ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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111_どうしてそうなった

『マザードラゴンッ!』

 

思わずといった様子で玉座から立ち上がった大魔王バーンが白銀に輝くドラゴンを食い入るように見つめる。

ドラが放った極大真空呪文(バギクロス)が敵を飲み込み、キルバーンの仕掛けた(トラップ)ごとバーンパレスを抉っていく。

玉座の間に掛けられた大水晶はアバンの使徒がバーンパレスに突入してからずっと、一直線に突き進んでくる一行の姿を映し続けていた。

 

「フッ…フハハハハハハッ!!」

「…バーン様?」

 

立ち上がったかと思えば突然笑い出したバーンをキルバーンが訝しんだ。

心の底から楽しそうに笑っている時は大抵、ろくでもない事を考えている時だと経験上知っていたからだ。

 

「素晴らしいぞ勇者よ!!

呪文を進化させるほどの底知れぬ魔法力!!

まさか余以外にそんな者が現れるとは…それも(ドラゴン)の騎士の血を引く女だとッ!!

これを天の采配と言わずして何と言おうぞ…!」

 

「なにナニ!? バーンさま、一体どうしちゃったの~?」

 

ピロロがわざとらしく愛嬌を振り撒く。

しかしバーンはピロロには一瞥もくれず、質問にも答えずに扉に向かって歩き出した。

下々の戦いなど、玉座にふんぞり返って観戦しつつ、気まぐれに部下に命令を下すしかしてこなかったバーンの突然の行動にキルバーンは唖然とする。

 

玉座の間を出たバーンは振り返りもせずキルバーンに命じた。

 

「キルバーン、ついて参れ」

「バーン様、一体どちらへ…」

「決まっておろう? 勇者の元だ」

「バーン様が自ら奴等の前に姿を現すのですか…!?」

「今、ミストバーンを呼び戻す。

キルバーンよ、ミストバーンと協力しアバンの使徒を皆殺しにせよ。

その際、勇者には手を出すでない。

アレは余の獲物だ」

「なるほど、バーン様なりの勇者に対する敬意でしたか…

かしこまりました。

皆殺しにせよとの仰せですが、ヒュンケルは生かしておいても?

あれはミストのお気に入りですので…」

「構わん、好きにせよ」

「ありがとうございます」

 

カツカツと冷たい足音が廊下に響く。

大魔王バーン本人が向かっているとは知らず、ドラ達は敵を屠りながら前進を続けていた。

 

 

 

「バーン様…!?

 

…かしこまりました」

 

地上ではバラン、竜騎衆と剣戟を交わしていたミストバーンが戦闘を中断してその姿をくらませた。

消えたミストバーンの気配を探ると、大破邪呪文(ミナカトール)の魔法陣の近くでザボエラと何やら揉めている。

遠くて声が聞こえないが状況から推察するに、撤退前に魔法陣を壊そうとしたところザボエラに縋りつかれて邪魔をされたようだ。

ミストバーンの衣の裾に縋りつき涙と鼻水を垂れ流している様は無様としか言いようがない。

 

かつてあれと同じ、大魔王六軍団の軍団長に座していたバランは自身の過去ごと真魔剛竜剣を振り下ろしたくなった。

その気持ちが手に取るようにわかったのだろう。

ラーハルトが駆け寄りバランに口上をあげた。

 

「バラン様、あれの首には枯れ木ほどの価値もありません。

今は一刻も早く、ディーノ様とともにディーナ様の後を追いましょう」

「む…そうであったな」

 

バランと竜騎衆、それにディーノはその場を人間達に任せてドラゴンに乗ってバーンパレスへと飛び立つ。

下を見ると一人取り残されたザボエラがロン・ベルクとクロコダインを前に項垂れている。

 

「ミストバーンはおそらくバーンのもとへ戻ったのだろう、我々も急がねば…!」

「…う、うん!」

 

ディーノがちらちらと心配そうに下を見る。

ザボエラの戦闘力はバランの足元にも及ばない。

バランと同等の戦闘力を持つロン・ベルクと、かつて父と同じ軍団長の座にいたクロコダイン。それに北の勇者・ノヴァもいる。

もはやザボエラに勝ち目などないはずなのに、拭いきれない不安は一体どこから来ているのか…

ディーノはその不安を振り払うように大きく頭を振った。

 

(きっと初めての戦争で気が昂って怖気付いてるんだ、俺…!

今はディーナを助けにいくことに集中しないと!

大丈夫、強そうな怪物(モンスター)はほとんど俺が斬り倒したんだから…)

 

ぐんぐんと近づいてくるバーンパレスを見上げるディーノは気付かなかった。

追い詰められたザボエラによって、ディーノが倒した怪物(モンスター)の死体が一つに寄り集まり巨大なゾンビになっていることに…

 

 

 

「順調順調~~~っ♪

このまま全員体力温存して、大魔王に突撃するよぉ~っ!」

「ピィ、ピピィ~」

 

「ちょっ、ちょっと待ってドラちゃん…ぜぇっ…

少しスピード落として…、はぁっ」

「おいこらドラ! 一人だけ前に出過ぎだ!!

無駄にすっ飛ばして魔力消費するな!」

 

「…あれ?」

 

後ろを振り返るとはるか後方に四人の姿があった。

進化型極大真空呪文(バギクロス)『マザードラゴン』を使えるようになってテンションが上がってしまい、気が付けば四人を置き去りにしていたらしい。

四人が駆けつけると、ヒュンケルとマァムは息切れ一つしていないがポップは額に汗が滲み、レオナは息も絶え絶えだ。

かなりのハイペースで進んできたが、それでもまだバーンパレスの中心にある主城、天魔の塔が遠くに見える。

 

「はあっ、はあっ…どれだけ広いのよ、ここ…」

「ねぇドラ。ドラは一度ここに捕まってたのよね?

あそこに見える大きな塔や、バーンの近くの部屋まで瞬間移動魔法(ルーラ)は使えないの?」

 

ドラにとっては順調すぎるくらいに感じるが、他の四人は違ったらしい。

全員の顔にもどかしさが浮き出ていた。

 

「私も飛んで行きたいのは山々なんだけど…

バーンのもとに辿り着くまでには何個か封印をされた扉があって、瞬間移動魔法(ルーラ)で移動しようとしても魔力壁で弾かれちゃうと思う。

お父さん達が来るまで待って魔宮の門の時みたいに力技で壊すか、アバン先生が来ないと進めない」

「アバン? なぜそこでアバンが出てくるんだ」

「え~っとねぇ…」

 

先ほどよりもややゆっくりと進みつつドラがあれやこれやとバーンパレスの構造について説明をする。

大破邪呪文(ミナカトール)はバーンパレスの活動を抑止しているが、内部にはキルバーンの(トラップ)が縦横無尽に仕掛けられていること。

ドラがバーンパレスの動力である魔力炉を無力化した事によってその活動を停止させていること。

しかし、大魔王を倒し損ねたらバーンパレスは活動を再開し世界中に「ピラァ・オブ・バーン」が落とされ破滅へ一直線だということ…

 

他にもこの場に向かって来ているであろうハドラーがこの戦いにどう介入してくるのか、老バーンを倒せたとして無敵の肉体を持つミストバーンをどう倒すかなど懸念は山積みだったが、それらはとりあえず後回しだ。

今は老バーンをとっとと倒して世界中に黒の核晶(コア)が散らばるのを防ぐのが最優先だ。

バーンの気まぐれでどれか一つでも爆発させられたら最後、文字通り世界が崩壊する。

 

そうして第一の関門である封印の扉の前まで辿り着いた時だった。

遠くの空から、額に(ドラゴン)の騎士の紋章を輝かせたバランとディーノ、スカイドラゴンに騎乗した竜騎衆達が向かってくるのが見える。

 

「お父さん! お兄ちゃん! こっちこっち~っ!」

 

ドラが喜色満面で手を振る。

 

「良かった、お父さんとお兄ちゃん…それにヒュンケルとラーハルトもいればこんな扉くらい簡単に壊せ…」

 

ゴゴゴゴゴ…

 

「る…、へっ…?

な、なんで扉が勝手に開い…」

 

親衛騎団のブロックでさえ悠々と通れそうなほど巨大で、一目で人力では決して開けられないとわかる扉が勝手に開いていく。

開かれた扉からはビュウと風が吹いてきた。

同時に、底知れぬ威圧感も風に乗って流れてくる…

 

扉をくぐって歩み出てくる、キルバーン、ミストバーン、そして最後にもう一人…

 

「よく来たな…勇者達よ」

 

「な、なんで…、原作では最後まで玉座の間にいたはず…」

「ピピピィッ…!?」

 

老人ながらも威風堂々という言葉がぴったりの容貌。

穏やかな笑みを浮かべる口元とは反対に冷たい光しか宿っていない瞳、全身から漲る魔法力…

 

「だ、大魔王バーン…!!?」

 

「なっ…!?」

「この老人が…!??」

「お、おい、ドラ…話が違ぇぞ…?」

 

狼狽えながらもアバンの使徒は銘々武器を構えて臨戦体制をとる。

バーンの姿を見たバラン達も、スピードを上げて全速力で向かってきているのが気配でわかった。

ドラもリュミベルから剣を抜いて身構える。一瞬で反射呪文(マホカンタ)を発動できるバーンに魔法攻撃は悪手だ。

 

「ふむ…勇者ドラは既知であろうが、一応自己紹介をしておこうか。

我が名は大魔王バーン。

こちらから出向いてやったこと、光栄に思うが良い。

 

キルバーン、ミストバーン、命じた通りだ。

ドラ以外即刻処分せよ」

「はっ…」

「はぁい♪」

 

「ドラ以外、だと…!?」

「またドラちゃんを処刑台に立たせるつもりね!」

「させないわ!」

「へっ…、大魔王ってぇからどんな化けモンが出てくるかと思ったら、よぼよぼのじいさんじゃねぇか!

わざわざ出向いてきてくれるなんて、手間が省けたぜ!!」

 

武器を構えながら口々に言い募るアバンの使徒を無視してバーンがじっとドラを見据える。

 

「勇者ドラが立つのは処刑台ではない、余の隣だ」

「…? どういう意味」

 

「勇者ドラ、そなたを余の妃とする」

 

「「「…え?」」」

 

キルバーン、ミストバーン、ドラがハモった。

妃? 妃って言った?

え、きさきって、あの妃???

 

アバンの使徒は全員自分の耳を疑い、キルバーンとミストバーンでさえも目が点になった。

どうしよう、ちょっと言っている意味がわからない。

半日前…いや、数十分前まで処刑する気満々だったのに何がどうなったらいきなり勇者(12歳)を娶るという話になるのか…

 

「………よし、殺そう!」

 

ドラは思考を放棄した。

込み上げる嫌悪感と吐き気を必死に抑えて剣の柄を強く握り直す。

原作と乖離し過ぎてもはや考えるだけ無駄だ。殺せば全部解決する。

年下よりは年上がタイプではあるが物事には限度がある。

 

ドラの視界の端に遠くの空から物凄い形相で飛んでくるバランが入った。

 

(まさか今の聞こえてた…?)

 

向かってくるバランを目にしても余裕綽々の態度を崩さないバーンに、ドラは色んな意味で鳥肌を立てた。

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