マァムの故郷、ネイル村―
「今頃どうしてるかなぁ…
マァムお姉ちゃんたち…」
「きっとみんな元気に頑張っているわよ…」
畑仕事の合間にマァムの母レイラとマァムを姉と慕っていた村の少女、ミーナが旅立っていった一行に想いを馳せる。
すると空を見上げていたミーナが彼方にキラリと光る何かを見つけた。
「あれっ?」
ギュイイイイィン…
ドーーーン!!!
もの凄い轟音と土煙を上げて目の前の畝に落ちたそれは、かつてマァムと共に旅立っていった魔法使いの少年…
と、見知らぬ老人の二人であった。
空から落ちて来た二人を見てレイラと少女が同時に叫ぶ。
「マ…マトリフ!!」
「ポップお兄ちゃん…!?」
「えっ!?
なっ…なっ…なんだあっ!?
こ…ここは…
ネ…ネイルの村じゃねぇかっ!!?」
「これが
目的地をイメージし一瞬のうちにそこへたどり着くことが出来る。
嬢ちゃんがいつもやってるんだろ?」
「マトリフ…あなた…」
「よぉレイラ、久しぶりだな。
マァムに会ったぜ。こうムチムチッとなっとって、まるでお前の若い頃みてえだったぞ。
ダハハハハッ!!」
変わっていないわ、この人…という苦笑とも困惑ともつかない表情でマトリフを見るレイラ。
「ど…どうしてポップ君と…?」
「へっ、ちょっとわけありでね。こいつに喝を入れてやろうかと思ってな…
さあ来いっ!!」
「あいっ…ちちちっ…!!」
「お…お兄ちゃん…!」
「じゃあな、ヒマがあったらまた来るぜ」
ポップの耳を乱暴に掴み、言うが早いかマトリフは村の外へと立ち去ってしまった。
その様子を見てまるでいじめられているように感じたのだろう。
ミーナが率直な感想を漏らす。
「なんか意地悪そうなおじちゃんだね〜」
「…そうね…
でも、彼が教えてくれるのなら…ポップ君は強くなるわきっと…
困った人だけど…すべての魔法使いの頂点に立つ、とまで言われた男なのよ」
「ふうん?」
村の外、魔の森へと移動したマトリフとポップ。
ポップはマトリフによる地獄のような準備運動と水中訓練を無理やり課されて半死半生の状態になっていった。
そのまま体力も魔力もギリギリの状態でマトリフと魔法力勝負をさせられる事に。
体育会系の部活で例えるなら体力も気力も尽き果てた状態でコーチと力比べの真剣勝負を課され、へばっているとさらにキツいしごきが待っているような状態といったところか。
当然、そのような状態で勝てるはずもない。
呆気なく魔法力を叩きつけられて軽々と吹っ飛ぶポップ。
もはや立ち上がることすら億劫なのだろう。
吹き飛ばされて仰向けの姿勢のまま弱音を吐き出す。
「はあ…はあ…、もう…だめだ…」
「情けねぇ奴だな。
丸一日つきあってその程度しか魔法力が上がらねえのか…
若けぇくせに百歳近い俺にかなわねぇなんて恥を知れ、恥を!」
「ひゃっ…百歳…!?」
「ま、今日はこのへんで勘弁してやるか…
じゃあ、俺は一足先にパプニカへ帰るからおめぇも自分の
一旦休憩の言葉にあからさまにホッとしたポップに、ニタリ…と意地の悪い笑みと容赦の無い言葉をマトリフが投げた。
「ええっ!!? そ…そんなぁ!
そんなことできるわけないじゃないかっ!!!」
「簡単さあ、さっき水中から川岸まで魔法力を放出して翔べたろ?
あれで目的地の明確なイメージ化さえできれば
「でっ…でも川から川岸とここからパプニカじゃ距離が違うぜ!
それに…
「生意気ぬかすなッ!!!」
飄々とした態度から一変し、大声で喝を入れるマトリフにポップは声も出せずに驚き息を飲む。
「魔法使いの魔法ってのはな、仲間を守るためのものなんだ!!
無数の呪文と知識を抱え、皆の危機を払うのが魔法使いの役目だ!!
お前はあの嬢ちゃんの何を見ていた!!?
ずっとおんぶに抱っこで行く気か!?
お前があのパーティにいる意味は何だ!!?」
「…!!!」
「ヒヨコ以下のくせにたいそうな口をききおって…!
この程度の課題をクリアできないようじゃ足手まといも同然だ。
どうせ今回の戦いに加わっても死ぬだけだろ。
この魔の森をずっとウロウロしてるんだなっ!」
「あっ! ま、待ってくれよっ!!!
ちっきしょう…
バッカヤロォ〜〜〜〜ッ!!!!」
バルジ島、バルジの塔―
マトリフが嵐のように去ってから丸一日経過した。
時刻はもう夕暮れ時だ。
島にいるフレイザード率いる氷炎魔団のモンスター達はほぼ駆逐したが肝心のフレイザードが見つからないでいる。
島の中で一番
結界内で魔力を追えばすぐにわかるかと思っていたが炎魔塔と氷魔塔から出ている魔力波が混ざってしまってうまく追跡ができなかったのだ。
膠着状態にドラはギリギリと親指の爪を噛む。
(まずい、このままフレイザードが見つからないまま魔王軍…ハドラーが来たらいつかのデルムリン島みたいに
そうなると炎魔塔と氷魔塔の効果が正常に戻っちゃう…もう炎魔塔と氷魔塔を先に破壊するべきか…)
そう考えていた時、バルジの塔にドォォンッと大きな音が響いた。
マァムと顔を見合わせて屋上へと上がるとそこには
「痛てて…」
「ポップ! バダックさん…!」
「おお! 無事じゃったか、助太刀に来たぞぉっ!!」
「そんな…危険なのに…」
「何の、若いモンばかり危ない目には合わせられん。
マトリフ殿の助言で爆弾を作ったんじゃ!
これであのケッタイな塔を破壊してやるぞっ!!」
タイミング良く駆けつけてくれた二人にドラは事情を話し、炎魔塔と氷魔塔を壊してしまおうと提案した。
炎魔塔と氷魔塔を壊すとフレイザードにかかっている弱体化が解けてしまうが、まだ
こちらの有利は変わらない。
そろそろクロコダインとヒュンケルも追いつく頃だ。
魔王軍の加勢が来る前にフレイザードとの決着をつけてしまいたい。
二手に分かれて炎魔塔と氷魔塔を壊しに行こうということで話がまとまった。
所変わりバルジ島の森の中…
夜闇の中で水晶玉を見つめ、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべているのは妖魔士団団長、ザボエラだ。
炎魔塔に向かうドラとバダック、氷魔塔に向かうマァムとポップが映し出された水晶玉を見てザボエラが笑い声をあげる。
「キッヒッヒッヒッ!
来たわい来たわい。
哀れな羽虫どもがクモの巣にかかりにな…!!
ミストバーン、おぬしのほうの兵どもは準備できたかな…?」
ミストバーンと呼ばれた長身覆面の人物が自身の兵士である『彷徨う鎧』の軍勢に視線をやる。
それを受けて満足げに頷いたザボエラは自身の手勢であるドルイド達を引き連れドラ達の待つ炎魔塔へと向かっていった。
「よおしっ!
いよいよこいつの出番じゃな…!」
「バダックさん、私が空中に
「うむっ! 頼んだぞ!」
バダックが自作の爆弾を手ずから投げた時、何者かの攻撃がバダックへと次々放たれた。
「危ないっ!!」
「なっ…!!?」
バダックを抱え回避するドラ。
投げようとしていた爆弾は何者かの攻撃によって炎魔塔に届く前に爆発してしまった。
それを見て心底悔しいという顔で憤慨するバダック。
「だっ、誰じゃ…邪魔をしおったのは…!?」
「嘘でしょ…!?」
炎魔塔の炎によって煌々と照らされたバルジ島の岩場。
そこにズラリと姿を現したのは魔王軍妖魔士団の手勢であるドルイド達…そして魔影軍団の兵士である彷徨う鎧の軍勢であった。
「キィ〜〜〜ッヒッヒッヒッヒッ〜〜〜〜ッ!!」
「なんじゃ!? お前らは!!!」
ドラ達よりも高い位置にある岩場に姿を現した二人の人影。
一方は大柄高身長、
もう一方は大柄な人物の足元、ともすると使い魔かと思うほど小柄、一目で『魔法使い』とわかる装いと禍々しい魔力を発している杖を手に持った人物。
バダックに詰められた二人のうち小柄な人物が名乗りをあげた。
「ギョへへ…
ワシは魔王軍の妖魔士団長ザボエラ!!
こやつは魔影軍団長ミストバーン!!」
「妖魔士団に魔影軍団じゃとぉ!!?」
(嘘でしょ!? なんで…!!?
だって
こいつら結界をすり抜けて来たってこと…!?)
てっきり
まさかノーダメージで軍勢ごとすり抜けて来られるとは思ってもおらず、魔王軍軍団長の実力と自身の考えの甘さを突きつけられた。
(まずいまずいまずい…
考えてた中で最悪のパターンだ…
まだクロコダインとヒュンケルが来てないのに…
こんな状態で魔王軍の軍団長二人に、ハドラーが来たりなんかしたら…)
ドラが冷や汗をかき、喉の奥からこみ上げて来る吐き気に顔色を悪くしつつあったその時。
バルジ島、はるか上空にかかっていたドーム型の
ミストバーンとザボエラは結界をすり抜けられるのでわざわざ破壊しなかったが、ハドラーは目の前にある目障りな結界をわざわざ大きな音を立てて破壊したのだろう。
しかしその大きな音はドラにとっては最悪の切り替え音にしか聞こえなかった。
カチリ
(あ、本能にスイッチ入っちゃった…)
正常に動き出した炎魔塔と氷魔塔によって弱体化された味方。
島にいる魔王軍軍団長三人。
結界を破壊して侵入してきた魔軍司令ハドラー。
ドラの
ふぅっと遠のくドラの理性と思考。
せめて味方にだけは被害が出ないように…!
ドラ自身、祈る事しか出来なかった。
バルジ島に来る前、バダックが隠れ住んでいた拠点にて
「ゴメちゃんごめん、お留守番させて悪いんだけどこの二人見張ってて」
「ピィ?」
「こいつら回復しきらないで『動ける』っていうだけで参戦するの目に見えてるから…
せめて一日は休養させてから追いかけて来て。
限界の状態で戦う戦士とか迷惑以外の何者でもないから…」
「ピイィ!」(こくこく)
ク&ヒュ「「ギクリ」」