12歳になるまでレベルアップと
レベルアップは自分に課したノルマのようなものだが本来は料理や裁縫や花輪作り、貝殻や海岸に流れ着いたものでアクセサリーや小物を作ったりなど、女の子らしいことが好きなのだ。
その日は甘い果実を魔法で凍らせ細かく削って作り出した
ふと遠くの海に何か見えた気がしてそちらを眺めていると、だんだんと近づいてきたそれがかなり大きな帆船だとわかった。
「ゴメちゃん、ここで待っててね」
「ピ?」
「キッヒッヒッ
あれだな、モンスターの生き残りがウジャウジャいるっていう島は…」
「またひと暴れしてやるかぁっ!!」
「魔王が死んでおとなしくなったモンスターをいびり倒してりゃ勝手に勇者とあがめてくれるんだからな
こんなにオイシイ商売はないぜ」
「まったくだ」
「ヒヒヒ」
「ちょっと待ちなよ。今回はモンスター退治が目当てじゃないんだ
アレを見つけるまではむやみに殺しちゃだめさ」
「世界に一匹しかいないという幻の珍獣…」
「ゴールデンメタルスライムか…!?」
「一匹で百万の富に匹敵するというが…」
「本当にいるのかよ!?」
「いなきゃ島中皆殺しにしていつも通りに怪物退治の褒美をもらえばいいわよ」
「フフン、悪党め」
本当に悪党だった。
そういえばいたな〜こんな人たち。
甲板上空で会話を聞いていたドラはそれがニセ勇者一行だったことを確認し、薄い感想を心の中で呟いた。
最後の最後で意外な活躍をしてくれる彼らではあるが、このまま島に上陸されても厄介なのでここは穏便にお引き取り願いたい。
「!?」
「誰だ…!?」
甲板に魔法を使い突然現れた少女に対し、ニセ勇者一行のリーダー、でろりんが背中の剣に手をかけて警戒態勢を取る。
しかしそれをニセ僧侶ずるぼんが手で制した。
「お嬢ちゃん、あなたは…?」
「初めまして。デルムリン島に住んでるドラっていいます。
何かあの島にご用かと思って挨拶に来ました」
にっこりと可憐な微笑みを浮かべて丁寧に挨拶をするドラにでろりんとへろへろとまぞっほがぽぽっと顔を赤らめる。
それを横目で見ていたずるぼんが面白くなさそうな顔をした。
思わず舌打ちをしそうになったずるぼんだが、寸でのところで我慢してドラに近づいて作り笑いを浮かべて向き合う。
「ご挨拶ありがとう。私たちは罪の無いモンスターを保護して世界を回っている勇者一行よ。
お嬢ちゃん、あの島にはモンスターがいっぱいいるでしょう?」
「モンスター? いませんよ、モンスターなんて」
「…嘘はダメよ、お嬢ちゃん」
「嘘なんて言ってませんけど」
「…」
「…」
ニコニコと笑いながら会話している2人だがだんだんと間に漂う空気が冷たくなっていく。
女の勘と言えばいいのか、にこやかな会話の裏でお互いがお互いに「嘘ついてんじゃねーよ」と思っているのを薄々感じ取る。
「じゃあスライムを知らないかしら? キラキラしていて特別希少なスライムがこの島にいるっていう話なんだけど…」
「スライム? スライムならこの島以外にもたくさんいるじゃないですか。
キラキラした特別なスライムなんて見たこともありません。
あの島に行っても何も無いのでここで引き返したほうがいいですよ?」
「…」
「…」
ニコニコと、しかし全然目が笑っていない笑顔のまま会話が終了する。
「チィッ! 無駄骨かよ!!」
「ここまで来て何の手柄も無しに帰れんぞ、どうする?」
「ちょい待ち。ならもういっそモンスター退治はしたことにしちゃいましょうよ。
どうせ確認になんて来やしないんだから」
「おお、頭良いなずるぼん」
思いのほか早く本性を現した彼らにドラは内心ホッとした。
このままここでUターンしてくれるならありがたい。
原作ではダイ君がゴメちゃんを取り戻すために奮闘して、後々の重要アイテム『覇者の冠』を授かるところだが今の自分としてはどうしても手に入れなければいけない事情も無い。
案外簡単に目的が達成され、さあ島に帰るかなと考えていたドラにやいのやいのと会話をしていたずるぼんがサッと近づき腕を掴んできた。
「その前にこのガキを始末しちゃわないとね。
私たちの正体を知られたからには生かしちゃおけないわ」
「おい待てよ。そのガキ、連れて帰ってぱふぱふ館に売ろうぜ」
「確かに。ゴールデンメタルスライムが手に入らなかったしそっちで埋め合わせできるかの」
「こんな何も無い島にゴールデンメタルスライムの代わりになる美少女がいるとはな。
やっぱ俺たちツイてるぜ〜」
下衆だった。
思った以上に下衆だった。
そういえば子供相手に
ダイ君じゃなければ普通に死んでいる攻撃である。
例え今行なっていなくとも原作で行なった
容赦する理由が無くなった。
「ギャン!!!!!!」
「!?ずるぼッ ガハッ…!!」
「ぐぇっ…」
「ごほぉっ!! ゲホゲホッ…」
ドラの腕を掴んでいたずるぼんの腕を逆に掴み返して顔面から乱暴に甲板に叩きつける。
何が起こったのかまだわかっていないでろりんの鳩尾に一発ストレートをお見舞いして、振り向きざま、まぞっほとへろへろにも回し蹴りと肘打ちをお見舞いした。
ドラは魔法は得意だが力がないし体術・剣術に関してはまったく才能が無い。ついでにやる気も全然ない。
それでもレベル99に達している人間が放つ拳の威力は普通の人間相手ならそこそこのダメージになったようだ。
痛みにのたうち回っている彼らの首根っこを乱暴に掴むと
やって来たのはロモス王国近郊の森。
一度地面にニセ勇者達を下ろすと素早く
「真実を話せ!」
「「「「あががががが」」」」
いきなり痛めつけられ、
混乱しきっているニセ勇者をまたも乱暴に掴むと今度は
「ぎゃああああああああ」
「お、下ろし…!!」
「ワシらが悪かった! 許してくれえ〜」
「お母ちゃ〜〜〜ん!!!!」
いきなり現れた侵入者に城の衛兵たちが何事かと槍を構えてこちらを取り囲む。
何人かは応援を呼びに行ったのだろう。バタバタと城内が騒がしくなり、女官や文官らしき者たちは城の奥へと避難していった。
警戒態勢のまま槍を向けにじり寄る衛兵達に対して、ドラが毅然とした態度で言い放つ。
「初めまして、私はデルムリン島に住んでいるドラと申します。
突然の訪問、大変申し訳ありません。
ロモスの王様にご伝言願います。
このたび、こちらの「勇者一行」と名乗る者たちに島が襲撃されそうになりました。
私も捕まえられて娼館に売られそうになりました。
余罪があるそうなのでそちらでお引き取り願います!」
地面に転がしたニセ勇者一行をそれぞれもう一度蹴り倒してからドラはそのまま
城の衛兵から報告を受けて、ロモス王が慌てて中庭に駆けつけた時にはドラの姿はもはや影も形も無くなっていた。
「何事じゃ! おお、勇者でろりんよ、何があった?!」
「は、はいぃ…このたび、デルムリン島へ行っておとなしいモンスターを皆殺しにして褒美を貰おうとしましたあ…」
「ん?」
「ゴールデンメタルスライムの噂を聞きつけ、生け捕りにする予定でした〜」
「んん?」
「しかし島にはモンスターも、ゴールデンメタルスライムもいないと島の女の子に言われて、その女の子を捕まえてぱふぱふ館に売っ払おうとしました〜」
「な、なにぃ!!?」
「今までもそうやっておとなしいモンスターばかりを倒して王様を騙して褒美を貰ってました〜!」
「こ、こ、この、愚か者ども〜〜〜〜!!!!」
「「「「ごめんなさ〜〜〜〜い!!」」」」
島に戻って来たドラにゴメちゃんがパタパタと駆け寄ってくる。
「ピィ〜」
「ただいま、ゴメちゃん。さ、家に帰ろう」
「ピィ!ピィ!」
「ん?どうしたの?」
ゴメちゃんが鳴きながらあっちあっち、と片方の羽で海を指し示す。
「あ」
指し示された方向には勇者一行を乗せてきた帆船がそのまま停泊していた。
「忘れてた…」
あはは、と笑いながら頬をかく。
船にもう一度向かうとちゃんと船を操舵する船員たちがおり、突然消えてしまったニセ勇者一行の行方を探していた。
良かった〜、ちゃんと船員さんがいてくれて。
でもそれはそうか、あのニセ勇者一行が操舵もできるほど優秀とは思えないもんね。
船員達にかいつまんで事情を話しロモスに引き返してもらったが、それが終わる頃には今度は海岸で何事かと心配していたブラス老に質問責めにされることとなった。
夜、ぐったりとして眠りにつく前にドラは今日あったことを思い返す。
のんびりと過ごそうと思っていたのにそれを邪魔されたこと。
ブラス老に心配をかけてしまったこと。
今日のことが今後どのような未来に結び着くのか予想できないこと…
一抹の不安を胸に、ドラは
「
と物騒な反省をしてその日は眠りについたのだった。
一方その頃、ロモス城ではロモス王がニセ勇者一行の諸々の余罪とその後の処分について、
そして「ニセ勇者一行の悪事を暴いたドラという魔法使いの少女」の報告を聞き終えていた。
「うーむ、そのドラという少女…
もしや各地で噂になっている『正義の魔法使い』なのでは…」
「う〜ん…むにゃ、何そのダサい呼び名…やだ〜…」
「ピィ?」
いきなり魘されだしたドラをゴメちゃんが心配そうに見つめるのだった。