『ああもう…この子はまた無茶をして…』
…誰? お母さん…? 違う、お姉ちゃんの声だ…
『魂にヒビが…黒の
肉体だけでなく魂も蝕む…』
あ、今度はマザーの声…
『魂に負った傷は、私の魂で補強するわ。大丈夫、生まれた時からそうしてきたんだもの。
すぐに馴染んで溶けるわ』
お姉ちゃん…そういえばお姉ちゃんの名前なんて言うんだっけ?
名前よびたい…おもいだせない…
『…私ももう覚えてないのよ。大事な記憶からドラの魂に溶けて、消えていってしまうみたい』
…!! 私のせい!?
私がお姉ちゃんの記憶消しちゃったの!??
ごめんなさい…ごめんなさい…!!
『ドラのせいじゃないわ。私が望んだことよ。
ほら、ダメよ今立ち止まっちゃ…泣きながらでもいいから歩くの。
あっちにたくさん光が見えるでしょう?
光に向かって歩き続けなさい。
みんなあなたを待ってるわ…』
うん、すぐ行く。
行って大魔王バーンを倒してくる。
そしたらお姉ちゃんの記憶、元に戻せるよね? 神さまや精霊がいるんだから、私だって奇跡起こせるよね?!!
『…そうね、ドラなら起こせるかもしれないわね』
くすり、という『彼女』の儚い笑みが重く響く。
魂が繋がっているせいだろう。一縷の希望の他は諦めと寂しさと満足感と…
とにかくドラには『彼女』の胸の内が、全て手に取るように伝わってきた。
ゴメちゃんに願えば奇跡は起こせる。お姉ちゃんの魂を分離して、実体をも得られるかもしれない。
けれどそれだけは絶対にしない。
「ゴメちゃんはお兄ちゃんと一緒にデルムリン島で暮らしてもらうんだから!」
ダイ君とゴメちゃんが平和に暮らしていたあの夢のような光景を、この世界ではこれから作り上げていってもらいたい。
野望を胸に、すっくと立ち上がったドラは遠くに見える光に向かって猛然と走り出す。
こめかみがズキズキと痛い。ビリビリとした痺れ痛みが走る。心臓がバクバクする。
「そういうの後にしてッ!! 私みんなのところに戻らないといけないのッ!!!」
限界を訴えてくる自分の体を叱りつけて手足を動かす。
あたりは真っ暗、おまけにぬかるんでいる地面のせいでなかなか前に進めない。
高熱が出た時に見る悪夢のよう。足に絡みついてくるヘドロのようなものを振り払ってドラは走り続けた。
空色の澄んだ光…お兄ちゃんの魂だ。
新緑みたいにキラキラしてる緑色のはポップ。
ほわっと赤くて、遠くからでもあったかいってわかるマァム。
灯台みたいに強く、真っ直ぐな白光はレオナ。
暗い闇に飲まれないように毅然と輝く紫色…ヒュンケル。
それで、その後ろのほうにある大きい真紅の光…お父さんだ。
お父さん…! 早く戻らないとお父さん泣いちゃう!
もっと早く、急がないと…
『ドラさん! 聞こえますか!?』
「ふぎゃあっ!? 何?? 誰!? この大きな声どこからっ!??」
『しっかりしてください、ドラさん!!』
大きな声とともにパァッと光が差し込んだかと思うと、暗かった世界が一変した。
力強く温かい光は闇を祓い、進むべき道を照らし出す。
ドラ…! ドラちゃん…!!
おいこらしっかりしろドラ!!
聞こえるか、ドラ…!
ディーナ!! ディーナ目を覚ましてよ!!
ディーナ…!!
たくさんの私を呼ぶ声が聞こえる。
「お父さん…! みんな…! 心配しないで…私、今すぐそっちに行くから…!!」
光の道に従って走り続けると、暗闇がどんどん薄れていった。
走りながら、ドラは自分に向かって執拗に向かってくる闇を照らしているのが仲間達の魂の光だけではなく、無数の小さな光の粒だと気付く。
小さな小さな光の粒がドラのまわりに集まってはぱちん、ぱちり、と弾けてはわずかながらも闇を弾いてくれいた。
弾ける瞬間、ドラの耳に微かに聞こえてきたのはどこの誰とも知れない人々の声だった。
勇者さま…
大魔王を倒して…
どうかご無事で…!
ご武運を…
ドラ…もしかしてあの女の子?
正義の魔法使いさま…
あの時助けてくれた女の子が…
大丈夫かしら…
大魔王に勝てたら、お礼にまたイイこと教えてあげるわ…
私たちを助けて…!
死にたくねえよぉ…
おねえちゃん、無事に帰ってきてね
ドラが今まで助けた人々、人類のために戦う勇者を信じて祈ってくれている人達の声。
始まりはダイ君とバラン達を救うためだった。
そのために世界を巡った。
見返りが欲しかったわけじゃないけれど、感謝されたら素直に嬉しかった。
もっと頑張ろうって思えた。
何よりも、
「お母さんは…ソアラはこの世界を愛してた! 臆病で優しい人類が暮らすこの地上で! お父さんとお兄ちゃんが幸せに生きていく事を願ってた!!」
ピィィ~!!
「ゴメちゃん!?」
ポンッ!と目の前にゴメちゃんが現れる。
ゴメちゃんがドラの周囲をくるくると飛ぶと、金色の光が視界を埋め尽くしていった。
「お父さんとお兄ちゃんに幸せになってもらうんだから! この地上を吹っ飛ばすなんて…許さない、絶対にッ!!!」
キイィィィン
激しい耳鳴りがして意識が遠のいていく。
意識がふわふわしていて現実なのか夢なのかわからなくなる…
やがてドラが夢から覚めたと自覚した瞬間、全身を激しい痛みが襲った。
長い間夢を見ていたような気がするけれど、うっすらと開けた瞼に飛び込んできた太陽は意識を失う前とさほど変わらない位置にある。
眩しさに目を細めると、それに気付いたのか誰かが体で陽の光を遮ってくれた。
「いっ…たぁぁ…」
「ドラさん…! ああ…!! 大丈夫ですか!? 私がわかりますかッ?!」
「んぇ…? あ…アバン先生…!」
「はい…!!」
自分の体を支えてくれる温かい手。
体温とともに伝わってくる優しさに思わず涙が溢れてきてしまう。
太陽を背にして、自分を心配そうに見つめる眼差し…
(かなわないなぁ…)
アバンは『大魔王を倒すための戦力の喪失』を心配しているのではなく、純粋に『教え子が命を落とさなかった』事に心から安堵しているのだと伝わってきた。
たった三日間教えただけの生徒にここまで愛情を持てるとは…さすが元祖勇者、その愛情の広さと深さたるや。
人に向ける愛情が偏りまくっているドラとは対極にいる人間だ。
(でも…きっと目指している未来は同じ…)
歩む道は違えども、愛する者の笑顔のために平和を願う。
そのためならば自分の命など惜しくない。
ずきずきと強くなる痛みを感じないように現実逃避した思考回路で、師と思わぬ共通点を見つけたドラはなぜか笑いが止まらずそのまま再度気絶した。
様子を伺っていた仲間達が笑いながら気絶したドラを見て阿鼻叫喚となったのを知るのは、ドラがようやく意識を取り戻した後の事である。
タイトルはMrs.GREEN APPLEの「愛情と矛先」より。
ドラ「うえへへへ…ゴメちゃんとお兄ちゃんとデルムリン島でトロピカルパーティー…」
アバン「ドラさん!? しっかりしてくださいドラさーん!!!」
ポップ「おい大丈夫かドラ!!」
ヒュンケル「早く手当を!」
レオナ「ドラちゃん!! ああ…こんなにボロボロになって…!」
マァム「ドラ、きっと錯乱しているのね…」
バラン「ディーナー!!」
ドラ「お父さんと一緒にアロハオエ…」
ディーノ「……一体なんの夢見てるんだろ; すごく幸せそう…」
ゴメちゃん「ピィィ…」