「ドラちゃん…来てくれたのね…!」
「遅くなってごめんね、レオナ…
約束どおり、助けに来たよ!」
窮地に駆けつけてきてくれたドラに感激して目を潤ませるレオナ。
気丈に振舞ってはいたが、やはり不安だったのだろう。
当然である。王族としての毅然とした振る舞いが板についている彼女だがまだ14歳の女の子なのだ。
颯爽と現れたドラに続き
先にポップ、マァム、バダックを屋上に下ろし気球に配備された兵士とともに脱出準備をするよう言っておいたのだ。
塔の最上階にいるバダックが天井に開いた四角い穴から心配そうにこちらの様子を伺っている。
「てめえッ…! 生きてやがったのか…!?」
「あらためまして!
勇者アバンが末弟子、ドラ!
氷炎将軍フレイザード…、あなたに言いたいことがあるの!」
「へぇ~…? なんだよ?
みっともない命乞いなら大歓迎だぜ…!?
クックックッ…」
殺したと思っていた勇者が実は生きており、パプニカの王族の危機に駆けつけた。
のみではなく、敵である魔王軍の軍団長に言いたいことがあるという。
一体何を伝えたいというのか…
人類を危機に陥れた魔王を許さないという志か勝利宣言か、はたまたパプニカ王国を襲った事を糾弾するのか…
ドラ以外がそれぞれ想像を巡らせる。
フレイザードですら、殺したと思っていた目の前の人間が自分に対してどんなセリフを吐いてくるのかと興味を示す。
「どうした? 言えよ、ほら…!
クカカッ!!」
一体どんな陳腐なセリフが飛び出してくるのか。
どうせすぐ殺すのだ。
最後に吐いた言葉が粋がったものであればあるほど、殺す時の相手の無様さと自分の爽快さが増す。
そう思い一旦攻撃の手を止める。
寸の間、全員が静止した後ドラがすぅっと息を吸い込んで叫ぶように言う。
「魔王軍六大将軍、氷炎魔団軍団長
氷炎将軍フレイザード!!!
私たちの仲間になってよ!!!」
「…は?」
一言だけ発したのはパプニカ王国の兵士か神官か…
「はあっ!!? ドラお前何を言って…!!」
「ドラッ!! どういうつもりッ!?」
一瞬呆気に取られていたポップとマァムもどういうつもりだとドラに詰め寄る。
「ドラちゃん…?」
「勇者殿…?」
危機に駆けつけ、さあこれから目の前の脅威を取り去ってくれるのだろうと思っていた国王とレオナも困惑している。
「ギャハハハハハハハハハハッ…!!!!」
思いもよらないセリフにフレイザードが腹を抱えて笑いだした。
その様子を受けてさらにドラが言い募る。
「私は本気だよ! 私たち、きっと仲良くなれると思うんだ!!
ねぇ、お願い! 私たちの仲間になってよ!!」
周囲の反応など一切無視して再度フレイザードを仲間に引き入れようとするドラ。
それを新手の命乞いだと思ったのだろう。
ひとしきり爆笑し終えたフレイザードが口を開いた。
「思った以上におもしれえ小娘じゃねえか…ッ!
仲間になれだあ? 仲間になったから見逃してくれとかいう甘っちょろい作戦じゃねえよなぁ~?
クククッ…!!」
ドラは真剣な眼差しでフレイザードを見つめ続けていた。
少なくとも冗談で言っているわけではないらしい。
本気も本気、ドラは本心からフレイザードを仲間にできないかと考えていた。
(だって…だってこんなやつ、仲間にいたら絶対面白いじゃん………ッ!!)
ドラは前世、原作のフレイザードが大好きだった。
秀逸なキャラクターデザイン
敵ながら一本筋の通った徹底した悪役っぷり
繰り出される必殺技と数々の名台詞…
生まれてまだ一年という短い年月なのに軍団長にさえなれてしまう実力
そしてこれからの成長性…
作中では主人公に倒されてしまったが、もしもっと長く生きていたら…
作中でマトリフも言っていたがフレイザードが生きて成長していたら
もしも…もしもだ。
彼が仲間になって共に成長し、
ポップと並んでダブル
(夢が広がる…! 性格も、絶対勝ちに行く姿勢とか楽しいことが好きそうなところとかすっごく気が合うと思うんだけど!!)
キラキラとした目で期待の眼差しを送り続けるドラ。
「あっ、私たちの仲間が嫌なら、お友達は!?
私とお友達から始めませんか!?」
お願いしますっ!と平身低頭懇願するドラ。
しかしその態度をどうやら『敵とさえ分かり合えると信じる友愛の心に溢れたおめでたい頭の小娘』と受け取ったらしい。
フレイザードが笑いを引っ込めてドラに向けて言い放つ。
「思った以上におめでたい頭の持ち主だったようだなぁ~!?
パプニカの王様とお姫さんも可哀想に…!
ピンチに駆けつけて来た勇者がこんなお花畑な考えの小娘だってんだからよぉ…
だが笑かしてくれた礼だ…
最後に面白れぇ手品を見せてやるよ…
メ…ラ…ゾー…」
フレイザードが炎に包まれた片腕を上げ、指を一つずつピンと立てるたび、指先に炎が上がる。
明らかに攻撃態勢をとっているフレイザード。
対して落胆して盛大にため息をつくドラ。
「やっぱりダメかぁ~…はぁ~…」
「ドラッ!! 野郎、何か仕掛けてくるぞッ!!」
一人防御幕の外にいるドラを心配してポップが叫ぶ。
ポップの指摘を「うん、わかってるよー」と軽く受け止めドラも自身のロッドを構える。
ドラとて最初からフレイザードが仲間になるとは思ってもいなかったが物は試しである。
無用な戦闘は極力避けたいし、フレイザードほど強く、冷静で、成長性の見込める奴もそういない。
出来る事なら仲間に引き込みたかった…という諦めきれない気持ちをとっとと捨て去ったドラは先ほどまでの無防備で安穏とした空気を消して目の前の異形の怪物と対峙する。
「マ…!
「
フレイザードの五指から放たれた五発分のメラゾーマ。
とてつもない威力を持ったそれは、叫ぶフレイザードとは対象的にドラの唇から静かに紡がれた
防御幕の中とフレイザードの左半身からほど近い場所以外は部屋全体が凍りつくほどの威力である。
「なっ…オレの
このガキャ~ッ…!!」
まさか自身の必殺技がここまで易々と防がれるとは思わなかったのであろう。
全身をブルブルと震わせてフレイザードが激昂する。
「す、すごい…」
「凄まじいな勇者殿は…」
「みんな! ここは私が抑えてるから今のうちに王様とレオナの避難を!!」
「了解した!!」
勇者の言葉を受けてすぐさま返事をするアポロ。
天井から吊るされている縄ばしごを素早くよじ登り国王と姫君を気球へと誘導する。
それを見て慌てたのはフレイザードだ。
このままでは自身の手柄が減ってしまうと、手に大きな氷柱を作り出し国王めがけて投擲せんと振りかぶる。
「そうはさせるかよ!!」
「
「ぐああああッ!!!」
ドラが放った真空の刃がフレイザードの腕を手に持った氷柱ごともぎ取った。
落ちた氷の腕がバキャンッという音を立てて割れ、粉々に砕け散る。
(こ、この小娘…
だてにクロコダインやヒュンケルを倒しちゃいねぇ…
クソッ…このオレが圧倒されるだと…ッ!?
こうなったら『あれ』の出番か…!)
肩からもぎ取られた腕をすぐさま再生しつつ、フレイザードは自身の
「クオオォォオオーーーーーーッ!!」
「みんな! ふせて!!
「
バアンッ!!!
まるで花火が炸裂したかのような爆音と閃光が塔の中に鳴り響く。
「ぐっ…」
「がッ!?」
「痛ってェ~ッ!! 痛ってぇよ~~~ッ!!!」
「バカ! この技はみんなが痛いのよ!
わめいてないでケガ人を助けなさい!!」
フレイザードが爆音とともに放ったのは氷塊と、炎に包まれた石の
ドラの
いくつかの
「クカカ…これでお前らはもう負けたも同然…
今のはな、攻撃技であると同時にオレの部下たちへの合図でもあったのさ。
地獄のバトルを始めるためのな!」
フレイザードが言い終わると塔全体…いや、島全体が揺れだした。
地鳴りを響かせてもの凄い振動が体を揺らす。
「じ…地震…!?」
ドドドドドド…
バキ…バキバキバキ…
気球に乗りこんだパプニカ国王とレオナは信じられないものを見ていた。
地鳴りがしたかと思ったら地面から突然柱が突き出してきたのだ。
バルジの塔と同じほどもある巨大な柱…
塔を挟み込むように反対側に出現したそれぞれはさらに信じられないことに炎と氷によって包まれている。
「なんと…なんという光景だ…」
「信じられない…一体何が起きているの…!?」
「国王、姫様、しっかりお掴まりください。急ぎこの島から脱出いたします!」
「でもまだドラちゃんが…!!」
「勇者殿なら大丈夫です…今は一刻も早く御身を守らねば…!」
いまだドラはフレイザードに対峙して防御幕の前にロッドを構え立ち続けている。
何としてでも国王と姫を脱出させようとしているのだろう。
攻撃をしかけてこない様子にニタリと笑いフレイザードが意気揚々と喋り出す。
「さあ…楽しいショータイムの始まりだぜッ…!!」
氷炎結界呪法!!!
フレイザードが叫ぶとそびえ立つ二つの塔からまばゆい光が放たれる。
「これこそ我が氷炎魔団の不敗を支える究極の戦法!
もはやてめえらにゃ全く打つ手はねぇ!
為す術もなくのたうちまわりながら全滅するしかねえのさ!!」
「ふざけんな! ちょっと地震を起こしたぐらいで何で俺達を全滅できんだよっ!!」
「…じゃあ試してみな」
「よっ…よおしッ!!
ポップの言葉を鼻で笑い、小馬鹿にしたように腕組みをして挑発するフレイザード。
カチンときたポップは素直に挑発に乗り呪文を唱える。
…が、魔力を込めたはずの杖からは何も魔法が発動しない。
「なっ…なんだ!? どうなってんだ!!?
呪文が…
「ま…まさか…!?」
「クックックッ…! やっとルールが飲み込めたみたいだな!!」
その様を見ていたマァムがフレイザードに狙いを銃口を定め引き鉄を引く。
カチリ、カチカチカチッ…
「だめだわ!!
くっ…!」
ならばとハンマースピアでフレイザードに殴りかかる。
常ならばマァムの腕力から繰り出された一撃は、防がれたとしても敵に少しばかりはダメージを与えるはずだった。
しかしフレイザードは防御どころか繰り出されたハンマースピアを片手でパシリと軽く受け止めてそのまま握りこむ。
掴んだハンマースピアごとマァムを引き寄せ腹を蹴り上げた。
「ごほっ…!」
「マ、マァム…!! どうしたってんだ!?
フレイザードの野郎急に強くなりやがった…!!」
「違うな。てめえらが弱くなったのさ」
「「!?」」
「あの炎魔塔と、あの氷魔塔が!
オレの体の
この結界陣の中においてはオレ以外のヤツは力も呪文も全て封じられてしまうんだ!!
つまりこいつの戦闘力は今、並の人間以下なのさ…!!」
腹を蹴り上げられ、いまだ痛みに悶絶して横たわるマァムをさらに蹴り上げるフレイザード。
「がはっ…! うぅ…」
「マァム…!!
き、きったねえぞ!! 正々堂々戦いやがれ!」
「うるせぇな…
オレは戦うのが好きなんじゃねぇんだ…
勝つのが好きなんだよォォッ!!!
皆殺しだぁッ!! 行くぜぇッ!!!!」
フレイザードが自身の勝利を確信してこちらに迫ってくる。
気球に乗りバルジの塔を脱出しようとする国王と姫君を守らんと、家臣たちは死ぬ覚悟を決めた。
向かってくる怪物相手に決死の防御陣形を作る。
と、その時である。
今までずっと無言でロッドを構え続けていたドラが呪文を唱えた。
「
バルジの塔全体が光り輝く。
「な…がぁッ…!!
なんだこりゃぁッ!! どうなってやがるッ!?」
光り輝くバルジの塔。
その周囲、塔を中心とした地面にも大きな五芒星が輝いている。
さらにその五芒星の五角の星の頂点から光の筋が伸びてそれぞれが予め設置されていたドラの
やがてそれは一つの巨大な五芒星へと繋がり、二重の魔法陣として完成した。
空から見ると島全体を覆うほどの巨大な五芒星が浮かび上がっている。
完成した魔法陣から作られた巨大な
「これでこのバルジ島は私のフィールドになった!
あの炎魔塔と氷魔塔…あなたの
ってことは、私が張ったこの結界の影響を受けているあの二つの塔…それが今度はあなたの
今度はあなたが弱体化する番…
さあ、地獄のバトルを始めようよ…!」
結界を張って相手を弱体化させて戦うなんてなかなかの上策。
それをセリフも含めてそっくりそのまま使わせてもらった。
(やっぱり結構気が合うんじゃない?)
と、ドラは内心思うのであった。
クロコダインとヒュンケルはまだ回復中なのでお留守番。
後から合流予定。