大魔王の間―
根城としていたギルドメイン山脈を出て、大地を踏み貫き木々をなぎ倒し洋上の船を海の藻屑としつつ移動した鬼岩城…
たどり着いた死の大地を新たな拠点とし、また元の不動の城に戻っていた。
今、ハドラーとザボエラはキルバーンによって新たな拠点の一角、『大魔王の間』と呼ばれる謁見室へと案内されていた。
壁には巨大な水晶が埋め込まれており、ドラとバランの邂逅の様子を映し出している。
「まっ…まさか…!
バランがドラの父親であったとは…!!?」
「親子だ親子!
「そう、父と子の実に十数年ぶりの涙のご対面だよ。
でも、この感動的場面の陰の功労者はボクだということを忘れないように…!
何しろどこかの小心者が…
ひた隠しにしていた事実をつきとめたんだからねぇ…」
チラリとハドラーを見て恩着せがましい嫌味を浴びせるキルバーン。
使い魔のピロロが嘲るようにクスクスと笑っている。
あからさまに自分を指して小馬鹿にする態度を受けてハドラーが激昂した。
「きっ…貴様ァーーーッ!!!」
怒鳴り散らすハドラーを見てもどこ吹く風のキルバーン。
ますます頭に血が上るハドラーを制するように、壇上からミストバーンの声が厳かに響いた。
「静粛に…!!
ただ今より偉大なる大魔王バーン様が御目見得になる。
控えよ」
「ははっ!!」
ハッと我に返り跪くハドラー。
キルバーン、ピロロ、ザボエラ、そして壇上から降りたミストバーンも玉座に向かって跪いた。
薄衣に覆われた玉座の前にゆらりと人影が映る。
「だ…大魔王バーン様…!!!」
薄衣越しに、顔や様相は見えないがもの凄い威圧感を放つ人影…
薄衣は取り払われず「我が姿を見るは不遜である」と言外に示し大魔王バーンは玉座へと座した。
「一同大義であった。面を上げよ」
「…面白い事になっているようだな…」
壁に埋め込まれた水晶を指してバーンが言った。
水晶にはドラがバランの手を取り、再会を喜ぶ様が映し出されている。
「…はい。
実は以前、ドラが『
そこでハドラー司令と竜騎将バランが口論になりまして…
中立の立場のボクがドラの正体を見極め、本当に『
大魔王の言葉を受けキルバーンが「全ては自分の成果だ」と揚々と報告をする。
それをピロロが「エライ!エライ!」と囃し立てた。
「フフッ、まあハドラー司令はバランがドラのもとに出向く事に猛反対しましたけどね。
まさかドラが『
「まっさか~! そんな大事なコト黙ってるなんて、あるわけないよぉ~!」
クスクス、ケラケラと死神と使い魔が笑い声をあげる。
「…まことか? ハドラー…」
「めっ、滅相もございませんっ!!!
まさかドラが『
額から汗をダラダラと流したハドラーが必死に弁明をする。
死神の様子を見たザボエラはふむ…とまた頭の中で算盤を弾いた様子だ。
感情の伺えない口調で大魔王バーンが今度はミストバーンに水を向けた。
「…ミストバーン、お主はあの小娘の力をなんと見る…!?」
「…フレイザードに我が軍最強の鎧を与え力量を試しました。
まだ少女にもかかわらず魔力、闘争心…そのほか全てにおいて恐るべき力を持っています」
フレイザードとの戦いを間近に見たミストバーンがドラを高く評価する。
それを聞いた大魔王が愉快そうに笑い出した。
「ふっ…ふふふっ…!
ふははははははっ…!!
愉快だ、実に…!
見ろ、バランはドラを見事手中に収めたようではないか!
同じ時代に二人と現れるはずのない
まっこと、愉快よ…!!」
水晶にはバランに手を引かれ空へと飛び立つドラの姿が。
魔王軍の軍団長を三名も
「これは、バランに褒美をとらせねばなるまい…
そうさな…
ハドラーよ、其方が持つ『魔軍司令』の座をバランに明け渡せ」
「バッ…バーン様ッ!! お待ちを…!」
「余の決定に変更はない…!」
大魔王バーンより直々に伝えられた下知に絶望するハドラー…
しかしそこにキルバーンから待ったの声があがった。
「バーン様。その采配、しばしお待ちを…」
「む…?」
偉大なる大魔王バーンが下した命令に待ったをかけるとは…
一体どんな理由あっての事かとその場にいた全員がキルバーンへと注目した。
「勇者ドラから大魔王バーン様へ伝言を預かっています。
「首を洗って待ってろ」
だそうですよ…フフフッ!
このまま魔王軍に入って、大人しくしてますかねぇ…あの跳ねっ返りなお嬢さんは…」
「偉大なる大魔王バーン様に向かって! 不敬だ! ふけ~い!!」
「ほう…、バランに従ったのも計略のうちかもしれぬと…?
…ふむ、まあ良かろう。
しばしバランとドラの動向を様子見るとするか…
ふふふっ…」
ニヤニヤと愉快そうに、ドラからの不穏なメッセージを大魔王へと伝えるキルバーン。
ピロロがプンプンと怒ってキルバーンのまわりを飛び回る。
死神から伝えられたドラの言葉を聞き、なおも愉快そうに笑う大魔王バーン。
魔王軍軍団長二名の寝返り、バルジ島の戦いにおいて全軍攻勢の上でのドラ抹殺失敗、さらにバランがドラを連れ立った事で魔軍司令の座を追われかけたハドラー。
しかしその座を首の皮一枚で失わずにすんだのは、皮肉にもドラが大魔王バーンへと宛てた傲岸不遜な一言であった。
(こ…こうなったら…
ドラが何か仕出かしてくれることを願う他無いッ…!!
何千…いや、何万分の一の確率になろうが…!!
その可能性に賭けるしか…!!!)
こうして魔王軍では元魔王であり現魔軍司令ハドラーが心の底から、アバンの使徒であるドラの企みの成功を願うという何ともおかしな事態へと発展していったのである。
バランの拠点―
テランから飛び立ってベンガーナ上空を抜け、ベンガーナの南端アルゴ岬にほど近い鬱蒼とした森の中に降り立った。
ゴメちゃんが
拓けた場所に降り立つと、バランが「少し歩く」と言ってドラの手を引き歩き出す。
森の中の小道を歩いて数十分ほどすると、またぽっかりと拓けた広場に着いた。
その広場の奥…木々に隠れるようにして少し大きな木造の小屋…ギリギリ『建物』と呼べる大きさの家屋が見えた。
何だかわからないが、ドキドキして繋いだバランの手をぎゅっと握りしめる。
バランが振り返り、ドラの緊張した表情を見てそっと手を握り返した。
「…ここがお父さんのお家?」
「そうだ」
「あ、開けてもいい?」
「ああ」
「お…っ、お邪魔しまーす…!」
意を決してドアを開ける。
ドラの目に飛び込んできたのは…
「おかえり! 父さん!
………そのお姉ちゃん、誰…!?」
『ダイ君』がそこにいた。
「………~~~ッ!!!?」
驚きすぎて声が出ず、口をパクパクさせながら『ダイ君』を指差してバランを仰ぎ見るドラ。
「今戻ったぞ、ディーノ…!
前々から話していただろう?
…お前の双子の妹、ディーナだ…!!
ディーナ…お前の双子の兄、ディーノだ」
「僕の…妹…!!?
父さん、やっと見つかったの!?
うわあ、すごいや!!」
そう言って駆け寄ってくるダイ…いや、『ディーノ』。
指差したまま、硬直していたドラの手を取り喜ぶディーノ。
やっと声が出せるようになったドラがバランに詰め寄る。
「おっ、おとっ…お父さんッ!!?
私っ…きょうだい、いたのっ…!??」
「ああ、お前たちは双子だ。
兄と妹になる」
バランから告げられた言葉にドラが絶叫した。
「~~~~だからっ!!! そういう大事な事は先に言ってよッ!!!!
うわあっ…!! お兄ちゃんなの!?
初めまして…じゃないっ、久しぶりお兄ちゃん!!!
私、ドラ…あっ、違ったディーナか!!
どっちの名前でも好きなほうで呼んで!! どっちの名前も好き!!
お兄ちゃん私よりちっちゃい! 可愛い!
お兄ちゃんじゃなくて弟みたい!!
会えてすっごく嬉しい!!!
わ~~~~っ!!
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ…!!!」
ディーノに抱きついて狂喜乱舞するドラ。
凄まじいハイテンションにバランとディーノが戸惑い硬直する。
はしゃぐドラを屋内へと促そうとバランが口を開こうとした時、三人の誰のものでもない声がした。
「バラン様、只今偵察から戻りました」
「戻ったか、ラーハルト…!」
「あ、お帰りなさいラー兄」
ディーノに抱きつきはしゃいでいたドラがピタッと止まり、バランとディーノが向いた方向を見る。
そこにいたのは青肌の魔族の青年…
竜騎衆陸戦騎、ラーハルトであった。
ドラの姿を見たラーハルトが目を見開いてバランに問いかけた。
「バラン様! その方はもしや…!?」
「ラーハルトよ…
ディーナを人間どもの手から取り戻したぞ…!!」
「おお…ついに…!!
…バラン様、長年の悲願達成…
おめでとうございます…!!」
(待って…
今、お兄ちゃん…「ラー兄」って言った…?
父と、息子と、義理の息子…
原作のバランさんと、ダイ君と、ラーハルトが、『家族』してる…
ちゃんと一緒に、仲良く暮らしてっ…
~…っ!!!)
「…うっ、…うっ
うわあああ~~~~~んっ…!!!!」
「ピィ…!」
原作では果たせなかった『家族』としての暮らし…
それが果たされていたと知ったドラの歓喜がついに臨界点を突破した。
バランと会い、ダイ君と会えただけでも嬉しかったのに彼らを真に敬愛する
しかも自分も家族…バランの娘でディーノの妹だという。
許容量を軽く超えた歓喜が涙となってどんどん目から溢れ出ていく。
その心のうちを知るゴメちゃんが同様に涙を浮かべてドラの頬に寄り添う。
流れ落ちる涙を体に受けて、金色の体がますますキラキラと輝いた。
「わああぁ~~~~っ…!!!」
「ピィ…」
はしゃいでいたと思ったら突然泣き出したドラに、この場にいる男三人が揃って困惑する。
「どうしたのだ、ディーナよ…」とバランが声をかけて手を差し伸べるも、ますます泣きわめき、果てはずるずると地面に座り込んで上を見上げて泣き続けるドラに三人は為す術もなく立ち尽くした。
今まで生きてきて号泣する女の子に遭遇したのは三人とも初めてだったのだ。
しかもこの号泣がまさか嬉し泣きだとは思いもつかない。
結局そのまま、ドラが泣き終わるまで無言で立ち尽くす他なかった。
静かな森に、ドラの咆哮にも似た泣き声が響き渡っていった。