「
…他に痛むところはありませんか? お大事になさってくださいね。
は〜い、次の方どうぞ!」
ドラは今、パプニカ王国の神殿跡地に設営された臨時の治療所で治療の手伝いをしていた。
王家の勝利を知り、避難していた人々が戻ってきたはいいが不死騎団によって襲撃された際に怪我を負った人が大勢いたのだ。
襲撃から日が経っていることもあり、中にはかなり悪化してしまっている人もいる。
ドラは重症患者を中心に無尽蔵の魔力で治療にあたっていた。
「凄いわね…これだけ
「エイミさん」
「お疲れ様、ドラちゃん。今の人で重症者は最後よ。
少し休憩してちょうだい」
「ありがとうございます!」
エイミから差し入れを貰って治療所の隅で遅めの昼食をとるドラ。
治療所にはマァムとレオナも一緒に来ていたがマァムはドラほど魔力が高くないため、魔力を使いきり先に帰っていった。
レオナは治療目的というよりは慰問が主な目的だったため、治療と視察が終わると国王と一緒に次の復興地へ移動していった。
ポップはマトリフのところで修行を再開し魔法の特訓をしている。
サンドイッチをもくもくと食べながらドラは考える。
(う〜ん…原作だとマァムの
今回は
でも
どう伝えようかな…)
それは原作でも若干示唆されていたが弾に込められる魔法の強さに限界があるということだった。
ドラが
仕方なくワンランク下の魔法を込めたがそれでさえ数段威力を落とさないと安全に使用できる保証はなかった。
武器の設計というよりは素材の問題なので改造してどうにかなるという話でもない。
(仕方ない。もし修行云々の話が出なかったら正直に
食べ終わり、再び治療を再開するドラ。
結局重傷者だけではなく軽症者や避難生活で体調を崩した人たちまで全て治療して王宮へと帰って行った。
夜になり、王宮へと集まった面々はテーブルに置かれた世界地図を見ながら今後の方針を話し合う。
小さめの円卓を囲んで座っているのはドラ、レオナ、ポップ、マァム、それと三賢者だ。
「このギルドメイン山脈に魔王軍の拠点があんのか…!」
「ヒュンケルとクロコダインが偵察に行ったよ。とりあえずはそれの報告待ちかな?」
「そうね。それに今の私たちには武器も人数も足りなさすぎるわ。
焦って攻め込むより力を蓄えるほうが先決ね」
「賛成〜。私、新しい装備整えたい!」
「そりゃいいぜ! なあ、マァム…!」
「…」
「? どうしたんだよマァム…」
「あのね…みんな…私、ずいぶん考えたんだけど…」
「?」
「…しばらく、みんなとお別れしようと思うの…」
「えっ!! えええっ!!?」
立ち上がって叫びながら驚くポップをよそにドラは内心おや、と思う。
「な、なんでだよ! どうして急に俺たちと別れるなんて言い出すんだよ!!」
激しく詰め寄るポップにマァムがゆっくりと胸のうちを語る。
「私…思ったわ…
このままじゃ絶対に足手まといになっちゃうって…
弾切れしたら、それこそ自分では攻撃呪文を詰められないしね。
回復呪文だって、ドラとレオナのほうがずっと上手いし…」
(おお、私が言わなくてもちゃんと気づいてたんだマァム)
そうなのだ。仮に
その場でドラやポップが魔法を込めてもあまり意味がない。直接魔法を放てばいいだけだ。
魔法使いではない人間が魔法を放てるというメリットがある反面、魔法使いがいなければ成り立たないのが
マァムの言葉を聞いてレオナが意見を述べる。
「たしかにこれからはより強力な相手が次々と現れるはずだしね。
…もっと強い攻撃能力がないと本当に足手まといになりかねないわよ」
「………ハッキリ言うのね。
あなたのそういうところ、すごく好きよレオナ」
目を見合わせてフフッと笑い合うレオナとマァム。
その間でニコニコ笑いながらもちょっと引いているドラ。
(…私はもう少し優しく言ってほしい…
でないと泣いちゃう…)
(ピィ…)
「だから…、だからね…!
故郷のロモスに帰って修行しようと思うんだ。
自分だけの特技を身につけるために…ね!!」
「…自分だけの特技って…なんだよ…?!」
「…武術よ」
「武術っ!!?」
「そう! 私…武闘家になろうかなって思ってるの!!」
思わぬ発言に全員が目を見開いてマァムを見た。
それはそのはず。この世界においても『武闘家』というのはそこそこ特殊な職業だ。
剣や魔法は需要もあって全体から見ると人数の割合が大きいし技術を会得する場所や機会も多い。
反して武闘家は全体の職業数からすると数が少ない。
人に技術を教えられるだけの実力を持った人が限られているのだ。
なろうと思ってすぐに「私、武闘家になりました!」とは言えないのが武闘家なのだ。
有言実行、言うが早いか荷物をまとめて明日には出立するというマァム。
聞けばロモスの山奥には“武術の神様”と呼ばれる達人がいるという。
まずはその人を探して弟子入りを志願するつもりらしい。
一晩明けて、ドラとレオナとポップは修行へ旅立つマァムを見送りに来ていた。
「マァムが武闘家か〜」
「今はまだ僧侶戦士だけど、武闘家って意外と彼女に合ってるんじゃないかしら」
「へっ…! 武闘家でもなんでもやりたいことやらせときゃいいじゃねぇか!!
筋肉モリモリのゴリラみたいな女になっちゃえばいいんだよ…!!」
「キミ、何一人ですねてるの?」
「ポップはマァムのことが好きだから顔が見れなくなるのが寂しいんだよね?」
「なっ…なんでドラが知ってんだよっ!!」
「なぁんだそうなの。
だったら言いたいこと言っときなさいよ。
もうしばらく会えないかもしれないんだから…」
そう言われて今までの威勢はどこへやら。
しばらく会えない…そのことを実感したのか急にしおしおと萎れた表情と声になるポップ。
「うっ…うるせえな…
あいつはさ…もう好きなヤツがいるんだよ…」
「だからって一人で黙ってイライラしてるの?
そんなの思いやりでもなんでもないわ…!
第一、キミがもし戦いの中で死んじゃったらこれが最後のお別れになっちゃうのよ!!
彼女はずっとキミの気持ちを知らないままで…それでいいの!?」
ハッと何かに気づいたポップは去って行くマァムの後ろ姿をジッと見つめた後、急に走り出して行った。
「さー、行ったぞ〜〜〜っ!! どうなるかしら!?
思い切って告白しちゃうかなぁ〜〜!?」
「もう、レオナったら…面白半分でポップをけしかけるの、良くないよ!?
…まだマァムがポップのこと異性として意識してないから、告白はもうちょっと先にした方が良いと思う…!
…あっ!? 肩掴んだ肩!!」
「
いきなりのツーショット…結構やるじゃない彼!!」
「「っきゃ〜〜〜〜〜!!!」」
「…ピイィ〜」
けしかけるのは良くないと言いつつ楽しそうに二人の様子を見てはしゃいでいるドラとレオナを、一緒に見送りに来ていたゴメちゃんが呆れた目で見ていた。
鬼岩城、玉座の間―
時は少し遡る…
ドラとフレイザードが衝突していた時、鬼岩城で起きた異変に玉座の間を巡回していたガーゴイル達が悲鳴をあげた。
「あ…あううっ…!!」
「まっ…まさかっ…!!」
「「ハ…ハドラーさま…!!?」」
玉座に鎮座していたのはまぎれもない。
先のバルジ島で勇者に倒されたはずの魔軍司令ハドラー…その人であった。
「…どうした、なにか用か…?」
「い…いえっ!!」
「失礼いたしました!!」
慌てて一礼し退出するガーゴイル達。
「バ…バ…バ… バカなっ!!
た…確かに、なっ…亡くなられたはずだっ…!!」
「そうとも…心臓も完全に止まっていたのに…!!」
扉の向こうのガーゴイル達から漏れ聞こえてくる会話を耳にして、ハドラーは手にした盃を飲み干す。
そうして飲み干した盃を手の中で弄びながら、ハドラーは自身の体について思考していた。
たしかにヒュンケルとドラによって心臓を二つとも貫かれたはず…
だというのになぜ自分はこうして生きているのか…
それに気のせいか顔の黒い模様が一回り大きくなっているのはなぜか…
どれほど考えてもハドラーには一つとして答えに繋がるような理由が見つからなかった。
そうして顔の模様に沿ってなぞるように指を当てているとハドラーしか上がる事を許されないはずの壇上、それも玉座のすぐそばから声が聞こえて来た。
「…それは暗黒闘気の影響だ…」
「ミ…ミストバーン…!!」
「そ…そうか…! 貴様が暗黒闘気の魔力によってオレを蘇らせたのか!!」
「………」
頷きで肯定するミストバーン。
「言われてみれば…
何か凄まじいパワーが全身に宿ったような感じだ…!!
死ぬ前よりも強靭な体に生まれ変わったのか…!!?」
「…それがバーン様がお前に与えた肉体の秘密…
たとえ死しても私やバーン様の暗黒闘気がある限り何度でも蘇る…
以前よりはるかに強い力を備えてな…」
「…貴様は…そのためにオレの部下に…!!?」
なぜ大魔王バーンの側近であるミストバーンがハドラーの部下、一介の軍団長の座に甘んじていたのか。
ずっと燻っていた謎がここへ来て解けた。
「…ハドラー…これだけは覚えておくがいい…
お前の肉体は我が全能なる大魔王バーン様のものなのだ…
お前には生死を選ぶ権利もない…ただ修羅のごとく戦うのだ…
死してもなお蘇り戦うのだ…!
お前の主、バーン様のために…!!」
「…望むところよ!」
死ぬまで働けどころか死してもなお働けという。
ドラがこの会話を聞いていたら
「なんか綺麗な言い方してるけど黒の
簡単にノセられてるんじゃない、このへっぽこ元魔王!!」
と罵っているだろう。
ハドラーとミストバーンの会話が終わった時、玉座の頭上に掲げていた六芒星のうち一つの光がフッと消えた。
掲げられた六芒星は六つある光のうち、三つの光が消えもはや六星の形を成さなくなっている。
「フレイザードが死んだというのか…!!
ヒュンケル、クロコダインが裏切り…これで我が魔王軍の戦力が半減したことに…!?」
~〜♪ 〜〜♪
どこからともなく響いてきた不気味な笛の音…
そして鬼岩城にはとても似つかわしくないケラケラという子供のような笑い声も響いてくる。
「キャハハッ! キャハキャハッ!
ね! ね! だから言ったでしょ!!
ハドラーの軍団はガタガタだって…!!」
「いい子だねピロロ。よくこのボクに教えてくれた…
グッドイブニ〜〜〜ング! 鬼岩城のみなさん…!!」
「…キルバーン」
「こ…こいつがキルバーン…!」
暗闇から浮かび上がるように出現した黒衣の男…
大柄ながらスラリとした体格に沿うような衣装を纏いまさしく死神に相応しい大鎌を手にしている。
ミストバーンとは真逆の、自身の存在を誇張するかのような道化めいた衣装ながらその顔を覆面で隠し素肌の一切を見せていない点はミストバーンと共通するものがあった。
噂では大魔王の意にそぐわぬ者を葬る役目を担うという。
(この男がなぜ鬼岩城に…!?)
「…誰か不始末でもしでかしたかな…?」
まるで心を読まれたかのようなタイミングで発言したミストバーンにハドラーがギクリと肩を揺らした。
「…やあ、驚いたなミスト…
キミが話してるのを見るなんて何十年ぶりだろうね?
まったくキミときたら必要がないと百年でも二百年でもだんまりなんだからなァ…!」
「…フッ、貴様がお喋りがすぎるのだキル…」
「…かもね…! ウッフフフフッ…!!」
歌うような
そんな二人のやりとりを見て顔見知りかと懸念するハドラー。
もし今までの失態がミストバーンからキルバーンに伝わっていたらと思うと冷たい汗が背筋を流れる。
「…ところで、ハドラー君」
「最近キミは戦績が優れないみたいだねぇ…」
「そうそう! てんでだらしないんだよ!!
勇者ドラを討ち漏らして以来、軍団長は次々と倒されるわ、ロモス、パプニカを奪回されるわでもうボ〜ロボロ!
おまけにこの間は全軍総がかりでドラ達にやられちゃったんだよ〜! キャハハッ!!」
「だっ…黙れッ!!!」
ハドラーの恫喝にピロロと呼ばれた一つ目小鬼の使い魔がキルバーンの後ろへピャッと隠れる。
しかしキルバーンはハドラーの恫喝には反応せず、ピロロが今言った内容の真偽を問うた。
「…本当かね? キミ…」
「ムウ…、げ、現在も抹殺計画は進行中なのだ!
いずれ必ず…」
「だったら早くすることだね。
バーン様はとっても寛大なお方だけど…限度があるよ?
もしまたしくじったら…」
「しくじったらどうだと言うのだ…!?」
「…決まってるじゃない? コレだよ…」
キルバーンが手で首をチョンと切るジェスチャーをする。
それが指す首切りとは命を取るという意味ではない。
魔軍司令の座から引きずり降ろされ、下手をすると軍団長どころか下級モンスターと同等の扱いをされるという意味だ。
強さこそが位の高さに直結する魔王軍において、処刑よりもよほど恐ろしい処罰である。
「…フン! 心配無用だ!!
あんな小娘どもなどすぐに始末してやるわッ!!
このオレの手でな!!」
降格を匂わされ後がないハドラー。
恐怖心を振り払うかのようにあげた宣言に、しかし待ったをかける大声が響いた。
「そうはいかぬ…!!
次にドラと戦うのは…この竜騎将バランと決まっておる…!!」
キルバーンの後ろに隠れていたピロロがピョコッと顔を出し、キラキラとした一つ目をバランに向ける。
「英雄バランだ、かっこいー!!」
「フフッ、なあんだ。
かの竜騎将バランを切り札にとっておいたのか…
それなら一安心じゃないの…」
「ま…待てバラン! この場は大魔王様の信用回復のためにオレが…!!」
「魔軍司令殿、あなたの口実はもはや聞き飽きた!
私はすでにあなたが私をドラに近づけたがらぬ理由が読めている…!」
「なっ…なんだとっ…!!?」
「あの少女、ドラは…“
確信をもって言い放つバランにその場の一同が驚愕する。
「任せてもらえますな…ドラは…」
「ならん!! ならんならんならんっ!!!」
もはや言い訳も思いつかず必死にバランの行動を却下するハドラー。
「魔軍司令として命ずる!! 貴様は動いてはならんっ!!
第一あの小娘が
「我が目で確かめれば済むこと…!!」
「ならんと言っておるッ!!!」
魔軍司令として下した命令すら聞く気の無いバランについに掴みかかろうとするハドラー。
しかしバランに駆け寄るハドラーの目の前にギラリとした銀色の光が
ズギャッ!!と鋭い音を立てて
「ストォ〜ップ…!」
「なっ…何をするッ!!?」
「ウフフッ…ボクにもだいたい筋書きが読めたよハドラー君…
なるほどドラが
「ううっ…」
床に刺さった大鎌をスルリと抜き取り、そのままクルクルと回しながらどこか楽しげに喋るキルバーン。
「まあいいさ、仲間割れは後でゆっくりやってもらうとして…
取り急ぎボクの要件を済ませたいんだ…」
どうやら自分の抹殺命令を受けたわけではないと知り安心するハドラー。
しかしキルバーンが懐から取り出した鍵を見て顔色を変えた。
(それは万が一の事態に備えて、鬼岩城の主たる自分だけが保管場所を知っているものだったはず…!)
「そ、それはっ…バーンの鍵…!!」
「裏切り者の軍団長達はこの鬼岩城の場所を知ってるからね。
ただちに移動せよとのバーン様の命令なのさ」
「移動…!?」
キルバーンは玉座の頭上に掲げられた六芒星…
その中央にある大魔王バーンの相貌を模したレリーフの口に鍵を差し込む。
鍵を回した瞬間、鬼岩城が地鳴りにも似た音を立てながら揺れ始める。
「き、鬼岩城が動くっ…!!?」
「さあっ、みんなで楽しい世界旅行と洒落込もうよ♪」
「わーいわーい! キャハハハッ!!」
ついに鬼岩城が文字通り、動き出す。
魔王軍が世界にとてつもない恐怖を植え付けようとしていた頃ドラたちは…
「ねえねえ、どうなると思う!?
あたし、7・8割がたフラれちゃうんじゃないかな〜と思うんだけどさ!?」
「マァムって結構押しに弱そうだから、フラれても何回もアタックしてたら絆されて好きになっちゃうパターンもありじゃない!?」
「きゃ〜ありそう〜〜〜!!」
「ピピィ〜…」
あれから場所を変えて喫茶店に来たが、飽きもせずにきゃっきゃっと恋バナを続ける二人にゴメちゃんがうんざりとした鳴き声をあげた。
このあと3時間くらい恋バナして迎えにきた三賢者に怒られた。
女子だからね、しょうがないね。