バルジ島にて魔王軍の総攻撃を退け、氷炎将軍フレイザード、魔軍司令ハドラーを撃破したドラ達アバンの使徒一行。
決戦の後、様子を見に来たマトリフに連れられて島から避難していたパプニカ王家の面々と再会した。
お互いの無事を確認し、泣いて喜び合ったドラとレオナ。
今は魔王軍撃退を祝す宴に招かれて、神殿の跡地にいた。
国が壊滅状態なので規模はごくささやかではあるが、国王と姫が無事だった事を知った人々の顔には明るさが戻っていた。
「しかしよく生き残れたもんだな…
魔王軍の集中攻撃からよ…」
「あはは…はい、なんとか…」
マトリフがポップとバダックをバルジ島へ送り出した後、島で何が起きていたのか事情を聞いて「よもやそんなことが…」と信じられない様子で言った。
それに歯切れ悪く返事をするドラ。
(理性がブッ飛んで黒の
原作ではレオナが凍らされての奪還劇だったが、今回は国王とレオナは早々に島から脱出した。
フレイザードに追いかけられては厄介なので、
そのあとフレイザードに逃げられ、結界も壊されるという最悪の事態になってしまったのは完全にドラの失態だ。
結果的に倒せたから良かったものの、もしフレイザードがドラに固執せずパプニカ王家を追いかけていたらと思うと…
ドラは諸手を上げて勝利を喜ぶ事ができなかった。
パプニカの兵士、神官たちによって宴の準備が進められていく。
ドラ達から少し離れた位置の柱にヒュンケルが寄りかかって夜空を見上げていた。
クロコダインの姿が見えないが、そう遠くにはいないだろう。
「おおっ…国王様…!」
「レオナ姫様っ!!」
談笑していたドラ達の耳にパプニカ王家の来場に沸く兵士の声が届いた。
国王とレオナが三賢者を伴ってゆっくりと会場の中央へと進む。
(わあ〜! 国王さまカッコいい!
口ひげが凄い似合う…渋めのハリウッド俳優みたい!!
ちょっとやつれてるのは逃亡生活が長かったからかな…
レオナによく似てる…
…良かった、国王さま助けられた…)
「皆、此度の戦い、よくぞ乗り切ってくれた。
命をかけ、我が身を守ってくれた諸君らの献身にはまこと感謝に堪えぬ…
中でもドラ殿たちアバンの使徒には感謝の言葉もない。
アバン殿にドラ嬢の家庭教師を希った私の目に狂いはなかった…
ここにはおらずとも、アバン殿も此度の戦の功労者として讃えたい」
国王の発言に続きレオナが口を開く。
「わたくしからもお礼を言います。
みんな、本当によく戦ってくれました。
おかげでこうして生還した喜びを分かち合うことが出来ます。
本当にありがとう…
ドラちゃん、それもこれもあなたが駆けつけてくれたおかげよ…
ありがとう…!」
ドラが歩み出て国王とレオナの前に跪き頭を垂れる。
「パプニカ王国国王陛下、ならびにレオナ姫様。
危急に際し我が師、アバンより託されました使命とレオナ姫様への友誼をもって駆けつけました。
お二方が無事でありましたこと、心より安堵いたしました。
それこそが何物にも代え難き誉にございます」
わあっ…!
ドラの言葉に周囲から歓声が上がる。
星明かりと松明に照らされた王族と勇者の姿は、まさしく物語の名場面とも言えるほどに美しかった。
レオナが跪いていたドラの手を取り立ち上がらせる。
そしてドラに質問をした。
「ところでドラちゃん…
あそこにいる剣士もあなたの仲間のアバンの使徒なの?」
視線の先には人の輪から少し離れていたヒュンケルの姿があった。
その質問を聞いたポップはギョッと目を見開きマァムはどう答えたものかと眉をひそめ口をつぐむ。
「そうだよ、アバン先生の一番弟子で私の兄弟子」
「だったらお礼を言わなくちゃ!
あなた、名前は?」
「…俺は…
…俺の名は…
魔王軍、不死騎団長ヒュンケル!!」
「……魔王軍…!?」
「不死騎団長…!!」
ヒュンケルの名乗りに場が騒然となる。
「あっ…あのバカッ…!!」
「…それは、まことか…!?」
まさか正直に名乗るとは思っていなかったのだろう。ポップがバカ正直に魔王軍だった事を明かしたヒュンケルを非難する。
険しい顔をした国王がヒュンケルに歩み寄り詰問した。
「待ってください! 今はもう味方です!
アバンの使徒としての使命に目覚め私たちを助けてくれたんです!」
マァムがヒュンケルの前に立ち弁明をする。
しかしヒュンケルはマァムの肩を掴み、庇いだては無用とばかりにそっとどかした。
「…たとえどんな償いをしようとも、この俺が不死騎団によってこの国を滅ぼしたという事実は拭いようがない。
その罰だけは受けねばならん。
…幸いにも一度命を拾い、ドラ達の力になることができた。
もはや思い残すことはない…
国王…あなたの手で俺を裁いてくれ…!
この場で斬り捨てられても…俺はかまわん…!」
「ヒュンケル!!」
腰に下げていた剣を捨て国王に裁きを請うヒュンケル。
マァムは悲しげな顔で覚悟を決めたヒュンケルを見つめた。
ちなみにドラはニコニコと盃片手に事態を見守っている。
「…よかろう。
しかし裁くのは私ではない…
レオナよ、この者の裁定、お前にまかせる」
「はい、お父様」
「…!!」
国王から命じられたレオナがヒュンケルへと歩み寄る。
「…ヒュンケル、陛下の命によりこのパプニカの王女、レオナが判決を下します」
「…」
「あなたには残された人生のすべてをアバンの使徒として生きることを命じます…!」
「!!!」
「友情と正義と愛のために己の命をかけて戦いなさい。
そしてむやみに自分を卑下したり、過去に囚われ歩みを止めたりすることを禁じます…!
以上! いかがかしら?」
「………承知しました…!」
ヒュンケルの目から一筋の涙が流れた。
固唾を飲んで見守っていた周囲からパチパチと控えめに拍手が上がり、徐々に広がってやがて盛大な拍手が会場に響いた。
国王はレオナが下した判決に満足そうに微笑む。
マァムとポップは心底ホッとしマトリフは関心無さそうに酒と食べ物を咀嚼しつつ、しかしニヤリと笑う。
ドラはというと…
(国王様がレオナに裁定を任せた…自分よりも次代を担うレオナの裁量を周囲に見せて国民を安心させたのか。
で、レオナは意を酌み取ってそれに応えたと…
レオナ、『お姫様』じゃなくて『次期指導者』としてしっかり教育受けてるんだな…
レオナ、凄いなあ〜。パプニカはきっとこれからどんどん栄えるなぁ)
ヒュンケルの裁定の如何よりも友達の立派な姿のほうに感動の涙を見せていた。
ドラが下される裁定を笑顔で見ていたのは何もヒュンケルの命に興味がないからだけではない。
一応、処刑を言い渡されたら待ったをかける気でいたからである。
しかしそれはヒュンケルの命を助けるのが目的なのではなく戦力を無駄にするのが惜しいという理由だ。
ヒュンケルほどの強さを持つ戦士など世界に数人もいない。
(命を落とすなら断頭台の上じゃなくて戦場で、命の限り戦わせてからじゃないともったいないもんね)
そう心の中で独りごちて手に持った盃をくい、と傾けた。
会場の喧騒が漏れ聴こえてくる柱の影で、クロコダインは一人酒を飲んでいた。
「おお、ここじゃったか!」
「じ…じいさん…!」
「探したぞい! なんでこんなところでチビチビやっとるんじゃ…!?」
「フッ…怪物が人間と一緒に酒を飲むわけにもいくまい…!?」
「何を言うとるか! 勝利の立役者に怪物も人間もあるかい!!」
一緒に来た兵士が盃に酒を注ごうと重そうな酒樽を傾けた。
「さあグッといってくれ!」
「姫の恩人に乾杯!!」
兵士が持った酒樽をそのまま受け取ったクロコダインはそれを軽々と持ち上げて自慢の大口に一気に流し込む。
「「「おお〜っ!!」」」
まさか酒樽から直に一気飲みするとは思わずバダック達は驚きと感心の声を出した。
「フウッ……うまい…!
こんなにうまい酒ははじめてだよ…」
「そりゃ何よりじゃ! ワッハッハッ…!」
宴も
会場では久しぶりの酒に気を良くしたマトリフがポップを引きずって歌なのか鳴き声なのかよくわからない音頭を取りながら駆け回っていた。
最初はキリリとした表情で勝利を祝い合っていたパプニカの兵士達も今は敗残兵よろしく、床に転がり盃を片手に撃沈している。
ドラとレオナとマァムは三人でジュースを飲んでいた。
「すみません姫…マトリフおじさんがあんな酔い方をする人だとは…」
「なによ、姫だなんて水臭い…レオナって呼んでよ!」
「それはちょっと…」
「いいのよ! ドラちゃんだって私のこと呼び捨てにしてるんだから!
ね〜?」
「うん、レオナ!」
「ピィ!」
「ほら、マァムもレオナって呼びなよ!」
「そうよ、ほら呼んでみて!」
「レ…レオナ…」
「「っきゃ〜〜〜!!」」
何に対してかわからない歓声を上げるドラとレオナ。
女子ノリがいまいち苦手なマァムは何がそんなに楽しいのかしら…と首をかしげる。
ふと、先ほどまでヒュンケルがいた場所を見ると蛻の殻となっていた。
「ヒュンケル!!」
月明かりに照らされた道をクロコダインとヒュンケルが会場を後にしようとしていた。
迷うことなく出立しようとしているのをマァムが慌てて呼び止める。
「どうしたの!? どこへ行くの!!?」
「…黙って行こうと思っていたが…
鬼岩城へ行く…!」
「鬼岩城!?」
「魔王軍の本拠地だ。
このパプニカを北上したところ…ギルドメイン山脈の奥深くにある。
俺はクロコダインとともに奴らの動向を探ってくるつもりだ」
「そ…それならみんなで行けば…」
「俺たちだけのほうが身軽でいい…
まかせておいてくれ」
「あっそう、じゃあヒュンケルにお使いお願い」
「ドラ!?」
いつの間にかついて来ていたドラがヒュンケルにはい、と紙を手渡した。
「お使い…?」
「内容はその紙に書いてあるから。
クロコダイン…気をつけてね。必ず無事に戻って来てね?」
「ドラ…ありがとう。
今日は最高に気分が良かったよ、パプニカのみんなにもよろしく伝えてくれ」
「…また会おう、ドラ、マァム」
「…ヒュンケル、気をつけて…」
ドラとマァムはそのまましばらく、夜道を進む二人を手を振って見送ったのだった。
カール王国―
ギルドメイン大陸の西部に位置する国で、アバンの故郷である。
世界最強の騎士団を保持している国としても有名で、王女フローラの統治手腕も見事と世界に名を知られた国でもある。
しかし精強で知られたこの国は今、大量のドラゴン達によって滅ぼされようとしていた。
王都を一望できる丘の上に二人の人物がいる。
一人は大きな椅子に座り、ドラゴン達が国を燃やし蹂躙する様を肴に盃を傾けている。
その横に立つのは先のフレイザード戦でドラに深手を負わされた妖魔士団長ザボエラだ。
ドラゴン達がその猛攻により国ひとつを七日とかからず滅ぼす様を驚きと怯えが同居したような表情で眺める。
「…そうか、凄いな。
そのドラとかいう娘…魔王軍の総がかりをもはね返すとは…
一体どんな力の持ち主なのかね」
椅子に座っていた人物…
今目の前でカール王国を蹂躙しているドラゴン達を統率する超竜軍団長・竜騎将バランが口を開く。
魔王軍に匹敵する力を持った『勇者』に対して敵対心を燃やすというよりは純粋にその強さを賞賛するかのような口ぶりだ。
問われたザボエラが子細を語る。
「…さあ、何しろ不可思議な力を秘めた小娘でしてな…
額に紋章のようなものが輝いたかと思うとこう…
凄まじい底力を…」
再生はしたが斬られた腕の痛みを思い出したのか腕をさすり、冷や汗をかきながら説明するザボエラ。
バリンッ
「ひぇっ…」
突然の破砕音に小さく悲鳴を上げる。
見ればバランが手にした盃を握り潰していた。
「…紋章だと…!?
…ザボエラ、その紋章とは竜の顔の形をしていなかったか…!?」
「りゅ…竜ですか!? 言われてみればそのように見えなくも…」
バランが凄まじい怒気を込めて叫びながら立ち上がる。
「…ハドラーめ!!
企みが読めたわッ!!!!」
再び神殿跡地、宴の会場では…
「ちょっと〜どこ行ってたのよ!」
「ピイィ…」
レオナの相手をまかされていたゴメちゃんが辟易した様子で鳴き声をあげた。
「ごめんごめん」
「仲間が出立するから見送ってたのよ」
「仲間って…ヒュンケルのこと?」
「そうそう、マァムはヒュンケルの事、気になってるんだよね?」
「…!! ちょっとその話詳しく…!」
「ちょっとやめてよドラ…私ヒュンケルの事そういう意味で心配してるわけじゃ…」
「マァムはああいうのがタイプなの?!!」
「レオナ…だから私は」
「中身はともかく顔と体と剣術凄いじゃん。あのレベルは早々いないよ!?
アタックするなら早めにしなよ!」
「ドラ…いい加減怒るわよ」
「ちょっと、ドラちゃんあとで二人っきりで改めて女子会しましょう!!」
「承知!!」
「ピイィ〜…」
やっと日常話が書けるところまで来ました。
長かった…