ドラの大冒険〜魔法特化の竜の騎士〜   作:紅玉林檎

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35_ヒドラ来襲、“使い魔”の死神

デパートの屋上レストランで注文したスイーツを堪能し終えたドラ。

久しぶりの甘味に舌鼓を打った後は食後の紅茶を優雅に傾けていた。

 

(このまま何も無ければいいんだけど…

…まあ、そんなわけにはいかないか…)

 

遠くに見えるベンガーナの港からドンッ、ドォンッ…と大砲を撃つ音と海から上陸しようとする五頭首の竜(ヒドラ)の姿を確認したドラは、残りの紅茶を飲み干してやおら席を立つ。

 

「ドラ?」

「ドラちゃん?」

「ピィ?」

 

まだ異変に気付いていないレオナとポップに港を見るよう促す。

 

「なっ…!?」

「あれは…ヒドラ…! それに他のドラゴンが5匹も…!!」

「ポップ、レオナ、私ちょっと行って街への侵攻を食い止めるから。

レオナはデパートにいる人たちの避難誘導、ポップはあの小さいほうの相手をお願い。

よろしく、ねっ!」

「わかったわ!」

「ああっ、待てよドラ…!」

 

屋上から飛び降りて飛翔呪文(トベルーラ)で空中へと飛び立ったドラを慌ててポップも追いかける。

レオナは近くにいた店員にドラゴンの来襲を告げてすぐに客を避難させるよう指示を飛ばした。

 

猛スピードで空を駆け抜けあっという間に港へ到着したドラがヒドラの眼前に浮かんで魔法を展開する。

 

「トッカゲさん♪ あっそびっましょっ!

極大爆裂呪文(イオナズン)!!」

 

ドオォォォンッ!!

 

ベンガーナの街に響き渡る爆発音と爆炎に人々も異変に気付いたらしい。

ヒドラの姿を確認した人々が悲鳴をあげて我先にと逃げ惑う。

爆炎が風に流されて姿を現したヒドラは5頭あるうちの2頭の首をだらりと垂らして絶命していた。

しかし残る3頭の首は六対の目を血走らせて怒り心頭といった形相でドラを睨みつけている。

首が何本か無事なら生命活動に支障は無いらしい。

大きな口を開け、ドラのいる空中めがけて火炎息(ブレス)を吐き出すヒドラ。

 

「わわっ…ちょっと危ない!

この外套(マント)、買ったばっかりなのに!!

最大氷結呪文(マヒャド)!」

 

火炎息(ブレス)を回避してヒドラの真上へと移動したドラは最大氷結呪文(マヒャド)を放ってヒドラの体ごと、海面を凍結させた。

しかし氷漬けにされたヒドラはなおも暴れまわり、分厚い氷の壁をバキバキと崩してベンガーナの街へと侵攻を進める。

港にはもう人影が無いことを確認したドラが集中して魔力を溜める。

氷を掻き分けて港へ上陸しようとするヒドラに特大の魔法を浴びせた。

 

極大電撃呪文(ギガデイン)!!」

 

空がカッと光り、雷撃がヒドラを貫く。

稲光に遅れて追いついた雷鳴がズガアアアァァン…!と街中…いや、国中に轟き、放たれた魔法の威力の凄まじさを人々に刻み込んでいった。

今度こそ五体の頭を全てだらりと垂らして本体ごと絶命したヒドラを確認したドラはデパートへと飛んで戻る。

 

 

五体のドラゴンが侵攻したであろう道を辿っていくと大きく陥没した地面にそのうち三体のドラゴンの死体が転がっていた。

上空からあたりを見回すとデパート近くの大通りを猛然と走り抜けるポップと追いかける二体のドラゴンの姿が見えた。

ドラは必死の形相で逃げるポップに低空飛行で並走する。

 

「ポップ!」

「ドラ…ッ!! す、すまねえ…、ぜぇぜぇ…

二体討ち漏らしたっ…!」

「了解!」

 

くるりと空中で回転して向きを変えたドラが額に紋章を光らせて向かい来るドラゴンの顔面へと体当たりをかます。

もはやデパートは目と鼻の先だ。

デパートの窓には避難が遅れた人や残った店員がまだ中にいるのが見えた。

 

逃げ遅れた人々の中には老体で早く走れないナバラの姿があった。

ナバラに寄り添うメルルも一緒だ。近くにはまだ人々を避難させているレオナもいる。

メルルは戦うドラの額を見て普段はめったに出さない大声で叫んだ。

ナバラも何事かと顔を上げてメルルの視線の先を辿る。

 

「お…おばあさま! あの紋章は…!?」

「ウ…ウム…! まさかこの目で本当に拝めるとは思わなんだ…

伝説の…(ドラゴン)の騎士様の戦いを…!!」

(ドラゴン)の騎士…!?」

 

レオナがナバラの口から出た『(ドラゴン)の騎士』という言葉に反応する。

それはどう見ても今ドラゴンと戦っているドラを指して言われた言葉だったからだ。

額に紋章を光らせながら戦う友達について何か知っているのか…

避難を先導しつつナバラとメルルの姿を見失わないよう注視する。

 

 

「まだデパ地下グルメ制覇してないんだからっ!

壊さないでよ、ねっ…!!」

 

走ってくるドラゴンの角を掴み、頭にへばりついたドラはドラゴンの額に手を当てるとそのまま地面に向けて魔法を放った。

 

爆烈呪文(イオ)!!」

 

ドラゴンの頭が吹っ飛び、ズズゥン…と巨体が倒れる。

残る一体は今まで地に着けていた四つ足を二つ離し、後ろ足でのみ立ち上がり大口を開けてドラを睨みつけていた。

尻尾をゆらゆらと揺らし、ドラを飲み込まんと狙いを定めてまるで蛇のように鎌首をもたげる。

ほぼ真上を見上げるように上を向いていたドラは向かってくるドラゴンの頭めがけて手にしたロッドを振りかぶり極大真空呪文(バギクロス)を放った。

放たれた真空の刃が鋼鉄にも匹敵するドラゴンの鱗を斬り刻んでいく。

 

極大真空呪文(バギクロス)

…うわわっ」

 

斬り刻まれて泣き別れになった首と上がる血飛沫が落ちてくる。

慌ててその場から離れたドラは、少し離れた位置に移動すると自分の装備をぐるりと見下ろしてホッとため息をついた。

 

「良かった、どこも汚れてない…あっ…」

 

気がつくと路地裏や建物の陰に隠れていた人々が出てきて、ドラを恐れるような目で見ていた。

頭を吹き飛ばされたドラゴンと首を落とされてぐらりと横倒れたドラゴンから大量の青い血がドクドクと流れ出て石畳を青く染めていく。

ドラとドラゴンを交互に見つめる人々は最初はホッとした様子で…

しかし徐々にこみ上げてきた恐怖心を取り繕うことなく顔に出す。

そしてその対象は大半がドラへと向けての物であった。

 

「ドラちゃん…!」

「ドラ…!!」

 

人混みをかき分けてレオナとポップがドラに駆け寄る。

その二人にも周囲の畏怖の目が容赦なく襲った。

やがてドラゴンの脅威が無くなったことを理解した人々の口から次々と、さざ波のように言葉が押し寄せる。

 

「おい…見たかあの女の子…」

「ああ…」

「ドラゴンをああも簡単に…」

「いったい何者だ…?」

「さあな、知るかよ…でも人間じゃねぇんじゃないか…」

「あれも魔物じゃないのか…」

「かもしれねえ」

「まるで…化け物だ…!」

 

その言葉を聞いたポップがカッとなって言い返そうとした時、耳元で男の声が響いた。

 

「ウッフフフ、勝手だよねえ人間ってさ…」

 

バッと振り返るが誰もいない。

周囲を見渡すと全員が耳元で声を聞いたようでキョロキョロとあたりを見回している。

男の声はそのまま、姿は見えないのにすぐそばにいるかのような不気味な距離で喋り続ける。

 

「キミがあまりに人間離れした戦いぶりだったから、みぃんなビビっちゃったのさ…

自分たちの街を守ってもらったくせにね…!

キミが人間じゃないってだけで怖がるんだよ…

ウッフッフッフッフッ…!!」

「誰だっ!!? どこにいやがる!!?」

 

ポップが叫ぶが声は反応しない。

 

「今喋った人誰~? いたら元気よく返事して~!」

「ハァ~~~イ」

 

(あ、返事するんだ…結構ノリいいなキルバーン)

 

ドラの呼びかけに近くの壁の中から片手を上げて、ぬるりと姿を現すキルバーン。

 

「やぁ、初めまして。

ボクの名はキルバーン。

クチの悪い友達は“死神”なんて呼ぶけどね…」

「初めましてキルバーン。

勇者アバンの末弟子、ドラです。

さっき街を襲ったドラゴンはあなたのもの?」

 

ドラがキルバーンの名乗りに笑顔で挨拶と質問を返す。

 

「いいやぁ~違うよ…、あれは借り物さ。

ボクの本業はただの使い魔でね…

実は魔王軍でもキミの正体が話題になっていてねぇ…

超竜軍団から竜を借りて、ボクがキミの正体を見極めることになったのさ。

おかげでキミの本当の姿を見ることができたよ…

フフフッ…」

 

歌うような抑揚と思わせぶりな喋り方。

言いたいことだけ言うとキルバーンはそのまま後ろへと下り、現れた時と同じように壁に吸い込まれ立ち去っていく。

ドラはキルバーンの話を聞きながらも、使い魔であるピロロの姿が見えないことを不思議がる。

 

(あれ…、“本体”がいない…

いたらこの場で始末しとこうかと思ったのに…

ちぇっ…)

 

「ああ、そうだ」

 

心の中で舌打ちをしていたドラに、顔面だけを壁から出したキルバーンがふと思い出したように告げる。

 

「近い将来、本物の超竜軍団長が現れると思うよ。

キミを地獄へ誘うために、ね…

お楽しみに…

ウフフフフッ…」

「あっ、待って待って! 伝言お願い!」

 

スッと壁の中に消えたキルバーンにドラが慌ててメッセージを託す。

 

「あなたの『ご主人様』に「首を洗って待ってろ」って伝えて!」

「ウッフフフフッ!…了~解~♪」

 

壁の中から楽しそうに了承した声が響く。

しばらく全員が動かず壁を見つめていたが、シィン…と気配が消えたことを確認したポップがほ~っと長い息を吐き出した。

 

「あの数のドラゴンを借りて使役できるなんて…

使い魔なんてとんでもねえ…

おっそろしい野郎だぜ…!!」

「…そういえばあなたたち、ドラちゃんのことを“(ドラゴン)の騎士”って呼んでたわね」

 

レオナが人混みの中にいるナバラとメルルに問いかける。

人混みから進み出て近づいてきたナバラがジッとドラを見つめて恭しく口を開いた。

 

「…いかにも。

その方こそ我が祖国の伝説に記された(ドラゴン)の騎士に相違ない…!」

「…(ドラゴン)の騎士…!!?」

 

そう呼ばれたドラの声は震えていた。

レオナとポップ、そしてゴメちゃんが震えるドラを心配そうに見つめる。

街を守ったのに人から化け物と呼ばれ、魔王軍の使い魔から「キミの本当の姿を見た」と告げられたのだ。

さらにナバラの口から出た伝説の(ドラゴン)の騎士とは…

 

幼い時に南の島に流れ着いたという孤児の少女。

華奢な体を震わせる少女の運命…

それがせめて少女を傷つけるものではないようにとレオナとポップ、そしてゴメちゃんは祈ることしか出来なかった。

 

 

 

(嘘やだ待って…!

自分以外の人から(ドラゴン)の騎士って言葉初めて聞いた…やっぱり響きが格好良すぎる『(ドラゴン)の騎士』!!

伝説に記された…って言い回しがもう本当感動する…!!)

 




ドラ
買ったばっかりの外套(マント)は汚れなかったし街への被害も最小限に食い止めた。
デパートも無事なので大満足。化け物って呼ばれたことなんか微塵も気にしてない。というか秒で忘れた。
自分以外の人の口から(ドラゴン)の騎士という言葉を聞いて感動に打ち震える。
まったくもって心配無用。

レオナ
デパートの人々を的確に避難させた。
ドラのおかげで無事だったというのに口さがない人々に怒りを覚える。
傷ついた友人を心配する優しく正義感に溢れた少女。

ポップ
師匠から伝授された重圧呪文(ベタン)で一度に三体のドラゴンを仕留めた。
着実に強くなっている。
傷ついた妹弟子のために怒れる頼りになる兄弟子。

ゴメちゃん
震えるドラを見て少し心配したが、このあとケロリとしてるのを見て安心した。
いい加減付き合いが長いのでドラの強靭で豪胆な本性を知る数少ない存在。
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