ヴオオオォォォォォォォォォン………ッ!!!!!
鳴り響く獣の咆哮に森にいた生物が一斉に逃げ出す。
辺りは暗くなっているというのに
「な、なんだよこの叫び声…!?」
「この叫び声は…!?
…でも、近すぎるわよ!! いつもはもっと遠くで聞こえるのに…!」
「みんな、下がってて。…ゴメちゃんも、危ないから離れててね」
「ピ、ピィ~」
ドラが叫び声がした方角へとゆっくり歩き出す。
外套のフードの中にいたゴメちゃんに離れるよう指示し、ポップとマァムの前に進み出て2人をかばうように、ゆっくりと森へ向かってロッドを構えた。
先ほどの喧騒が嘘かのようにシィン…と静まり返る魔の森。
ただならぬ様子にポップとマァムも緊張してドラがロッドを構えた先の森を見つめた、と次の瞬間…
「ウオオオォォォォォォォォォンッ!!!!!」
鬱蒼とした森を作っている高く、太い幹を持つ木々がまるで前世で見た大型のブルドーザーに押し倒されるようにバキバキと折られていく。
空気を震わせ、耳も体も、魂ですら
体長2mはゆうに超えようかという巨大なワニの獣人…見るからに重厚で頑丈そうな鎧と、人間では到底扱えないであろう大きな戦斧を手に殺気露わに近づいて来る。
「見つけたぞ…小娘!!」
「…」
「…ッ!!」
「…な、なんでこんな強力なモンスターが…ここに…」
眉ひとつ動かさずにロッドを構え続けているドラ。
対してポップとマァムは突然現れたとてつもない力を持つ敵に顔面蒼白で体を震わせる。
「我が名は獣王クロコダイン!! 魔軍司令ハドラー様が指揮する六つの軍団の一つ、百獣魔団の軍団長だ!!」
ビリビリと空気を震わせ相手を喰らい尽くさんばかりの迫力で獣王クロコダインは名乗りを上げた。
恐怖からではなく単純に野太い大声が耳を突いた不快さに顔をしかめながら、ドラも挨拶をし返す。
「…ご挨拶をどうも、ドラと申します」
「…ほう? ただの非力な人間の小娘かと思っていたが、なかなか肝が据わっているではないか…!
魔軍司令殿をも傷つけたという話もあながち嘘ではないということか…」
「獣王…!? 魔軍司令…!? 一体どういう…」
事情を知らないマァムが困惑した表情でドラとポップを見る。
(ごめんなさいマァム、説明はまたあとでゆっくり)
申し訳なく思いながらも体勢を崩さず、クロコダインと対峙するドラ。
「ハドラー様の勅命によりドラ…お前を討つ!! 死にたくなければ必死で立ち向かって来るのだな…!」
クロコダインの狙いはドラ一人。当然向けられる殺気もドラにだけなのだが…
それでもこの巨躯の獣人から放たれる
しかしそんな
「うるせえッこのワニ野郎ッ!! へっ、よく聞いてみりゃあ何のこたあねえ! ハドラーの下っ端じゃねえか。見てくれがあんまり凄いんでびびって損したぜ!
ハドラーでさえ俺達がコテンパンにノしてやったのにお前なんかで相手になるかってんだ!! なあ、ドラ!!」
「…ップハ! ポップすごい…フフフッ…!
…こほんっ。そうそう、あなたなんか目じゃ無いから、できれば今すぐお引き取り願いたいんですけど?」
明らかに格上の相手を前にしてこれだけの軽口を叩けるポップに思わず吹き出してしまったドラ。
すぐ調子に乗るのがポップの悪いところだが、すぐ調子に乗れるのもポップの長所だと思っているので短い付き合いながらもドラはポップの性格を好ましく思っていた。
「クックックックック…」
「何がおかしいんだよ! てめえぐらい俺の呪文でチョイチョイっとやっつけてやらあ!!」
「…ップハ!」
「どこの馬の骨か知らんが…まあ、試してみるんだな」
「馬の骨だとぉッ! こんの野郎~~~ッ!!
ポップから放たれた
しかしクロコダインは避けるでも、戦斧で防御するでもなく
「フフフッ…フウウウウ~ッ…ぐはあッ!!!」
開かれた鰐口で大きく息を吸い込み、吐き出す。
たったそれだけのことでポップが放った渾身の
「い、息だけで…
「フッ、こんな呪文じゃスライムだって殺せんぞ!!
それッ 今度はこちらの番だ!! ぬおおおおおおおッ」
言うが早いか、叫びながら振り下ろされた戦斧からは風圧だけではない、込められた『闘気』が衝撃波となってドラとポップの間をかすめ通り、後ろにあった岩肌を貫通した。
轟音を立てて一瞬のうちに抉られた岩盤…見れば5mほどの厚さがあった岩盤のその更に先、森の木々さえも貫通している。
クロコダインから放たれた衝撃波の凄まじさに、さしものドラも目を見張った。
「クククッ、獣王軍軍団長を見くびらないでもらおう…
ハドラー殿を上回るほどの力…それがあるからこそ軍団長を任されておるのだ…!」
そうクロコダインが己の力を自慢げに披露しているうちにポップは逃走を開始していた。
ポップがつい今しがたまでいた空間を横目で見つつドラはクロコダインに視線を戻す。
逃走したポップにクロコダインも当然ながら気づいていた。
「フハハハッ賢明な判断だな…あんな雑魚に用はない! オレが殺せと命じられたのはドラ…お前一人よ!!
いくぞぉッ!!!」
ドラを仕留めんと振り上げられた戦斧、そしてクロコダインのワニ特有のゴツゴツとした表皮に覆われた手…
それが今まさに振り下ろされんとした刹那…
ドォンッ!!
まるで小さな大砲のような音を立てたそれがクロコダインの攻撃をくい止めた。
厚い氷に覆われ、ビキビキと音を立てて凍り付く戦斧…
発砲音の元を視線で辿ると、勇ましくも銃口をクロコダインに向けてなおかつ睨みつけているマァムの姿があった。
「…くっ、ウオォォォッ!?」
何が起こったのか咄嗟に把握出来ず、動揺するクロコダインに対しポップとマァムに対する感情を一旦心の外に追いやっていたドラは『敵が動揺して隙を見せている』という事実のみを把握して攻撃へと転じていた。
額が輝き、そこから溢れた青い光が暗く澱んだ魔の森を静謐な明るさで照らし出す。
自身の体に流れる“
クロコダインが事態を把握して抵抗すべく体を動かすが…
(遅い!!)
見上げるほどの巨躯、その眼前へとジャンプして目を合わせながらドラは練り上げた
「
「ぐあああああああああッッ!!!?」
振り上げたロッドを、クロコダインの眉間へと渾身の力で叩きつけた。
叩きつけた
理性で争おうと必死に抵抗するも、刻まれた恐怖にもがき苦しむ様相のクロコダイン。
やがてドラの
ズシン、ズシン…と一歩一歩村から遠ざかる足音を聞きながらドラは手にしていたロッドを腰のベルトへと装着し直す。
本当なら
自分が相手より強ければ強いほど効果が見込めるがさすがに大魔王バーンより強さや序列が上とは思えない。
『
ロモス王国には以前来た時に『
クロコダインが手出し出来ないなら百獣魔団による被害も激減するだろう。
そんなことをつらつらと考えていたドラだったが…
「ピピィ~~~~」
「あっ、ゴメちゃん! ごめんごめん、大丈夫だよ~。あんなのにやられたりしないってば」
「ピィ~!」
「ドラ…あなた…」
銃を構えた姿勢のまま…、いや、銃を構えていたが脱力してへたり込んだ体勢で、マァムはドラとクロコダインの戦闘の衝撃がまだ抜けていないようだった。
「ドラーーー!! 無事かーーー!!?」
間を置かずにポップも戻ってきた。
案外早くに戻ってきたポップに満面の笑みを向けながら、ドラは
「ポップ、すっごい啖呵だったね!
あ、獣王クロコダイン、やっつけたよ!
マァムも加勢ありがとう〜」
と、無邪気に両手でピースサインをしながら報告した。
一方その頃、デルムリン島では…
「ドラよ…どうか無事であっておくれ…
…ウッ!? な、なんじゃこのすさまじい妖気は…!?」
キヒヒヒヒ…!
おまえがブラスとかいう鬼面道士じゃな……
「ま、魔王軍…!? バ バカなっ!!
この島はドラがかけた
あのハドラーでさえ凄まじい衝撃とともに打ち破ったのに…音も立てずに入って来るとは…!!」
「ヒッヒッヒッ、そのくらい造作もないことよ…
このワシの…妖魔力を持ってすればな…!!」
「おおお、お前はっ…!?」
「ワシの名は妖魔司教ザボエラ!!
大魔王六軍団のひとつ…妖魔士団の軍団長よ!!!」
(獣王に)刻む恐怖
ポップ君は癖で逃げ出しちゃったけど先生の言葉を思い出して自分でちゃんと引き返しました。
仕方ないね、長年染み付いた逃げ癖だったから。
ドラ「あれにあんな啖呵切れるとかポップすごい勇敢じゃない? ちゃんと自分で逃げれたし…
どこが臆病なの?」