人しくしてたら地上に送迎してくれるって事だよね。
最近バタバタしっ放しだったしちょっとゆっくり休もう。
…ッ!! ちょっと待って?! 私がいない間、地上ではみんなが大変な事になってるんじゃ…!!?)
最初は強がっていたようだが徐々に顔を青褪めさせるドラを満足そうに眺めながら、ザボエラは揚々と喋り続けた。
「…しかしじゃ、お前がワシに忠誠を誓い下僕になるというならワシが大魔王様に助命を嘆願してやってもよいぞ?
いまやワシは大魔王バーン様に最も信頼されている部下だからなぁ〜。
キィ~~~ッヒッヒッヒッ!!!」
「……もいい」
「んん〜? もっとハッキリ言わんと聞こえんなぁ〜?
ほれ、『ワシはザボエラ様に永遠の忠誠を誓います』と大きな声で…」
勇者の命乞いをよく聞こうとザボエラが大きな耳に手を当てながら鉄格子に近づいた時だった。
ドラの腕が伸び、ザボエラの胸ぐらを掴む。
「
それよりも! 今! 地上では!
私を置いてけぼりにしてみんなで恋したりされたりしてるんじゃないのッ!??」
「ギエッ! グエッ! ガハッ!」
胸ぐらを掴んでドラがザボエラを乱暴に揺さぶる。
そのたびに至極小柄なザボエラの体が鉄格子にガァン!バァン!と激しく叩きつけられているがヒートアップしたドラはお構いなしに熱い胸の内を語る。
「原作とは違う展開が観れるかもしれないのに…っ!
きっと今頃女同士(エイミさんとマァム)でヒュンケルを巡ってマウント取り合ったりポップがマァムに八つ当たりしたりメルルちゃんがそんなポップをなじったり…
み、みんな酷い〜〜〜!
私が牢に入れられてこんなシワシワのジジイと過ごさなきゃいけないって時にそんな楽しい事してるなんて〜〜〜!!
そういうのはかぶりつき最前列で観たかったのに〜〜〜!!!
うわ〜〜〜ん!!」
「グヘェッ!!」
八つ当たりにぺいっと壁に投げつけられたザボエラは目を回して失神した。
確かに地上では大変な事になっている。主にドラの身の安全を心配して、皆が気が気では無い状態だ。
しかし心配をされている当人は自分の命よりも自分抜きで恋模様が進展していく事に落胆して薄暗い牢獄の中、しょうもない理由でしばらくしくしくと涙し続けたのであった。
ドラの優先順位
愛>>>>恋>>命
* * *
大魔王バーン
ヴィンテージ物の最高級赤ワイン。グラス一杯十数万円する逸品。
馥郁としていて芳醇な深い味わいの濃い魔力。
ドラ
ベッタベタに甘ったるいクリームソーダ(トッピングアイス&ホイップクリーム&チョコチップ&シナモンシュガープラス)
…に擬態したストロングゼロ原液(アルコール度数24%)。
飲み物ではなくもはや危険薬物。一旦ハマると抜け出せなくなる。人生が持っていかれる。
(飲んでないけど)
マトリフ
クセの強すぎる熟成ウイスキー。
人を選ぶ味だがハマる人はハマる。通好みの辛口魔力。
ポップ
強炭酸。
主役になりにくいがパンチは十分。
どんな素材と合わせても美味しく仕上がる優秀な魔力。
単体で飲んでももちろん美味しい。
人間の魔力としては百点満点。
* * *
91話「爆発」の時の小ネタ
【挿絵表示】
ドラ「あれ? アバンのしるしもパプニカのナイフもお父さんの秘蔵コレクションも取られてない…良かった〜!」
ピロロ「考えてみたらこいつが危険な物持ってようがバーン様が危険な目に合おうが別にどうでもよかった…(むしろ好都合)
見たくもない趣味を見せつけられて損した気分だよ…」