ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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124_消えたミストバーン、動き出すバーンパレス

「いや~っ、良かった良かった! こんな事もあろうかと布地と裁縫セットを持ってきておいて…」

 

(どんな事態を予想してたんだろう…)

 

ほとんどボロ切れ状態になったドラの服に布を当てながら、アバンがすいすいと機嫌良く針を通していく。

ドラはマァムに体を支えられながら、アバンが布を継ぎ足して服をリメイクしている様子をぼんやりと眺めていた。

 

中級回復呪文(ベホイミ)をかけたけど…ドラ、気分はどう?」

「全然効いてないみたい…ごめんねマァム」

「むぅ、これはどうした事か」

 

一行に追いついたクロコダインが首を傾げて唸る。

爆発によってダメージを負ったドラに、最初はレオナが全力で最大回復呪文(ベホマ)をかけたのだが全く効果が無かったのだ。

薬草を使ったりドラ自身で回復を試みたりもしたが体力はおろか外傷すら治せない。

これはどうした事かと皆が回復を試みている中、ビーストくんがふらふら…というかふわふわとした足取りでドラに近寄っていった。

手の表面に『気』を巡らせたビーストくんがその手をドラの額にそっと押し当てる。

 

「…これは…体内に瘴気が蓄積した際に発症する病と症状が酷似しているね。

今、彼女の体は外部からの回復手段をことごとく弾いてしまう状態にある。

幸いと言っていいのかわからないが症状自体は軽いようだ。

自然回復を待つか、体が回復呪文を受け付けるようになるまで待つしかないね」

 

「そ、そんなぁ~」

 

(そういえば黒の核晶(コア)って魔力を呪術で結晶化したものだっけ。

そりゃあ何らかの悪影響くらいあるか…しばらく回復できないだけで済んだのはむしろラッキーかも。

…ん? 回復呪文を受け付けないのってもしかすると竜闘気(ドラゴニックオーラ)のほうの影響かな?

なんか原作でもバーンがそんなこと言ってた気がす、る…)

 

「って、あぁ! バーン!! そういえばバーンとミストバーンどうなったの!??

あいったあぁぁぁッ!!!」

「ドラちゃん!」

「ディーナ、大丈夫!?」 

 

慌てて立ち上がろうとしたドラが激痛でその場に崩れ落ちた。レオナとディーノが「ふおぉぉ…」と呻き声をあげて蹲るドラに心配そうに寄り添う。

バーンパレスの頑強な素材でさえ一瞬で蒸発するような爆発を至近距離で浴びたのだ。

五体満足で生きているのが奇跡である。

ダンゴムシのように丸くなって呻いているドラを見て、それまでふんふん♪と鼻歌交じりに服を繕っていたアバンがピタリと手を止めた。

 

「ドラさん、その質問に答える前に聞きたいことがあります。

バーンパレスに到着した時、私が最初に目にしたもの…

それは爆発で倒壊する塔と、その塔と一緒に落下していくあなたの姿でした」

 

アバンがバーンパレスに到着するや巻き起こった大爆発…

何事かとアバンが天魔の塔を仰ぎ見ると落下していく瓦礫の中に何やら人影らしきものを見つけた。

よくよく目を凝らせばそれは誰あろう、アバンが修行に旅立つ前にとった最後の弟子…ドラではないか。

意識を失っているドラが地面に叩きつけられる寸前でアバンはドラの救出に成功した。

 

「一体何が…!?」

 

「「アバン先生!!?」」

 

意識を取り戻さないドラを介抱していると、そこにポップやマァム、それに…かつて袂を分かった一番弟子、ヒュンケルが駆けつけた。

再会の喜びも後回しになかなか意識が戻らないドラを皆で囲んで今に至る。

アバンからすればヒュンケルと再会出来た事も驚きだが、ハドラーが仲間として行動を共にしている…のみならず、竜騎将バランや獣王クロコダインまでもが仲間に加わっているのはどういう事なのか…

 

「色々と気になるところはありますが、一番重要なことは!

状況から察するにドラさん、あなたはたった一人で大魔王バーンに戦いを挑みましたね…?

仲間と力を合わせず、何故大魔王相手に一人で戦ったりなどしたのですか!?」

 

「へ!? な、何故って…?」

 

普段の穏やかな雰囲気などどこへ行ったのか、真剣な眼差しのアバンにドラが怯える。

アバンだけではない。この場にいる全員が真剣…というか剣呑な眼差しをドラに向けていた。

仲間に囲まれているはずなのにたった一人でアウェーに立っている気分だ。

 

「あ、あうぅ…」

 

(な、何故って言われても…

白い宮庭(ホワイトガーデン)でみんなとはぐれてキルバーンの罠にかかったところから…? いや、それは黙ってればバレない!!)

 

「ええっと…白い宮庭(ホワイトガーデン)でバーンのいる玉座の間に繋がる通路を見つけて…」

「おいドラてめぇ! 嘘吐いてんじゃねーよッ!!

ゴメがお前がキルバーンの罠にかかったって教えてくれたぞ!?

お前…まさかキルバーン相手に一人で突っ込んだとか言わないよな!? あぁん!??」

「ぎゃああッ!? ぼ、暴力反対!! ゴメちゃんの裏切り者~~~!!」

「ピィ~…」

 

いや別に裏切ってない。

ゴメちゃんはキルバーンの罠にかかってはぐれてしまったドラを心の底から心配していただけである。

ポップにヘッドロックをかけられているドラをゴメちゃんが半目で見下ろす。

そんな心情などつゆ知らず、ゴメちゃんの冷たい視線に心を折られたドラは仲間とはぐれた後の経緯を洗いざらい白状した。

 

かくかくしかじか

 

「…異空間でキルバーン相手に」

「本体は使い魔でキルバーンは機械人形…?」

「黒の核晶(コア)が内蔵されていた…だと…?!」

自己犠牲呪文(メガンテ)偽装…」

「魔界のマグマに引火…」

「大魔王バーンを相手に単独で挑んだだと…!?」

「黒の核晶(コア)を自ら起爆…!?」

「キルバーンを盾に…」

「バーンを閉じ込めるために竜闘気(ドラゴニックオーラ)で結界を張っただと!? 自身の守りを薄めてまで…あり得ぬ…!!!」

 

「あ、あれ…? どうしたのみんな…

私、キルバーンの正体とか、黒の核晶(コア)についてとか、説明したよね…?

説明したはず…」

 

※してません。

 

シーン…

静寂が落ちる。

 

「ドラさん…!」

 

「は、はいぃ…!」

 

尋常ならざるアバンの怒気にドラは思わず正座した。

腕組みをして怒りを露わにしているバランも怖いが、いつも穏やかなアバンの怒りは父親のそれとは異なる恐ろしさがある。

アバンとバラン、怒った時に物理的に恐ろしいのはバランだが精神的に恐ろしいのは圧倒的にアバンだ。

 

故に、ドラは常套手段である泣き落としを本能的に封じた。

 

(お父さんには通用してもアバン先生に泣き落としとか絶対通用しない…それどころか火に油…

なんかそんな気がする!!)

 

大正解、アバンは安い女の涙には踊らされないタイプだ。

ぱふぱふ館のお姉様直伝、ドラの男性に対する目利きは本物である。

今にもこぼれ落ちそうな涙を根性で抑えながら、ドラはアバンの制裁を待った。

 

「自分が何をしたのかわかっているのかッ!?」

 

「ご、ごめんなさいぃぃ~~~っ!!!」

 

びゃっ、とドラの両目から涙が溢れる。我慢してもダメなものはダメだった。

泣きじゃくるドラにアバンがため息を吐いて穏やかに問いただす。

 

「はぁ…

ドラさん、謝罪が欲しいのではありません。

 

『なぜ、たった一人で大魔王バーンに戦いを挑んだのか』

 

その理由を教えてほしいんです。

目を覚さないあなたを見て、ここにいる全員生きた心地がしませんでしたよ…」

 

「う、う…だって、みんなを信じてるから…」

 

「ん?」「え?」「信じているから…?」

 

ポップ、マァム、レオナが不思議そうな顔でドラを見る。

 

「全員でキルバーンやバーンと戦っても戦力消耗は避けられないでしょう?

だったら私が先陣を切って、相手が弱ったところで総力戦で挑むのが一番効果的な戦い方かなって…

私がピンチになったらきっとお父さんとお兄ちゃんが駆けつけてくれるし…もちろんアバンの使徒も、クロコダインやチウちゃんだって。

 

えっと、だから、一人で戦いを挑んだつもりじゃなくて…

仲間を信じてるから、私一人でバーンのもとに乗り込みました。

 

『すべての戦いを勇者のためにせよ』

 

先生の教えにあった言葉のとおりにしたんですけど…」

 

私、何も間違ってないですよね…?

 

そう言われてアバンが何かを言いかけたが、言葉に詰まる。

 

かつてハドラーとの決戦において、仲間が身を挺し道を切り開いてくれたからこそアバンは魔王のもとに無事辿り着けた。

結論を言うならばドラの行動は責められるものではない。

事実彼女は大魔王バーンのもとに辿り着き、あまつさえ倒してしまったのだから。

 

仲間を信じ、先陣を切って戦い、自己犠牲を厭わない。

 

勇者として正しい姿だが何かが根本的にズレている…! 彼女の戦い方は勇者のそれではなく…

 

「もう良い」

 

どう言えば伝わるか考え込んでいたアバンにバランが声をかけた。

 

「アバンと言ったか、私の娘にいろいろと教えを授けたと聞いている。

それには感謝しよう。

娘は…ディーナは賢い。お前の言いたいことも全てわかっているだろう。

しかし頭で理解していようとも、(ドラゴン)の騎士の遺伝子には抗えん。

 

この子は(ドラゴン)の騎士としての本能が強すぎるのだ」

 

バランに侍っていた竜騎衆が得心して頷く。

(ドラゴン)の騎士に『仲間』という概念は通常存在していない。

神が悪を討伐する道具として生み出された一族だ。文字通り一騎当千の強さを持つが故に、肩を並べて戦える者などいないに等しい。

 

バランと長く時間を共にしている竜騎衆でさえ、その扱いは完全に『部下』だ。

仲間どころか家族という概念さえ希薄な(ドラゴン)の騎士に、理想的な勇者であるアバンの理念ごと引き継げというのはいささか無理がある。

むしろバランから見たドラは(ドラゴン)の騎士としてはあり得ないほどに人間に寄り添って生きているように見えた。

 

「お話中すいやせん。

バランの(かしら)も先生さんも言いたいことは山のようにあるでしょうが、姐さんはまだダメージが回復しておりやせん。

せめて体力が回復してから言い聞かせてやってくださいやせんか?」

 

「む…」「え、ええ…そうですね」

 

「ところで、バーンの野郎は姐さんがブチのめしたけど、ミストバーンの野郎はどうしたんでい?」

 

原作では老バーンを倒した後、ミストバーンは守護していたバーンの体を離れ本来のガス生命体として一行の前に立ち塞がった。

ミストバーンとして現れるのか、それともただのミストとして現れるのかはわからないが、老バーンを倒したドラに対して何らかのアクションがあって良いはずなのだが…

 

「それが爆発が起こった瞬間、奴は姿をくらましてな…

ドラとアバンを見つけるまでずっと警戒していたがどこにも奴の気配が無かった。

あいつはバーンを置いて逃げるような真似、絶対にすまい。

俺たちを葬るためにどこかで様子を伺っているはずだ」

「う〜ん…バーンが確実に死んでるならいいんだけど…

ミストバーンにどこかに潜伏されちゃうと厄介だなあ。

どうにかミストバーンに姿を現してもらわないと打つ手が…!?」

「きゃっ…」

「何だ、バーンパレスが揺れてる!?」

「うわあっ! 地面が遠くに移動してるぅっ!??」

「ち、違うわ…バーンパレスが動き出してるのよ!」

「バーンパレスの動きは大破邪呪文(ミナカトール)で封じたはず…!!」

 

「な…、な…!? なんで…!?

魔力炉は私が壊したのに…!!」

 

ゴゴゴゴゴゴ…

 

稼働停止したはずの魔力炉、アバンの使徒の魂によって発動した大破邪呪文(ミナカトール)

この二つによって完全に機能を停止させていたはずのバーンパレスはまるで繋がれていた鎖から解き放たれたようにロロイの谷を飛び去っていった。

地上で待機していた女王フローラは動き出したバーンパレスが北へと向かっていくのを見て、震える兵士達を一喝し指示を飛ばす。

 

これからバーンパレスが向かった先で何が起こるのか…

不安をひた隠し気丈に振る舞いつつ、フローラはバーンパレスにいる仲間達の無事を祈るほかなかった。

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