ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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26_VSザボエラ、ミストバーン

「ギョへへ…

ワシは魔王軍の妖魔士団長ザボエラ!!

こやつは魔影軍団長ミストバーン!!」

 

「妖魔士団に魔影軍団じゃとぉ!!?」

 

バダックはまさかと思った。

目の前にいる二人が魔王軍の軍団長だとは夢にも思わなかったのである。

老いたりとはいえ、栄えあるパプニカ王国兵士。

油断は何者にも勝る敵と常日頃から自分に言い聞かせてきた。

 

(ドラがレオナ姫様が誇らしげに強いと語っておった『勇者』じゃとわかってはおったが…

フレイザードを退けた実力者とも…

しかしまさか魔王軍の軍団長が二人掛かりで攻めて来ようとは!?

魔物どもがそれほどまでに危険視するほどの人物じゃと…ぬかったわ!!)

 

自分の見る目の無さを叱咤し、バダックは剣を抜き構える。

 

「おのれいっ! こうなれば…!

パプニカ一刀流の技の冴え、久々に見せてやるわぁ!!」

 

(何がなんでも勇者殿だけは守らねばならぬ!

この老いたりの命…! 人類の希望たる少女のために今散らさずして如何とす!?)

 

魔王軍が危険視するほどの人物。

裏返せばそれほど魔王軍にとって脅威となる力を秘めた『勇者』だということである。

むざむざとこの場で散るべき命ではない…!

 

 

バダックの決死の覚悟。

しかしその覚悟を押しとどめたのは当の勇者本人であった。

 

ドラは敵に斬りかからんとしていたバダックの肩にそっと手を添え、足払いをしてころりと地面に転がした。

バダックは転がされながらも鍛えられた動体視力でドラの顔を見上げる。

額に不思議な光を発する紋章を浮かび上がらせ、ほんの少し微笑んでさえいるような不思議な表情をしていた。

 

ドラはバダックの手からすり抜けた剣をパシリと受け止め、空中で一回転させて両手で持ち直す。

そして流れるような動きでくるりと横薙ぎに一回転する。

 

ヒュゥンッと風を切る音と共に放たれた衝撃波。

竜闘気(ドラゴニックオーラ)を纏った剣から放たれた一閃が転がされたバダックの頭上を通り過ぎ、周囲を取り囲んでいた妖魔士団と魔影軍団の軍勢を斬り裂いた。

 

「な…っ!? なんじゃとぉ…っ!!?」

「…!」

 

さしもの魔王軍軍団長二人もこの展開は予測していなかったのであろう。

大勢いた手駒たち…

それを一撃で半数に減らしたドラの一閃の威力に驚きを隠せない様子だ。

 

一回転し終えた後もドラの勢いは止まらない。

ボロボロに砕けてしまったバダックの剣を捨てて斬り伏せた彷徨う鎧の剣を奪いドルイド達に攻撃を仕掛ける。

ドラの身の丈の倍もある彷徨う鎧…

それが持つ剣の大きさはバダックの剣など比ではないほどに大きく作られた大剣だ。

ドラのような細腕の少女が持つなど不可能に近い。

しかしドラは両手で軽々とその剣を持つと振りかぶってドルイド達へと投げつけていった。

 

一体、二体、三体…

投げつけられたドルイド達は呪文も言い終わらぬうちに深々と突き刺さった剣によって絶命する。

中には呪文を放ったドルイドもいたが、ドラはひらりと身を躱し彷徨う鎧を盾に攻撃から身を守る。

そして呪文により攻撃を受けた彷徨う鎧から奪った剣でさらに攻撃を仕掛けていく。

 

(ま…まるで王宮で開かれた舞踏会で見た…貴族のダンスのようじゃ…!)

 

バダックがかつて平和だった時代、パプニカの王宮警護の任に就いた時のことを思い出す。

炎魔塔の灯かりに照らされスカートをひらりと翻しながら、くるくると舞うように戦うドラの姿はそれほどまでに軽やかにして優雅だったのだ。

 

岩場の上からその様を見て寸の間放心していたザボエラだが、自軍の劣勢を見るが早いか杖に魔力を込め魔法を放たんとドラへと狙いを定める。

すると自身に向けられた殺気に気付いたのであろうか、ドラがぐるりとザボエラに顔を向けた。

 

 

「ヒィ…ッ!!」

 

 

ドラと視線が合ったザボエラが本能から込み上げて来た悲鳴を漏らす。

爛々と光る目と獰猛な笑み…

まるで空腹極まったドラゴンが獲物を見つけたが如きの純粋な殺気がザボエラに襲いかかる。

 

「く…来るなぁっ…!! 来るんじゃないッ!!

ザラ…ッ!? ギエェェェェ〜ッ…!!!」

 

長大な大剣を持っているとは思えぬ軽やかさでドラは岩場を駆け上がっていった。

その勢いのまま、死の言葉(ザラキ)を放とうとしていたザボエラの腕を掴んでいた杖ごと斬り落とした。

ぼとりとザボエラの右腕が落ち、青い血しぶきが上がる。

噴き出す血飛沫と上がる悲鳴に何ら反応することなく、ドラはザボエラにトドメを刺さんと斬りあげた剣を今度は逆に斬り下ろそうとした。

 

その刹那、剣を両腕で持ち上げた体勢でドラの動きがピタリと静止した。

動きを封じ込めたのは無言で事態を見ていた魔影軍団長ミストバーンである。

 

「で、でかした…ミストバーン…!!

ミストバーンの闘魔傀儡掌(とうまくぐつしょう)からは何人(なんぴと)たりとも抜け出せんぞぉッ…!!」

 

額に脂汗をかき、斬られた腕を抑えながらミストバーンの暗黒闘気により動きを封じられたドラににじり寄って行くザボエラ。

 

「い、いかん…! ドラッ…!!」

 

身をかがめドラと敵の攻撃から身を守っていたバダックが捕らえられたドラを助けるために慌てて岩場をよじ登る。

しかし見上げた先、捕らえられたドラは一瞬きょとりとした表情をした後に顔いっぱいに笑顔を浮かべミストバーンを見た。

それは笑顔というよりは獰猛なドラゴンが口を広げる寸前、牙をむき出しにして敵を捕食せんとするかのような表情に見えた。

 

「…なっ…ぁッ…!?」

 

目の前の光景にザボエラが悲鳴も出せず絶句する。

ドラは自身の身を封じていた暗黒闘気を逆に竜闘気(ドラゴニックオーラ)で覆い、手繰り寄せ始めたのだ。

捕らえたはずのドラがまるで『捕らえられたのはお前のほうだ』とでも言うかのような獰猛な笑顔でミストバーンをず…ず…と引きずり寄せる。

 

「…」

 

自身の技が通用しないと悟ったミストバーンが無言で暗黒闘気を消し去り闘魔傀儡掌(とうまくぐつしょう)を解いた。

手繰っていたオーラが急に消え、ドラの体がガクリと傾く。

と、その時…

 

ドゴオォォン!!!

 

ドラの体が傾くと同時、遥か遠く氷魔塔から爆音が響いた。

 

「なんじゃっ…今の音は…!?」

「キッヒッヒッ…!!

ハドラー様が最強呪文である極大閃熱呪文(ベギラゴン)を使われたようじゃなッ…

ぐうぅ…」

 

ハドラー。

その音に反応したドラがタタタッとザボエラに駆け寄っていく。

軽い足音に反し相変わらず目は爛々と殺意に溢れていてザボエラは腕を抑えながら悲鳴に近い声で残った手勢に命令を出した。

 

「ヒイィィィ〜!! お、お前ら…ワ、ワシを守れッ!!

早くッ…こやつを始末しろぉ〜〜〜!!!」

 

残り僅かとなった彷徨う鎧とドルイド達が命令どおりザボエラを守るように陣形を組む。

しかしせっかく陣形を組んだところに、先ほどとは違う爆音が響いた。

ドオオォンッと響き渡った音と共に、彷徨う鎧とドルイド達は空から落とされた大岩の下敷きになり全滅した。

間一髪、一人だけ落ちて来た大岩を避けて命拾いをしたザボエラが叫ぶ。

 

「ぎょええええっ!!?

だ…誰じゃっ!!? こ、こんなとんでもないマネをするやつはあっ…!?」

「俺だッ!!!」

「ピイィィィ~~~~!!!」

「おおっ! クロコダイン!!」

 

大岩を落とし、到着と共に一気に敵を屠って登場した獣王クロコダイン。とゴメちゃん。

クロコダインは素早く周囲を見渡し残った敵が軍団長二人のみと見ると、バダックに身を守るよう指示を出す。

 

「じいさんっ、伏せていろ!!

むううううっ…!!

 

獣王痛恨撃ッ!!!」

 

クロコダインの必殺技、獣王痛恨撃。

練り上げられた闘気の渦が轟々と唸り声を上げて炎魔塔の根元をぽっかりと抉り破壊した。

土煙と熱された砂岩を巻き上げてガラガラと倒壊していく炎魔塔…

その粉塵に紛れ、ザボエラはこの場からこっそりと逃走していった。

 

「な…なんちゅう凄い技じゃあ…!

しかしおぬし、“痛恨撃”とは名前が物騒でいかんのお。

“獣王会心撃”とでも改名したらどうじゃ!?」

「ワッハッハッハッ!! そいつぁいいな!!

ありがとよじいさん…!!」

 

バダックの突然の指摘を大らかに受け入れ豪快に笑うクロコダイン。

ひとしきり笑うとこの場に残っているのが自分とバダックのみという事に気がついた。

 

「おい、じいさん。ドラの姿が見当たらんが…」

「おお! そうじゃ、ドラの様子がおかしかったんじゃ!

額が光ったと思ったら不思議な力で敵をバッタバッタとなぎ倒して…」

「な、何ッ…!!? いかん…!!

ドラを追うぞ!! 氷魔塔に向かったに違いない!!」

「なんじゃ、どういう事じゃ!!?」

「ここに来る前にドラから頼まれたのだ。

『もし、私の額が光っていて正気を失っていたら何がなんでも止めてほしい』と…」

「なんじゃとっ!? は、早くドラを追いかけるぞっ!!」

「おう!!」

 

 

ザボエラとミストバーンがあの場から離脱してすぐ、ドラの本能はバルジ島にいる敵の中で次の脅威となる者に標的を移していた。

今はそこに向けて飛翔呪文(トベルーラ)で飛翔しながら猛スピードで突き進んでいる。

 

ハドラー

 

額に(ドラゴン)の紋章を浮かべたドラは氷魔塔近くに感じる魔軍司令ハドラーの気配めがけて向かっていく。

 

「ピイ、ピイィ〜〜〜!」

 

その後ろには(ドラゴン)の騎士としての本能のみで動くドラを止めようと、小さな羽を動かし必死に空を飛ぶゴメちゃんの姿があった。

 

 

 




(ドラゴン)の騎士の本能がどれくらいヤバいかっていうと息子と対決したバランが「グフフフッ…燃え尽きよったか」とか言っちゃう程度にはヤバい
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