ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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あけましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願いします。
(あとがきに年賀絵と落書きあり)


119_生贄の乙女(イラストあり)

「おいゴメ、本当か!!?」

 

ポップがパニック寸前のゴメちゃんを落ち着かせながら問いただした。

 

「ピィ、ピィィ~~~ッ!!!」

 

涙を堪えつつジェスチャーを交え、ゴメちゃんは今しがた起きた事を必死になって説明する。

 

「ドラが敵の罠に嵌められただって?!」

「ピィ〜…」

「た、大変だよ父さん!!

ディーナが一人っきりで異空間に閉じ込められたって…!!」

 

「なんだと…!?」

「なんですって!?」

 

告げられたドラの窮地に、全員の顔から血の気がサッと引いた。

特にバランとレオナは取り乱しこそしなかったが、片や大事な我が子、片や親友の身に何が起こったかを聞いて顔面蒼白だ。

二人の頭に『最悪のケース』がよぎる。落ちる沈黙がピリピリと肌を刺すほどに痛い。

 

(卑怯な…ッ!! 大魔王バーン…!)

 

全身を巡る血がぐらぐらと沸き立つ。

バランは今にも竜魔人化しそうになる自分を必死に抑えた。

滾る血液を理性でねじ伏せるのは容易ではないが、今は激情に流されている場合ではなかった。我が子を救う手段を考えねばならない。

我が子を案じる一心でバランは何とか心を保った。

 

(警戒は怠っていなかった。

敵であろうが罠であろうが、異変があればすぐさま対処出来るよう神経を研ぎ澄ませていたというのに…

ディーナほどの強者が音も無く姿を消すなど、何か余程狡猾な罠を使われたか…!)

 

「大魔王の仕業ではなかろう」

 

重々しい沈黙を破ったのはハドラーだった。

 

「ちょっと、それどういうこと?」

 

レオナがハドラーに詰め寄る。

大魔王バーンがドラを妃に、と言った矢先にドラが拉致されたのだ。

どう考えてもバーンの仕業…ドラはバーンのもとに送られたのではないのか。

 

「勇者一人だけを罠にかけるなど、そんな回りくどい真似バーンは好まん。

姑息な罠で獲物を一匹ずつ刈り取る…死神の常套手段だ。

おそらくドラはキルバーンの手の中だろうな」

 

「キルバーン…!?」

「ならキルバーンを倒せばドラを救えるのか!?」

「おいハドラー! キルバーンはこの城のどこにいんだ!?

お前、心当たりとかねぇのかよ!?」

「あの死神が、自分の居場所を察知させるような迂闊な真似をすると思うか?」

 

「ならばどうしろと言うんだッ!!」

 

鬼気迫る叫び声が白い宮庭(ホワイトガーデン)に響く。

 

「ヒュ、ヒュンケル?」

「どうしたんだよ、お前らしくもねぇ。少し落ち着けって…」

「これが落ち着いていられるかッ!!」

 

兄弟子のただならぬ様子にポップとマァムは驚きを隠せなかった。

いつもの彼ならばアバンの使徒の長兄として、動揺するパーティを落ち着かせるため努めて冷静に振る舞っているはずだ。

原作でも勢いで動くダイや動揺しがちなポップを諌めて何度もパーティを勝利へと導いていた。

そんなヒュンケルがあろうことか、今はこの場の誰よりも取り乱している。

 

驚きに固まる面々をよそに、ヒュンケルはなおもハドラーに食ってかかった。

 

「ドラなしでバーンに挑むなど自殺行為だ。

かと言って、今更引き返すことも出来ん。

一刻も早くドラを救出しなければ、我々に未来は無いぞ…!

 

…クソッ、今こうしている間にもドラが酷い扱いを受けているやもしれん。

早く助けなければ…!」

 

「…? ヒュンケル、よもや貴様」

 

ディーナ様に懸想しているのか、と言いかけたところでラーハルトは言葉を飲み込んだ。

 

(ああ、こいつはディーナ様を「仲間」としてではなく「女」として心配しているのか。

ディーナ様に懐かれている時、嫌につっかかってきていたのはそれでか…)

 

ヒュンケルの焦りの中に「恋慕」の気配を感じ取って、幾度か手合わせした時の妙な態度は嫉妬からか、とラーハルトは一人納得した。

と、同時にヒュンケルが何をそんなに心配しているのかも想像がつく。

 

ドラが罠にかけられ、身柄を拘束されたとなるとそのままバーンのもとに送られた可能性が高い。

彼女を「器」と称し子を孕む道具の如く利用しようとしているバーンの事だ。今この時にも、捉えられたドラが陵辱されていないとは言い切れなかった。

 

ラーハルトは阿修羅の如き形相のバランを見て更に固く口を噤む。

ドラがバーンによって陵辱されているやも…などと口にしたが最後、激情のまま竜魔人と化し敵味方の別無く破壊の限りを尽くすバランが容易に想像できた。

 

「とにかく、ここで立ち止まっていても仕方ないわ。

先へ進みましょう!」

 

澱む空気を吹き飛ばすように、レオナが気丈な声で前進の掛け声をあげた。

 

「ドラちゃんのことだもの、大丈夫よ!

きっと自力で切り抜けて私たちと合流…」

 

「…その可能性はない」

 

「「「!?」」」

 

どこからともなく、勇者一行の誰でもない声が降ってきた。

 

「ミストバーンッ!!」

「………ヒュンケル」

 

ヒュンケルが頭上に向けて声の主の名を叫ぶ。

忌々しそうにヒュンケルを睨みつけ、スーッと空中から下りて床に着地したミストバーンは無言のまま両の手を刃へと変じた。

全員が一斉に武器を構える。

 

戦闘開始と思われた瞬間、がしゃりと全身鎧から鉄擦れの音を響かせてヒュンケルが一歩歩み出た。

憤懣に満ちた声でミストバーンにドラの居場所を問い詰める。

 

「ミストバーン…ドラを何処へ隠した!?」

 

「フン、私が知るものか」

 

「嘘つけテメェッ!!」

「シラを切るつもり!? だったらこちらも容赦しないわ!」

「ミストバーン…娘の居場所、力ずくで聞き出してくれるッ!!」

 

「「「「たあああぁーーーッ」」」」

 

『ドラ以外全員抹殺せよ』

 

バーンの言葉を最優先とするミストバーンは、次々と繰り出される攻撃を迎撃していく。

アバンの使徒を、バランとディーノを、竜騎衆を、ハドラーを、親衛騎団を抹殺せんと暗黒闘気を繰り出すがしかし、あと一歩というところで止めを刺すに至らなかった。

 

(…一体、何を考えているのだ我が友キルよ)

 

戦闘の最中、ミストバーンはキルバーンがとった奇怪な行動に思いを馳せる。

ドラが罠にかかったと同時に姿を消したキルバーン…

そのまま玉座の間へ戻ってこないキルバーンの意図は、ミストバーンにも皆目見当がつかない。

 

(バーン様を裏切ったのだとしたら次はキルの抹殺命令が下るだろう…

この戦闘が終わるまでにキルがバーン様のもとに戻っていれば何も問題はない。

 

キル…私にお前を殺させるな)

 

戦闘が長引けば長引くほど、ダメージを一切負わないミストバーンはどんどん有利になっていく。

バーンから与えられた命令を確実に遂行するために、そして姿を消した友のため、ミストバーンは時間稼ぎに徹した。

 

 

仲間達がミストバーン相手に激しい戦闘を繰り広げている時、ドラはというと…

 

「こんな人気のないところに引き摺り込むなんて…

さては私が可愛いからって変なことする気でしょう!?

このケダモノ! 目が高い! 8.5頭身! 変態仮面!!」

 

「褒めてるのか貶しているのかどっちだい?

まあ、どちらでもいいか…当たらずといえども遠からずと言ったところだ」

 

「え、本当に?」

 

思ってた反応と違う。

おどけた口調で言い返されると思っていたドラは「うそぉ」と呟いてまじまじとキルバーンを見た。

人形なのだから感情が伺えないのは当然と言えば当然だが、目の前のキルバーンはいつになく剣呑な空気を纏っている気がする。

 

ドラはあたりをぐるりと見回した。

異空間にいるのはキルバーンとジャッジ役の機械人形(ロボット)のみで本体(ピロロ)はここにはいないらしい。

 

「実は私を好きになっちゃったからバーンよりも先に手に入れようって魂胆とか…ちょっと、今鼻で笑ったでしょ。

じゃあ何で私をわざわざこんなとこに引き摺り込んだの?

空間を繋げられるなら直でバーンのところに出るようにすれば良かったじゃない」

 

ドラに執心していないのならば、今この時にも空間を繋げてバーンの目の前に放り出せばいいだろうに。

逆にドラを差し出さないとバーンの不興を買うこと間違いなし、手酷く扱おうものなら処罰は免れないだろう。

ドラを手元に留めてキルバーンのメリットになるような事は何も無いと思うのだが…

 

「ウフフッ…冥土の土産に教えてあげるよ。

キミは生贄になるのさ。

『大魔王の妃』なんてくだらないものではなくて、ね」

 

「い、生贄?」

 

ますます意味がわからない。

頭上に?マークを浮かべるドラにキルバーンは滔々と語った。

 

「実はね…ボクはバーンの部下ではないんだよ。

バーンを監視し暗殺するために送り込まれた刺客…それがボクの正体さ!

ボクの本当の主人は魔界にいる。

ビックリしただろう?」

 

「えっ!? えーと…」

 

「ボクの主とバーンは長年魔界の覇を競っていてね…」

 

(知ってます…!)

 

返答に窮してもにょもにょと口の中でだけ言葉を唱えたが、キルバーンはドラがどんな反応をするかにはまるで興味がないらしい。

構わず喋り続けるキルバーンの話を、ドラは一旦黙って聞くことにした。

 

「ボクの主の強さはバーンと互角…いや、それ以上と思ってもらって構わないよ」

 

…とキルバーンは言うが、ドラは頭の中にはバランによって倒された冥竜王ヴェルザーが浮かんだ。

原作ではキルバーンとヴェルザーがどんな主従関係なのかよくわからなかったが、この口ぶりからすると案外慕われていたりするんだろうか。

いかんせん原作では登場回数が少なすぎた。ドラの中の『冥竜王ヴェルザー』を端的に現すならば『バランに負けて石にされたドラゴン』だ。

嘲笑を浮かべるドラに気付かず、キルバーンはなおも続ける。

 

「しかし悲しいかな…ご主人さまは強力な呪いにかけられてね…

封印されて身動きがとれなくなってしまったのさ。

そこで、キミの出番というわけだ」

 

ピッ、とキルバーンがドラを指差す。

自分で自分を指差してドラが「なんで私?」とまたも首を傾げた。

まあ、ヴェルザーからすれば精霊によって魂を封じられ石像にされている状態は呪いにかけられたも同然なのだろう。

そこまではわかる。

が、そこでなぜドラの出番なのかがわからない。

 

「『強いドラゴンの血はあらゆる呪いを解く効果がある』と古くから魔界で言い伝えられている。

しかも強ければ強いほどその効果は高いらしい。

強いドラゴンの血を得るために皆がこぞってドラゴンを倒した…結果、魔界のドラゴンが激減した…なんて話もあるくらいなんだよ。

言ったとおり、ボクの主はバーンと肩を並べるほどの強者。

並大抵の魔法やアイテムでは雀の涙ほどの効果も得られないのは実証済みだ」

 

やれやれ、とキルバーンは長い溜息を吐いて首を横に振ってから地面に突き刺していた大鎌を手に取りヒュルヒュルと回した。

仮面の奥、冷たい光を宿した瞳が真っ直ぐにドラを射抜く。

 

「しかし…(ドラゴン)の騎士の血を継いでいるキミならどうだろうね!

神代の時代から脈々と続く(ドラゴン)の騎士の血族は紛う事なく『強いドラゴン』と言えるだろう?

それに、一応キミは『乙女』だ。

生贄は古来より『乙女』と相場が決まっている。

 

どうだい、グッドアイデアだろう?」

 

「ちょっと、一応って何!? こちとらシャトーブリアン顔負けの最高品質乙女よ!!

繁殖用でも生贄用でもないっつの!!」

 

どいつもこいつも失礼な!

 

(ドラゴン)の騎士の血には確かに不思議な力が宿っているけれど、呪いを解く力があるかと言われると甚だ疑問だ。

というか、そんな力は無い。絶対。

魔界で言い伝えられている伝承とやらも(ドラゴン)の騎士の血に宿る蘇生能力が歪んで伝わったんじゃないだろうか?

強ければ強いほど効果が望めるというのも、依存するのは(ドラゴン)の騎士の側ではなく使用される側の精神力の強さだ。

それだって、一体何を基準にして「強い」と判定しているのかわからないので隕石が頭に直撃するくらいの奇跡的な確率の話だとドラは考える。

 

「フン、まあキミの意見はどうでもいいさ」

 

(じゃあ聞くなよ!!)

 

「私に変なことしたら、バーンが黙ってないんじゃないの?」

「ボクはバーンの部下ではないんでね。

よしんば主の呪いが解けずともキミを奪ったことでバーンに隙が出来れば万々歳さ。

隙を見せた瞬間に奴を排除するだけだ」

 

(ほうほう、なるほど。

ヴェルザーの狙いはそこか)

 

つまりヴェルザーの真の狙いはまず真っ先にバーンの抹殺。次いで地上の殲滅阻止なんだろう。

バランに討伐されてもキルバーンを魔界に呼び戻さず、バーンの袂に置き続けたのはそのためか。

多分バランがバーンの軍門に降ってもヴェルザーがスルーしたのは、二人が対立する事を見越して混乱に乗じ、あわよくば纏めて排除する算段だったか…

 

(けれど私がお父さんを説得して仲間にしたから計画が狂ったと)

 

ドラとバランが協力してバーンを討伐する。

そうなれば二度と地上を手に入れられない。

地上が手に入らないだけではなく、バランにヴェルザーが生きていたと知られたら今度こそ息の根を止めに来るかもしれない。

 

(で、娘の私を手に入れて生贄という名の人質にしようとしてるのね)

 

「さ、自分の行く末についてご納得いただけたかな?

抵抗しないことをオススメするよ。

首と胴が泣き別れた姿で魔界に行きたくはないだろう?」

 

大鎌を手にしたキルバーンがゆっくりと近づいてくる。

黙って人質にされるつもりは毛頭無いので無論抵抗一択なのだが、気になることが一つ。

 

「ねえ、キルバーン」

「なんだい? ナンセンスな質問は受け付けていないよ」

「まだ何にも言ってないでしょ!?

 

…私をヴェルザーに引き渡したとして、ミストバーンはどうやって倒すつもりなの?」

 

「…何?」

 

キルバーンの動きがピタリと止まる。

 

「だって、私をヴェルザーの生贄になんてしたら必ずミストバーンが取り返しにくるでしょう?

ミストバーン倒せるの?

キルバーンの中にある黒の核晶(コア)、爆発しちゃわない?

それにミストバーンは…って、うわ、ちょっ…!?」

 

咄嗟に膝を折ってギリギリ回避したが、仰け反って天を見上げたドラの鼻先を大鎌が掠めていった。

 

「なぜボクの主がヴェルザー様だと知っている…!!

なんでボクが黒の核晶(コア)を持っていると知って…!?」

「え〜!? 私が何にも知らないと思ってたの!?

あ! じゃあもしかして、お願いしておいた伝言もちゃんと伝えてないんだ!?

も〜…ダメじゃんちゃんと伝えておいてくれないと…」

「伝言…?」

 

そんなもの、いつ…

 

「言ったじゃない、ベンガーナで。

 

ご主人様(ヴェルザー)』に「首を洗って待ってろ」って伝えてって…」

 

キルバーンを操るピロロの一つ目が大きく見開く。

 

「そんなに前から…!?」

 

どこから情報が漏れた? 誰から漏れた?

頭の中に怒涛のように押し寄せてくる疑問のせいでキルバーンの体を操っていた集中力がフッと途切れる。

気付いた時には、ドラがリュミベルを両手に構え呪文を放とうとしていた。

 

「死神も冥竜王も、みんなまとめてブッ飛ばしてやるんだからッ!!

 

マザードラゴンッ!!!!」

 

 

 




あけおめマザードラゴン
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