「うぅっ…魔力炉が…バーンパレスはダメでも魔力炉は回収したかった…!」
悲痛な涙を流すドラの腕の中で、魔力炉はサラサラと砂となって散っていった。
触手チャンスを逃しただけでも悔やまれるというのに、思い描いていたもう一つの夢が儚く消えていってしまう…
巨大な魔力タンク、それも環境に優しいバイオテクノロジーの結晶。魔力炉は地上ではまず作成不可能な神器レベルの代物なのだ。
「うわあぁん! 魔力炉が手に入れば永久機関を手に入れたも同然! デルムリン島に超巨大レジャー施設『デルムリンランド』を作る計画が…痛ったぁッ!!」
「急いで来てみりゃ何を言ってんだオメーはよ!」
スッパアァーン!!と良い音を立ててドラが地面に突っ伏す。
ドラの後頭部にツッコミを炸裂させたポップはそのまま流れるようにロッドを構えた。
視線の先には全盛期の姿を取り戻した大魔王バーン…姿形は違っても、身に覚えのある威圧感は老人の姿をしていた時と寸分違わない。
武器を向けられても防御すらせず悠然と、ただ立っているだけ…
だというのに、一瞬でも気を抜くと恐怖に飲み込まれそうだ。
ポップは胸元のアバンのしるしに手を当てて、深く息を吸い込む。
到着する直前、ポップ達は飛び込んできた光景に息が止まるかと思った。
バランやアバンが守りを固めているとはいえ逼迫している状況の中、泣き崩れるドラの姿が見えたのだ。
何か攻撃を受けたのか、受けたダメージが回復せず限界を迎えたのかと思って駆けつけてみれば…!
「俺たちの心配を返せこの野郎ッ! デルムリン島に変なもん建てようとしてんじゃねぇッ!!」
「変じゃないもん! デルムリン島をセレブ御用達の超高級リゾート地に改造して
ポップに頬をつねられるドラにヒュンケル達も詰め寄る。
「ドラ、無事か!?」
「ドラ! あなたまだ回復してないのに…!」
「下がっててドラちゃん!」
「ピィ~!」
「さて」
わちゃわちゃしていた一行はバーンの一言に冷水を浴びせられたようになった。
大魔王バーンはそんな一行には目もくれず、ただ一人ドラの目だけを真っ直ぐに見据えて口を開く。
「貴様らを倒す前に…まずはドラ、お前に礼を言わねばな」
「れ、礼? 一体なんの…」
ふ、とバーンは僅かばかり口角を上げながら悠然とバーンパレスを見渡した。
「
故に、一度呪文をかけられれば打ち消すことは到底不可能。
魔力を半減させられた状態では尚のこと、な」
なんと、
魔力が半減させられても問題がないほどの魔力量だったのか、不利を悟らせまいとしたのかは不明だが、バーンはそれをおくびにも出さなかった。
バーンがドラに視線を戻す。
バーンの視界に入っているのはドラだけだったが、ディーノは大魔王の底抜けの魔力に気圧されて思わず後退りしてしまった。
チウに至ってはもはや失神寸前だ。
「くくっ…数百年、いや、数千年ぶりに肝が冷えたぞ。
勇者であるお前が黒の
活動停止していた魔力炉…あれが生命本能によって目覚め、魔力の源たる余を取り込んだこともな。
貴様らに破壊されはしたが、余がダメージを回復するには十分な時間であった。
しかも、だ…!
黒の
それがバーンパレスにかけられた
ハハハハハッ!! ここまで連続して予想外が起こるとは…痛快とはこのことよ!!
あらためて礼を言うぞ、ドラよ!!」
「……………」
「あ、姐さん?」
話の途中から膝から崩れて地面に五体投地し出したドラにリュミベルが話しかける。
「ラーハルト、ちょっと私の介錯お願い」
「しっかりしてくだせぇ姐さん!!」
「ピイィッ!!」
「全部私のせいでした!! 本当にごべんなさいっ!!!」
ドラの絶叫が響き渡る。
やってしまったものは仕方ない、仕方ないがやらかしが大き過ぎる。
アバン一行は泣いている場合ではないとドラを叱咤し慰めるが、ハドラーはぎろりとドラをひと睨みした。
ヒムは忌々しそうにドラに向けて唾を吐く仕草をしているし、アルビナスに至っては人を殺せそうなほど冷たい目でドラを見下している。
命懸けで完成させた
アバンの使徒はいつバーンがこちらを攻撃するかと気が気ではなく、泣き喚くドラを泣き止ませるのに必死だったが、心配は無用。
大魔王バーンは好きな子を痛めつけて希望を打ち砕くのが大好きなのだ。
顔面ぐちゃぐちゃになったドラをねっとりと見つめる悪趣味な視線。
それに気がついたゴメちゃんは彼らしからぬ、憤慨と軽蔑を込めた表情でバーンを睨みつけたのだった。