ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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21_舞い降りた希望

くつくつ…くつくつ…

 

小ぶりな鍋に入った水が温められて徐々に熱くなっていく。

沸騰する寸前になった湯が入った鍋を焚火の上からどかし、中身を慎重に木製のコップに注ぐ。

残った湯はこれまた木製の、少し大きめの深皿に注ぎ、そこに清潔なタオルを浸す。

その2つをお盆に乗せたマァムは準備万端といった様子で立ち上がる。

 

「よし! 私、ちょっとヒュンケルに湯冷まし持って行くわね」

 

と言って焚火のそばを離れていった。

 

ここはパプニカ王国の兵士、バダックが仮の住居としている洞穴のすぐ近くだ。

地底魔城がマグマの底に沈んだ後、マァムとポップからバダックのことを聞いてすぐ救助に向かった。

どうも2人がガルーダによって連れられて行った先で助けてもらったらしい。

2人を心配して地底魔城の入り口付近まで付いてきてくれたのだとか。

飛翔呪文(トベルーラ)で地底魔城の入り口付近にいたバダックを救出したあと、みんなで相談してとりあえず仮住まいとしている洞穴に行こうという話になった。

 

動けるとはいえ怪我が治ったばかりのクロコダインと、ドラの全力電撃呪文(ライデイン)をお見舞いされたヒュンケルをとにかく休ませねばという話になったのだ。

バダックにはヒュンケルが魔王軍不死騎団長ということは伏せて“地底魔城に囚われていた戦士”だと伝えてある。

クロコダインのことはさすがに外見からして隠しおおせなかったので正直に話したが。

かつての『魔王軍六代将軍獣王クロコダイン』だと伝えると腰を抜かさんばかりに驚いていたが、ドラが肩に乗って「今はもう味方になった」と伝えると「さすが姫様が常々話されていた正義の魔法使いさまじゃ…」と感服して受け入れていた。

 

なかなかどうして、バダックは肝が据わっている。

パプニカ王国が壊滅して一人落ちのびていたにもかかわらず、決して諦めないで仲間や生き残りを探しまわっていたバイタリティは伊達ではないらしい。

 

ニコニコニコニコ…

 

「どうした、ドラよ。上機嫌だな」

「うん、みんなといるの楽しい」

「フッ、そうか」

 

今、ドラはクロコダインの肩に頬杖をついた状態で少し高い位置から全員を見渡している。

バダックが仮の住居としている洞穴は狭く、人間が三人入るのが限界なので外の少し離れた位置に焚火を作り囲んでいるのだ。

この場にいるのはドラ、ゴメちゃん、クロコダイン、ポップ、バダックの5人だ。

ヒュンケルは深手を負っているので洞穴の中の簡易ベッドに寝かせてある。

マァムは先ほど、そのヒュンケルを看病しに行った。

人の役に立てるのが嬉しいのだろう。

嬉々として世話役を買って出てくれている。

 

そしてその様子を面白くなさそうに…いつもの饒舌さはどこへ行ったのか。

終始無言でただ眺めているだけのポップという図式が洞穴を拠点としてからずっと続いている状態だ。

 

(あ、これ離れ離れになっている間、ポップとマァムの間になにかあったな…)

 

多分ポップの一方的な想いだろうけど…と持ち前の察しの良さで感じ取ったドラ。

満面の笑みでヒュンケル、マァム、ポップの原作でのあれこれや、原作とは違う今の状況を比較しながら眺めている。

 

「(人の恋模様高みの見物するの)た~のし~い~♪」

「ピ〜ピピィ~♪」

「ははは、ドラは人と焚火を囲むだけで楽しくなれるのだな。

良い気性だ」

 

上機嫌なドラにつられてご機嫌なゴメちゃん。

なかなかに悪趣味なドラの内心など知る由もないクロコダインも笑顔を浮かべる1人と1匹を微笑ましく見ている。

 

と、そこへバダックが口を開いた。

 

「しかし…せっかくこうして勇者殿が姫様を助けに来てくれたというのに肝心の姫様は一体どこにおるのか…

この広いホルキアの一体どこを探せばよいのやら…」

「気長に探すっきゃねえのかな…」

「そう悠長なことも言ってられぬであろう…魔王軍はすでに次の軍団長を差し向けているはずだ」

 

今しがたまでぶすくれていたがバダックの言葉に顔を引き締め真面目に返すポップ。

さすが元軍団長、説得力のある言葉で猶予の無さを指摘するクロコダイン。

 

「バルジ島」

 

じっと焚火を見つめ思案する三人の耳に静かに、それでいて確信めいたドラの声が入る。

 

「バルジ島?」

「バルジ島じゃと…? なぜそこだと思ったんじゃ?」

「じいさん、バルジ島を知っているのか?」

「うむ、ホルキア大陸の北東にある島じゃ。

大陸と島の間には“バルジの大渦”と呼ばれる渦が常に渦巻いておってな…

島に行くにはかなり遠回りをしないと行けんし、行っても島にあるのは『バルジの塔』という何の変哲もない塔だけじゃ。

あそこに姫様がおられるとは到底考えられんが…」

 

なぜそこに姫様がいると? と視線で疑問を投げかける三人。

 

「レオナが言ってたの。

王族に何かあった時や有事の際はバルジ島に避難するんだって。

もしあたしに何かあったらそこにいるから、助けに来てよねって…

 

『まあ、そんなこと無いに越したことないけれど』

 

『これ、王族と王族に近しい人間以外には秘密だから誰にも言っちゃダメよ』

 

って言って笑ってて…」

 

その時は冗談で終わっちゃったけど…と、話しているうちにだんだんと沈んだ表情になるドラ。

 

「きっとレオナはバルジ島に避難してるはず。

闇雲に探すよりもまずはそこに行ってみよう」

 

バルジ島なら瞬間移動魔法(ルーラ)で行けると続けるドラになるほど、それならばと頷く三人。

ヒュンケルの看病から戻ってきたマァムにも説明して、準備が整い次第出発することとなった。

 

 

 

バルジ島、バルジの塔最上階―

 

「はっ…離せっ! この野郎!!」

「うるせえっ!!」

 

争う男達の声が塔に響いている。

 

「どうした!?  何事だ」

「あ、アポロ様! マリン様! エイミ様!

こいつら…食料のことで喧嘩を…!」

 

争う声を聞き駆けつけてきたのはパプニカ王国に仕える賢者…

その中でも特に優れた力を持っている『三賢者』と呼ばれ称えられている三人だ。

 

凛々しくも爽やかな顔立ちの青年、賢者アポロ

凛とした雰囲気の豊満たる美女、賢者マリン

控えめながらも意思の強さを感じさせる面立ちの美女、エイミ

 

それぞれが優れた魔法の才を持つパプニカ王国きっての傑物(エリート)である。

 

「おいやめろ! 見苦しいぞ!!」

「こいつが悪いんだ!

取り分以上に持って行こうとしやがって…!!」

「オレはもう三日も見張りを続けてるんだ!! このぐらい食う権利はある!!」

「オレだって丸一日何も食べてないんだ!!」

 

パプニカの高官たる三賢者が来ても未だ争いをやめない兵士たち。

空腹のせいでよほど気が立っているのだろう。

言い争いがますます悪化していく。

 

「うるさいッ! 手をどけろッ!!」

「貴様こそ離せ!!」

 

いよいよお互い手が出ようかというところまで来た時、兵士たちを制止する声が凛と響いた。

 

「離しなさい」

 

「姫!」

「姫様…!!」

 

すぐさま膝を折る三賢者たち。

現れたのはパプニカ王国王女、レオナ姫であった。

争う兵士たち三人の手から食料が入った袋を取り上げるレオナ。

 

貴重な食料を取られた事に憤慨する兵士たち。

膝を折る三賢者とは対照的に立ったまま、不満を隠さず抗議する。

 

「な…なにをなされるのです…!?」

「捨てます」

「ええっ…!?」

「の、残り少ない貴重な食料を…」

「いくら大事なものでも、争いの種になるのならいらないわ」

 

レオナはきっぱりと言い放つ。

 

「みんな…あたしたちがこうして身を隠し反撃の準備を整えているのは魔王軍の悪事をくじくためなのよ。

それなのにあたしたち自身が自分の欲のために他人を傷つけたりしてどうするの!?

それじゃ魔王軍と変わらないじゃない!

 

魔物と同じ道を歩むぐらいなら…

人間として飢えて死にましょう…!!」

 

 

「うむ、よく言った。レオナよ…」

「お父様…!」

 

レオナの人としての尊厳を説く姿を遠巻きに見ていた人物が一国の姫に対して尊大に声をかける。

レオナによく似た面差しと髪色をした、歳の頃は三十代半ばと見える男性。

誰あろう、パプニカ王国国王その人である。

 

原作では魔王軍がパプニカ王国を襲撃した際に行方不明となり、そのまま死亡とされていたパプニカ王。

しかしロモス王国、オーザム王国と同じく事前にドラが仕掛けていた刻印(スタンプ)により襲撃の手が緩んだ隙に王城から脱出。

レオナとともにこのバルジの塔へと無事逃げのびたのだった。

 

「皆、レオナの言うとおりだ。

飢えているのは皆同じ…

しかし、そこで相争っては魔物と何も変わりはない…」

 

「…面目ない。

陛下も姫様もろくに食事をとっておられないのに、臣下の私が先に不平を述べてしまうとは…

お許しください…」

「申し訳ありません、陛下、姫様…!」

 

次々と反省の言葉を述べて膝を折る兵士たち。

 

「もうよい…食料は皆できちんと分け合うように」

「とにかくみんな、最後のひと頑張りをしましょう!

きっと『勇者』が助けに来てくれるわよ!」

 

レオナの明るい励ましを受け、膝を折っていたアポロが笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「いつも話されている少女のことですね、たしかドラ…」

「そう! 私より小さいのにすっごく強い魔法使いの女の子なのよ!

家庭教師を送り込んだから、きっと今頃はもっと強くなってるはずよ!」

「姫様がそこまで言うとは…」

「信じられませんな…姫様よりも幼い少女がそこまで強いとは…」

「本当だってば!」

 

茶化す臣下に対して頬を膨らませて抗議するレオナ。

その様子に国王や臣下達は小さく吹き出し、先ほどまでの剣呑な空気はどこへやら、みんな揃って笑い声をあげる。

 

明るい笑い声がひとしきり落ち着くと、それでも不安なのだろう。

1人の神官がアポロにひそひそと心の内を打ち明けた。

 

「しかし…本当に来るのでしょうか、そんな少女が…」

「来ると信じよう…

少なくとも姫様は信じておられる…

姫様が信じるものは我々も信じるのだ…」

 

仕える主の言を信じるのもまた臣下の役目…

そう断言するアポロに不安そうな神官も、そうですね!と、自身の不安を吹き飛ばすように努めて明るく返事をした。

 

「悪いな、その期待は空振りだ !!」

 

突然発せられた大声に皆がビクリと体をこわばらせてあたりを見回す。

今の言葉は誰がどこから発したのか…

見回してもそれという人物は見当たらない。

 

「クックックックックッ…!

小娘とは思えぬその統率力…カリスマ性…

こいつぁ思ったよりでかい獲物だったかもなぁ…!

 

しかもお姫さんだけじゃねぇ…

まさかパプニカの王様まで逃げのびてるなんてよぉ…!

手柄が増えるたぁ上々だぁ…!」

 

クカカカカッ…

 

響く不気味な笑い声の元を一人の兵士が指差して叫ぶ。

 

「あ…あそこだっ…!!」

「き…貴様…!!」

「何者だっ!!?」

 

我先に国王と姫君を守らんと、兵士たちが剣を抜き不審な人物の前に立ち塞がる。

しかし果敢なるパプニカの精鋭達も半身が氷、半身が炎に包まれた異形の魔物を前に冷たい汗が背筋を流れていった。

 

「氷炎将軍…フレイザード!

…勇者じゃなくって残念だったな…お姫さんよ…

カカカ…!」

 

フレイザードは言いながらもその右半身から氷雪を、左半身からは豪炎を。

溜め込んでいたエネルギーを解き放つが如くパプニカの兵士に向けて撃ち放った。

 

「クカカカカカーーーーッ!!!!」

 

笑い声とともに放たれたそれが為す術もなく兵士たちを飲み込むかと思われたその時…

 

防御光幕呪文(フバーハ)!」

 

あとほんの一瞬、(まばた)きをする間ほど遅れていたら間に合わなかったであろう。

塔の最上階を半分ほども包んでしまうほど大きな光の防御幕が、パプニカ王国の兵士たち…

いや、国王、レオナ姫、三賢者、兵士、神官…フレイザード以外、塔にいる全ての人間を包みこんでいた。

 

「なっ…!!?」

 

「あぁっ…!!」

 

パプニカの人々とフレイザードを隔てて展開された巨大な光の防御幕。

幕の外側、パプニカの人々をフレイザードから守るように。

一人の少女がふわりと降り立つ。

先ほどの呪文を唱えた時と同じ声音、明るい声がバルジの塔に響いた。

 

「遅くなってごめんね、レオナ!

助けに来たよっ!!」

 

美しい黒髪と長い外套(マント)をひらりと翻し。

姫君に危機が迫る時、空から勇者(きぼう)が舞い降りたのだった。

 

 

 

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