ドラがバランの前に正座させられて悪質ぱふぱふ館の主人に
「ハァッ…ハァッ…!!」
「どうした? もうおしまいかの?
怪力無双で知られた獣王が、その程度でへばるとは…
獣王の名も地に落ちたもんだのう、クロコダイン!!
キィ~ヒッヒッヒッ!!」
「ぬうぅッ…!!」
巨大なゾンビ…ザボエラが作り上げた至高の無生物兵器『超魔ゾンビ』。
その体には夥しい数の武器が突き刺さっていた。
その状態でもなお、まったく動きが鈍らないそれにクロコダインは幾度も斧を振り下ろし業火を見舞う。
しかし目の前の超魔ゾンビは数十…いや、数百発の攻撃を当てても一向に倒せなかった。
クロコダイン、ロン・ベルク、ノヴァ、チウをはじめとする獣王遊撃隊、ビーストくん、カール王国の兵士達…皆決して諦める事なく斬りかかる。
超魔ゾンビは襲いくる物理攻撃だけでなく、あらゆる呪文すらも全て棒立ちの状態で受けた。
しかして結果はザボエラの笑い声が表すとおり…
死体をより集めて作った超魔ゾンビのボディには微かなダメージさえも入らない。
(グレイトアックスの刃が砕けるとは…!
ザボエラめ、超魔ゾンビの皮膚に強い酸か猛毒でも仕込んだか…!?)
何度もゾンビの皮膚を打ち据えた斧の刃がひび割れてボロボロと崩れ落ちる。クロコダインの額から冷や汗が滲み出た。
感情を取り繕えないクロコダインを見たザボエラは、皺だらけの口元をにんまりと歪める。
這いずりながら逃げる兵士を、まるで人形を掴むように超魔ゾンビの巨腕でわしりと掴み上げて胴体を締め上げた。
「ぎゃああああ…ッ!!!」
兵士の絶叫とバキボキという嫌な音が混じり合ってあたりに響く。
「クソッ…その手を離しやがれッ!!」
ロン・ベルクが足元に落ちていた槍を拾い上げ、兵士を掴んでいる巨腕に投擲した。
閃光の如く空を駆けた槍が超魔ゾンビの腕を貫いた刹那、ノヴァが颯爽と飛びかかり槍が刺さった腕に剣を突き立てる。
「たああぁぁーーーッ!!!」
「フンッ! 無駄よ無駄ぁッ!!」
「ぐぅッ!!」
リンガイアの技術の粋を集めて作られた大剣が、超魔ゾンビの腕に突き刺さったまま無惨に折れた。
超魔ゾンビは握りしめていた兵士ごと飛びかかってきたノヴァを、まるで羽虫を落とすような仕草で振り払う。
オモチャのように宙を舞うノヴァをロン・ベルクがすかさず受け止めた。
ビーストくんも地面に投げ捨てられた兵士に駆け寄って回復呪文を施す。
骨も内臓もひしゃげ、もはや戦闘は不可能な有様だったがあと一歩でもノヴァの攻撃が遅れていたら確実に死んでいた。
一命を取り留めただけでも奇跡だろう。
「これだけ呪文をくらい…全身に刃が刺さっても…!!
苦痛な~~~し!!! 大成功じゃあぁ~~~ッ!!!
キィ~ッヒッヒッヒッ!!!」
超魔ゾンビの内側からザボエラの高笑いが聞こえてくる。
「キヒヒッ…どうしたんじゃ? もう攻撃は終いか!?
ならば今度はこっちの番じゃ。
まずはその鬱陶しい魔法陣を粉々にかき消してくれるわッ!!」
「ひっ…!」
「皆、怯むな!! 命に替えても魔法陣と女王様をお守りするんだ!!」
「「「お、おう!!」」」
勇敢さでは勇者に引けを取らないフローラだが、迫り来る死の恐怖に体の震えが止まらなくなった。
(この恐怖が少しでも伝われば兵士達の士気が下がる…!)
恐怖心を悟られないように、真正面から超真ゾンビを睨みつけて余裕のある素振りをする。
少女と言っていい時分から国民の命を背負って生きなければならなかった、女王としての矜持…そして愛する人から教えられた勇気がフローラを奮い立たせていた。
そんなフローラの胸中を手に取るように見透かしたザボエラは、わざとゆっくり超魔ゾンビを歩かせる。
今、この場にいる誰よりも長い時間、他人の顔色を窺って生きてきたのは間違いなくザボエラに他ならなかった。
フローラがどれだけ余裕ぶろうと顔色一つ、ほんの少しの仕草だけで無理やり恐怖心を抑えつけていることを読み取るなど造作もない。
ニタニタと歪んだ笑みを浮かべながら、フローラ以外を皆殺しにした後、魔法陣を破壊して絶望しきったところで最後になぶり殺してやろうと計画立てた。
「!!?」
「さ、させぬぞ…ッ!!」
「クロコダイン…!
はぁ~、まったく…!
これだから馬鹿の相手は嫌になるわい。
貴様の力なんぞ、今のワシには通用せんと証明されたばかりじゃろうがッ!!」
「ぐあぁッ…!!」
「ギィ~ッヒッヒッヒッ!!
貴様の頭を押さえつけてやれる日が来ようとは…
最高の気分じゃ! 圧倒的な力で一方的に他者をいたぶれるというのはなぁッ!!」
「ぐわああああーーーッ!!」
「クロコダインさん!!」
「クロコダイン!」
超魔ゾンビの拘束から逃れようと、クロコダインは力の限り暴れ回る。
その姿を嘲笑うかのようにザボエラはクロコダインを掴む超魔ゾンビの手にますます力を入れていった。
「くそッ…一体どうしたら…!」
クロコダインの力で敵わない存在を止める方法が、ノヴァにはどうしても思いつかない。
目の前で苦しんでいるクロコダインを助け出すことも、超魔ゾンビの歩みを止めることも出来ず、ノヴァは必死に頭を働かせて状況を打開する方法を探した。
早く何か良い方法を思いつかなければ、クロコダインの頭が握り潰されてしまう…
その時である。
誰かが焦燥するノヴァの肩に手をおいてグイと力を入れた。
「……おい、そこをどけ小僧」
「うるさいっ! 今どうすればいいか必死に考えてるんだ!!
話しかけないでくれ!」
「たかが人間風情が、二桁程度の年数分の知識しか蓄積していない低脳で良案が出せるはずなかろう」
「なんだと…!??
ならどうすればいいって言うんだッ!?
なっ、ま、魔族ッ!!?」
「んんっ!? 魔族じゃと?」
「ぐはあぁッ!!!」
「クロコダインさん、しっかり…!」
「魔族」という言葉を地獄耳で拾ったザボエラがクロコダインをゴミのように投げ捨てた。
チウやビーストくんが傷付いたクロコダインを助け起こし介抱する。
「なんじゃお前…生きておったのか」
「お久しぶりです…父上」
ドラに捕虜として囚えられていたザムザ。
ザボエラはザムザが人間に捕まった後すぐに処刑されたと思っていた。
死んだと思っていた息子が目の前に現れたというのに、ザボエラはまったく嬉しくなさそうだ。
冷たい態度にザムザの胸がつきりと痛んだ。
「ふん…今の今までこのワシに何の連絡もよこさんとは、一体何様のつもりか。
ワシが心血注いで作り上げた大事なデータを奪われた挙句、敵に囚われるような失態を晒しよって!!
よく姿を現せたもんじゃな!? えぇっ!!」
「………」
「…まあ良い。貴様への折檻など後回しじゃ!!
何をボサっとしている!?
とっととこの場にいる人間どもを殺すのを手伝わぬか! この役立たずめがッ!!」
「……します」
「はぁ? なんじゃ? 何か言ったか、役立た…」
「お断りします、と申しました。
父上…!」
「………なんじゃと?」
どんな理不尽な命令にも黙って従ってきたザムザ。
ザボエラの記憶にあるザムザの姿は自分の命令に決して逆らわず、俯きながら黙々と作業に没頭する後ろ姿だけだ。
だというのに、どういうわけか目の前の愚息は背筋を真っ直ぐに伸ばして真っ正面からザボエラを睨みつけている。
子は親に逆らわないのが当然だと思っているザボエラは、あまりにも予想外なザムザの反応にすぐには事態が飲み込めなかった。
後の世において、勇者ドラが大魔王バーンを倒した日として人類の歴史的記念日となるその日…
その日はザムザが生まれて初めて父ザボエラに背いた、彼にとっても歴史的な日となった。