ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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16_不死騎団長ヒュンケル

時は少し遡る―

 

北方の国オーザム。

常夏の島デルムリン島から遥か北に位置する、一年のほとんどを雪と氷に覆われた常冬の国である。

この国の王城が魔王軍によって今まさに攻め入れられようとしていた。

 

「陛下! 王妃さま! 早くお逃げください!!」

「むぅ…しかし外にはモンスターどもが…!」

「王城裏手のモンスターが何らかの魔法により攻撃されております! 逃げるなら今しかございません!」

「何だと…一体何が…!?」

「陛下、今は一刻も早く逃げましょう…! 今陛下を失えばこの国に未来はございません…!」

「王妃よ…うむ、皆!城から脱出するぞ!! 急げ!!!」

「「「はっ!!」」」

 

ドラが縦横無尽に仕掛けておいた刻印(スタンプ)による攻撃により、少ないながらも逃げのびたオーザムの国民達…

その中にはオーザム王国国王と王妃の姿もあった。

絶望的な状況となったオーザムだったが、王族が生き残った事により復興に向けてほんの僅かな希望が残されたのである。

 

 

「チィッ!! クソがぁッ!! 何だってんだあの魔法陣は!!?

おかげで人間どもを取り逃がしちまったじゃねえかあぁぁぁッ!!」

 

氷炎魔団長、氷炎将軍フレイザード。

オーザム攻略を命じられていた彼は思うように事が運べず、文字通り烈火の如く燃えさかりながら怒りを露わにしていた。

氷の半身が怒気により一層の冷気を放ち、もう半身の炎が唸るような音を上げてメラメラと燃え盛っている。

 

「フレイザードさま〜っ!」

「アア゛ッ!!? なんだ!?」

「ひぃっ!!」

 

氷炎魔団配下のフレイムが体に纏う炎を萎縮させて怯えながらも『悪魔の目玉』からもたらされた伝令をフレイザードへと伝える。

 

「た、只今『悪魔の目玉』より伝令がありました。

全軍団長は鬼岩城に集結せよとのことです…!!」

「全員集結だとぉ!? いったい何事だ!?」

「なんでも、新たな勇者の少女が誕生しクロコダイン様を討ったとか…」

「…クロコダインが!? そうか、非常事態発生ってわけだな。

わかった、オレは鬼岩城へと向かう! おまえらはこの国の後始末をしておけ!!

…生き残りがいないか徹底的に探し出して見つけ次第燃やし尽くせ!! いいな!?」

「は、はいっ…!」

 

クロコダインが討たれたと知りニタリと残虐な笑みを浮かべるフレイザード。

少しばかり取りこぼしはあったが自身に命じられたオーザム攻略の任務は果たした。

魔王軍六大団長のうち、百獣魔団長が亡き者となったとあれば今後手柄を立てる機会が増える可能性が大きい。

そう考え燃え盛る野心がさらに膨らむのを感じながらフレイザードは吹き荒む吹雪の中、オーザムを後にするのであった。

 

 

「氷炎将軍フレイザード様到着!!」

 

鬼岩城に到着したフレイザードは足早に通路を進む。

するとそこに自分の名前をしゃがれ声で呼ぶ人物が現れた。

 

「フレイザード…」

「なんでえザボエラのじじいか」

「相変わらず早いな…“魔王軍の切り込み隊長”と言われるだけのことはある」

「クロコダインがやられたんだってな…。

情けねえ野郎だぜガキにやられちまうなんざ」

 

ハッと鼻でせせら笑うフレイザード。

しかし返って来たのは意外にもクロコダインを討ち倒した相手に対する評価だった。

 

「いやいや…そのドラとかいう小娘、なかなか恐ろしい相手なんじゃよ。

このワシが必勝の策を授けていたにもかかわらずの敗北じゃからな」

 

クロコダインが討たれた事について話しながら鬼岩城の通路を進む二人。

やがて鬼岩城において“蘇生の間”という、大量の蘇生液の供給がされている特殊な部屋へと足を踏み入れる。

 

「蘇生液に浸かっとるが、まあ生き返る可能性は五分と五分じゃな…」

「…この傷をつけたヤツが本当にまだガキだとしたら…そいつぁとんでもない化け物だぜ…!

クロコダインの鋼鉄の肉体をこんな鋭利に斬り裂けるたぁ…傷口の断面が恐ろしいほど綺麗に切断されてやがる…」

 

粗野な態度とは裏腹に冷静な意見を述べるフレイザードをいささか感心しつつ見るザボエラ。

クロコダインが安置されている蘇生液で満たされた大きな球形(ドーム)の前に立つ二人に後ろから声がかかる。

 

「…同感だな、恐るべき相手のようだ」

 

「「バ…バラン!!」」

 

声をかけてきた人物は魔王軍六大軍中、最も高い戦力を有するとされる超竜軍団…

軍団長の『竜騎将バラン』その人であった。

 

「い…いらしていたのですか…」

「あんたも大義だな。リンガイア王国攻略に向かったと思ったらすぐさまUターンとはね…」

「…フッ…、心配いらんさ。

リンガイアはもう潰してきたからな…」

「「なんと…!?」」

「ハドラー殿が“左肩(レフトショルダー)の間”で待っているそうだ…急げよ…」

 

そう言い、羽織っている短めの外套を翻しながら先ゆくバラン。

城塞王国であるリンガイアをわずか一週間で滅ぼしたという話に残された二人は戦慄した。

 

「あの城塞王国と呼ばれたリンガイアを一週間で滅ぼしてしまうとは…!」

「相も変わらぬ鬼神のごとき強さじゃな…」

 

 

やがて“左肩(レフトショルダー)の間”に集まった魔王軍の面々…

部屋の中央に配置されている大きな円卓に各軍団長が腰を下ろす。

以前見た時よりも一層力を増した魔軍司令ハドラーの様子に各々が心の中で感嘆や畏怖を漏らす。

ひとしきり円卓を眺め、この場にいない軍団長がいることに気付いたフレイザードが腹立たしげに発言する。

 

「おい、ヒュンケルのヤツがいねえじゃねえか。

緊急召集に遅れてくるとは…ふてぇ野郎だぜ…!」

 

フレイザードの発言を受けて、魔軍司令ハドラーが重々しく口を開いた。

 

「…それがな…

諸君には申し訳ないことになってしまった…

 

…オレは全軍団力を集結させ、ドラを叩くつもりだった。

だが、大魔王様が直接命令をお下しになられてな…

ドラ一行が向かったパプニカ王国を攻略中のヒュンケルにドラ抹殺の勅命を与えてしまったのだ…!!」

「なっ…なんだとぉッ!!?」

「…」

 

 

 

場所は再びパプニカ王国王城跡

 

崩れた王城の上階にあたるであろう場所に佇む人物を見上げるドラ達。

 

「大地斬を使ったっていうことは、あの人もアバンの使徒…

私たちの仲間なのね!」

「そうかあ? なんとなく悪党っぽいツラしてるぜ…」

「綺麗だけど顔怖いよね、性格悪そう」

「ピィー」

「二人とも…人の事そういうふうに言うのやめなさい!」

 

なかなか鋭いなポップ…と思いつつ発言に乗っかるドラ。

しかしすかさずマァムに叱られてしまった。

こそこそ会話をしていたら件の人物が瓦礫を飛び降りて目の前へ歩いて来る。

ドラは警戒心を気取られないよう、こっそりと腰のロッドに手を伸ばしつつ男をまじまじと観察する。

 

(うわあ…凄い体格良い…筋肉が凄い。

なんかもう戦士の中の戦士って感じ…、竜闘気(ドラゴニックオーラ)使っても腕力で勝てるかどうか…。

多分勝てないかな〜…

っていうか思った以上に顔が良いね!? 体格良くて身長高くて強い凛々しい顔立ちの正統派美男子…

完璧超人か何か?)

 

「あなたに会えたのが不幸中の幸いだったわ。

これからは私たちといっしょに戦いましょう…!」

「…」

「ちょっと待った!!

…やっぱりどうにもうさんくさいぜその男!」

「何言ってるのよポップ!」

「先生の弟子なら俺たちと同じ『アバンのしるし』を持っているはずだぜ、見せてみろ!!」

 

言葉を受けて男は懐に手を入れ、今ポップが指摘した『アバンのしるし』その物を三人の眼前に突きつけた。

それを見て仲間だと確信し安心した笑みを浮かべるマァム。

 

「ほら見なさい! やっぱり私たちの仲間じゃないの!

ねえ、あなたの名前を教えてちょうだい!」

 

『アバンのしるし』を見せられてなお警戒態勢を解かないポップ。

そして一連の会話を押し黙って見ているだけのドラ。

そんな二人をよそにマァムは同門に会えたことに喜び、嬉々として男に話しかける。

 

「…………。

…フ…、フフフ…ッ!

…フハハハハハハッ!! ハーッハッハッハッハッ!!!!」

 

「…」

「ピィ?」

「な…なにがおかしいの…!?」

「クックックックッ…

おまえたちの頭の中があまりにおめでたいんで笑ったのさ…!!」

「な、なんだとッ!?」

 

凄絶な笑みで爆笑し、狼狽えるマァムと憤るポップをこき下ろす。

そして人差し指と中指を立て、下から何かを引き上げるかのように男が腕をくいっと上げた瞬間…

 

ガタッ!! ズガンッ!! バァンッ!!

 

「カカカカカカッ…」

 

ドラ達の周囲の石床が跳ね上がり大勢の骸骨の戦士が飛び出して来た。

 

「ピピィ〜ッ!!!」

真空呪文(バギ)

「カカカッ…カッ…〜〜〜」

 

ドラ達の周囲を豪風が渦巻き骸骨の体をバラバラと粉砕していった。

風は止まずに、ドラ達の周囲を守るかのようにヒュルヒュルと音を立てながら旋回する。

 

「ど、どういう事…」

「やっぱり悪者なんじゃねえか!? そのアバンのしるしだってニセモノなんだろッ!!」

「…偽物ではない。

アバンの弟子すべてが師を尊敬し正義を愛する者ではないということよ…!

中には暴力を愛しその身を魔道に染めた者もいる…

正義の非力さに絶望してな!!」

「そ、そんな…」

「オレの名を知りたがっていたな…教えてやろう…

オレは…ヒュンケル!

 

魔王軍六団長の一人

不死騎団長ヒュンケルだ!!!!」

 

「…初めまして、不死騎団長ヒュンケル。

もう知ってるかと思うけどアバン先生の末弟子、ドラです」

「ほう…? 先ほどの真空呪文(バギ)と言い、なるほど…

獣王クロコダインを討ち倒しただけはある。

なかなか骨がありそうな小娘だ」

 

討ち取り甲斐があると言うもの…

そう言ったヒュンケルにマァムが待ったをかけた。

 

「待って! ヒュンケル!

あなた知っているの!? アバン先生が復活したハドラーに襲われたって!

それでも魔王軍に味方するの!?」

「知っているとも…アバンを殺り損ねるとはとんだ失態を晒したものだ…

しかしオレにとっては好都合…

お前達にアバンの居場所を吐いてもらうためにわざわざ出向いて来たのだ。

アバンは今どこにいる…!?」

「知らない。私たちにも行き先は告げなかったから」

「ほう、しらを切るか…見上げた師弟愛だが、後悔するぞ」

 

(いや、本当に知らないんだけど)

 

本当のことを言ったのに即座に嘘つきと断じられてちょっとムッとするドラ。

しかし出来ればヒュンケルとの戦闘を避けたいので、停戦交渉を試みる。

 

「念のために聞くけれど、魔王軍を辞めて私たちの仲間になる気はない?

正義がどうのっていうのは一旦置いておいて、

ひとまず大魔王を倒した後でゆっくりアバン先生との決着を付けるっていうのはどう?」

「ハーッハッハッハッハッ…」

 

ダメ元で提案してみたが再び爆笑されてしまった。

これはいよいよ交渉の余地が無さそうだ…聞く耳をまったく持っていない。

交渉決裂と見るや否やドラはヒュンケルめがけ真空呪文(バギ)を放つ。

 

ヒュッと首を切り落とす音…ではなく、放たれた真空呪文(バギ)はヒュンケルが手に構えた禍々しい雰囲気の剣にいともたやすく防がれてしまった。

ドラの顔が強張る。

 

(嘘でしょう!? 見えない真空の刃を防ぐってどうなってるの!?

まずい、鎧化(アムド)されたら勝機を逃す!)

 

「ポップ! マァム! ヒュンケルに向かって中級火炎呪文(メラミ)を!」

「で、でもそんなことしたら…」

「いいから早く!!」

 

指示を出された二人がそれぞれ魔弾丸と呪文で中級火炎呪文(メラミ)を打ち出す。

ドラも自身で呪文を唱えてヒュンケルめがけて撃ち放った。

 

「「中級火炎呪文(メラミ)!」」

最大火炎呪文(メラゾーマ)!!」

 

もの凄い熱量を持った火柱が上がる。

普通、この熱気を耐えられる人間などこの世に存在しないであろう。

ポップは後味が悪そうに、マァムは顔を青ざめさせて、ドラは三人とゴメちゃんの周囲に風の壁を展開しつつ臨戦態勢を取り続けている。

 

ガシャン…ガシャン…

 

炎の中から金属同士が擦れる音が響く…

立ち上る火柱の中から現れたのは禍々しい鎧に身を包んだ、まったく無傷のヒュンケルだった。

 

「なかなかやるじゃないか…今度はこちらから行くぞ…!!」

 

(嘘でしょ…!! なんであれで生きてるの…!!?)

 

魔剣戦士ヒュンケル。

数多の敵と戦い、何度も倒れながら復活してきた『不死身』の異名を冠する戦士。

その厄介さと対峙した敵の心情を、その日ドラは思い知った。

 

 




ドラ「やったか!?」
わりと初手から容赦ない攻撃をしかけたけどまさか防がれるとは思わなかった…
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