「お待たせいたしやした、ドラの姐さんッ!!
勇者ドラの唯一無二にして至高の杖、リュミベル!!
姐さんに呼び声に応え、今ここに馳せ参じやしたぜッ!!!」
「遅いッ!!!」
「申し訳ありやせんッ!!!」
神々しい光が降り注いでいた先ほどまでとは打って変わって、あたりは夜闇に包まれている。
天を満たすのはドラの魂から溢れた生命力。
満点の星空に酷似した
「メルルちゃん……!」
「ひっ…!」
「ドラ、ちょっと落ち着いて…」
「落ち着く…!?」
わなわなと震えるドラの目がカッと見開く。
「(恋の)前線に立たないどころか敵前逃亡しようとしてる人間を前にして落ち着いていられるわけないでしょうがあぁーーーッ!!!
想いを告げる努力もせず心に秘めたまま来世は勇気のある人間に生まれ変わりたいぃ!??
そんな虫の良すぎる願い叶うわけないでしょう!!?
可愛い顔に引っ付いてるお口は飾りか!? あぁん!??
その腑抜けた根性、今すぐ私が魂ごと粉微塵にしてやるわッ!!
そんで速攻生まれ変わってとっととポップに告白しに行けこのウジ虫ーーーッ!!!!」
「キャアァァーッ!!!」
悲鳴をあげながら逃げるメルル、憤怒の形相で追いかけるドラ…
意外や意外、すぐに捕まるかと思われたが案外足が早く持久力のあるメルル。さすが魔王軍の侵略から逃れるために諸国を巡っていただけはある。
対してドラは魔法は得意だが体力やスタミナは勇者にあるまじきステータス、同年齢の女子と比べてもいささか劣っている。走り始めて5分も経たないうちに息切れし始めた。
…十数分後、息を切らしたドラが
「メ…メルルちゃん…ぜぇ、ぜぇ…
諦めちゃダメ…
世の中には二種類の人間がいるの…はぁ、はぁ…
自分の好きな人以外は、まったく好きになれない人と…げほっ
自分を好きになってくれた人を、好きになっちゃう人…!
ポップは後者だよ…!!
まだ、付け入る…じゃない、入り込む余地はあるから…
諦めないで…! 何があってもポップはメルルちゃんへの態度を変えたりなんかしないよ!!
だから、応援するから、ぜぇ、何回でも…告白しよう…!」
言い終わるとドラは力尽きてその場に倒れ伏した。うつ伏せの体勢でまだ何かブツブツと言っている。
「ドラさん…」
「ドラ、大丈夫?」
そんな…そこまで私の恋を応援してくださるなんて…とメルルはじぃんと目頭を熱くする。
お姉ちゃんは心配して駆け寄ったドラの口から「じゃないと…告白イベント二つも見逃した私が報われない…!」という他人の恋路をイベント扱いするわりと最低な言葉が聞こえてきたがそこをツッコむとまたややこしい事になるので全力で聞こえないふりをした。
出来る女はTPOを弁えているのだ。
しばらくして息を整え終えたドラが、ふよふよと宙に浮いているリュミベルに向き直る。
魔宮の門でハドラーと衝突した後、離れ離れになっていた持ち主と武器の久方ぶりの再会だ。
「リュミベル、大丈夫だった? バーンの魔力に邪魔されて念話出来なかったけど首尾は上々?」
「へいっ、ご安心を!
ハド公と先生さんはちゃんと地上近くまでお連れしやしたぜ!
姐さんからの呼び出しがあったもんでこっちにすっ飛んで来やしたが何、地上まであと十層足らず…
遅からず追っ付けこちらに到着するはずでさぁ!」
「でかした!」
「アザァッスッ!!!」
ドラは離れ離れになっている間、自分の武器がきちんと役割を果たしていたことに満足そうに微笑んだ。
爆発によって散り散りとなったドラ、リュミベル、バランとディーノ、そしてハドラー及び親衛騎団…
あの時ドラは力を振り絞りそれぞれを
ドラ自身は
ハドラーを破邪の洞窟に飛ばしたのは特に深い理由があっての事では無い。
ドラが知っている中で一番地下深く、黒の
一緒に飛ばしたリュミベルを媒体にして
黒の
「まさか、アバン先生がいる場所に飛んでいたなんて…」
「へい、手前も驚きやした…
おそらくですが、ハド公の先生さんに対する異常な執着心が姐さんの魔力に乗っかった結果だと思いやす。
魔法はイメージ勝負…姐さんのイメージ力よりもハド公のイメージ力のが強かったんだと思いやすぜ。
いやはや、いついかなる時も先生さんのこと考えてるなんて…並大抵の想いじゃねぇや」
「アバン先生、色んな意味で人の気持ちを掻っ攫って人生狂わせてく常習犯だから…」
「罪作りなお人だぜぇ」
リュミベルを通じて、アバンとハドラーが一緒に行動している事を感じ取ってはいたドラだが詳細までは把握していない。
どちらの生命力も消えていないならまあ大丈夫だろうとリュミベルに対応を丸投げした。
アバンとハドラーの因縁についてはこの際後回しだ。今は魂を肉体に戻すほうが先決である。
ドラは手にしたリュミベルを
「マザー! 私は何がなんでもみんなのところに帰らなくちゃいけないの!
今すぐ私の魂を元の肉体に戻して!!」
………。
大魔王バーンはもはや神をも超えた存在…
いかに強き
今生き返っても、地獄の苦しみを味わうことになるでしょう…
それでもなお…あなたは地上へ戻り、戦いに身を投じるというのですか?
「当然! それが
私にはもう、新たな
いいえ、それどころか…私の生命はもうじき尽きようとしています。
おそらく大魔王バーンに敗れたあなたの魂を迎えに行くことも叶わない…
それでも、地上へ戻る覚悟であると…!?
ドラが
「マザー、なんか勘違いしてない?
私は負け戦に挑みに戻るんじゃないの。
大魔王バーンに地獄の苦しみを味わわせて、吠え面かかせるために戻るのよ!
…そうだ、ついでにマザーも私と一緒においでよ!
別にマザーの力を貸してもらわなくても、みんなの力を合わせればバーン程度に遅れなんか取らないよ。
マザー今弱ってて本体どころかそのエネルギー体も消えちゃいそうなんでしょ?
私の魂と合体すれば消えなくていいし、バーンの吠え面近くで見れるよ!
ね、良い案でしょ?」
………。
しばし無言でじっとドラの瞳を見つめていた
良いでしょう…
古き竜の時代は終わりを告げ、新しい竜の時代が始まろうとしている…
私の力と役目をあなたに託しましょう…!
どうか、世界を良き方向へと導いて…!!
「うわっ」
「きゃああっ!!」
「ま、眩し…!?」
カアアッ…と火傷しそうなほどの熱が襲ったかと思えば、それは一瞬でおさまった。
おそるおそる目を開けてみれば、すでに
「お疲れさま、マザー。
今までずっと、ありがとう」
永きに渡り
「わわっ…大変! 魂が肉体に引っ張られてる…!?
お姉ちゃん! メルルちゃん!
早くこっちに…!!」
「ええっ!?」
「ま、待ってください…!」
二人の手を取ったドラの体が白い光に包まれていく。
やがて闇夜に浮かぶ満月のような光球に包まれた三人と魂と白銀の杖は、大地に寄り添う月のようにゆっくりと地上へと戻っていった。
ドラ達三人の魂が地上へ向かっている頃、地上では…
「なんだ…!? ディーナの体が熱く…!!」
「あっ、
バランの腕の中で静かに息を引き取ろうとしていたドラの体に熱が戻り始め、空中で止まっていた
突然彼方から飛来し、ドラのそばで浮いていたリュミベルが嬉しそうにくるくると回転し始める。
「ん…んん…」
「メルル…! 良かった…
おい、メルル! しっかりしてくれ!!
目を開けるんだ!!」
「ん…ポップさん…?」
「ああ、心配したぜメルル…!
ありがとう、ドラを連れ戻してくれたんだな…!!」
「い、いえ、私は…」
ポップに抱きしめられて赤面するメルル。
やがてポップからの抱擁が終わると、普段下げていることが多い困り眉をキリッと吊り上げてマァムへと駆け寄っていった。
「メルル、良かっ…」
「マァムさん!」
「えっ、な、何? どうしたの?」
「私、負けませんから!!」
「ええっ!?」
いきなり宣戦布告されたマァムは困惑しきりだが、メルルはなぜかやる気満々で再びポップのそばへと戻っていった。
告白するまでは行かないがメルルにしては驚異的な成長だろう。
ドラの魂を迎えに行く前と今では瞳の輝き方が違う。
どうやら攻め一辺倒の魂に触れたおかげでドラの積極性が彼女にも僅かながらであるが移ったらしい。
今はまだマァムだけを見つめているが、近くにいて日々アピールしていれば聡いポップのことだ。
早々にメルルの気持ちに気付いて意識する日も近いだろう。
「んん…むにゃ…固い、やわらかくない…」
「ディーナ!!」
「わっ…!? いきなりおっきい声出さないで…!!
…ってお父さん!?
あれ? 私、肉体に戻ってきた?」
「姐さん! おはようございますッ!!」
「あ、リュミベルもちゃんといる。え〜と…
あ、良かった〜お姉ちゃんの魂と
自分の体をペタペタと触って心身の無事を確認したドラが立ち上がって手を振った。
「ごめんみんな心配かけてー! ちゃんと無事に戻ってきたよ〜!」
「ドラちゃん、心配したのよ!! 目が覚めて良かった…ぐすっ」
「良かったディーナ…!」
「ドラ…」
「勇者殿!」
「勇者様…!」
ドラの無事を確認し皆が一斉に歓声をあげる。
「えーと…何してたんだっけ?
あっ、そうそう恋バナの最中だった!」
違う、
マァムの恋心を自覚させないといけないので間違ってはいないが主題が大きくズレている。
ドラが引き続きマァムと恋バナしようとしたその時であった。
「出でよッ魔界の
デルパ〜〜〜ッ!!!」
「なっ…!?」
「ザボエラ…!!」
一度は敵を一掃したはずのロロイの谷に、夥しい数の
しかもどの
「せっかく仕留めたと思ったのに黄泉帰りおって…忌々しい小娘よ!!
まあよい…
新生魔王軍の精鋭…魔界の
「あぁん?」
人がこれから楽しく恋バナしようとしている時に横槍を入れるとは…つくづく野暮な妖怪ジジイめ。
およそ勇者とは思えないその表情を見たディーノは
(あれ? どっちが魔王軍だっけ?)
と、一瞬本気で考え込んだ。
良いタイトルが思いつかなかった…
余談
自分の好きな人以外は、まったく好きになれないタイプ
ドラ、レオナ、ヒュンケル
自分を好きになってくれた人を、好きになっちゃうタイプ
ポップ、マァム