好意の矢印は原作と同じなので読み飛ばしても本編に差し障りありません。
3行でまとめると
・ポップがマァムに、エイミがヒュンケルに告白
・巻き込まれるメルル
・マァム、大混乱
となっております。
「マァム…俺、お前が好きだ」
「ポップ…!?」
ヒュ…、と喉からおかしな音が漏れてしまい咄嗟に両手で口を塞いだ。
ポップとマァムは黙り込んだまま。戦場とはまったく異なる緊張感が走る空間に自分の心臓の音だけがバクバクと鳴り響く。
メルルは流れる冷や汗を拭う事すら出来ずに積んである木箱の影に隠れてひたすらに気配を押し殺した。
(どうか、ポップさん達に見つかりませんように…!)
食事の支度が出来たと伝えたくて意中の人を探したがどこにも姿が見当たらなかった。
明日は皆が命をかけて臨む決戦の日だ。
戦闘では役に立てないがせめて自分が作った夕食をたくさん食べて英気を養ってほしい。そう思ったメルルは、ポップを探していてとんでもない場面に出くわしてしまった。
砦の裏庭に当たるこの場所は常から人があまり来ない。
失せ物を探り当てるようにカンを頼りに、砦に背を向けて裏庭に佇むポップを見つけたメルルはちょっとしたいたずら心が湧いて忍び足で近づいていった。
本当に出来心で、後ろから声をかけて少しビックリさせようとしただけなのだ。
きっとポップなら大袈裟に驚いてくれる。そして自分を驚かせたのがメルルだとわかったら、すぐに満面の笑顔で
「メルル! ビックリさせないでくれよ〜、てっきりゴメかディーノかと思ったぜ」
なんて言ってから、メルルの目をしっかりと見て「どうしたんだい?」と優しく問いかけてくれるだろうと…
(ポップさんを驚かせようとしたバチが当たったんだわ…!
しかもよりによってマァムさんに告白しているところを見てしまうなんて…!!)
物陰に隠れ、半ば混乱した頭で自分の行いを責めながら二人の様子を伺った。
「ポップ!? いきなりどうしちゃったの!??
『明日の決戦に向けて大事な話がある』って言うから私…てっきり作戦について話すのだとばっかり…
なのにそんな…! す、好きって…ポップが? 私を…?!」
マァムもメルルに負けず劣らずだいぶ混乱しているらしい。
決戦前に大事な話が、と言われよもや告白をされるだなどと…それもポップから好意を告げられるなどとは微塵も考えていなかったのだろう。
隠れているメルルからは声しか聞こえないが「いつもの冗談か何かよね…?」と呟き困惑するマァムと真剣なポップの様子が伝わってくる。
「悪い、お前からしてみりゃあ確かに急な話だったよな…
けどよ、冗談なんかじゃねぇ。
俺はなマァム、もうずっと前からお前の事が好きだ」
「………ッ!!」
(……~~~ッ!!!!!)
さすがに冗談ではないとマァムにも伝わったのだろう。
マァムははくはくと言葉にならない声を出し、メルルは心の中で言葉にできない悲鳴をあげた。
そんな二人を置いてポップは言葉を続ける。
「今すぐ返事が欲しいわけじゃねぇ。
マァムが俺を男として意識してないってのも知ってる。
いいんだ、それでも。
…けどよ、俺にチャンスをくれねぇか?
ドラを救い出して、大魔王バーンをブッ倒した後…もう一度告白するからさ…
その時にマァムが俺をどう思ってるか、正直な気持ちを聞かせてくれ。
頼む」
「ポップ…」
「悪いな、こんな土壇場で困らせるような真似…
けどきちんと自分の気持ちを伝えておかねぇと俺、絶対に後悔すると思ったからさ」
「………」
「困らせたよな…タハハッ。
一旦忘れてくれていいからさ! 明日は気合い入れて行こうぜっ!!」
マァムが黙り込んでしまい気まずくなった空気を吹き飛ばすようにいつものお調子者に戻ったポップが努めて明るく振る舞う。
そのまま砦に戻ろうとしたポップをマァムが呼び止めた。
「待ってポップ…!
その、本当の気持ちを打ち明けてくれてありがとう…嬉しいわ、仲間として…
でも、私…今までポップを、ううん、男の人をそういうふうに見た事が無かったし…
だからその…なんていうか…よくわからなくて、
ええと、だから、この戦いが終わったとしても急には考えられないというか…
迷惑だって言ってるわけじゃないのよ?!
でも、こんな気持ちは初めてでなんて言えばいいのか…」
しどろもどろになりつつ言葉を紡ぐマァムの肩にポップが手を置いた。
ビクッと肩を震わせ顔を上げたマァムの、困り果てた表情を真剣に見つめてポップが力強く言い切る。
「いいんだよ、それで。
そんなお前だから俺、好きになったんだ。
焦らなくていい。けどなマァム、自分の気持ちを誤魔化したり蓋をしたりだけはしないでくれよな」
「? それってどういう意味…?」
「さあね、自分で考えな」
「ちょっと…! 何よそれ…!?」
ポップはそう言ってすたすたと歩いて砦に戻っていく。
ひらひらと手を振りながら去っていく後ろ姿を呆然とした表情で見つめながら、メルルはやっと口を塞いでいた両手を下ろして大きく息を吸い込んだ。
そして大きな溜息を吐きながら、力なくその場にへたり込む。
(…知っていたもの、ポップさんが誰を好きかなんて…
私ずっと前から知ってた…!
でも、マァムさんより…いいえ、誰よりもポップさんを好きなのは私なのに…!!)
そう思っていてもポップを追いかける勇気は出なかった。
面と向かって想いを告げた
嫉妬と失意と羨望と…心の中で渦巻くぐしゃぐしゃな感情が涙となって頬を伝っていく。
声を押し殺したまま、はらはらと涙を落とし続けているとふいに上から声が降ってきた。
「…メルル?」
「きゃああッ!!!」
悲鳴を上げて立ち上がったメルルをマァムが目を点にして指差した。
「え…なんで泣いて…?!
…まさかさっきの聞いてたの!!?」
「ご、ごめんなさい!! 覗き見するつもりは無かったんですっ!!」
動転した二人が、顔を赤くしたり青くしたりしながらおろおろと戸惑っているとどこかから聞き慣れた声が風に乗って聞こえてきた。
「エイミ、話とはなんだ? 俺に何か用か?」
「ヒュンケル、ごめんなさい突然こんな所に呼び出して…」
マァムとメルルは聞こえてきた会話に思わず顔を見合わせてピタリと動きを止めた。
女のカンとは鋭いもので瞬時にバレてはいけないと悟り、人差し指を唇に当てて互いに声を出さないよう合図し合う。
声がしたのは頭上…砦の上階からだ。
姿は見えないが石造りの壁に反響してか声だけがよく響いてくる。
今動けば気配に敏感なヒュンケルはきっと自分達に気づくだろう。
気づいたら最後、彼は神妙な様子のエイミに構わず「何をしている? そんなところで」と声をかけてくる。絶対に。
エイミのヒュンケルに対する気持ちをとっくの昔に察知していたメルルは、これから彼女が何をしようとしているのか容易に想像がついた。と、同時に今流れている雰囲気を壊してしまうと二人の仲にまでヒビが入りそうで微動だに出来ない。
そんなメルルにつられてかマァムも気配を消して、いけないとは思いつつも上から聞こえてくる会話に耳を傾けた。
「ヒュンケル…お願いがあるの。明日の決戦、ドラちゃんを救出したらバーンパレスには乗り込まず私と一緒に地上で待機していてほしいの」
「…何を言っている? アバンの使徒である俺が戦わずして、誰が大魔王に立ち向かうと言うんだ?」
「別に戦わないでと言っているんじゃないわ!
でも、
私は
お願いよ、私と共に地上に残って戦ってちょうだい!!」
「すまないが、その頼みは聞けないな。
話はそれだけか?
ならば部屋に戻って休ませてもらう」
「あ…」
石造りの廊下に鳴り響く力強い足音がだんだんと遠ざかる。
「待って…お願いよ…行かないでぇーーーッ!!!」
「!?」
((!?))
「私…私は…
あなたが好きなの!!!」
(エイミさん…やっぱり…
えっ、マァムさん!??)
パプニカの要職である三賢者の一人として世界中を飛び回る傍ら、折に触れ彼女はヒュンケルを気にしていた。
あまり会話をした事のないメルルでも少し見ていればエイミの気持ちは行動によく表れていたし驚きはない。
しかしカタカタと震える肩が目に入り視線を横に向けると、片手で口を抑えて顔色を真っ青にしたマァムが飛び込んできた。
ふらりと傾くマァムを慌てて支え背中をさするが、当のマァムはメルルに体を支えられている事にすら気がついていないようだった。
「…ずっと…ずっと好きだったんです…
だから…これ以上もう耐えられない…!
あなたが無謀な戦いに挑んで傷ついていくのが…!!
お願い…行かないで…!
せめて私のそばで戦ってください!!
もっと自分を大切にして! 私にもあなたを守らせてください!!」
「…大切にしているさ」
ヒュンケルの耳に、いつか言われたドラの言葉が響いてくる。
何回も繰り返し心の中で反芻してきた言葉だ。
『贖罪のための戦場は私が示してあげる。だから、無駄な自責や自傷は無しね』
『大魔王バーンを倒すために戦う、私の手足となって戦うこと!』
『常に心身を健康に保って万全の状態でいることを義務付けます!』
『これ、勇者命令ね!!』
放たれた言葉は絶望に深く沈んでいた心を優しく包み込んだ。
罪を犯した事を責めるでもなく、陳腐な慰めを口にするでもなく、暗闇の中で彷徨う自分の足元を照らしてくれた。
俯いていた顔を上げて仰ぎ見た先で皓々と輝く満月のようだとヒュンケルは思う。
まったく悪びれずに「手足となって戦え」と言い放った時のドラの眩しい笑顔が思い出され、我知らずヒュンケルの口元が綻んだ。
「俺の身を案じてくれるのはありがたく思う。
しかしこの命は勇者のため…ドラのために大切に使うと決めた。
すまないが、君の気持ちに応えることは出来ない」
「待ってヒュンケル、私…! あなたの事が心配で、あなたの事を愛しているから…!!」
「…俺の事はもう忘れたほうがいい。
明日は決戦だ。エイミ、君ももう戻って休め」
「ヒュンケル…!!」
ではな、と一言残してヒュンケルはその場を後にした。
すげなく振られてしまったエイミもヒュンケルが立ち去った後、すぐにその場を離れたらしい。
足音が遠のいていきやがて完全に聞こえなくなった。
(…今日はなんて日なのかしら。
まさかこんな場面を二回も見てしまうなんて…)
「あの…メルル、ありがとう。
もう大丈夫よ…
私も部屋に戻るわ、じゃあね」
支えていたマァムがメルルにそう言って離れる。しかし顔色は悪いままだ。
「待ってください、マァムさん!
あの、今日は本当にごめんなさい…!
顔色が良くないです…私、お詫びとしてあとでお部屋に薬草を持っていきますから…」
マァムはメルルの申し出に首を横に振る。
拒否するというよりは、頭の中にかかる
「いいのよ、気にしないで…。
今は一人にして…!
明日は大事な日だもの、気持ちを切り替えないと…!!」
「マァムさん!」
言うが早いか、マァムは駆け出して行ってしまった。
(マァムさん…ポップさんの事もだけどヒュンケルさんの事はどう思っているのかしら)
先ほどマァム自身が言っていた「男の人をそういうふうに見た事が無かった」という言葉。ならばヒュンケルが告白されてなぜあんなにも動揺していたのだろうか。
(それにポップさんがマァムさんに「自分の気持ちを誤魔化したり蓋をしたりだけはしないでくれよな」と言っていたわ…
マァムさん、もしかして…)
しばらく考え込んでいたメルルだが、やがてマァムと同じように首を振ってその場を後にした。
いくら考えても、日々どれだけ他人の運命を占っていても、人の心を全て見通す事など出来ないとメルルはよく知っている。
(もしそうだったとしても、マァムさんがヒュンケルさんを好きだったら私にもチャンスはあるかしらと思ってしまうなんて…
私ってなんて浅ましいの…)
惨めな気持ちを拭き取るようにして、メルルは頬に残る涙の跡を拭い去った。
メルル「私はいったい何を見させられたんでしょうか…?」
ドラが死ぬほど見たかったやつを全部です。
マァムはショックというよりキャパオーバー。
ヒュンケルがドラに救われた(わりと理不尽な)言葉は【61_照らし出す『光』】をご参照ください