ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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118_死神の罠

「どどど、どうしようキルバーン~! ハドラーが戻ってきたよ~!」

「あらら」

 

慌てふためくピロロとは対照的にキルバーンはさして驚いた様子もなく、舞い戻ったハドラーを冷たい瞳で見つめた。

 

「マキシマムに期待はしていませんでしたけど、まさかハドラー君がお出ましとは」

「…」

 

キルバーンの呟きが耳に入って、大魔王バーンはごく短い溜息を吐いた。

 

バーンパレスの守護神とは名ばかり、実態は複数人で寄ってたかって敵を仕留める卑劣さ故に『掃除屋』などと揶揄されている(キング)マキシマム。

バーンとてマキシマムの戦闘力になど、さしたる期待はしていなかった。

しかしそれでもだ、強靭さだけなら他に追随を許さぬオリハルコン戦士を両の指ほども従えていたのだ。

 

(まさか勇者一行の誰一人として始末出来なかったばかりか、ドラを捕らえることすら出来ぬとは…)

 

ハドラーが舞い戻ってきた事は確かに不測の事態ではあった。

あったがしかし、多少のトラブルは誤差の範囲。

バーンから見れば地上という、魔界に比べればぬるま湯のような環境で息巻いていたハドラーなぞ小物にしか過ぎない。

 

(その小物に戯れに下賜したオリハルコン生命体に易々と倒されるとは…マキシマムめ、余の顔に泥を塗りおって)

 

マキシマムなど失っても何も痛手ではないが、一応はバーンパレスにおける精鋭であった。

あっさりと倒されるなど恥をかかされたも同然。「強さ」を信奉するバーンの胸に不快感が押し寄せる。

皺だらけの手で髭を撫でつけ、荒ぶる気持ちを落ち着かせた。

 

不快感をかき消そうと、バーンは視点を切り替えてハドラー以外の勢力について考える。

 

(バラン、ロン・ベルク、元軍団長のクロコダインにヒュンケル、そして元魔軍司令ハドラー…

凋落するかと思ったが皆一様に余に牙を向け、あまつさえパワーアップまで果たしている。

それほど地上が大事か、はたまたドラに魅了されたか…?)

 

地上にもドラにも、物理的な価値しか興味がない。

一体何が彼奴等の心を突き動かしているのか…

 

(確かに太陽の光溢れる地上も、(ドラゴン)の騎士の血を受け継ぐ女も、失えばどちらも二度と手に入らぬ。

それらに固執するのもわからないではない)

 

わからないではない、が…「魔界の神」とまで謳われたバーンに楯突くほどのものなのか。

あれこれと理屈が浮かんできたが、どれも腑に落ちなかった。

 

(よもや地上には魔界には無い何かがあると…?)

 

深く思考に沈みそうになったバーンは(かぶり)を振って意識を引き戻す。

跡形もなく消し去ると決めた物に対し、これ以上の考察など無意味だ。

 

玉座の間に備え付けられた巨大水晶には天魔の塔目指してひた走る勇者一行とハドラー、親衛騎団の姿が映し出されている。

地上を消し去り太陽を手中に収める。数千年に渡る野望成就を目前にして、思わぬ悪あがきに手を焼く大魔王バーン。

彼の様子をキルバーンの肩に座って盗み見たピロロはバーンにもミストバーンにも気取られぬよう、大きな口に悪辣な笑みを浮かべた。

 

 

 

「さすが大魔王の居城…すごい迫力だわ」

「大魔王の城ってぇからもっとグチョグチョのダンジョンみてぇなのかと思ったら…」

「まるで超一流の宮廷って感じね…」

「う~ん…上品だけど殺風景すぎない? もっと外観を可愛くキラキラなお城に作り替えて怪物(モンスター)も音楽に合わせてパレードさせたら楽しくなるよね!」

「ドラ、よもやバーンパレスを手に入れようとは考えていないだろうな…?」

「ピィ~…」

 

ドラ達は荘厳な雰囲気に満ちた通路を走り抜ける。

原作にもあった通り、バーンパレス内部の通路はどこまで行っても一本道で迷う必要がなかった。

前進する傍ら、前方からも後方からも多数の怪物(モンスター)達が攻めてきたがドラ達が応戦するまでもなく、竜騎衆と親衛騎団がそれらを討ち払っていく。

やがて一行は延々と続く通路を抜け広い空間に躍り出た。

 

「ここは…」

 

そこは原作でも印象深い、傷つき体力を消費したダイ達が一時の安らぎを得た場所…

白い宮庭(ホワイトガーデン)と呼ばれる、大きな噴水が心地良い水音を奏でる空間だった。

きょろきょろとあたりを見回したボラホーンが口を開く。

 

「…敵の気配が消えたな」

 

次いでラーハルトが周囲の警戒を続けたままバランに進言した。

 

「バラン様、しばしここで体勢を整えたほうが良いかと」

「ちょうど良い水場もあるし、ルードも喉が渇いたって言ってるぜ。

バラン様、しばし羽休めしてよろしいでしょうか?」

「お、俺も…! ちょっと走り疲れた…!」

 

「む…」

 

ディーノの言葉にバランが「いいだろう」と一言告げて一行はしばし休息を取ることになった。

 

「なんだ、ディーノお前体力ねぇなぁ」

「あはは…」

「まだこんなに小さいんだもの、無理もないわ」

「大丈夫、ディーノ君はまだまだこれからなんだから。

体だってすぐに大きくなって体力だってぐんぐん付くわよ!」

「お前達、あまり気を抜きすぎるな」

 

和気藹々とした雰囲気を醸し出すアバンの使徒と竜騎衆…

その一方、ハドラーと親衛騎団は先へと続く階段の上に登って休息を取る一行を無言で見つめていた。

ドラも一度来た事のあるバーンパレスをゆっくり眺めようと、階段を登りながら美しい宮庭の景観を楽しむ。

 

「おい」

「ん~? なあに、ハドラー」

 

腕組みをしながら不機嫌さを隠そうともしないハドラーが腹立たしそうに声をかける。

話しかけられたドラは気の抜けた声で天井を見上げたまま返事をした。

 

「立ち止まっている時間が惜しい。俺達は先に進むぞ」

「別に止めないけど…私たちは一旦休憩~」

「テメェ…バーンをブッ飛ばすって言ったのはテメェだろうが!?

あの言葉は飾りかよ!!?」

 

ぞんざいな態度が気に入らなかったヒムが怒鳴り声をあげた。

怒鳴られてもなおバーンパレス見学を止めないドラが間伸びした口調で言い返す。

 

「言ったよ~? でもお兄ちゃんが疲れたって言うんだもん。

バーンよりもお兄ちゃんの体調の方が大事だもん。優先して当たり前でしょ~?

バーンなんか待たせておけばいいよ」

 

ハドラー達は信じられないものを見る目でドラを見た。

あれだけの啖呵を切っておきながら身内の瑣末な事情を優先させるなど…直情的でこうと決めたら猛進するきらいのあるハドラー達には、気まぐれな猫のようなドラの奔放さはすんなりと受け入れられるものではなかった。

 

「いいじゃない、周辺に敵はいないんだし少しくらいのんびりしても…あっ、あれって…!?」

「姐さん?」

「ピィィ?」

 

ドラが先に続く通路の途中にある扉目掛けて走り出す。

 

「ピィィ~っ!!」

「姐さん! あんましバランの(かしら)達のそばを離れないでくだせぇ…!」

 

ゴメちゃんとリュミベルの制止も虚しく、ドラはバーンパレスの中にあってあまり目立たない、控えめな大きさの扉の前でキラキラと瞳を輝かせた。

 

「やっぱり! ここ衣装部屋だ!!

あの時は適当に選んじゃったけどドレス以外にアクセサリーもたくさんあったはず!」

 

ドラは記憶の中にある衣装部屋の光景を思い出す。

色とりどりのドレスに数えきれないほどずらりと並べられた装飾品の数々…

扉を開ける前からドラの頭の中はどのアクセサリーを身に付けるかでいっぱいになっていた。

 

敵の本拠地から宝石を掠取しようとするドラの心に、微塵の罪悪感も湧いてこない。

勢いよく扉を開けてずかずかと中に入っていった。

 

「バーンのせいで散々いらない苦労させられてるんだから、宝石の一つや二つ…ううん、百個くらい慰謝料代わりに貰って当然だよねっ。

どの色の宝石にしよう~♡ あ、そうだ。みんなにもいくつかお土産に…」

 

バターンッ!!

 

「ピイィッ!!?」

 

ドラがろくに中を確認もせずに突入していった直後、物凄い勢いで扉が閉じた。

危うく羽を挟まれそうになったゴメちゃんが悲鳴をあげ、仲間達のもとに助けを呼びにすっ飛んでいく。

扉が開いていたほんの僅かな時間、扉の向こうに見えたのは煌びやかな衣装部屋などではなく漆黒の暗闇だった。

 

「ピィ、ピィ~~~っ!!」

 

「ゴメちゃん…!?」

「なんだよゴメ、一体どうしたって…」

 

 

泣き喚くゴメちゃんが事態を説明していた時、ドラは暗闇の中でひとり首を傾げる。

 

「あれ? 衣装部屋じゃない…ここ、どこ?」

 

「私の宝石は…?」と、この期に及んで図々しさを発揮するドラに呆れとも怒りともとれるような、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「…キミねぇ、異空間に引き摺り込むための(トラップ)は他にもたくさん仕掛けておいたんだよ?

それなのによりにもよって…一番単純な(トラップ)なんかに引っかからないでくれないかな!?」

 

見抜く事が困難で狡猾な(トラップ)を、キルバーンはあらかじめ城内にいくつも仕掛けておいた。

白い宮庭(ホワイトガーデン)を抜けて玉座の間へと続く通路には、奥に行くにつれて数百種類もの(トラップ)が勇者一行を待ち構えている。

ドラが引っかかったのはその中でも一番浅い場所に仕掛けておいた、最もシンプルな作りの(トラップ)だ。

 

「まあ、念の為ここも異空間に繋げておくか。

まさかバーン様を倒そうと刃向かってくる中、寄り道して宝飾品を漁るような馬鹿な真似しないと思うけど…」

 

と、扉に細工をしておいた時のことを思い出してキルバーンは「こんな予言当てたくなかった…」と思わず本音を漏らした。

バーンほどではないが、そこそこ長い時を生きてきたキルバーンの人生でこんなにも阿呆な釣られ方をした獲物は初めてだった。

 

キルバーンの卑劣?な(トラップ)によって異空間へと引き摺り込まれてしまったドラは先ほどとは違う意味で首を傾げる。

原作では報復を理由にキルバーンが異空間へと閉じ込めたのはアバンであった。

 

(なんでアバン先生じゃなくて私を異空間に引き摺り込んだんだろ?

キルバーンに報復されるようなことをした覚えはないんだけど…)

 

理由はどうあれ、自分が今いる場所は宝石がひしめく衣装部屋ではなく、何も無い異空間なのは確かだ。

 

「宝石、貰い損ねちゃったぁ…」

 

ドラはがっくりと肩を落としてため息を吐いた。

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