ドラがザボエラとミストバーンの軍勢と対戦し軍団長二人を圧倒していた頃…
ドラとバダックと別れ氷魔塔に向かったポップとマァム。
しかし目的地を目の前にして魔王軍配下のガーゴイルとアークデーモンに囲まれてしまっていた。
アークデーモンが持つトゲ付きの鉄球による攻撃やガーゴイルによる空からの斬撃を避け続ける二人。
「どうやら罠にはまったみてえだな…」
「もしかしたらドラ達も…!」
炎魔塔に向かったドラ達も自分たちと同じように魔王軍の軍勢に囲まれているかもしれない。
二手に分かれた事で戦力の分散になってしまった。
ここは一度態勢を立て直すためにドラ達と合流するべきか…
ポップとマァムは罠にかけられた状況を打開すべく無言で、お互いの視線のみを交わして相談する。
しかしその無言の相談を無に帰す声が二人を取り囲んでいるモンスター群の中から響いた。
「ククククッ…ドラは炎魔塔か…
拍子抜けしたぞ…!
まあ良い、どのみちアバンの使徒は今日ここで全滅するのだ。
このオレは雑魚でもひねって遊ぶとするか…!!」
今の声はどこから…
マァムは視線を彷徨わせ、視界に入ったポップの変化にギョッと驚く。
モンスターの中から聞こえてきた声を聞いた途端、全身を震わせドッと汗を噴き出し始めたのだ。
俯き加減でよく見えないがその表情は恐怖とも憤怒とも言い難い苦渋に満ちている。
わなわなと震えるポップの口から絞り出すような声が発せられた。
「こいつの…
こいつの声だけは死んでも忘れねえ…!!
魔軍司令ハドラー!!!」
モンスターの中からゆっくりと歩み出てきて姿を現した大柄な魔族…
重そうな肩鎧を装着し、重厚な
だが漲る力強さは
「…こいつがドラが言っていたアバン先生を襲ったっていう…」
「そうだ…!!
…だが…まさか、魔軍司令であるこいつが自らやってくるなんて…!!」
「ククククッ…!
目障りな貴様らを一気に叩き潰してやろうと思ってな…
まあ、罠にかかった獲物が小さいんで少々がっかりしたが…ククッ」
魔軍司令ハドラーの侮蔑混じりの挑発に負けじとポップが言い返す。
「う…うるせえっ!
そうそうてめえらの思い通りになると思うなよ、ハドラー!!」
震えて怯えた様子の人間が言い返してきたのが意外だったのかハドラーがまじまじとポップの顔を見つめた。
そしてふと、思い当たるような仕草をして口を開く。
「…そうか…思い出したぞ…
貴様、あの時ドラとアバンと一緒にいた魔法使いのガキか…!?
…ククク…
ククククッ…
クワーーーッハッハッハッ!!」
「な…何がおかしいんでえっ!!」
「フハハハッ!!
…おかしくて笑っているのではない、これは歓喜よ!!
あの時ドラから受けた屈辱…! 一瞬たりとて忘れはせなんだぞ…!!
あの失態を見た者も生かしてはおけぬ…
アバンは元より、今ここで貴様を殺せば雪辱が果たせるというもの…
小僧、惨たらしく殺してやるぞ…!!」
大口を開いて笑っていたハドラーだが、ドラの名前を口にした途端にその顔を歪め復讐に取り憑かれた夜叉のような形相になった。
その復讐心の対象は直接対決したアバン、ドラだけではなくハドラーが打ちのめされた姿を知るポップにも向けられている。
ギラギラとした殺意を向けられたポップは今すぐ逃げ出したい衝動を必死にこらえて反論した。
「ふ…ふざけんなよ!
あの時は何も出来なかったけどなぁ、
俺だってあの時よりずっと強くなってんだ…!
ドラの時みたいに返り討ちにしてやらぁ!!」
「そうよ! それにアバン先生とドラに敵わなかったから殺すなんて…
完全に逆恨みじゃない…!
そんな理由で人を殺すなんて許せないわ!!」
「フン、根本的な勘違いをしてるようだな小娘よ。
そもそも地上に人間が存在している事が間違いなのだ。
このオレがわざわざ排除してやるというのに反抗したアバンとドラこそが異分子よ…
それを逆恨みなどと…
さすがアバンの使徒らしい、身勝手で低次元な教えを受けているようだ…
クワッハッハッハッ!!」
尊敬する師とその教えを侮辱されたマァムがカッとなってハドラーにハンマースピアで殴りかかる。
ポップが必死に制止する声も届いていないくらいに激昂した様子だ。
「よ…よせ! マァム…!!」
「てやあああああっ!!!」
渾身の一撃をお見舞いすべく振り下ろされたハンマースピア。
しかしそれをハドラーは片腕で、しかもその場から動くことも体勢を変えることもなく難なく受け止めてしまった。
「…あっ!!」
「逃げろマァム! そいつは格闘もハンパじゃないんだ!!」
ハンマースピアを受け止めたのとは反対の拳でマァムを殴りつけるハドラー。
粗雑に振り抜かれた拳がマァムの顔面に直撃しそのままの勢いで体ごと吹っ飛ばす。
数メートルほども吹っ飛ばされたマァムは全身を地面に打ち付け、受けた拳の衝撃も合わさって気を失いかけていた。
苦しそうに呻くマァムにトドメを刺さんとハドラーが自身が得意とする
「死ね」
「マァム〜〜〜ッ!!」
ハドラーによって繰り出された
それは一発のみならず、同時に三発…
確実に息の根を止めるために放たれた攻撃からマァムを守るために咄嗟にその身を盾にしたポップ。
「ぐ…うっ…!!」
「…う、
ポ…ポップ!?」
失いかけた意識を取り戻したマァムが真っ先に見たのは目と鼻の先の深く抉れた地面…
それとブスブスという音と煙をあげて焦げた足の痛みに顔をしかめるポップの姿だった。
「なんだこの呪文の威力…
まるで
…それを同時に3発も…バケモンだ…!!」
「オレはアバンとドラを確実に葬るため、大魔王バーン様より新たなる肉体を頂いたのだ…!
格闘!呪文!すべての面において今までの肉体を凌駕するな…
つまり今のオレはドラと対決した時とは別格の存在というわけだ…」
「…!!!」
「…フン! あの時はドラにしてやられたが…
この場にドラがいないのであればお前達には米粒ほどの勝ち目もない。
今頃ドラの奴も妖魔士団と魔影軍団の攻撃を受けてくたばっとるところだろうて…!!
フハハハハハハッ!」
「ドラ達も…!?」
ハドラーの言葉に打ちのめされるポップ。
ハドラーの口から出た『妖魔士団』『魔影軍団』の言葉…そして目の前にいる魔軍司令ハドラー。
冷静になってきた頭がそれらの軍勢にはどうあがいても勝つ事は不可能だと告げてくる。
「虫ケラの分際で我が偉大なる魔王軍にたてついた罪は死しても余りある!!
オレの高熱地獄で身を焦がされながら…
死よりも辛い苦しみを味わうがいい…!!」
そう言いながら手に魔力を集中させるハドラー。
魔力によって生み出された炎は通常の
いよいよこれまでか…と覚悟を決め、歯を食いしばるポップ。
…しかし目を閉じたポップの衣服を、いまだ痛みで身動きが取れないマァムが縋るようにギュッと掴む。
衣服を掴むマァムの手の感触にハッと目を開ける。
(…そうだ…
俺は絶対に絶望しちゃいけねぇ…!
俺が諦めちまったら…誰がマァムを守るんだ!!)
「仲良く灰になれッ!!
向かってくる閃熱から目を逸らさずに意識を集中する。
魔力を右の拳に集結させ、格闘家が正拳を突くかの如く気合いを入れて構えをとる。
「マァムを守るんだ…!
ドラを助けに行くんだ…!!
そのためにも…
最後の最後まで絶望するわけにゃいかねええっ!!!
ドオォンッ…
「バ…バカな…!! ウォォオッ!!?」
突き出された拳から放たれた
それは寸分の狂いなくハドラーが放った
「ぐっ…」
「ハドラー様、大丈夫ですか!?」
「ええい! うるさいッ!!」
空中で衝突し、魔力同士相殺されて消滅した
同じ呪文同士の魔力の押し合いになったそれは、まさかのポップがハドラーの魔力を上回り押し切るという結果になった。
ハドラーが動揺するほどの意外な底力にかつてドラがロモス国王に言った「天賦の才持つ魔法使い」という言葉が嘘ではなかったと証明してみせた。
そして天才の片鱗を見せたポップは動揺するハドラーの隙を見逃さず次の行動に打って出る。
「1…2…3…そらよ!!
「ぐあぁぁッ…!!」
カウントダウンとともに投げられた爆弾。
次いで撃たれた
それはちょうどハドラーの頭上、モンスター達の中心地で爆風と高熱を巻き起こし全てのモンスターに灼熱の炎渦を浴びせかける。
「や…やったぁッ!!! マァム、見たかよ今の!!」
「ポップ…凄かったわね、
びっくりしちゃった…」
「俺もさ、夢中でやっちまったんだ。
…師匠のおかげだよ」
「師匠?」
「マトリフさんのことだよ。俺にとって先生はアバン先生ひとりだからさ…
先生じゃなくて、あの人の事は“師匠”って呼ぶ事にしたんだ!」
「…ぷっ。つまんない意地はって…」
「む…いいだろ別に…
師匠のおかげで、短い修行でも相当魔力が上がってたみたいだ。
さっすが、アバン先生の仲間だっただけあるぜ…!
感謝しねえとな…!!
さあ、今のうちにドラ達と合流しよう!」
マァムに肩を貸して立ち上がらせるポップ。
目指すは炎魔塔。ハドラーの言葉が確かならドラ達も今頃魔王軍と応戦しているはずである。
一刻も早く合流せねば…
力を合わせて歩みを進める二人…
後ろではまだ
動く物体など存在しないはずのその炎の中から、ゆらりと立ち上がる人影が見えた。
まさかと思いゆらめく人影を見るポップとマァム…
炎の中から歩き出てきたそれは、傷一つ負っていない魔軍司令ハドラーであった。
「…驚いたぞ…
あの鼻タレ小僧がよくぞここまで成長したものだ…!!」
「う…ああああ…!!」
「だが、今すぐ貴様は思い知るだろう…
上には上がいるという事をな!!」
「ま、まさか…あれは…!?」
「
ハドラーによって放たれた
高熱の爆風と抉れる地面…
あたり一帯を吹き飛ばす威力のそれは、ポップとマァムの体をもまるで小枝か木の葉のように吹き飛ばした。
「…ハドラー様、ご無事で…!?」
「ウム…」
ポップの
鷹揚に頷いたハドラーは
「氷魔塔を壊さぬよう加減したが…
威力を抑え過ぎたようだ。
まだ息がある…」
マァムの細首を片手で掴み上げ、そのまま持ち上げてくびり殺そうとするハドラー。
「ま…待てっ…!」
「フン、貴様も生きていたか…
安心しろ、すぐにあの世で再会させてやる!」
「ま…待ってくれぇっ…!!
た…頼む! 俺の命はどうなってもいい…!
だから…だから、そいつだけは見逃してやってくれ!!
頼む…!!!」
「…フッ、そうか、貴様この娘に惚れておったのか…
クァーーーハッハッハッ!! こいつはいい!!
…そうと聞いてはますます許せんなぁ!!
未熟者のくせにオレの肉体を傷つけおって…!
自分の愛する女が惨たらしく死んでいく様をじっくりと見るがいい!!
それが貴様への一番の制裁になろうて!!
あの氷魔塔の頂上にこの娘の身体を突き刺してくれるわ。
モズのはやにえのようにな…」
「やめろおっ!!
やめてくれえっ!!!」
ポップの懇願も虚しく、軽々と空高く放り投げられたマァム。
落ちて行く先には氷魔塔の先端が鋭く牙を剥いている。
あのままではマァムがハドラーの言葉通り串刺しとなってしまう…運良く氷の刃を免れたとしてもあの高さまで放り上げられたのではどの道助からない…
再び絶望感がポップを襲う。
「うわあああ〜〜〜っ!!
マァム〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
放物線を描いて氷の刃へその身を吸い寄せられるマァム。
白く濁った氷の塔が真っ赤に染まるかと思ったその時…
「な…なんだっ!! 氷魔塔が…」
氷魔塔が一瞬眩く光ったかと思うとガラガラと音を立てて砕けていく。
粉々になった氷がキラキラと光を反射し、氷魔塔を覆っていた白い冷気と合わさり幻想的な光景が生み出された。
徐々に晴れゆく白い冷気とキラキラと光りながら消えていく氷片の中から現れたのは…
「ヒュ…ヒュンケル…!
来てくれたのね…!!」
気を失っていたマァムが目を覚ますと、目の前には微笑んでいるヒュンケルがいた。
自分の命を救ってくれた兄弟子の首に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
鎧の魔剣で完全武装をし、投げ出されたはずのマァムをしっかりと姫抱きにして抱えるヒュンケル。
ドラがお姫様の危機に駆けつけた勇者ならば、こちらはまさに絶体絶命のヒロインを助け出した王子様の様相であった。
ドラを登場させるところまでいけなかった…!
長くなりすぎるので一旦区切り;
ドラ「なんか殺さなきゃいけないやつの気配が増えた気がする…!」