「さあ、地獄のバトルを始めようよ…!」
そう言って不敵に笑うドラ。
必勝の策である氷炎結界呪法に絶対の自信を持っているフレイザードは、ドラが言う
「てめえッ…ガキが調子こいてんじゃ…」
「アバン流杖殺法! 大地斬!!」
「ガッ…!?
…なっ!? オレの…腕がッ…!?」
(仮説大正解! あの結界、魔力で逆干渉されることを全然想定していない!
思った以上にこいつの
今なら簡単に
強さで言ってみれば一般的な戦士の渾身の一撃である。
とてもではないが魔王軍軍団長に通用するような攻撃力ではない。
しかしドラが繰り出したそれは、いともたやすくフレイザードの右半身…堅固な氷に覆われた右腕を肩ごと粉砕した。
「ポップ! マァム! 今なら倒せるよ!
こいつに攻撃して!!」
「おう!」
「わかったわ!」
フレイザードに足蹴にされ、痛みに打ち震えていたマァムだったが自ら
ポップとともにフレイザードを攻撃せんと
「「
「ぐッ…ギャアアアアアアアッ!!!」
二人同時に放たれた
結界の力もあるのだろう。
フレイザードの半身の炎が、見る影もなく弱々しくなっている。
まさに風前の灯火といった状態だ。
「トドメだ! アバンストラッ…熱っ!!」
ブシュウウウウゥゥゥゥゥ…
「うわっ」
「何!? 煙幕…!?」
突然発生した霧状の煙幕で視界が真っ白に染まる。
「これは…水蒸気…!?」
水蒸気による煙幕がおさまるとフレイザードの姿は影も形も無くなっていた。
煙幕に紛れて逃げたらしい。
ポップとマァム、それにこの場に残っていたパプニカの兵士たちもキョロキョロとあたりを見回していなくなったフレイザードを必死に探す。
(状況が不利になったと見るや自身の氷と炎で水蒸気を作り出してこの場から離脱した…
冷静な状況判断と的確な逃げ方…
…推せる!!)
いや、違う。推している場合ではない。
あと一歩のところで敵を取り逃がしてしまったのだ。
こちらも態勢を立て直さなければならない。
ひとまず全員に声をかけて作戦を練ることにしたドラ。
ドラが展開した結界の説明とフレイザードの行動を推測してこのあとの自分たちの行動を決めていく。
「えーと…ひとまずバラバラに動くんじゃなくて固まって行動したほうが良いと思う」
「ああ、だな」
「賛成よ」
「この島に張った
あいつに逃げられたのは痛いけど逆に今がチャンスだと思うの。
今のうちにこの島にいる氷炎魔団の勢力を一気に減らそう。
みんなで固まって動けばあいつは下手に手出しは出来ないと思うから、奴を探しながら敵を倒そう」
「では我々も勇者殿と一緒に…」
「ううん、兵士さん達はここに残ってほしい。
この島の中でこの塔が一番
万が一フレイザードがこちらの結界を壊そうとしたらまずこの塔の結界を解かなきゃいけないから、兵士さん達にはこの塔の守りをお願いしたいの」
なるほど、それならば…とパプニカの兵士の面々が頷く。
ドラが張った結界の効果を知ったからだろう。
フレイザードを前に顔色悪くしていた兵士たちも、今ならば善戦できると確信しやる気に満ちた表情だ。
「フレイザードがこの島から逃げる可能性はないのかよ?」
「あ、それは大丈夫。
今のフレイザードにこの結界を破るだけの力はないよ。
今、あいつはこの島に閉じ込められた形になってるの」
ポップの疑問にドラが答える。
気球で国王とレオナは無事この島から脱出した。
あとは弱ったフレイザードをとっとと見つけ出して倒すだけ。
状況はかなり好転したが、うかうかもしていられないとドラは考える。
早くフレイザードを見つけ出さないと魔王軍の援軍が来てしまうからだ。
(フレイザードが自分から魔王軍に「ピンチだ! 助けてくれ!」って言いだす可能性もゼロじゃないし…無いとは思うけど…
魔王軍の軍団長クラスが来たらせっかく張った結界、壊されちゃう。
この島に
この島、普段誰もいないし植生も乏しいから魔力が全然定着しなくて塔のまわりにも大きい
今、炎魔塔と氷魔塔はフレイザードを弱体化させる電波塔みたいな役割をしてるから逆に壊せない。
なんとか魔王軍の援軍が来る前に奴を片付けないと…!)
理想としては、
1、早々にフレイザードを倒す
2、炎魔塔と氷魔塔を破壊する。
3、魔王軍の援軍が来る前にこの島から退避する。
この流れがベストである。
「よし、じゃあポップ、マァム、フレイザードを探しに行こ…っ!?」
「お前か、『勇者』ってのは」
バルジの塔最上階の外。
突然空中に現れた人物にドラはびっくり仰天した。
「あ…あなたは…!!」
「だ、誰だよてめえ! 突然現れやがって…!
敵か…!?」
それぞれ杖と剣を構え警戒するポップと兵士たち…
そこにマァムが否定の声をかける。
「違うわ! この人、私の知り合いよ…!!
マトリフおじさん、なんでここに!?」
「お前、マァムかっ…!!」
顔見知りらしい二人。
マトリフと呼ばれた男はマァムを見ると顔を綻ばせ、空中から塔の中へと降り立ち駆け寄ってくる。
(あ、)
「大きくなったなァ~~~」
「なっ…」
言いつつマァムの豊満な胸を揉みだした。
(おお、やっぱりセクハラするんだ)
16歳の少女に対する対応としては完全にアウトだが、原作で読んだとおりのキャラクターだったことにちょっと感動するドラ。
「なにすんのよっ!!!」
「ダハハッ、まぁそう怒るなよ。
俺はな、お前のオムツだって替えたことがあるんだぞ」
マァムが繰り出したゲンコツをサラリと躱し、言いながらマァムのお尻を触りセクハラを重ねるマトリフと呼ばれた翁。
「こいつ、本当にマァムの知り合いかよ…?」
「ええ…まあ…
全然変わってないわ…このおっさん…!」
セクハラを繰り返すマトリフにゲンコツによる制裁を加えながらマァムが説明する。
「かつて勇者アバンとともに戦った魔法使い…
アバン先生のパーティは先生、私の父の戦士・ロカ、母の僧侶・レイラとこのマトリフおじさん…『大魔導士マトリフ』の4人。
…こんな人だけどすごい魔法使いなのよ。
…多分」
「このヘンなカオしたスケベじじいが…先生の仲間ぁっ?」
「昔はよく私の家に遊びに来てたんだけど…、まさかこんなところで会うなんて…」
「なぁマァム、母ちゃん元気か?
いかんぞぉ、あんないい女がいつまでも未亡人じゃ
なんなら俺がもらってやるぞ。ダハハハハッ!!」
「おじさん、本当になんでここに…?」
「…さっき気まぐれで助けたパプニカ王家の連中から勇者を助太刀してほしいってお願いされてな。
王家に関わるのはもう嫌だと突っぱねたんだが、国王とお姫様にまで頭を下げられちゃ、断りきれなくてよ…
まあ様子だけでも見て来てやるよって言ってこの島まで来たんだが…
…お前さんが勇者か?」
上から下までじぃっと何かを見極めるようにドラを観察するマトリフ。
「まぁ…五年後に期待大ってところだな」
「ちょっと、どこ見て言ってんのよっ!!」
まだ12歳の女の子にまでヘンなことすんじゃないわよ!とマァムがマトリフを叱る。
するとセクハラ未遂をされたドラが真剣な表情でマトリフに聞いた。
「あのっ…マトリフさん!
私のお胸はどうでしょうっ!? 見込みありますか…?」
「何言ってるのドラ?!」
「むぅ…」
アゴに手をあて、じぃっとドラの胸を見つめるマトリフ。
「…可能性がゼロとは言わねえ。
しかし、お前さんの武器はそこじゃねえな。
腰から足首にかけてのラインだ。
変に胸にこだわらず、そっちの見せ方を研究しな。
そうすりゃ化けるぜ…!」
「なるほど…! 貴重なご意見ありがとうございます!」
「いやいや、なんのなんの…」
シーン…
「いや、一体なんの話だよっ!!?」
「「ハッ」」
「ごめんポップ、専門家の忌憚ない意見が聞きたくて…」
「将来性のある若者の良さを伸ばしたくて…」
いきなり始まった謎のセクシー議論に至極まっとうなポップのツッコミが入る。
こほん、と咳払いをして「まあ冗談は置いておいて…」とマトリフが真面目な顔でドラに向いて言った。
「お前、『勇者』じゃねえな」
~side フレイザード~
ハァッ…ハァッ…
水蒸気による煙幕で命からがらバルジの塔から逃げたフレイザードは必死に地面を這っていた。
体は人型の形態ではなくバラバラになった石の状態で、少しでも地面と同化して姿を隠すためである。
「チクショウッ…!! あの小娘ぇッ…!!
オレの氷炎結界呪法を逆に利用しやがっただとぉ!?
許さねえぞ…!
ぐぁッ…!!?」
バァンッ!!
結界だけではなく、この島のいたるところに変な魔法陣による罠が設置されており突然地面が爆発する。
慎重に進まないと
フレイザードは生まれてこの方経験したことのない絶体絶命のピンチを迎えていた。
「こんな情けねえ姿で魔王軍に援軍なんざ頼んだら…、手柄どころの話じゃねえ…!!
下手すると使えねえと判断されて消されっちまう!!
なんとか魔王軍が気づく前に力を取り戻してあの小娘殺さねえとッ…
殺してやるッ… このオレにこんな屈辱を与えやがってよおぉぉぉ!!!
絶対に復讐してやるぞクソガキがあぁぁぁ!!!!」
ドラ「ん? なんか今フレイザードと同じ気持ち(魔王軍に来てほしくない気持ち)になったような…
やっぱり気が合うんじゃ…もう一回勧誘してみようかな」