ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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121_(ドラゴン)不死鳥(フェニックス)

「戻ったか、キルバーン」

 

ただ一人、玉座に座す大魔王の他に誰もいない空間。

静謐な空気さえ漂う玉座の間にバーンの静かな声が落ちる。

 

その声に観念したかのようにキルバーンが姿を表した。

カツカツと乱暴な足取りで玉座の前に進み出た死神はトレードマークであるはずの大鎌も、一つ目の使い魔も伴っていない。

冥竜王から刺客として送られて以来数百年…バーンでさえも初めて見る出立ちだった。

 

「ただいま戻りました、バーン様」

 

「随分と手こずったようだな」

 

いつも大げさな仕草で腰を折りながら口上をあげるものを…

直立したまま帰還の言葉を述べたキルバーンにバーンが鷹揚に応える。

さては余程ドラに苦渋を舐めさせられたか、とバーンは嘲笑を浮かべた。

 

「てっきり余を裏切って逃げ出したか、ドラに倒されたと思っておったぞ」

 

異空間にドラを捕らえたところまではバーンも既知だ。

バランの娘を手に入れた死神が、そのまま姿を眩ましヴェルザーの元へ逃げおおせる可能性も大いにあった。

それはそれで狩りをする楽しみが増える。娯楽に飢えている身には大歓迎だったのだが。

 

「ハハハ、ご冗談を…少々手こずったのは事実ですがね。

さすがは(ドラゴン)の騎士。

圧倒的な美しさと強さ、愛らしい上に勇敢さも兼ね備えた完全無欠の美少女!

次々と繰り出された見事な戦略と美麗な魔法について詳しくご報告を…」

 

「いらぬ」

 

キルバーンの話をバーンがばっさりと断ち切る。

仮面に覆われて表情が見えないはずのキルバーンがムッと不機嫌になった。

その反応に違和感を感じた大魔王だったが、そんな事よりも先に確かめねばならない事がある。

 

「して、ドラは手に入ったのか? まさか殺してはおらぬだろうな?」

 

「はい、バーン様。しかとこの手に」

 

そう言ってキルバーンが両腕を広げると何も無い空中から気を失ったドラが出現した。

「おお…!」と感嘆の声をあげたバーンが玉座から立ち上がる。

気を失って全身血まみれ。だがしっかりと呼吸をしているドラを見てバーンは満足そうに頷いた。

 

「でかしたぞキルバーン!」

 

横抱きにしたドラを持って、キルバーンは玉座に向かい歩み出た。

…だがしかし、一歩一歩キルバーンが玉座に近づくにつれてバーンの眉間の皺がどんどん深くなっていく。

死神の手の中にあるドラの存在が薄く感じられるほどに、猛烈な違和感が膨らんでいく…

 

違和感の正体が死神から放たれている殺気だという事にはバーンはとうに気付いていた。

冥竜王ヴェルザーから送られた暗殺者だ。殺意があるのはむしろ当然…

しかしここまであからさまに殺意をぶつけるような、野暮な真似をする男ではなかった。

 

いよいよキルバーンがその手に持つドラの体をバーンに渡そうとした時だった。

 

「もらったぁッ!!!」

 

「何…ッ!?」

 

キルバーンが剣を振り抜きバーンに斬り掛かる。

しかし、バーンが驚いたのはそこではない。

 

「余の物に何ということを!!」

 

ぞんざいに放り投げられ宙に舞うドラの体。

壁に激突する前に魔力で包もうと上げた右腕が、スパリと軽い音を立てて斬り落とされた。

青い血飛沫の向こう、仮面の奥に垣間見えたキルバーンの瞳は激しい怒りによって爛々と燃え盛っている。

 

「…ッ!!?」

 

大魔王バーンは切断された自分の腕をまじまじと見つめた。

全盛期とは比べ物にならないほど衰えたと言えど、ただ斬り付けられただけで傷付くような肉体ではない。

 

所詮謀計に長けているだけの小物。戦闘力など比ぶべくもない…

 

真正面から斬りかかられようと傷一つ付けられないと、そうバーンは慢心していたのだ。

バーンに傷を負わせられる可能性があるのは(ドラゴン)の騎士、あるいはオリハルコンで作られた武器…

 

(たばか)ったなドラ…!」

 

あっさりと正解を導き出したバーンが、キルバーンの持つ剣に目をやる。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)によって青い輝きを放つ刀身、剣と言うには華奢な、至極か細い仕込み刀…

 

「あ、もうバレた?」

 

キルバーンの姿が揺らいだかと思えばそこに立っているのは額に(ドラゴン)の紋章を輝かせたドラであった。

バーンは放り投げられて床に叩き落とされたドラに向かって乱暴に自身の魔力を叩きつける。

横たわる体を包んでいた呪文を魔力で薙ぎ払うと、なんと姿を現したのは死神の使い魔、一つ目ピエロのピロロだった。

 

「お望み通り…こちらから出向いてあげたわよバーン!!

 

私に感謝しながら死ねぇッ!!!」

 

「くッ…!!」

 

即座に腕を再生させたバーンは空間をこじ開けそこから一本の禍々しい杖を取り出す。

禍々しい杖…ロン・ベルク作『光魔の杖』は主人の危機を察知したのかバーンの腕に自ら触手を巻き付け魔力を吸い上げた。

光魔の杖を見たドラはハッと息を飲み仕込み刀をリュミベル本体に収め、大きく飛び退いて杖に魔力を集中させる。

 

互いの魔力が衝突してそこかしこでバチバチと派手な火花が上がった。

反発し合う魔力は二人を中心として、巨大な魔力渦を作り出しごうごうと空気を震わせる。

その魔力渦の中、出現した白銀のドラゴンと灼熱の炎に身を包んだ不死鳥が咆哮をあげながら翼を広げた。

 

「カイザーフェニックスッ!!!」

「マザードラゴンッ!!!」

 

 

 

ドラが大魔王バーンと対峙しているその頃、ミストバーンとの戦闘を強いられている仲間達は…

 

「超魔爆炎覇ッ!!」

「ギガブレイクッ!!」

 

「今度こそやったか…!?」

 

バーンパレスにおいて最も美しい景観を誇る白い宮庭(ホワイトガーデン)がガラガラと轟音を鳴らして崩壊していく。

瓦礫の表面はハドラーとバランの必殺技による超高温で熱され、蒸発した石が白い砂煙となって濛々と視界を覆い尽くした。

ポップ達は煙を吸わぬよう呼吸を最小限にとどめながら、集中して砂塵の向こうにいるはずのミストバーンの気配を探る。

 

ズシャリ、ズシャ

 

表面が焼け高熱で赤く変色した白い宮庭(ホワイトガーデン)の残骸を踏み砕きながら、姿を現したミストバーンは一歩進むごとに体のあちこちに負っていたダメージを何でもないように修復していく。

砂塵の中から完全に抜け出た時にはもう、ダメージなど元から負っていなかったかのようだ。

息を飲んだポップの顎先から、汗が一粒滴り落ちる。ポタリという儚い音がポップの耳にいやに大きく響いた。

 

「チクショウッ!! 一体どうなってやがるんだ、ミストバーンの野郎…!」

 

ハドラーとバランの必殺技を同時に受けたはずのミストバーンは膝を折るどころかまったくの無傷で佇んでいる。

その姿を見て時間が経てば経つほど不利になると悟ったポップが前衛に躍り出た。

 

「クソッ! 出来れば極大消滅呪文(メドローア)は温存したかったが、そうも言ってられ…」

「ポップ、油断するな!! 来るぞ!!」

 

「ビュートデストリンガー!!」

 

「ぐっ…あああぁぁッ!!」

「ポップ!!」

 

ポップの体にミストバーンの魔指が襲い掛かり、ギリギリと締め上げられた体からミシミシと嫌な音が上がった。

 

「…ッか、ハッ…!!」

 

「ふんッ!!」

 

バランの真魔剛竜剣がミストバーンの指を千々に引き裂く。

いささか乱暴に体に絡まった指を引き剥がし、バランはまだ成熟しきっていないポップの体を片手で軽々と持ち上げて自分の背後へと押しやった。

切断された指先をたちどころに修復したミストバーンが凍てつくような視線でバランを睨む。

 

「げほッ…ごほっ、ハァ、ハァ…! ドラの親父さん…助かったぜ」

「礼などいらぬ。気を引き締めろ」

「わーってますって!!

ほんっと野郎には手厳しいな、娘にはベタ甘なのによ…」

「ポップ、ブツブツ言ってないで集中して! 攻撃が来るわッ!!」

「うわわっ…!!

なんつう乱暴な…!! どいつもこいつも俺の扱いが雑すぎるん…!?」

 

マァムの見事な足払いでポップの視界が逆さまになる。

回転しながら器用に悪態をつくポップの視界に、直前まで自分がいた床から鋭く突き出ているミストバーンの爪が飛び込んできた。

 

魔力で体を浮かせて器用に空中で体勢を整えたポップは、自分の軽率な行動を内心深く反省した。

勢いそのまま、大きく後退したポップは両手に魔力を練り上げる。

ミストバーンの手が届かない位置で、今度こそ外さないように…

 

極大消滅呪文(メドローア)を発動させようと集中するポップを見たミストバーンが右手を天に掲げた。

その掌からは今までとは比べ物にならないほど濃縮された暗黒闘気が渦を巻いている。

 

「ほう…ミストバーン、あの小僧がそんなに恐ろしいか」

「ハドラー…」

「フ…黙してばかりで何を考えているかわからない奴だと思っていたが…

貴様、存外わかりやすい性格をしていたのだな?」

 

ハドラーやバランの攻撃をまったく恐れず、防御も取らなかったミストバーンがあからさまに極大消滅呪文(メドローア)を警戒している。

それが何を意味するのかなど誰が見ても明白だった。

 

「親衛騎団よ! 小僧の呪文が邪魔されぬよう援護しろ!!

俺はミストバーンを叩く!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

「遅れを取るな!! 我ら竜騎衆もバラン様に続くぞッ!!」

「おうッ!!」

「ったりめぇだッ!!」

 

ハドラーに続きバランも再びミストバーンへと斬りかかる。

親衛騎団と竜騎衆はそれぞれの主君に従い見事な連携でミストバーンの暗黒闘気を打ち晴らしていった。

 

激しい剣戟が鳴り響く最中、突然ヒュンケルが弾かれたようにミストバーンへと飛びかかっていく。

全身鎧を身に付けているとは思えぬ跳躍力で一気に背後に回ると、ミストバーンを羽交い締めにしてその動きを封じた。

 

「…ヒュンケルッ!!」

「何を目論んでいるミストバーン!?」

 

「「ヒュンケル!?」」

 

一体何事かとポップとマァムが叫ぶ。

 

「貴様…なぜわざと俺たちを殺さないでいる!?

先ほどのバランとハドラーの攻撃…やられたフリをして油断を誘うことも出来たはず!

ポップばかり狙うのもそうだ! 標的を絞らず、確実に敵の数を削いでいくお前らしくもない…

 

一体何を企んでいる!? 答えろミストバーンッ!!」

 

「………ッ」

 

ヒュンケルの腕がギリギリとミストバーンの体を締め上げる。

 

(…これは拙い!)

 

肉体を覆う衣がヒュンケルの怪力…いや、溢れ出した闘気によって剥がされようとしている。

大魔王の許可なく秘匿された肉体を晒す事は出来ない。

しかし無理矢理にヒュンケルの拘束を解けばこちらに狙いを定めている魔法使いの呪文をモロにくらう…!

キルバーンがバーンの元へ戻る可能性を信じ時間稼ぎに興じたのが裏目に出てしまった。

 

「答えないか…ならば貴様にもう用は無い!

地獄で待っていろ! すぐにバーンも送り届けてやるッ!!

 

ポップッ!!!」

 

「………ッ!!!」

 

「ヒュンケルーーーッ!! そこを離れろーーーッ!!!

うおおぉぉぉッ…!」

 

凄まじい怪力によってミストバーンの体が極大消滅呪文(メドローア)の軌道上に投げられる。

これを防ぐ手立ては一つだけ、衣を脱ぎ捨て無敵の肉体を白日の下に晒す他ない。

大魔王バーンに許可を求めている時間は無かった。

 

ミストバーンが覚悟を決めて闇の衣を脱ぎ捨てようとしたその時…

 

ドオオォォンッ

 

爆発音から一拍遅れ、衝撃波がバーンパレス全体を駆け抜ける。

 

「バーン様ッ?!!」

 

「この魔力は…ドラ!??」

 

衝撃波が来た方角に目を向けて飛び込んできたものは…

互いに互いを貪り喰う白銀のドラゴンと巨大な火の鳥という、神々しくも(おぞ)ましい光景だった。

 

 

 




とんでもない難産…_(´ཀ`」 ∠)_
ミストバーンとヒュンケル、君ら動かすの難しすぎや…
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