「…クックックッ
ざまあねえなヒュンケル〜
やられたあげくに女の膝枕たぁ…!!
情けなくて笑うしかねえ〜!
クカカカカ…」
全員が声のした方向に顔を向ける。
声は闘技場のはるか上、闘技場をぐるりと囲む壁のその先…死火山の岩山から響いてくる。
「き…貴様は…!!?」
(…そうだ、あいつが来るんだった。
ヒュンケルとの戦闘に夢中ですっかり頭から抜け落ちてた〜…)
やってしまったとへたり込んだまま反省するドラ。
「氷炎将軍フレイザード!!」
「クカカカカッ…」
「なっ…なんだあいつ!?
炎と氷がくっついてやがる…!!」
「なぜ貴様がここに…!?」
「クハハハッ! 決まってんじゃねえか!
てめえの息の根を止めてやろうと思ってきたのさ!!」
「なんだとっ!?」
「だいたいてめえは昔から気に入らなかったんだ!
人間の分際でオレさまの手柄を横取りしようなんざ100万年早えぇんだよっ!!」
語気を荒げてヒュンケルに対し敵意を剥き出しにするフレイザード。
言っているうちにどんどん彼の左半身の炎が大きく燃え上がっていく。
「てめえがもし勝っていたらブッ殺して上前はねてやろうかと思っていたが…
負けていたとはいっそう好都合だぜ…!
生き恥を晒さずにすむようにオレが相打ちってことにしといてやるよ!!
泣いて感謝しろいッ!!!」
燃え上がった左半身…その半身の炎がまるで蛇のようにうねりながら左腕へと集まる。
やがて大きな火球となったそれを大きく振りかぶり闘技場めがけて投げつけるフレイザード。
てっきりヒュンケルを狙ったものと思ったが、投げられた火球はヒュンケルからだいぶ離れた地面へと着弾し轟音とともに大きく地面を抉った。
抉られた地面の穴から振動音が響いてくると思った直後、それは地鳴りとなって闘技場全体を揺らし始める。
「なっ…!?」
「こっ…これはっ…!?」
「クカカカカ…!
ちょいとここらの死火山に活を入れてやったのさ…!!
もうじきこのあたりはマグマで溢れかえるぜ〜!!」
「ええっ!?」
フレイザードの言葉通り、ゴゴゴ…という地鳴りとともに地面が割れ、マグマが噴き出す。
噴き出すそばから次から次へと、勢いを増していくマグマはほんの数秒前まで死火山とは思えない勢いで闘技場全体を溶かしていく。
「お…おのれッ!
フレイザードォッ!!」
倒れていたヒュンケルが剣を掴みながら立ち上がり、力を振り絞ってフレイザードに投げつける。
しかしやはり受けたダメージが大きかったのだろう。
投げられた剣は狙いを大きく外れてフレイザードの手前の岩に突き刺さった。
「おっと!
へへへっ…
歓迎されてねぇみてえだな…
じゃあここらでおさらばするぜ!
せいぜい溶岩の海水浴を楽しみな!!」
ファッハッハッハッハッハ…
大きく鳴り響く地鳴りに紛れるように笑い声をこだまさせ、フレイザードはキメラの翼を使いその場を立ち去った。
「う、うわあああああっ!!」
「むぅ…急いでこの場から離れねば…!」
「ピィィ〜!?」
ふぅ…と一呼吸ついてゆっくりと立ち上がるドラ。
慌てるポップとクロコダイン、ゴメちゃんをよそに絶体絶命の状況になっても慌てる様子は微塵もない。
まずゴメちゃんに
「二人とも、しっかり掴まっててね。
「ぬっ…」
「うぉ!」
魔力でクロコダインとポップの体を丸ごと包みふわりと体を浮かせるドラ。
そのまま離れた位置にいるマァムのところまで真っ直ぐ飛んでいって着地する。
「マァム! しっかり掴まって!!」
「ドラ、わかったわ!」
マァムがドラの体を後ろからしっかりと抱き掴んだことを確認すると今にも足を溶かさんばかりに迫り来る溶岩から離れ空中へと逃れる。
スーッと上空へと昇り周囲を見渡す。
溶岩が届かない場所を確認してゆっくりとそこに降りていった。
「た、助かったぜドラ〜…死ぬかと思った…!」
「ピイィ〜…!」
「ありがとう、ドラ…」
「まさかこの俺もまとめて浮かせることができるとは…あらためて凄まじい魔法使いなのだな、ドラは…」
「なぜ…俺まで助けた…?」
「えっ!!?」
まさかの人物の言葉にびっくりするドラ。
(え? なんでこいつがいるの?
私助けた覚えないんだけど…)
見るとクロコダインが担いでいたヒュンケルをそっと地面に下ろしていた。
マァムを迎えに行った時に素早くヒュンケルを担ぎ上げてきたらしい。
さすが獣王、頑強にして俊敏な獣の王…ってそうではない。
ヒュンケルがこの場にいる状況に理解が追いつかず、とりあえず投げられた質問に対して答えるドラ。
「なんでって…助け
「そんなの! 仲間だからに決まってるじゃない…!」
あっ、うん、そうそう。そんな感じ」
危うく正直に答えそうになったが横から割り込んだマァムの返答に雑に乗っかった。
(あっぶな! うっかり「助けてないよ」って答えそうになっちゃった…!)
「くっ…敵であった俺にそんな情けまでかけるとは…」
「敵なんかじゃないって言ってるじゃない。
同じアバンの使徒よ…!」
「ヒュンケルよ…わかったであろう…
これが人間だ…」
「俺の…負けだ…
まだ間に合うだろうか…
俺も…お前たちの力に…なれるだろうか…?
俺を…、仲間にしてくれッ…!!」
その目から涙を溢れさせて掠れ声で懇願するヒュンケル。
「ケッ、回復したらまた何するかわかんねえぜ…
こんなヤツ…」
「ポップ!」
「ポップ、大丈夫だよ。
ポップの気持ち、私ちゃんとわかるから…」
「なっ、なんだよ! 慰めかよ!?
俺は本当にみんなのこと心配して言ってるんだぜ!!」
(いや、本当にポップの気持ちもわかるし…
というかマァム凄いな…さすが慈愛の天使…
出会いから今に至るまで私達とヒュンケルの間に好感度上がるようなイベントが何一つ起きていないんだけど…
凄い通り越してなんか怖い…)
無理矢理なだめられたと思い反発するポップをフォローしつつ思案するドラ。
今この場で「仲間だ」「仲間じゃない」などと言い争っても仕方ない。
貴重な戦力に変わりはないのだ。
パプニカに来る前に危惧していたヒュンケルとの戦いも、まあ殺さずに済んだからある意味成功と言えるだろう。
こいつをいつ、どうやって始末するかはまた落ち着いてゆっくり考えよう、うん。
今はただ、一刻も早く…
鬼岩城、玉座の間―
「地底魔城は壊滅したそうじゃ…
突然の死火山の噴火に見舞われての…」
何百年とその活動を停止させており、だからこそ地底魔城が創建されるに相応しい地とされた死火山。
その突然の噴火の知らせにバランは表情を変えず、しかし訝しげな視線をフレイザードに送る。
その報とバランの視線を受けたフレイザードはニタニタと笑いながら口を開いた。
「へええっ…
そいつぁ不運だねぇ…
クククッ!
まあいいんじゃないですか、敵を道連れの相討ちなら…
あの坊やにしちゃぁ良くやったよ…!
クックックッ!」
その場にいる魔王軍の面々…
ハドラー、ザボエラ、ミストバーン、バランが事の経緯を察し、しかしあえて何も言わずにフレイザードの言葉を無言で肯定する。
「さあッ!
それじゃあヒュンケル亡き後のホルキア大陸攻略はオレにまかせてもらおうか!!
…もっともレオナ姫とかいう小娘を探し出し首をとりゃオシマイ!
なんとも歯ごたえのねえ仕事だけどな!
ウヒャハハハハッ!!!」
「レオナのところに行く前にシャワー浴びて美味しいご飯食べて暖かいベッドでぐっすり寝たいっ!!
何あの扱い!?
捕虜は丁寧に扱いましょうって教わらなかったの!!?」
「ピピッピピ!?」
ここ数日の環境に地団駄を踏みながら不満を爆発させるドラ。
に、同調して怒るゴメちゃん。
睡眠不足と空腹が極限に達した女子の癇癪の凄まじさたるや…
免疫の無いクロコダインとヒュンケルはただただ押し黙るしかなかった…
ドラ「クロコダインが膝に乗せて眠らせてくれたから良かったけどそうじゃなかったら即刻脱獄してた」