破邪の洞窟と謳われる大洞窟の深さは底知れず、階層を一つ跨ぐごとに敵の強さが増していく…
古の賢者が記した古文書によるとその洞窟の地下25階層に伝説の破邪呪文、
大人数では移動に時間がかかるため少人数でのパーティ編成、女王フローラ、賢者レオナ、武闘家マァム、占い師のメルルの四人が破邪の洞窟へと向かう運びとなった。
ポップにヒュンケル、クロコダインも同行を希望したが狭い洞窟内では三人の攻撃は返って危険だと諭されしぶしぶ砦での待機と相成った。
待機を言い渡された男三人はそれぞれが出来る事を探して解散していったのだが、フローラとレオナが身に纏っていた『カールの布衣』が脳裏にこびりついて離れないポップはというと…
「…ほんっとに世界が滅びるっていう危機感があるのかしらアイツ…!!」
「ウフフ…」
マァムの呆れ声とフローラの包容力に溢れた笑みが漏れ聞こえてくる扉の前に張り付いたポップは、鼻の下を伸ばしながら食い入るように鍵穴を覗き込んでいた。
鍵穴の向こうにはカールの布衣に着替えるため肌を露わにしたマァムとメルルがいる。
意中の女性の素肌を前にしてアバンの使徒の高潔な精神はどこへやら…年相応の下心が勝ったポップは通路に誰もいない事を確認して引き続き鍵穴の向こうへと全神経を集中させた。
「…でも、どうして
ポップはともかく…
私なんか回復魔法ぐらいしか出来ないのに…」
マァムの疑問にレオナやメルルも頷いてフローラを見た。
三人の視線を受けたフローラはマァムの胸元にあるアバンのしるしを見つめながら口を開いた。
「…マァム、そのアバンのしるしを持ってあなたが今一番心配している人…その身を案じている人の事を思い浮かべてごらんなさい」
言われてマァムはアバンのしるしを握りしめて瞳を閉じる。
マァムの手の中にあるアバンのしるしが光り一瞬だけ部屋を照らしたかと思うと、握り込んだ掌越しにも眩く鮮やかな赤い光が煌々とした輝きを放っていた。
「し…しるしが…! 赤く輝いてる…!!?」
「それがあなたの魂の力の色よ…!!」
「魂の力?」
「大破邪呪文に必要なものは魔法力だけではなく、邪悪に打ち勝たんとする人間の心の力が必要なの。
輝聖石にはそれを感知して増幅する力があるわ。
…マァム、あなたの力は〝慈愛〟の心…
人を慈しみ労り抜く気持ち、それがあなたの全ての強さの根源なのよ…!!」
「慈愛の心…」
マァムが自身の魂の根源を理解した呟きにフローラもまた力強く頷いた。
「アバンはね…力や技の優劣よりもそうした所を見てきたの。
そして世界を救うにふさわしい魂の持ち主にしるしを与えてきた。
だからドラにも、ポップにも、ヒュンケルにも…みんなそれぞれにしか無い力があるはず…
もちろんレオナにもね。
だから、
小さな鍵穴越しでも溢れてくる力強い魂の輝き。
暖かな赤い光を受けたポップの顔色はそれとは対照的に血の気が失せて真っ青に染まっていた。
フローラの言葉を受けて握り込んだポップの手の中には何の反応も見せないアバンのしるし。
(うっ…嘘だろぉ…!!? 光ってくれよぉ!!!)
常ならば声に出してしまいそうな叫びをなんとか飲み込みながらポップはその場を後にした。
「おい…ポップ…!」
廊下ですれ違ったヒュンケルが声を掛けたが、ポップはそんな兄弟子にも気づかない様子で砦の外に飛び出してしまった。
只事ではない弟弟子に不穏な空気を感じたヒュンケルだったが、砦の外に敵が襲撃に来た様子もない。
元々敵であった自分に対してあまり良い感情を持っていないであろう弟弟子(実際には恋敵として少々アタリがキツいだけなのだが)に要らぬおせっかいを焼いても逆効果であろうと、洞窟へと赴く女性陣の見送りを優先した。
これがポップの苦悩をますます深める事態になろうなどとは、この時のヒュンケルは思いもしなかったのである。
「ハア…ハア… ゲホッ…!!
だっ、だめだ…どんなに魔法力を限界にしても…
どんなに身体を痛めつけてもっ…!!
まるっきり…光りやがらねえ…っ!!!」
ポップの手からするりとアバンのしるしが滑り落ちる。
めちゃくちゃに呪文を放ったせいで地面には
水溜まりの中に落ちたペンダントを無表情に眺めて、ポップは自分と仲間との出自の違いをまざまざと思い返していた。
(…考えてみりゃあ俺と同じ
仮免扱いとは言えドラは
レオナは王女、マァムの両親はアバン先生の戦友、ヒュンケルはガキの頃から善悪両方の指導を受けてる戦闘のプロフェッショナル…)
「おっ…俺だけが違う…
俺だけがみんなとは…違うっ!!!
うっ…うわあああ〜〜〜っ………!!」
ポップは叫びながら
どこへ向かおうとしたのか、自分でも定かではない。
心から尊敬している師アバンは行方知れず。情けない姿を見られても自分に向ける眼差しは変わらないであろう妹弟子は囚われの身。実の親であるジャンクは涙を流す息子を見た瞬間「この根性無しがぁッ!!!」と拳を振るうと確信している。
ドオォーーーンッ!!!
岩を砕くような着地音が岬に響き渡り、その音を受けて
「こんな夜更けに、何いきなり叩き起こしてくれてんだ? このバカ弟子が…!
夜風が沁みる、とっとと中に入りな」
「し、師匠ぉ…っ 俺っ、俺ぇ…」
とんでもなく情けない泣きっ面をした不肖の弟子を見た大魔道士マトリフは、深く溜息を吐いて纏っていた厚手のケープをそっとポップの肩に掛けて庵の中へスタスタと歩き出した。
一方その頃、カールの隠れ砦では…
「ポップは…どこへ行った?!」
「どうした? ヒュンケル」
「クロコダイン! ポップの姿を見なかったか!?」
「ポップを? いや…見ていないが…」
「クロコダイン、ガルーダを借りるぞ!!」
「は!? おい、待てヒュンケル!!」
「ガルーダ! ポップを追うぞ!! 超特急だ!!!」
「ガルゥッ!??」
「さあ行けッ!!!」
「ガッ…ガルゥ…!」
「待てヒュンケルッ! せめて行く先を…!!」
「可能性のある場所からしらみ潰しに向かうぞ、行けッ!!!」
「ガルウゥゥ〜〜〜!!」
「ヒュンケルーーーッ!??」
アバン、フローラ、マァム、レオナ、ポップ、果てはドラまで不在の状況において、クール系の見た目に反しとてつもなく直情型のヒュンケルを止められなかったと後にクロコダインは語った…
お姉ちゃん「あんな直情型の人間、上司でも部下にいても嫌よ」
ドラ「ヒュンケルを
お姉ちゃん「そこはさすが大魔王って感じよね」
ドラ「ほんと神采配〜」
ザボエラ「やかましい! さっきから何を一人でブツブツと!!
いいから少しは黙っておれんのかぁッ!!?」
(お姉ちゃんの声はドラ以外には聞こえていません。なお一時間のうち沈黙は5分くらい。
側にいるとノイローゼになる程度に喋り倒してます)