ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

114 / 146
100_新たなるアバンの使徒

勇者ドラ不在のアバンの使徒と長であるバランを欠いた竜騎衆…

彼らはドラやバランとともに大魔王バーンに挑むもバーンパレスへの侵入はおろか、ミストバーン、キルバーンと交戦すら出来ずに爆発に巻き込まれ気付けばサババの港に転移していた。

異変を察知し駆けつけたバウスン将軍とノヴァに連れられ、カール王国の森深い場所にあるアジトに移動した後も行方不明となったドラを探すのに必死な彼らは落ち着いて休息を取れるはずもなく焦りと不安から精神を消耗しつつある。

不幸中の幸いはバランとディーノが転移した先のデルムリン島から早々に帰還し合流を果たせた事か…

しかし未だドラ(とバーンパレス突入時に行動を共にしていたハドラー親衛騎団)の消息だけが不明な事にポップはとてつもない焦燥に駆られていた。師であるアバンから託された使命と責任感、そして長い時を共に過ごしてきた妹弟子の安否がわからず彼は当たり散らすように叫ぶ。

 

「チックショウッ!! 何か手は無いのかよ!!?」

 

机を叩き激昂するポップをマァム、ヒュンケル、クロコダインは無言で見つめた。

声をかけようとするも何と声をかけていいのかわからないメルルが涙目になって胸元で祈るように組んだ手をさらにきつく結ぶ。

各国の指導者の号令のもと、勇者ドラ捜索を行なってはいるが吉報は一向にもたらされない。

 

勇者、そして強大なる力を持つドラが簡単に死ぬはずはない…しかし世界中を探しても見つからないなら残る場所はただ一つ…

現在、行方不明となっている当のドラ(と不本意ながら謀反を起こしたドラムーン)の奮闘により今のバーンパレスはただ宙に浮かぶだけの要塞と化している。

原作のように『ピラァ・オブ・バーン』による各国への爆撃は行われていない。

しかしそんな事など預かり知らない人々の胸には言いようの無い絶望感が広がりつつあった。

 

部屋に沈黙が落ちる。

外からは武器や食料を運ぶ兵士達の喧騒が聞こえてくるがポップ、マァム、ヒュンケル…アバンの使徒は大きなテーブルを見つめて押し黙ったままだ。

沈黙の裏側で、彼らは必死に考えを募らせるも一向に打開策を見出せずにいた。

そんな彼らに声をかけたのは…

 

「ちょっと! しっかりしてよねポップ君!

あなた、ドラちゃんの兄弟子でしょ!?

ドラちゃんくらい…とは言わないけど、もっとどーんと構えていてほしいものだわ!」

「姫さん…」

「レオナ姫様…」

 

勢いよく扉を開け部屋に入ってきたレオナは腰に手を当てて呆れた顔でアバンの使徒を見た。

 

「アバンの使徒のあなたがそんな辛気臭い顔してたらみんなのやる気だだ下がりじゃないの!

もっと堂々としていてよね!」

「わりぃ…姫さん、みんなも…俺、気が焦っちまって…」

「気にするな、ポップ。お前の気持ちは痛いくらいよくわかる。

情けなさに叫びたいのは俺も同じよ」

「おっさん…」

 

部屋の隅でアバンの使徒を見守っていたクロコダインがポップの肩に手を置いてレオナに続きを促した。

 

「レオナ姫よ、俺はあまり頭が良くないものでな。

世界中総出で探してもドラが見つからないとなると残る可能性はたった一つ…

バーンパレスにドラが捉えられているとしか考えられん!

しかしそれを確かめる術も、ドラを助け出す方法も何も浮かんでこんのだ。

役に立てず申し訳ない…

どうにか、姫や各国の王達の力で良い策を授けてもらえぬであろうか?」

「ええ、クロコダイン。あたしもちょうどその事を伝えに来たのよ」

「!」

「みんな、大部屋に集まってちょうだい。

フローラ様がバーンパレスに乗り込むための作戦を伝えたいと仰せよ」

 

 

女王フローラ。

ギルドメイン大陸中央に位置し四大王国の一つに数えられる大国であり、世界最強との呼び声高いカール騎士団を保有する軍事国家カール王国。

大部屋の壇上に凛と立つ女性こそがそのカール王国を長年導いてきた女傑である。

豪奢な黄金の髪に青い瞳に並ならぬ覚悟を宿した威風堂々たる美女だ。

戦時下においても上に立つ者として、唇に淡く紅を乗せ隙無く身嗜みを整えた彼女の口が開く。

 

「皆に悪い知らせがあります…

行方不明となっていた勇者ドラの所在が判明しました」

「本当ですかフローラ様!?」

「でも、悪い知らせって…ッ!!」

 

「たった今、全世界の国々に呪法による通告がありました。

『勇者ドラは我らの手中にあり。もはやいかなる抵抗も無駄と知れ。

世界破滅を祝して大魔王バーンに楯突いた勇者ドラを人間どもの代表として公開処刑とする』

と…」

「やっぱりドラはバーンパレスに捉えられていたか…!」

「処刑って…ドラちゃん…!!」

 

「ゆ、勇者様が…」

「そうなれば我々人類にもはや希望は…」

「ぜ、絶望だぁ…」

 

大部屋に集められた兵士達の表情が悲嘆に染まる。

それはアバンの使徒達も同じだった。ドラがバーンパレスにいると確信した彼らは今すぐにでも砦を飛び出して救出に駆け出したかったが、バーンパレスを覆うバリアは何をやっても破れないというのもまた理解していた。

行き先の無い焦燥と怒りに震えて、ただ拳を握り込む事しか出来ない彼らを女王フローラが叱咤する。

 

「駄目ではないの、人類の希望であるあなた達がそんな顔をしては…

あなた達は『アバンの使徒』なのでしょう?」

 

ハッとして視線を床から壇上に移すと、柔らかい笑みを湛えた女王フローラと目が合った。

 

「かつてカール王国が魔王ハドラーの軍勢に襲われた時もそうでした。

人では到底太刀打ち出来ない魔物の群れを前に、皆途方に暮れるしかなく…

でも、絶望に支配されていた私達にアバンはこう言ったのです。

 

『何もしなければまさに何も始まらないでしょう?

…ジタバタしか出来ないなら方法は一つ…!!

 

みなさん! ジタバタしましょう!!』

 

とね…」

「アバン先生ったら…」

「ははっ、先生らしいや」

 

その時の事を思い出したのか、フローラの表情が一層柔らかくなる。

目を細める彼女の瞳には郷愁や安堵だけではない、アバンに向けての確かな愛情が篭っているのが伝わってきた。

 

「あなた達アバンの使徒がアバンから教わった事は、なにも戦い方だけではないはずよ。

たとえ絶望的な状況においても最後まで諦めない心…希望を失わない心の持ち様こそ、アバンが真に伝えたかった事ではないかしら?」

「フローラ様…」

 

ニッコリと微笑んだフローラだが、表情を引き締めて凛とした声で発言を続けた。

 

「勇者ドラの処刑は明後日の正午に執り行われると通告にはありました。

無論、我々はそれを絶対阻止しなければなりません!

…と同時に、アバンの使徒には重大な役割を担ってもらうための準備をしてもらうわ!」

「重大な役割?」

 

ヒュンケルの言葉にフローラはアバンの使徒に視線を戻して更に続けた。

 

「ええ、我々がしなければならない事は二つ…

ひとつは処刑される前に勇者ドラを救出する事。

そしてもうひとつは伝説の大破邪呪文『ミナカトール』を修得する事よ」

「ミナカトール!!?」

「破邪呪文って…先生が得意としてたマホカトールみたいなもんスか?」

 

破邪呪文はアバンが得意としていた魔法の一つだ。マホカトールは結界内の邪力を打ち消し邪悪な者の活動を弱らせる事が出来る。

ポップの問いにフローラが頷く。

 

「ええ、マホカトールの上位呪文よ。

古文書によると『大破邪呪文(ミナカトール)の効果はその影響下にあるいかなる敵の活動をも停止させる』とあるわ。

それを更にあなた達アバンの使徒が持つ『アバンのしるし』…輝聖石の力を用い、五芒星を描いて発動させます。

そうすれば呪文の威力は何倍にも膨らむ!

バーンパレスを覆う大魔王の魔力をも無効化させる事が出来るはずよ!

 

…ただし、この呪文の修得は極めて困難。

大破邪呪文(ミナカトール)を修得・発動させた者は私を含め各国の王達ですら見聞きした事がないと…」

 

紡がれたフローラの言葉に、またにわかに兵士達が騒めき始めた。

 

「そ、そんな…使える者がいないなんて…」

「勇者様の救出でさえ成功するかわからないのに…」

「不可能だそんな作戦…」

 

「あの〜…フローラ様ぁ? 言いにくいんですが俺もそれはちぃっとばかし難しいかもなんて…」

「ちょっとポップ!」

「だってよマァム、輝聖石で五芒星を描くったってよぉ…

アバンの使徒はドラを含めても四人しかいねぇじゃんか!

あと一人、誰かに弟子をとってもらうにしてもアバン先生は今…」

 

ポップの言葉を聞いたフローラが寂しそうな表情で首を横に振った。

 

「ふふっ…アバンに弟子をとってもらう事こそ不可能ね…

でも、私はアバンが弟子にしたであろう人物なら確信しているわ。

 

レオナ姫! あなたが新たなアバンの使徒とおなりなさい」

 

「「「!!!」」」

「私がアバンの使徒…!!?」

 

騒めきが広がる中であってもよく通る声でフローラがレオナに語りかける。

 

「賢者の卵であり、正義の心を持ち、人の上に立つ者としての公平な目を持つあなたこそが五人目のアバンの使徒にふさわしいと確信しています。

何よりも行方知れずとなった勇者のために自分に今出来る事を精一杯考えて奔走するあなたの姿を私はこの数日間目の当たりにしてきたわ。

仲間を思う強い絆の力…それこそが大破邪呪文(ミナカトール)を発動させるために最も必要なものよ」

「フローラ様…あたし、なります! アバンの使徒に!!

大破邪呪文(ミナカトール)も絶対に修得して見せます!!」

 

壇上から降りてきたフローラが、強い意志を湛えた表情のレオナに自身の首にかけていた『アバンのしるし』を外して託した。

ポップやマァムが「姫さん…」「レオナ…」と口元を綻ばせて新たなアバンの使徒の誕生を見守る。

黙して成り行きを見守っていたヒュンケルとクロコダイン、三賢者にメルルも…その口元に笑みを浮かべ誰ともなく拍手をし始めた。

新たなアバンの使徒の誕生に立ち会った兵士達もまた、先ほどまで抱いていた不安を払拭するように拍手を打ち鳴らす。

盛大な拍手に包まれた大部屋の中、女王フローラが上を見上げてぽつりと呟いた。

 

「きっと、天国にいるアバンも今頃喜んでいるでしょうね…」

 

「へっ?」

「えっ?」

「天国…?」

 

「…え?」

 

間近でフローラの呟きを聞いたレオナ、ポップ、マァムが素っ頓狂な声をあげる。

何かおかしな事を言っただろうか?と、フローラが三人の方を向いた。

 

「あの…フローラ様? アバン先生は生きてますけど…」

「………。

 

聞き間違いかしら…今、アバンが生きていると聞こえたけれど…」

「ヒィッ…」

 

口元に笑みを湛えたまま、表情は柔らかいのになんだか妙な迫力を醸し出し始めたフローラに怖気付いたポップが思わずといった様子でマァムの後ろに隠れる。

ポップの代わりにマァムがアバンが今何をしているのかフローラに説明した。

 

「ア、アバン先生は今、自身の力を高めるための修行に出ていて…

どこにいるかは私達も知りません、けど…ぜ、絶対生きているはずです!

きっとこの戦いが終わる前には戻ってくると…」

 

胆力に自信があるマァムもそこで限界であった。

穏やかな笑みを浮かべたまま絶対零度のオーラを発するフローラに二の句が告げず知らずのうちに涙目になる。

レオナもアバンのしるしを握り締めたまま、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まって動けなくなっていた。

 

「そう…私に手紙の一つも寄越さずに修行に…ねぇ」

 

(アバン先生、フローラ様に何も伝えてなかったのかよ…!??)

(き、きっといつ死んでもおかしくないくらい過酷な修行に行くから、あえて教えないほうが良いと思ったんじゃないのかしら…?)

(だからって言ってもそれはそれ! これはこれよ! 恋人に心配だけかけてフォロー無しなんて…

何やってんのよアバン先生〜〜〜!!?)

 

怯える三人に最後にニコリと微笑んでフローラは部屋を出ていった。

へなへなと力なくその場にへたり込んだ三人をヒュンケルとクロコダインがなんとも言えない表情で助け起こしたのだった。

 

 

 

「あ゛ぁ゛〜〜〜〜〜〜ッ!!!

なんか長い時を付かず離れず過ごしてきた男女のなんとも言えない関係が新たなステージに移行した気配がするぅ〜〜〜ッ!!!

確かな信頼と口に出しては言えない想いとでもでもしっかり恋人にはなってるややこしい縺れっぷりを感じる!!!!

甘酸っぱい初恋もいいけどそういう積もりに積もった切ない恋愛関係も見たいのに〜〜〜ッ!!!

ちょっと! 良いとこ見逃しちゃうから早くここから出してよ!! それか悪魔の目玉使って中継してよ!!

この役立たずッ!!」

「少しは大人しくしておれんのか、やかまし過ぎるぞ小娘ッ!!! そんな事よりもとっととワシに忠誠を誓わんか!!

そうすれば今すぐにでもここから出し…」

「ザボエラの恋バナと引き換えならいいよ」

「恋ぃ?!! フン! そんなくだらんもんに現を抜かした覚えなどないわッ!!」

「え〜、ザムザのお母さんは?」

道具(あれ)を産んだ女じゃと? ワシを暗殺しようと企てた小賢しい女なんぞ返り討ちにしてとっくの昔に葬ったわ!」

「ちょっ、そこ詳しく!!」

「詳しくも何も今言った事が全部じゃ! ほれ、とっとと忠誠を誓わぬか!?」

「恋バナじゃないからダメで〜す」

 

バーンパレスの牢獄に今日も元気なドラの声が響いていた。

 

 

 




フローラ様はアバン先生にもっと怒ってもいいと思う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。