地底魔城、地下牢獄―
ドラとクロコダインが暗く冷たい牢獄に閉じ込められてから丸二日が過ぎた。
その間は必要最低限の水と食料だけ与えられて生かされている状況だ。
何もする事がない牢獄の中で二日間はずっとクロコダインの回復に努めていたのだが、さすがに三日目の朝になってドラの我慢が限界に達した。
ベッドどころかシーツ1枚すら無いのだ。
ろくな睡眠も取れず体のあちこちが痛い。
クロコダインも容体が安定し、立って歩けるまでに回復したので長居は無用と脱出することにしたドラ。
「さて、では扉を壊すか…」
「あ、待って待って。
クロコダインは病み上がりなんだから無理しちゃダメ。
私がやるから…」
言ってドラが扉に向かい「
ガチャリとかけられた錠が解かれキィ…と音を立てて扉が開いた。
見張りをしていた骸骨の兵士が「何事だ!?」というふうに振り向いたが事態を把握する前にクロコダインの拳によって粉々になって砕け散る。
「もう、無理しないでって言ったのに!」
「すまんすまん、しかしジッとしているほうが調子が出んでな…」
も~。と頬を膨れさせながらドラは扉を出て通路を見渡す。
「さて、どちらが出口なのか…」
「焦っても仕方ないよ。一つずつ確かめながら行こう」
「ピピィ」
通路を曲がるたびに骸骨の兵士やミイラ男といったモンスターと出くわしたがクロコダインの拳とドラの魔法で一体も漏らさず撃破して進む。
やがて地上へと繋がるらしい通路にたどり着いたドラ達。
長い階段をゆっくりと上がっていくと上がりきった先には円形状の大きな空間が広がっていた。
久方ぶりの太陽が目に眩しい。
「ここは…」
現代の言葉で表すならそこは
「…ここは地底魔城の闘技場だ…
かつて魔王ハドラーが捕らえた人間と魔物を戦わせてその死闘に酔いしれたという血塗られた場所よ」
ガシャン…ガシャン…
金属同士が擦れ合う音がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「オレが貴様らにふさわしい場所として選んでやったのだ…!!」
ドラがその端正な顔にパァッと花が咲いたような笑顔を浮かべる。
「ヒュンケル! 良かった!
会いたかったんだ、ねぇ私といっ…」
「フハハハハハハッ…
相も変わらぬおめでたさだ…!
まだ『アバンの使徒』としてオレが仲間になるとでも思っているのか…!?
ドラ!! 同じモンスターに育てられながらも、正義に
そして貴様を大魔王様へと献上し、地上に蔓延る人間どもを一掃してやる…!!!」
(…? いきなり笑い始めたこのダイオウグソクムシ…
なんかよくわからないけど一戦交えたいってことだよね?
良かった、目的は一緒みたい)
目の前に現れた鎧の魔剣を身に纏って完全武装しているヒュンケルを前に笑顔を崩さないドラ。
地底魔城から脱出するにあたりヒュンケルと再会出来なかったらそれも仕方ない、と早々に
その場合ヒュンケルがドラ達を追いかけてくるか、他の軍団の応援も含めてまた襲いかかってくるか…
どちらにしろ面倒ごとが増えるのに変わりはない。
しかしここで会ったが百年目…
後顧の憂いを断つという意味でも目の前の慮外者を滅する。
叩かれた頬の恨みも込めて完膚なきまでに打ちのめしてやる…!!
ドラは
殺すか殺されるか…不死身の軍団長相手にギリギリと全身に闘志を漲らせるドラ。
それに対し復讐に身を投じても父の教えを守り『女は殺さず』の信念を貫いているヒュンケル。
普段のドラならそこに気がつき停戦交渉、もしくは隙を見てこの場から即離脱しただろうが今のドラは怒りに目が眩んでいた。
生まれてから12年、人生のほとんどをデルムリン島で過ごしブラス老とゴメちゃん、そして島に住むモンスター達にチヤホヤと甘やかされて育った弊害である。
彼女は怒られる、叱られるといった事に対する耐性がまったく無かった。
「よさぬか…ヒュンケル…」
「クロコダイン…貴様、どういうつもりだ?
こんな小娘に負けを喫しただけではなく、無様に付き従っているとは…
失望したぞ。
食わせ者の多い六団長の中でもお前とバランだけは尊敬に値する男だと思っていたが…」
いよいよ互いの刃を交えようかという時、成り行きを見ていたクロコダインが静かにヒュンケルへと語りかけた。
「俺にはお前が魔王軍のために戦っているようには思えん…
人間達に対する恨みだけで戦っているように見えるぞ。
俺もそうだ。人間どもを軽蔑していた…
ひ弱なつまらん生き物だとな。
だが、ドラと戦いわかったのだ…
人間は強い…そして優しい生き物だと。
たとえ刃を交えようとも、恨みや憎しみを乗り越え喜びを分かち合える生き物だとな。
ただ強いだけの俺達魔物とは違う…」
「だ…黙れっ!! 戯れ言はよせっ…!!」
「人間であるお前に…その素晴らしさがわからぬはずはない…
見て見ぬ振りはよせ、ヒュンケル。
かつての俺がそうだったように、憎しみに曇った刃は己を不幸にするだけだ…
…正しき武人の在り様ではないぞ」
「黙れッ!!! ぬおおおおおおーーーーッ!!」
クロコダインの言葉に激昂したヒュンケルが襲いかかってくる。
素早く魔法を展開し飛びかかるヒュンケルめがけドラが応戦する。
「
「チィッ!」
ドガァッ!!
鎧の魔剣に対して魔法は効かないが風圧で軌道をずらす程度はできた。
見ればヒュンケルが着地した先、蹴りをいれられた地面が大きくひび割れ陥没している。
クロコダインはまだ病み上がりで本調子ではないのだ。
こんな威力の攻撃をくらってはひとたまりも無いと判断したドラ。
「クロコダイン、ゴメちゃんをお願い!
ヒュンケル! お前の相手は私でしょ!?
いざ尋常に!勝負!!」
「望むところだ!!」
お互いに闘志をむき出しにして激突する。
鎧の魔剣という超重量の装備を身に纏いながらも俊敏に攻撃を繰り出すヒュンケル。
それに対し
しかし回避しながらも地面に
「くっ…ちょこまかと…!!
ぐあッ…!?」
仕掛けた
「ほらほら、どんどん逃げ場が無くなっていくよ?」
「ぐぅぅ…」
悔しさに顔を歪ませて再びドラへと攻撃を繰り出すヒュンケル。
(やっぱり
うーん、決定打にかけるなぁ…
私の物理攻撃じゃ焼け石に水だし、もう少し足止めできれば魔力を溜めて攻撃できるんだけど…)
やすやすと攻撃を回避していくドラに己の不利を悟ったらしいヒュンケルが動きを止めた。
同じく動きを止め、警戒するドラ。
「いいだろう…もはや貴様に手加減は無用…!
我が地獄の剣の恐ろしさ…その身で味わえ!!」
(いや味わったら私死んじゃうでしょ!?
女の子になんて攻撃浴びせようとしてるの!!)
ドラのヒュンケルに対する好感度がまた1ポイント下がった。
「ブラッディースクライドッ!!!」
「
「きゃああああっ!!」
「「ドラッ!!!」」
「ピィィッ!!」
壁を貫く轟音とともに四方から叫び声が上がり闘技場にこだまする。
ギリギリのところでヒュンケルの必殺技を避けたドラは次の行動に移っていた。
闘技場のほぼ中央にいるヒュンケルから距離を取り、闘技場の一番低い観客席へとジャンプして魔力を溜め始める。
(今、聞きなれない呪文が…?)
「ドラ!! 無事かああああーーーーっ!!?」
「ポップーーーッ!!」
声のした方向に顔を向けると、闘技場の上部、崩れ落ちた岩壁の通風口と思しき穴からポップが這い出してきた。
続いてマァムも這い出してくる。
「ドラッ! 良かった、無事ね!?」
「マァムも! 二人とも無事だったんだね!」
「ぐぅぅ…」
「へっ! 効いてやがる!
ドラ、ヒュンケルに
逃げるなら今だ!」
「小癪な真似を…!!」
「ポップ、ありがとう! でも私、まだヒュンケルに用が…」
ポップ、超グッジョブ!!と心の中でポップに盛大な賛辞を送りながら魔力を溜め続けるドラ。
ヒュンケルはというと完全に動きを封じられたわけではないようだが明らかに動きが遅くなっている。
今の自分の状態で、予想外の敵側の増援と闘技場に仕掛けられた複数の
自分の不利を悟り、こちらの出方を見ているのだろう。
ほんの1秒間、全員の動きが止まったところでマァムが声を張り上げた。
「もうやめてっ!! アバンの使徒同士で争うのは…!
ヒュンケル、あなた思い違いをしているわ!!
アバン先生はあなたのお父さんの敵なんかじゃない…!!」
「ふん…でたらめを…」
「でたらめじゃないわ!
これを…
ここに来る途中…地底魔城の隠し部屋で見つけたの」
(あっ、あれは…)
マァムが闘技場へ降りてヒュンケルに手に持っていたアイテムを渡す。
「魂の貝殻…!
死にゆく者の
「あなたのお父さん、地獄の騎士バルトスの遺言状よ…!」
「と…父さんの…!!?」
「マァムぅ…!」
ポップに続き、ヒュンケルに魂の貝殻を渡したマァムにも心の中で盛大な賛辞を送るドラ。
ちなみにいまだ魔力は溜め続けている。
「ピイィッ!」
「あ、ゴメちゃん、クロコダインに危ないからこっちに来るように伝えてくれる?」
ドラを心配して乗っていたクロコダインの肩から飛んできたゴメちゃんに伝言を頼み再び送り出す。
ヒュンケルは兜を脱ぎ捨てて受け取った貝殻に耳を当てた。
「父さん…!!?」
「聞いて! ヒュンケル、あなたのお父さんの残した真実を!
あの…地底魔城が滅びた日に何が起こったのかを…!」
貝殻に耳を当ててじっと瞳を閉じるヒュンケル、それを切なげな表情で見守るマァム。
二人を眺めながら魔力を溜め込み続けているとポップがこっちに走ってきた。
「おい、ドラ!
今のうちに逃げるか、さもなきゃあいつを攻撃しないと…」
「待って、ポップ!
あの貝殻の
「ドラ…
マァムもだけどよ…お前らちょっと敵に優しすぎるぜ…」
ポップの言葉に首をかしげるドラ。
(…? 優しい?
マァムが優しいのはわかるけど、なんで私まで…?)
ドラは先ほどからヒュンケルを確実に殺すべく魔力を練って溜め込み続けている。
一体全体どこが優しいのかまったく理解できない。
苦しませず一撃で敵を葬るのが優しさだと言うならば、まあ優しいのか私は…?と一人で勝手に納得するドラ。
そのまま静かに闘技場にいる二人を見ていると、
「それでは…父の生命を奪ったのはハドラーだったというのか…!?
そして…アバンはオレが父の仇と恨んでいる事を知りつつ…
オレを…見守ってくれていたというのか…!!?
う、嘘だ…!
嘘だあぁぁぁッ!!!」
貝殻を地面へと叩きつけるヒュンケル…
しかし次の瞬間、ギッ!!と憎々しげにドラを睨みつける。
ドラがまだ攻撃態勢を崩していない事を見てとると剣を構えてこちらに歩みを進めてきた。
「オレが間違っていないということを…あいつを倒して証明してやる…!!」
「やめてッ!! 聞いたはずよ!!!
お父さんの言葉を…!!
あなたが真に憎むべきなのは魔王軍だわ!!
もう…悪の剣を振るうのはやめて…!!!」
「うっ…うるさいッ!!
オレは…オレはもう…
魔王軍の魔剣戦士ヒュンケルなのだぁッ!!!」
「ヒュンケル…!」
「行くぞぉぉッ! ドラッ!!!」
(よし来い! 魔力を溜めるための時間は十二分…全身全霊でお前を討つッ!!)
「マァム! ヒュンケルから離れて!」
レベル99!
限界まで高めた魔力!
くらえ!! 今私が出来る渾身の魔法攻撃!!!
「
「おおおおおおお―――――ッ!!!」
魔力により呼び寄せられた電光が集約し、凄まじい稲光となってヒュンケルを襲った…!
「き、決まった…!?」
(ドラの凄まじい魔力と不思議な紋章の力の両方を込めた
これでダメならヒュンケルは…)
雷の残滓がピリピリと地面へと吸い込まれる…
凄まじい雷撃のあと…発生した白煙が徐々に薄れていく…
白煙の中から現れたのは仁王立ちで佇むヒュンケルだった。
「ふ…
不死身かっ
ヤツは…!?」
(嘘でしょ… !? あれで死なないなんて…!!?)
この世のものではないものを見る目で驚愕するポップとあまりの恐怖にへなへなとその場にへたり込むドラ。
それを『力を使い果たした』と勘違いしたのかクロコダインが心配そうに声をかける。
「ドラ…大事ないか…?」
「クロコダイン…! ヒュ、ヒュンケルがぁ…!」
「うむ、もはや勝負はついた。
…だが、命までは落としておらん。
さすがは不死身の戦士よ…」
(そうじゃなくって!!)
泣きそうな顔でクロコダインから視線を外し再びヒュンケルへと戻す。
見ればさすがに限界だったのだろう、仰向けに倒れてマァムに介抱されている。
一度自身の手で捨て去ったアバンのしるしを渡されて涙を流している…
ドラはその光景を見てますます顔を青ざめさせた。
(死ななかったどころか…まだ意識さえある…
あれ? 私じゃなくてヒュンケルが
スピンオフ作品とかあったっけ…?)
そもそも人間としてカウントしてはいなかったが(ドラの中ではダイオウグソクムシとして分類済み)いよいよもって人外認定された兄弟子。
ドラが前世の記憶に現実逃避を始めたその時、闘技場に誰とも知れぬ笑い声が響き渡った…
…クックックッ
クックックックックッ…
「ざまあねえなヒュンケル…」
ドラ
12歳の女の子。
甘えん坊で寂しがり、感情表現が豊かでよく笑いよく泣くという年のわりにはやや幼い性格。
しかし一度決めたことは諦めないで最後までやり遂げる芯の強さも持っている。
座右の銘は『見敵必殺』
最近人生の目標にダイオウグソクムシの駆除も加わった。
ポップ
原作ではダイに
結果、ドラの魔力チャージに大きく貢献した。
状況を見て冷静に作戦を考えられる出来る子。
マァム
原作でのヒュンケルとのやりとりはほぼ同じ。
原作より接した時間は短いが孤独な目をしたヒュンケルを放っておけない様子。
クロコダイン
シャレにならない重症患者だったが、ドラの
片目を潰されてもいないので戦闘能力的には原作よりも高い。
ヒュンケル
あまりの不死身っぷりにドラから人外認定された。
スピンオフ作品として「ドラゴンクエスト~ヒュンケルの大冒険 地獄から蘇りし戦士~」が今後出るかもしれない。
(多分かつて魔界にいたという剣豪ヒュンケルの骨を集めて作られた生命とかいう設定の作品)