「…いかにも。
その方こそ我が祖国の伝説に記された
「…
手で口を覆って震えているドラに変わりポップが聞き返す。
「テランって…それに、あんたらは?」
「あたしは占い師のナバラ、これは孫のメルル」
お辞儀をし、丁重に挨拶するナバラとメルル。
世界の地理について教養深いレオナがナバラの言う『テラン』を記憶から引っ張り出して意見を出す。
「このベンガーナの北にある国ね…神秘の国と呼ばれている…
…行ってみましょう!
ドラちゃんについて、何か分かるかもしれないわ。
魔王軍だってドラちゃんの正体を探っていた…
あたしたちも、調べてみるべきだわ!」
「レオナ…」
「姫さん…
…ああ、そうだな。このまま黙って見過ごすわけにゃあいかねえよな!!」
「ポップ…!」
「テランへ行くというのなら、あたしどもが案内いたしましょう。
「よろしくお願いしますッ!!」
必死になってナバラ達へ懇願するドラの姿にレオナとポップはますます心配そうな表情を向ける。
普段は大人しくニコニコしているドラが形振り構わず詰め寄るのだ。
甘えただがどこか大人びている彼女のこと…きっと今までまわりを心配させじと我慢をしていたに違いない。
(現地の人に案内してもらう
まさに聖地巡礼…!!)
ナバラの手を取ってテランへと想いを馳せるドラにはレオナとポップの曇った表情はまったく視界に入っていなかった。
ドラの表情を見てゴメちゃんだけが呆れたような溜息を吐いた。
「ピィ…」
そうしてテラン王国へとやってきたドラ達一行。
王都から少し離れた場所、『
湖は澄み切っており、水鳥達が優雅に
湖のほとりには木で建てられたロッジ風の民家が立ち並び長閑とした雰囲気を漂わせていた。
前者の感想をレオナが、後者の感想をポップが率直に口にする。
「…きれいね…!」
「しっかしなんか…寂しいねぇ…
王国っていうより村だぜ、こりゃ…」
その言葉に先導していたナバラが振り返り、ポップをジロリと睨んだ。
睨まれたポップが別の話題を口にして気を逸らす。
「い、いや…でもよ…!
よく魔王軍の攻撃くらわずに済んでるよな…!」
「はっきり言って侵略価値が無いからでしょ。
テランは王国とは名ばかりの小さな、文化レベルの低い国だもの」
「…いかにも。
自然を愛し、神を敬うがゆえに、この国の国王は武器や道具の開発を禁じた。
いずれ、必ずや人に災いをもたらすと言ってな…」
ハッキリと事実を述べるレオナにナバラが言い返すことも出来ず沈んだ表情で答える。
この国の盛衰を目の当たりにしてきた苦渋が顔にありありと表れていた。
「自然主義、平和主義ってわけね」
「ベンガーナとは対照的だな」
ベンガーナはテランとは逆に軍拡・兵器開発・商業と経済の発展を軸にここ数十年で急成長した国だ。
ドラは話を真剣に聞きながらテランとベンガーナとアルキードの歴史も詳しく知りたいと思っていた。
(これ絶対ベンガーナがテランに何か取引でふっかけたよね…
武器と兵器開発は請け負うから資源よこせとかそのほうが国民が喜ぶとか何とか言って…
多分地理的にアルキードも一枚噛んでたと思うんだけど滅亡しちゃったからなあ…
まあ、この話はまたおいおい調べよう)
今は各国の歴史と裏事情よりも目の前の伝説である。
再び熱い眼差しをナバラに向けるドラ。
「…だが、それは同時に国力の衰退をも促した。
誰だって物が豊かな生活のほうが良い。
人々はこぞって他の国へと流れていき…この国は廃れていったのさ。
今では人口もわずか50人ばかり…
まあ、そういうあたしたちも国を飛び出たクチだけどね…
国民がたった50人しかいないんじゃ、占い師は商売あがったりだよ」
自嘲めいた笑みを浮かべながらナバラが言う。
しかしメルルはそんな祖母の言葉に、控えめな口調で今の故郷への想いを語った。
静かに微笑むメルルの横顔をポップが見つめる。
「…でも…私…
好きだわ、この静かな故郷が…」
「…フン、この娘は変わってるのさ」
ドラがナバラの話を聞いた後、至極真剣な眼差しで湖を見つめる。
ずっと無言だったドラに気づいたレオナが声をかけた。
「ドラちゃん…?」
「…えっ? あっ、なあにレオナ!?」
慌てて笑顔を貼り付けるドラ。
心なしかその笑顔は引きつっているように見えた。
ポップも常ならぬその表情を見て「ドラ…」と言ったまま何と声をかけて良いのかわからない様子だ。
(ダメだ気を抜くと顔がにやける…
さすがに今この空気で一人テンション振り切れてたら危ない子だって思われちゃう…!)
危ない子認定されるのを恐れて心の底から湧き上がる歓喜を必死に抑えるドラ。
そんなドラの内心など知るはずもないレオナとポップが挙動不審なドラを心配そうな目で見る。
ドラの内心を知るゴメちゃんがもどかしそうに空中を漂った。
同じくそんなドラの内心なぞ知る由もないナバラが「…ついといで」と促し、湖の中心にせり出している円形の遺跡へと案内した。
遺跡はかなりの年月、風雨に晒されていたのかあちこちがひび割れていて今にも崩れそうだ。
円形に組まれた石柱の中央にあったのはドラゴンの石像だった。
前足を上げ、大地を蹴り空へ羽ばたこうと翼を大きく広げた瞬間を模している。
大柄な男性が両手を広げてもドラゴンの両翼の端には届かないであろう大きさだ。
その石像が鎮座している台座には大きくハッキリと、ドラの額に浮かび出るのと同じ紋章が刻まれていた。
「こっ…この紋章は…!!?」
「これが
「ドラちゃんの額に浮かんでた紋章とそっくり…」
ふんふんと真剣に頷くドラ。
「テランは竜の神を讃える国。
そしてこの紋章は竜の神の力の
この紋章を額に抱く者こそ…」
「
「
ナバラの言葉にポップとレオナが『
しかし答えたのはナバラではなくメルルであった。
「…人かどうかはわかりません…
私たちは“神の使い”として受け取っています。
伝説によれば
「
…ただ、竜の神の生まれ変わりの如き強さを持っていることしか記されていないんだ。
…だけど」
ナバラがスッと湖を指差して続ける。
「…この湖の底には誰も近寄る事を許されない神殿があるんだよ。
竜の神の魂が眠る場所としてテランの聖域と化したところがね…!」
「聖域…」
ぼうっとした様子のドラが呟く。
「もし、お嬢ちゃんが本当に
「レオナ、私の
ドラが水中に潜るために
今にも水中へ飛び込みそうなドラをポップが呼び止める。
「ドラ…! 一人で行く気かよ!
俺たちも一緒に行くぜ!!」
「…ううん、ごめんねポップ…
私一人で行ってくる」
断られると思わなかったポップは、ドラのやんわりとした拒絶に悲壮な顔をした。
傷ついた表情のポップにドラがゆっくりと話し出す。
「あのねポップ…
私、今まで自分が何者かはっきりしなくてずっとモヤモヤしてたんだ…
でも、そんな私でもおじいちゃんもアバン先生もポップもレオナも凄く優しくしてくれて…
私すっごく嬉しかった…!
…だからね、自分が何者なのかはっきりさせたいの。
何者かわからないけど大丈夫、じゃなくて…
たとえ正体が何者だったとしても「大丈夫!」って胸を張って言いたいんだ」
「ドラ…」
「ドラちゃん…」
「ドラさん…」
「行ってきます!」
止める間もなくバシャンッと勢いよく湖に飛びこんだドラを4人と1匹が見守る。
ポップがその場にドサっとあぐらを組んで座り込みガンッと地面を叩いた。
「…だったら! 一緒に確かめに行ったっていいじゃねえかッ!!
肝心な時に一人で何でも抱え込みやがって…!
そんなに頼りねえかよ…! 俺たちは…!!」
「ポップさん…」
怒りの矛先は一人で抱え込んでしまう癖を持つドラになのか、不甲斐ない自分になのか…
やり場の無い憤りに震えるポップをメルルが心配そうに見つめていた。
湖の中心、水深が深くなる方向へ泳ぎ進んでいくドラ。
やがて一番深いところまで進んで行くと大きな神殿が見えてきた。
神殿の扉は固く閉ざされていて、扉には巨大な丸い宝玉が埋め込まれている。
他に出入り口は見当たらない。
その宝玉に触れると、体が宝玉にすうっと吸い込まれる。
完全に体が吸い込まれたと思った時にはもう、神殿内部の廊下に移動していた。
どういう仕組みなのか、先ほどまで水中にいたというのに体には水滴一粒たりとも付いていない。
迷う事なく神殿の廊下を突き進むドラ。
やがて大きな両開きの扉の前まで来たドラは扉を躊躇なく開けて言い放った。
「やっほー、久しぶりリュウちゃん!
私以外に誰かここ来た?
あと今日お友達も来てるんだけど中に入れても良い?
あ、髪型少し変えた!?」
部屋の中にあるのは厳かな空気を醸し出す巨大な水晶のみ。
“リュウちゃん”と呼ばれた巨大な水晶…
この
『また汝か…
汝以外にこの神殿を訪れた者はいない…
この神殿には
我に毛髪は存在しない…』
「もう、相変わらずノリ悪いな〜…
少しくらいいいじゃんケチ!! 友達くらい連れて来たっていいでしょう!?
っていうかいい加減この神殿一般開放して観光地化しようよ〜っ!!
私以外誰も来ないじゃん!
大丈夫、プランも色々考えてあるから…!
自然豊かなテラン…湖の底にある伝説の
やらない理由無くない!!?」
『ダメだ…』
「ええ〜〜〜っ!??」
地団駄を踏み駄々をこねるドラ。
実はもう、この神殿には何回も訪れていた。
無論、観光地化がメインの目的ではなく自分の出自を明らかにするのが目的である。
しかし結局ドラが
「っていうか本当に私何者なの!?
そうなのだ。
ドラは自分が何者なのかはっきりしなくてモヤモヤしていると言ったのは嘘ではない。
まさか魔王軍を訪ねて、どんな関係なのかわからないバランに
「おっすオラ
と聞きに行くわけにもいかなかった。
どんな因縁があるかわからない以上、バランが万一『同族は自分以外滅す』という考えの持ち主だとその時点で詰む。
「むうう〜〜〜!
ポンコツシステムとクソAIしか作らなかった神さまの役立たず…!」
『………』
唸りながらその場に突っ伏し悪態を吐くドラに竜水晶は無言で帰宅を促す。
…と、なんともしょうもない空気が漂ったその時である。
竜水晶が赤く光りながら異音を発し始めた。
ガバリと起き上がるドラ。
「!!?」
「…汝の他にもう一人…
誰かこの神殿に立ち入った者がいる…!!」
バキッ!!!
「ピッ!??」
『そんなはずはない…
ドラが入室した後、ぴったりと閉ざされていた扉に亀裂が入った。
思わずゴメちゃんのような叫び声をあげたドラは、亀裂が入り続ける扉を見つめる。
バキッ、メキメキ…
バアアァンッ!!!
「きゃああッ!!」
粉砕されて飛び散る扉の破片を避けるドラ。
扉を粉砕してゆっくりと部屋へ入ってくる男を見て絶句した。
「………!!」
『汝は一体…』
涙を浮かべて言葉が出ないほど怯えた様子のドラに変わり問い質す竜水晶に、男がよく通る低い声で名乗りをあげた。
「超竜軍、軍団長…バラン!!」
一時代に一人のみしか存在しないはずの
(扉、粉砕する必要あった…?!
………てか前世からの最推しが目の前にいる…!!!
あ、なんかもう語彙力が死んで言葉が出てこない…
涙しか浮かばん…)
ドラ
今回ただの限界オタクと化した。
ドラ自身は自分が何者なのかはっきり分かっていなかった。
ソアラに生き写しだが原作は漫画でしかも登場回数が少なかったソアラの顔と自分の顔が完全一致していることに気づいていない。
というか気づいていても“=バランの娘”という考えには至らなかった。
竜水晶
通称リュウちゃん。
ドラの度重なる訪問と質問攻勢を受ける。
最近ではお菓子を持って来て長居する、マシンガントークで推し語りをする、神殿の一般開放と観光地化を図る、魔法を駆使して壁に映像を映し出しプレゼンを始めるドラに辟易している。
神が創り出したクソAI。バージョンアップは想定されていない模様。
ゴメちゃん
今回は待っていたがいつもはドラと一緒に神殿に入ってた。
アイテム扱いなので竜水晶判定ではセーフ。
プレゼンするドラのアシスタントを務める。
バラン
娘に会えると思って気が早って扉を破壊した。
原作でもアニメでも破壊してた。
不器用な性格。
ドラが提案して却下された商品
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