「戦いの申し出を断ると言うかッ!?
見損なったぞドラ…貴様、それでも勇者か!?」
「私勇者じゃなくて魔法使いだもん。
戦いにかける男の人の意地? とかプライド?
ドラ女の子だからそういうのよくわかんなぁい」
ぷんっ、と頬を膨らませてそっぽを向く。
ハドラーの嘘偽りのない、魂の雄叫びが伝わったのか仲間からも多少なりとも非難の目が向けられた。
しかしドラはそれを毛の先ほども気にせずスタスタと歩き出す。
「お、おい、ドラ…」
「なにポップ?」
「お前、少しはハドラーの意を汲んでやってもいいんじゃねぇのか?」
「私たちが倒しにきたの、ハドラーじゃなくてバーンだけど?」
「…うんまあ、そりゃあそうなんだけどよ」
ド正論を叩きつけられてポップはそのまま黙り込んだ。
レオナもドラの意見に「そうよね」と頷く。
マァムは微妙に納得出来ない様子だが、争わずに済むのならば話し合いで解決するべきだという考えが勝ったらしい。
怪訝な表情のままドラのあとを追って歩き始める。
バランやディーノも、ドラの意見を尊重しているのか反対はしなかった。
ハドラーの気持ちは一人の武人としてとてもよく理解出来る。
しかしだからこそ、戦いを申し込まれたドラが「否」と言っているうちは成立しないのだ。
全てを賭けた戦いは、両者の魂が呼応して初めて意味を成す。
なんだか微妙な空気が漂う空間に凛とした声が響いた。
「待て、ドラ」
「………なに、ヒュンケル」
生粋の武人。不死身の戦士。勇者アバンの一番弟子…
そして、怜悧な美貌とは裏腹に空気を一切読まない、読もうとしない熱血漢。
ヒュンケルに呼び止められて既に険しかったドラの表情が一層険しくなった。
なんというかもう、ドラの背後に「くだらないこと言い出したら殺す」という文字が浮かび上がって見える。
当然と言えば当然ながらヒュンケルはドラが発する不機嫌なオーラを読み取るほどの器用さを持ち合わせていなかった。
案の定ドラの神経を逆撫でするような事をつらつらと並べ始める。
「ハドラーがああまで言っているんだ。
戦いの申し出を受けるべきではないのか」
ぴくぴくっ
「…それ、受けたとして、私に何のメリットが?」
「メリット云々の話ではない。
いいか? 元魔王であるハドラーが、ああまでへりくだってお前と戦いたいと言っているんだ。
一人の武人としてハドラーと対峙すべきではないのか!?」
ビキビキ…
「…だから、私武人じゃないし。
ハドラーの事情に付き合ってあげる義理も無いし。
バーンと戦う前に体力も魔力も消耗させたくないんだけど…!?」
「何を馬鹿な…」
(馬鹿? 今私に向かって馬鹿って言った?!)
ブチブチブチィッ
「いいか、ドラ。
魂を賭けた戦いなど、生涯にそう幾度もあるものじゃない」
「………」
「アバンならば、必ずハドラーの魂に応えて戦ったはずだ。
俺にはわかる…今のハドラーは俺達の敵ではなく、一介の武人だ。
武人が己の全てを賭して戦いたいと言う…それがどれほどの覚悟かわからんお前ではあるまい。
ドラ…今一度言うぞ。
アバンの意志を継ぐ勇者として、ハドラーと戦うべきだ!」
ブッチィーーーン!!
「うるっさあぁぁぁーーーーーーーいッ!!!!」
「ガハッ…!!?」
「ヒュンケルーーーッ!!?」
怒鳴り声とともにリュミベルをフルスイングしたドラの手により、かっ飛ばされたヒュンケルの体が大きな放物線を描いて地面に激突した。
鎧の魔剣のおかげで致命傷には至らなかったが、まさか魔法使いのドラから物理攻撃されると思っていなかったために防御をとるのが一拍遅れ、相当なダメージが入る。
マァムが駆け寄って慌てて
ドラが踵を鳴らして近付いていく。
ツカツカと強く鳴り響く足音は怒り心頭のドラの気持ちをそのまま表していた。
それに気付いたマァムが「ドラ! あなた何てことを!!」と怒りながら振り向いたがドラの顔を見た瞬間「ヒッ…」と息を飲む。
「ぐぅッ…」
額に
絞め上げられたヒュンケルは呼吸をするのがやっとだ。
自分の顔の高さまでヒュンケルの顔を持ち上げたドラがそこでやっと口を開いた。
「一介の武人!? 魂を賭けた戦い!??
知らないわよそんなもんッ!!! あんたさっき一体何見てたわけッ!?
こっちはそんなつまんないものよりはるかに大事な『女の尊厳』踏みにじられたんだけど!!!」
ええ…この子戦士の誇りとか戦いに賭ける想いとかを「つまんないもの」って言い切ったよ…
この場にいる武人全員がドラを残念な目で見る。父親であり武人でもあるバランでさえドラを見る目に光が宿っていない。
ドラはバーンに言われた事を思い出して怒りが再燃したのかますますヒートアップしていった。
ヒュンケルに向かって八つ当たり気味に怒鳴り散らす。
「あのクソ野郎…ッ!!
器!? 母体!? 新たな生命…!?
この私を…! 特上の血統と美貌を併せ持ったこの私を…!!
品種改良に使う家畜みたいな扱いしやがって…
私が攫われてった先の闇オークションで一体何回過去最高額叩き出したと思ってるの!?
タダで手に入るほど安い女じゃないのよ!! 私は!!!」
ガクガクと激しく揺さぶるヒュンケルが何か言っていたがドラはなおも揺さぶり続けた。
バランに抱きすくめられてなんとか我を失わずに済んだが、あと少しで怒りが限界に達して理性が吹っ飛ぶところだったのだ。
理性が吹っ飛んだ状態で大魔王バーンと戦闘をおっ始めていたら敵味方構わずバーンパレスごと破壊していた。
ふぅ、危ない危ない。
「ふんっ!」
「が…ッ!!」
ぞんざいに投げ捨てられたヒュンケルのまわりに仲間達が集まる。
「しっかりしてヒュンケル…!!」
「おーい、生きてっかー?」
「…気絶してるわ」
「あ、えっと、ヒュンケル…その、俺の妹がなんかごめんね…?」
「ピィ、ピイィ〜…」
怒りが一向におさまらないドラはリュミベルにありったけの魔力を注ぐ。ドラを中心にして旋風が舞い上がる。
渦巻く魔力の濃さに、いち早く危険を察知したポップが「全員ドラから離れろぉッ」と叫び声をあげた。
旋風はすぐに竜巻に変化し、そこら中に散らばっていた瓦礫やオリハルコンの残骸を巻き上げていく…
「よく聞け
私は
アルキード王族の血を継ぐ、『
私を望むなら持てる全てを差し出して跪いて懇願しろぉッ!
それが出来ない男はただ黙ってその場にひれ伏せッ!!
マ ザ ー ド ラ ゴ ン ッ !!!!」
マザードラゴンが唸り声をあげて『天魔の塔』目掛けて一直線に走り抜ける。
グオォォ…という唸り声は実際のドラゴンの鳴き声ではない。うねる風が衝撃と共に建物を削り取っていく音だ。
全てを巻き込みながら斬り裂いていく竜巻は天魔の塔に到達する直前、一羽のフェニックスによって阻まれてしまう。
空中で激突した
フーッ フーッ
炎と風。
属性の相性が悪く全力で放ったマザードラゴンをたった一発のカイザーフェニックスで消されてしまったドラは悔しそうに歯噛みした。
バーンの主城、天魔の塔は落とせなかったがそれ以外の尖塔は真空の刃を受けてガラガラと崩壊していく…
くるりと振り返ったドラの表情を見たハドラーが額から汗を一筋流した。
リュミベルを金属バットさながら肩に担いだドラは有無を言わせぬ迫力でハドラーに命じる。
「ハドラー、
手伝いなさい。
奴を跪かせたらご褒美に全力で戦ってあげる」
「………よかろう」
ハドラー様、とアルビナスが抗議の声を上げたがハドラーはそれを手で制す。
今のドラを刺激したらアルビナスなど一瞬でなます切りにされていた。
それくらい、自身が道具か家畜のように扱われたことに怒り狂っているのだ、ドラは。
「よし、じゃああらためて…
バーン、ブッ飛ばすッ!!!!」
いつか鬼岩城にやったように、ドラがホームラン宣言のポーズを取った。
そこでやっとドラから放たれていた威圧感が緩む。
まるで特大の爆弾岩があるような緊張を強いられていた仲間達は胸を撫で下ろした。
「…時に、ディーナよ」
「ん? なあにお父さん」
「攫われていった先の闇オークションとは…一体どういうことだ?」
「あ」
「違うのよお父さんこれには深い事情があるの。女の人たちが酷い目にあってるのが許せなくて悪質ぱふぱふ館とか奴隷商人とか変態貴族のところに潜入するためには仕方なかったの。まさかそんな貢がれるのが楽しくてお店のNo.1の座を欲しいがままにしたり仲良くなった女の子達と夜のお店で豪遊したり興味が出てぱふぱふ館を経営したりなんてことしてないわ、信じてお父さん。遊ぶ金欲しさ…じゃなかった、良い装備やアイテムを手に入れるためにはそうする他なかったの」