ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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104_魂の色

雲一つない空に浮かぶバーンパレス、その真上に位置する太陽。

巨大な大鳥の形をした影が差すロロイの谷…大魔王が処刑場として指名した涸れ谷には急設された処刑場以外、生ある物の気配が無い。

巨大な水晶を通して下界を見下ろす大魔王バーンは至極満足そうな笑みを浮かべて盃を傾けた。

その巨大な影の中心で磔にされている勇者の姿が、無謀にも大鳥に挑んだ末に呆気なく飲み込まれた矮小な羽虫に見えたからだ。

 

玉座の間にて大魔王と同じく、水晶越しに処刑場を眺めるキルバーン。

その肩に腰掛けているピロロはチラリと大魔王を盗み見た後、笑顔のまま内心で悪態を吐いた。

 

(チッ…! もう少しバーンに痛手を与えてくれるかと思ったのに…

何が勇者だ、跳ねっ返りの小娘め。とんだ期待外れだった…!

このままでは地上が消滅してしまう…そうだ! バランを上手くけしかけてみるか。

娘が殺されたとあればいくら人間憎しと言えど冷静ではいられないはず…

バーンとバラン、二人が争っている隙に両方消せばヴェルザー様もお喜びになる。

ついでに地上も手に入る…一石二鳥、いや三鳥だ!

うん、そうしよう)

 

そんなピロロの内心など露知らぬ大魔王バーンは、その手に持った美酒をまだ一滴たりとも口にしていなかった。

最上の物を最高のタイミングで。

勇者の落命、そして彼奴を助け出さんと愚かにも集った虫ケラどもの今際の際に上がる絶叫と怨嗟…

己が手で葬り去る地上。そこに生きた者達の余韻を楽しみながら飲む酒は天上にも上る心地がするとバーンは確信していた。

 

「…太陽が…今、最も高く…強く輝いている…!!!」

 

高く掲げた盃に並々と注がれた酒を通してもなお(まばゆ)い。

大魔王バーンは頭上に輝く太陽を仰ぎ見て目を細めた。

 

 

「キヒヒッ…ミストバーン様、処刑の時刻となりました!

さぁ! この愚か者の骸を偉大なる大魔王バーン様に捧げましょうぞ!!

キィ~~~ッヒッヒッヒッ…!」

「………」

 

ミストバーンがザボエラを無視して磔にされたドラの前に歩み出る。

ドラは日の光を遮って壁のように目の前に聳え立つミストバーンを見上げた。

睨み付けるでもなく、しかし真っ直ぐ射抜くようにミストバーンを見つめるドラの額には(ドラゴン)の紋章が煌々と輝いている。

青く清らかな光を宿した瞳で見据えられたミストバーンは腑が煮えくりかえる思いだった。

 

(この清浄な光こそがかつて自身の器として念入りに育て上げ、復讐心に染まった人形(ヒュンケル)を狂わせた…!)

 

無言のままその手を刃へと変じて、憎しみを込めた暗黒闘気を刃へと纏わせてこの世に二つとない禍々しい闇の剣を作り上げる。

これならばいかに竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った体だとしても、防具一つ身に着けていない痩身の女など数回斬り刻めば事切れるであろう。

 

「………ッ」

「勇者よッ!! 死ねえぇぇ〜〜〜〜いッ!!!!」

 

振り下ろされる刃と共にザボエラの怒声が谷に響き渡る。

怯みも叫びもせずに刃を凝視していたドラの鼻にその切っ先が触れようとしたその刹那、

 

「ディーナアァァァーーーーーッ!!!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

バキイィンッ

 

けたたましい金属音とともに漆黒の刃が千々に砕け空中に舞った。

 

(何が起こった…!?)

 

ミストバーンは砕けた指先を再生しつつ飛び退き、飛来してきたものの正体を見極める。

そこにいたのはドラと同じく、額に(ドラゴン)の紋章を宿した少年…その手にはオリハルコンの輝きを放つ両刃の剣。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った一閃を受け、体勢を崩したミストバーンは再びその手を刃へと変じ暗黒闘気を練り上げようとした。

しかし今度は背後から強烈な殺気を感じドラを守るように剣を構えているディーノへの攻撃を後回しに振り向きざま、腕を交差させて咄嗟に防御体勢を取る。

ドラへ刃を振り下ろした後、わずか一秒にも満たない時間で完全に状況は覆っていた。

次の瞬間、ドオォンッ!!という衝撃が大地を走りミストバーンの体は割れた地面へと沈む。

 

「ミストバーンッ!! 貴様断じて許さぬ…ッ!!!

冥府にて主人(バーン)を待つが良いッ!!!」 

「お父さんっ!!」

「バラン…!」

 

両腕でバランが繰り出した渾身の一撃を受け止めたミストバーンは目と鼻の先で鈍い光を放つ真魔剛竜剣を押し返そうと試みた。

しかし我が子を傷つけられた父竜の怒りは凄まじく、暗黒闘気を最大出力してなお体勢を立て直せず割れた大地を踏み締める足がめりめりと音を立ててめり込んでいく。

その肉体が持つ秘密ゆえに、決して傷つく事は無いが今ミストバーンに与えられた任は勇者ドラの処刑執行だ。

バランとせめぎ合いながら横目で磔の勇者を見ると、続々と空から舞い降りたアバンの使徒がその拘束を解いていた。

直前まで傍にいたはずのザボエラの姿は既に影も形も見当たらない。

 

「ドラッ! 大丈夫か!?」

「ドラ…無事で良かった!」

「心配したぜ! ったくよぉ…!」

「みんな…!」

「もうっ、作戦では私達が先に出るはずだったのに…」

 

「フッ…ミストバーン、よそ見をしているとは随分余裕ではないか! フンッ!!」

「グアァッ…!??」

 

一瞬の隙を見逃すようなバランではない。

真魔剛竜剣を片手に持ち替え、もう片方の拳には竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏わせ固く握り込む。ガラ空きになっているミストバーンの鳩尾に、およそ生身の肉体では耐えられない痛烈な一撃をお見舞いした。

吹き飛ばされて岩壁に激突したミストバーンはバランに意識を向けつつも主人に与えられた任を遂行せんと「ドラを抹殺せよ」と暗黒闘気を通じて彷徨う鎧達に命令を飛ばす。

しかし…

 

「ハーケンディストールッ!!」

「!!」

 

繰り出された斬撃はアバンの使徒へ襲い掛かろうとしていた彷徨う鎧達を紙屑同然に斬り刻んでいった。

ディーノにバラン、アバンの使徒と竜騎衆、予め決めていた突撃順に若干の誤差はあれど勇者を救い出した事を確認したフローラが声を張り上げる。

 

「総員突撃ーーーーッ!!」

「「「「ウオォォォォォーーーーーーーーーッ!!!!」」」」

 

女王フローラの勇ましい号令を受けて岩間に隠れていた兵士や戦士達が処刑場へとなだれ込む。

ドラが処刑されそうになり、絶望と恐怖に耐えながら今か今かと突撃の合図を待っていた精鋭達…彼らの覇気の籠った攻撃は数十体はいる彷徨う鎧に次々と降り注いでいった。

体勢を立て直し再びドラを攻撃しようとしたミストバーンであったが、猛攻撃を仕掛けてくるバラン、さらにそこにロン・ベルクも加わりますます処刑台から引き離されていく。

大魔王バーンを除けば地上において最強と言っても過言では無い二人の相手をするのに手一杯でアバンの使徒の様子を伺うことすら出来なくなってしまった。

 

兵士達の雄叫びと剣戟がロロイの谷に鳴り響く。

彷徨う鎧が一体、また一体と倒されるたびに歓声が上がり、やがて最後の一体を打ち倒した瞬間歓声は勝鬨へと変わった。

その勝鬨の中心にいるアバンの使徒は助け出したドラがボロボロのドレスを脱ぎ捨てて用意された装備に着替えている間、レオナの足元から発現した魔法陣に沿って円陣を組み大破邪呪文(ミナカトール)を発動させる準備をしていた。

それぞれがアバンのしるしを胸に、失敗は許されない一度きりのチャンスを物にするため精神を集中させてドラを待っている。

 

…その中にあってマァムだけがらしくもなく気弱な表情をしていた。普段の彼女を知っている人間からすれば異常事態だが、マァムの様子がおかしい事に気付いたのは隣に立ち日頃から彼女の表情をよく見ているポップだけであった。

そんなポップも、今は大破邪呪文(ミナカトール)を成功させる事のほうが重要だと思い違和感に蓋をして再び集中力を高める。

 

(もしかして昨日の事が原因でマァムの心が乱れて…?

いいや、今は大破邪呪文(ミナカトール)を成功させる。その事だけ考えねぇと…)

 

「ごめん、お待たせっ!」

「ドラちゃん、準備は良い?」

「バッチリ!」

 

レオナはドラの言葉に頷き円陣に加わるよう促した。

 

「私から時計回りに手をつないでいくわ。自分の番が来たら精神を集中して想いを次の人へ…

聖なる光よ! その御力において邪悪なる魔力を退けさせたまえ…!!」

 

胸よりやや低い位置で手を組み、祈りの言葉を紡いだレオナの体が真っ白な光に包まれる…

光は首にかけられているアバンのしるし…輝聖石へと集まり一際強く輝いたかと思うと天高く昇っていき一本の光の柱となった。

巨大な光柱は天上に浮かぶバーンパレス、その船底にまで到達している。

 

そういえばそうだった…! と、この時になってようやくドラはアバンの使徒にはそれぞれ『魂の色』があった事に思い至った。

忘れていたわけではないが、今までは家族や仲間の事ばかり考えていて自分の魂の色についてまでは気が回らなかったのだ。

差し出されたレオナの手を取り「私の魂の色って何色かな?」とわくわくしながら精神を集中させた。

そうしてドラから放たれた光は…

 

「えっ?! 黒い…!??」

「黒ね…」

「…黒いな」

「中心は真っ黒だけどよく見れば端のほうは青く見えるわ。紺色とか、群青色みたいな濃い青色じゃないかしら…?」

「なんつーか…ドラらしいっちゃドラらしい色だな」

「ちょっとポップそれどういう意味!?」

 

一瞬暗黒闘気かと思うほど暗い色の光柱が現れ周囲で成り行きを見守っていた兵士達がざわついた。

先に出現したレオナの魂の色が見るだけで心を洗われるような美しさだった事もあり、隣り合う二つの光柱の対比が凄まじい。

しかしその光をよく見れば黒く見えるのは青が幾重にも重なり合っているからだとわかるし、何より小さな無数の光の粒が濃紺色の中キラキラと舞っている。

まるで満天の星空か静かな深海のような魂の色だった。

 

自分の魂の色に不満があるのか「青色かせめてもう少し可愛い色が良かった…」とぶつぶつ呟き、口を尖らせたドラはヒュンケルへと手を差し出した。

手を取ったヒュンケルは難なく紫の光柱を出現させ、続くポップも緑の光柱を出現させる。

ポップのアバンのしるしが無事輝いた事にドラは胸を撫で下ろした。

 

原作ではあわや大惨事となるシーンだったのだ。

あとはマァムがしるしを光らせれば問題なく大破邪呪文(ミナカトール)は成功するだろう。

そう思っていたのだが…

 

「…光らない」

「えっ!?」

「どうしようみんな…! アバンのしるしが光らないの!!

昨日はちゃんと光ったのに…!!」

「「「「!?」」」」

 

マァムの口から出た言葉に全員が耳を疑った。

土壇場でアバンのしるしが光らず戸惑うマァムは震える手で輝聖石を握りしめる。

顔色を失くしつつ、それでも諦めることなく幾度もアバンのしるしを光らせようとマァムは試みた。

 

(えええええ…!? マァムのしるしが光らないなんて…

な、なんで!? 原作にはこんな展開無かった!!

思い当たる節がなんにも無い…!!)

 

気丈なマァムとは対照的に、ドラは言葉にならない悲鳴を上げる。

そして情けなくもその場でバッタリと仰向けに倒れてしまったのであった。

 

「ど、どうしてえぇぇぇ〜…??!」

 

 

 




魂の色、アニメではダイ君から出た光は鮮やかな青色。
作者のイメージとしてはディーノ君がスカイブルー、ドラがネイビーブルー。
魂が示すものはどちらも【純真】
偏執的だけど家族に対するドラの心は一途にして純真。
純真ったら純真。

(余談)
磔から解放されたドラにメルルが駆け寄る。
その腕にはドラのための装備品が一式抱えられていた。

「ドラさん! 良かったご無事で…!
着替えをお持ちしました。さ、あちらの岩陰で着替えま…」
「メルルちゃんありがとう! いいよ、今ここで着替えるから…」
「え!? ちょっとドラさんここで脱がないで…み、見えちゃいます!!」
「見られて減るもんじゃないし大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃありません!」
「…ドラ、俺が布を被せるからせめてその中で着替えろ」
「クロコダイン…いいよ、別に。みんな戦闘に夢中で誰も見てないでしょ?」
「そういう問題ではない! 少しは慎みを持たぬか!」
「そうです! 慎んでください!!」
「あだぁっ!?」

はだけた胸元をメルルに直されながら額を抑えて悶絶するドラ(クロコダインに軽くデコピンされた)
この後渋々近くの岩陰で服を着替えた。
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